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まだ辺りは薄暗く、かろうじて朝日が差し込んでくる時間。
エリーの工房の中では、規則正しい包丁の音と、
ほのかに匂うスープの匂いが、朝を告げ始めていた。
「もう、早く起きなさいよ」
朝食の用意まですませたアイゼルが、
いつまでたっても二階から降りてこないエリーを起こしに行っても、
まだエリーはベッドの中でうとうとしていた。
「ん〜、もうそんな時間〜?」
「そんな時間よ! 早くしないと朝ご飯冷めちゃうわよ」
「ん〜…アイゼル、起こして〜」
「もう、しょうがないわね。ホラ、起きな…!」
布団をめくってエリーの腕をつかんだ瞬間、逆にひっぱられてしまう。
一瞬、抵抗するふりをして、アイゼルはエリーの胸に飛び込む。
エリーはまだ目を閉じたまま、アイゼルの頭を引き寄せるとキスを始める。
「ん……っ……ぁ、ぅ……っ……んん」
(毎日毎日、良く飽きないわよね。寝ぼけてるくせにこういう事だけは起きてるんだから)
心の中で毒づいたが、すぐに苦笑してしまう。
飽きないのは自分も同じ、いや、自分の方こそ、
毎朝の、この寸劇めいた駆け引きを楽しんでいるのだから。
その証拠に、アイゼルの手はいつのまにかエリーの手をしっかり握っている。
アイゼルが、エリーの工房に泊まるようになってから幾度と無く繰り返された行為。
はじめこそ、几帳面なアイゼルは本気で怒ったりもしていたたが、
結局、エリーの笑顔には逆らう事が出来ないのを自覚しただけだった。
そうなってからの朝のキスはゆっくりと、時間をかけて行われる。
最初の頃、夢中になりすぎてアカデミーに遅刻しそうになってからは、
アイゼルが起きる時間を早くして対処したが、キスをする時間を減らす事はなかった。
朝のキスを望んでいる、と気付かれるのが嫌で自ら舌を絡めていく事はしなかったが、
エリーの動きに抗う事もせず身を任せる。
「ん……っ、ぁふ、……ゃ、ん……んぅ、ぁ……」
「ぁあ、ん……っふ……ぅぅ」
「……っ……っはぁ……」
「ふぅ……」
ゆっくりと舌が離れ、唇が微かに糸を引いていく。
「えへへ、おはよう〜」
唇の周りについた唾液を舐め取りながらエリーが笑いかける。
「ほら、早く顔を洗ってらっしゃい」
毎日していても、照れくさいのか、顔をそむけながら少し強い口調でアイゼルが言う。
「はぁ〜い」
のそり、とベッドから起き出して洗面所に向かうエリー。
「洗ってきたよ〜」
「そう、じゃあ着替えて、朝ご飯食べましょ」
それを聞いたエリーは少し考え込む表情をすると、おもむろに話しかける。
「ねぇ、アイゼル」
「何よ?」
「今日さ、……下着、無しで学校行かない?」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるアイゼル。
「ね、あたしも無しで行くから、アイゼルも、無しで」
「だって、あなたは良いかも知れないけど、私はミニスカートなのよ! 出来る訳ないでしょう!」
「大丈夫だよ! バレっこないって。危なくなったら帰ってきちゃえば良いんだから」
エリーは悪戯っぽく笑いながら全然根拠の無い事を言う。
「ね、お願い! 1回で良いから。付き合ってくれたら、私の秘蔵のぬいぐるみあげるから」
「本当!? ……って、なんで私がぬいぐるみ好きなの知ってるのよ?」
「前にアイゼルの部屋行った時に見たもん」
「わかったわよ。でも1回だけよ? それと約束は守ってよね。あと、学校内でなんかしたら絶対ダメよ」
(何にもしないんだったら下着無しで行く意味がないよ……)
エリーは思ったが、もちろんそんな事はおくびにも出さなかった。
「当たり前だよ。ちょっとね、ドキドキするかな、って思って言ってみただけだから」
夜着を脱ぐと、そのまま衣服を着始める。
「本当に、やるのね……」
物に釣られてエリーの話術にうっかり乗ってしまった自分を呪いながら、
しぶしぶアイゼルも下着を脱いで、ワンピースを着た。
姿見で普段と違う所がないか念入りに確かめる。
「だいじょうぶだってば、アイゼル。もう、心配症だなぁ」
「だって……ね、やっぱり止めましょうよ」
「だめ。約束は守ってもらうからね。ほら、朝ご飯食べよ」
エリーはさっさとテーブルに座ると、皿に食事を盛り始める。
「もう」
自分の不安をこの小悪魔に解らせてやるにはどうすれば良いかしら。
アイゼルは無邪気に笑うエリーを見てそう思ったが、
