<<話数選択へ
次のページへ>>

(1/2ページ)

教室の掃除が終わると、深谷しな子は簡単にクラスの友達に挨拶を済ませて、
まだわずかに日中の活気がたゆたっている放課後の教室を飛び出して行った。
目指す相手に気付かれないように、さりげなく教室に入っていく。
探している人物はいつもと同じ場所に座っていて、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
恋愛漫画の一場面のようなその光景に、しな子は一瞬声をかけるのをためらったが、
軽くせきばらいすると意を決して呼びかける。
「槍溝さん」
窓の近くの席で買える支度をしていた槍溝愛は、自分を呼ぶ声にゆっくりとふりむいた。
「んあ?」
西日に照らされて、陰影が濃く映し出された愛の顔が妙に大人っぽく見えて、
しな子はなんとなく照れてしまう。
「あ……槍溝さん、何してたの?」
そのせいか、一瞬言葉を詰まらせてしまったが、愛はそれに気付く様子もなく答えた。
「ん、なんとなく……外を見てたの」
「外?」
そう言って再び窓に目を向ける愛につられてしな子も外を見たが、
雲が広がるばかりで特に何がある訳でもなかった。
それでも、愛と同じ景色を見ていることに、ちょっとだけ嬉しさを感じる。
「……」
ふと気配を感じて振り向くと、愛が自分の顔を真っ直ぐ見据えていた。
「な、何?」
「可愛いな、と思って」
その視線と同じ、あまりにもまっすぐな言葉にしな子の胸は勢いよく踊り始める。
「や、やだ、槍溝さん……そんなみえみえのお世辞」
「そうでもないんだけど」
ほとんど聞き取れない位の小さな声で言うと、しな子が何か言おうとする前に立ち上がる。
「帰りましょ? 外見てるのもそろそろ飽きてきちゃった」
「あ……うん」
(いっつも……はぐらかされちゃうのよね)
慌てて愛を追いかけながら、しな子はそんなことを考える。
しかしそれが決して嫌いでは無いのも自覚して、愛の背中に向かって一人笑いかけた。
「今日ね、槍溝さんの家に遊びに行っていい?」
帰り道も半分ほど来た所で、しな子は今日こそ言おう、
とタイミングを測っていた言葉を口にする。
しな子と愛は、まだお互いの家に遊びに行ったことはない。
それは元々クラスが違うと言うのもあるし、
しな子があまり自分の家に呼びたがらないと言うのもあったが、
とにかく、二人の逢瀬は今まで学校の中だけだった。
その関係から一歩進みたくて、思いきって尋ねてみると、愛は唇に指を当てて軽く考え込む。
「あ、ダメだったら別にいいんだけど……」
その仕種を否定的な物だと思ったしな子は慌てて弁解するが、
愛の返事は予想を超える物だった。
「んー……良かったら、泊まりに来ない? 明日土曜日で休みだし、
今日からお父さんとお母さん、旅行に出かけていないのよ」
「……いいの?」
「ええ」
「あ、あの……待っててね。かばん置いて支度したら、すぐに行くから!」
「え……ええ」
しな子は望外の展開に小躍りしそうになりつつ、
愛の気が変わるのを恐れるようにそう告げると、自分の家目指して一目散に走り出す。
その勢いに気圧されたのか、愛は何も言わずに後ろ姿を見送るしか出来なかった。

愛が自宅に着いて30分ほど過ぎた頃、チャイムが鳴った。
「いらっしゃい」
「えへへ……こんにちは」
しな子はよほど急いで来たのか、まだ肩で息をしながら愛の顔を見て照れたように笑いかける。
「それじゃ、上がって」
促されたしな子が玄関に入ろうとした時、秋風が身体を通りすぎた。
この季節、しかも既に夜の方が近い時間帯に汗をかいていたしな子はたまらずくしゃみをしてしまう。
「お風呂わいてるけど、入る?」
愛は二階の自分の部屋にしな子を案内しながら、声にかすかに気遣う様子を乗せて尋ねた。
「え……」
「着替えとか、持ってきたんでしょう?」
「う、うん……でも……」
「そうと決まれば、善は急げね」
初めて訪ねる人の家で、いきなり風呂を借りるのは抵抗があるらしく、
控えめに遠慮しようとするしな子に構わず続けた愛は一人で結論づけると、
渋る背中を押して浴室へと向かった。



