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色とりどりの花が咲く街道を、白い尼服に身を包んだ少女が踊るように駆けていった。
その少し後ろを先頭の少女と同じ位の年の少女2人が
やや元気の無い足取りでついていく。
後ろの少女の片方が不満げな視線を前方に向けると、小さな声で愚痴をこぼした。
「もう……どういう事なのよエリー。説明してちょうだい」
「うう……そんな顔しないでよアイゼル。あたしだって良くわからないんだから」
アイゼルに拗ねたようにマントの端を引っ張られながら、
エリーはこうなってしまったいきさつを思い出していた。

「お願いです。私も外の世界をみたいんです!」
ちょっとした縁で教会を訪れるようになり、
そこの尼僧見習の少女、ミルカッセと知り合ってから数週間、
彼女はなんとなく教会を訪れたエリーにある日突然こう言って半ば強引に採取について来たのだ。
多少は道具を使える自分でさえ冒険は得意とは言えず、
まして街から外に出た事も無いようなミルカッセは明らかに足手まといであったが、
エリーも乞われて外の話を聞かせた手前無下に断る訳にもいかず、
とりあえず危険の少ないストルデル川に連れて行く事にしたのだった。

「うわぁ、すてきなお花ですね。これ何ていう名前ですか?」
「今の鳴き声聞きました? 私、あんなきれいな鳴き声初めて聞きました!」
感じる物全てが新鮮なミルカッセは、
ほとんど数歩おきに何かを見つけてはエリーとアイゼルに話しかけてくる。
アイゼルはエリーと二人きりで冒険に出られなかったからずっとふくれていたし、
エリーも最初こそ丁寧に教えてやっていたが、
あまりの質問の多さに途中からかなり適当に相槌を打つだけにしていた。
「だから、なんで私がついてこないといけないのよ!」
「だって……みんな都合があるって断られちゃったんだもん」
誘わないと怒るくせに、アイゼルはそういってエリーに突っかかってみせる。
言えば反対されるのは判りきっていたから、
今回ミルカッセがついてくる事は当日まで伏せていた為にアイゼルの態度もいつもより激しい。
しかし、アイゼルを怒らせたままだと街に帰った後でどんな無理難題を言われるか解らない。
そう考えたエリーはなんとかアイゼルをなだめようと和解案を出してみた。
「ね、帰ったらヨーグルト作ってあげるから機嫌直してよ」
「……チーズケーキとヨーグルリンク」
「……う……どっちか一つじゃだめ?」
「だめ。両方」
「……とほほ……」
アイゼルはぶっきらぼうに答えるが、
一瞬だけ嬉しそうな表情をひらめかせたのをエリーは見逃さなかった。
チーズケーキを作る手間の事を考えるとエリーの肩は自然に落ちてしまうが、
どうやらアイゼルは機嫌を直してくれたようで、少しだけほっとした。
「エリーさーん! 早く行きましょう!」
いつのまにか随分離れた所にいるミルカッセが大きく手を振る。
途端にマントを掴んでいるアイゼルの手に力が入り、エリーは後ろに引っ張られてしまった。
「何よあの娘。随分なれなれしいのね」
「あ、アイゼル、苦しい……」
エリーは倒れそうになるのを懸命に堪えながら、
これから数日間、二人にどれだけ振り回されるのか考えると憂鬱になっていった。



「……はぁ」
夜になってようやく落ちつく事が出来たエリーはかごの中身を整理しながら
思わず小さくため息をついていた。
さすがに一日中はしゃぎっぱなしで疲れたのか、今は静かに寝息を立てているミルカッセの方を見る。
「悪い人じゃないんだけどなぁ」
小さく苦笑いをしながら呟くと、今度は少し離れた所で横になっているアイゼルに視線を向ける。
アイゼルはもう怒ってはいないはずなのだが、
食事を終えてから何故か一言も話さずさっさと眠りについてしまっていた。
エリーも案の定、結局1日中あの調子で尋ねっぱなしだったミルカッセと、
すぐ機嫌を悪くするアイゼルの相手でいつもの何倍も疲れてしまっていた。
「出来たっと。……ふぁ〜あ、すっかり疲れちゃったよ……あたしも寝ようっと」
エリーは軽くのびをすると、二人に続いて自分も横になる。
余程疲れていたのか、目を閉じるのとほとんど同時に眠気が襲ってきて、
何を考える間もなく夢の中に旅だっていった。

「ん……」
すっかり眠ってしまっていたエリーは顔の上に気配を感じて目を覚ました。
闇の中におぼろげな人影が浮かんでいて、誰だか確認する前に唇を塞がれてしまう。
突然の事に驚いたエリーだったが、
漂ってきたほのかな髪の香りで相手がアイゼルだと判ると暴れるのを止めた。
「ん……んむっ、ん……」
寝ぼけている頭に口の中の快感が広がり、全身から力が抜けていく。
身動きひとつしないままアイゼルの舌の動きを追っていたエリーだったが、
彼女の手が胸に置かれて小さく動きはじめると
流石に隣で寝ているミルカッセが気になって手首を掴んだ。
「ちょっと、何も今しなくても……ミルカッセさんが起きちゃうよ」
「だめ」
アイゼルは短くそう答えただけで、手の動きを止めようとはしない。
こういう時のアイゼルはエリーの手に負えないほど強情になっていて、
何を言っても聞き入れる事はなかった。
「アイゼルったら……んっ……」
何度も身体を重ねてエリーの弱いところを知り尽くしているアイゼルは、
わずかな動きで的確に感じさせてくる。
エリーは諦めたようにアイゼルの手首を離すと、声が漏れないようにその手を口にあてがった。
軽く指を噛んだエリーに、アイゼルは意地悪くその指先を咥えてゆっくりとしゃぶる。
「んっ……や………駄目、だってば……」
その声がますますアイゼルを積極的にさせているとは気付かず、
エリーは切なそうに目を閉じて快感をこらえる。
アイゼルは指先からエリーの顔に舐める場所を変えると、
舌先を伸ばしたままうなじへと這わせていく。
「アイ……ゼル……くすぐったい、よ……」
アイゼルの舌の動きから顔をそむけたエリーは、
その拍子に闇の中でじっと自分達を見つめる気配に気がついた。
「ちょっと、アイゼル……!」
エリーの様子にアイゼルも顔を上げて視線を向けると、気配の主がこちらに近づいてきた。
「ミ、ミルカッセさん……!」
エリーはアイゼルに組み敷かれている今の状態を恥ずかしく思ったが、
アイゼルはそのまま動こうとせず挑戦的な口調でミルカッセに話しかける。
「何よ、何か文句あるの?」
「あ、あの……ごめんなさい。
その……話し声のようなものが聞こえたので、何かと思って……」
ミルカッセは二人の関係にショックを受けているのか、
答える声は小さかったが、はっきりと震えているのが判った。
「ふーん……あなた、こっちにおいでなさいよ」
「ちょっと、アイゼル……」
アイゼルの言い方に剣呑な物を感じたエリーはなんとか落ちつかせようとするが、
上に乗られているせいで身体を起こす事が出来なかった。
すっかり怯えてしまったのか、
魅入られたように近づいてくるミルカッセの細い顎に指を滑らせると、
アイゼルはこれからされる事を理解する時間を与えるかのようにゆっくりと顔を近づける。



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