結局効果的な言葉を思いつけず諦めてエリーの向かいに座った。
食事をしていると、突然エリーがフォークを机の下に落としてしまう。
「何してるのよ」
「えへへ、ごめ〜ん」
貴族出で作法にもうるさいアイゼルは眉をしかめたが、
エリーの反省した様子もない笑い声が床からすると、それ以上追及する気も無くして食事に戻る。
しかし、エリーは一向に椅子に座り直す気配が無かった。
不思議に思ったアイゼルが下を覗きこむと、
テーブルの下から自分の股間をじっと見ているエリーと目が合った。
「あなた……何してるのよ!」
「残念、もうちょっとで見えそうだったんだけどなぁ。ね、今日アカデミー行くの止めようか」
「だ、だめに決まってるでしょ。それより、早く食べないと本当に遅刻しちゃうわよ」
膝を固く閉じながら、アイゼルは今日一日無事に乗りきれるか早くも不安になっていた。
(やだ、皆見てる気がする……)
アイゼルは歩きながら、もう気が気ではなかった。
下着を着けて居ないから、少し胸が揺れている気がする。
下着を履いて居ないから、歩き方がいつもと違う気がする。
おまけに、胸の先が歩く度に少し擦れて、弱々しくながらも確実に刺激を伝えてくる。
そのせいで、顔が赤くなってはいないだろうか。
もし、それを気付かれたら。
「ね、早く教室行きましょう」
座ってしまえばとりあえずは安心だ。そう考えてエリーに話しかけようとした時、
「お〜い、ノルディスおはよう〜!」
アカデミー内で目ざとくノルディスの姿を見つけると、
アイゼルが止める間もなくエリーは学友を呼んでしまった。
「ちょ、ちょっと」
小声でエリーに抗議したが、帰ってきたのは返事ではなく、アイゼルのお尻に添えられた手だった。
「!」
ワンピースの上から指の先だけを滑らせるように動かし始める。
エリーの手を止めようとしたが、それより早くノルディスが来てしまった。
「おはよう、エリー、それにアイゼルも。」
「お、おはよう、ノルディス」
ノルディスは2人の所にやってきていつものように挨拶をする。
アイゼルはなんとか気付かれまいと普通に話そうとするが、
少しずつしか刺激を与えてこないエリーの指を無意識に追ってしまって返事をするのが遅れてしまう。
「アイゼル、どうかしたの?」
何も知らないノルディスは素直にアイゼルの体調を心配する。
「う、ううん、何でもないわ」
今行われている事を否定する為に、大きく首を振るアイゼル。
しかしその間にエリーの手は、指先がワンピースの裾までたどり着くと、
中指と薬指で内股をさすりはじめた。
指腹で浅い所を撫でて行き、指をかえして爪先で筋をつけるように、少しだけ力を込めて動かす。
「……!」
突然の強い刺激にアイゼルは思わず口を開いてしまうが、すんでの所で声を上げるのを堪えた。
「なんだか、顔も少し赤いようだけど」
普段から良く人の心配をしてくれるノルディスが、この時ばかりは恨めしい。
「ううん、大丈夫…… 多分、昨日エリーと少し夜更かししちゃったたせいだと思うわ」
「そう……それなら良いけど、気をつけてね」
話している間に再び、さっきよりも少しだけ強くエリーが筋をつける。
痛い、でも、痛みと同じ位の、快楽。お互いを傷つけあう愛し方があるのを知ってはいたが、
そんなのは気持ち悪いと思っていたし、エリーがそんな事をするなんて考えた事もなかった。
それなのに、今、エリーは自分の身体を引っかいてきて、
それに自分は気持ち良い、と感じてしまった。
(どうして…? 私、おかしいのかしら?)
とにかく今は、ノルディスに気付かれてはいけない。
混乱しつつも、少し顔を伏せて、更なる刺激に備えるアイゼル。
しかしエリーは、三度目は引っかくのではなく、先につけた筋を優しくなぞる。
「っ……!」
痛みに備えていた感覚が、不意をつかれて吐息となってこぼれる。
一気に緊張が解け、そのはずみで下腹部に熱い物がこみあげる。
(やだ、あたし、濡れ、ちゃう……)
慌ててもう一度力を込めるが、滴は止まらずに内腿を伝って流れ出す。
(だめ、ここでは、だめ……お願い、止まって)
「うーん……息も荒いし、やっぱりちょっと調子悪いみたいだね。
今日は一限だけ出て、帰った方が良いと思うけど」
「そ、そうね。そうさせて貰うわ。ごめんなさいね、ノルディス。心配かけて」
「そんな事はいいけど、気を付けてね。エリー、アイゼルを頼むよ」
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