「はい、これタオル」
愛はタオルを手渡すと、いきなり服を脱ぎ始める。
「え、あの……まさか、槍溝さんも……」
「何?」
胸の辺りまで服を持ち上げた所で愛の手が止まった。
淡い緑色のブラジャーがわずかに覗いて、しな子は凝視しそうになって慌てて目線を戻す。
「その……一緒に……入るの?」
「だめ?」
「……ううん……」
愛の巧みな答え方に、しな子は結局頷く事しかできなかった。
先に浴室に入ったしな子は、愛に裸を見られるのが恥ずかしくて、
手早く湯を浴びるとすぐに浴槽につかる。
ほどなく、扉が開いて愛が姿を現した。
まだ湯気も少ない浴室は、愛の裸身をほとんど遮らずにしな子の瞳に映し出す。
しな子は愛に気付かれないように、素早く上から下まで愛の身体を観察した。
まだまだ大きくなって行く途中とはいえ、
はっきりと存在を主張し始めている胸の膨らみや、そこから腰へとつながっていく身体のラインが、
しな子には自分よりも柔らかな、大人の女性の物に感じられる。
更に視線を落とすと、自分の家だからか、タオルで前を隠す事もしていない愛の股間が目に入った。
「あ……」
しな子が何かに気付いたように小さく声をあげる。
「ん?」
「槍溝さん、もう生えてるんだ……」
愛は椅子に腰掛けると、うらやましそうにため息をつくしな子に笑いかけた。
「こんなの、深谷さんもすぐに生えるわよ。それに、生えたって何か変わるわけでもなし」
「でも……」
「あれ、もう来たんでしょ?」
「うん……」
「だったら大丈夫よ。それに」
意味ありげに一度言葉を切ると、真剣な表情を作って続ける。
「エッチしてると毛の成長が早くなるって雑誌に載ってたわよ」
途端にしな子の顔が真っ赤に染まり、顔を半分浴槽に沈めてしまう。
「あ、照れた」
面白そうに笑う愛に、はじめはすねたように睨みつけていたしな子も
やがて我慢出来なくなって、つられて笑い出した。
「交代しましょ」
ひとしきり笑った後、愛は手早く自分の身体を洗うと、
浴槽のへりにもたれかかってこちらを見ているしな子に告げた。
しな子は頷くと、浴槽から上がって愛と場所を変わる。
愛は浴槽に入るふりをして、しな子が座ったのを見ると、背後に回りこんで身体を押しつけた。
「ひゃっ! 槍溝さん、な……なに?」
反射的に身体をすくませるしな子の反応を面白がるように愛は更に密着させながら、
スポンジと石鹸を手に取る。
(! 槍溝さん、背中、当たってる……!)
しな子は温かい肌の他に、少し違う感触の物を感じて、
それが愛の乳首だと判ると、突然顔が火を吹いたように熱くなった。
「洗ってあげる」
「い、いいわよ、自分で洗えるから……きゃっ」
しな子は半分以上本気で愛から逃れようとしたが、狭い浴室で暴れる訳にもいかず、
結局愛の言いなりになってしまう。
それでも、どうしても恥ずかしさはぬぐえずに身体を小さく縮こまらせるが、
それはかえって愛に背中を洗いやすくさせる事になっていた。
「そんなに緊張しないでよ。悪いことしてるみたいじゃない」
愛がそう言いつつ、優しく洗い始めると、ようやく少しだけ緊張を緩める。
「そういえばね」
愛は手を止めることなく、先日拓也に行わせた罰ゲームの話を始めた。
拓也を途中で見失ってしまったこと、買ってきた下着が到底拓也の選ばなさそうな物であったこと、
それらを話すとしな子はうらやましそうにため息をつく。



<<話数選択へ
次のページへ>>