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今度は互いを求めあう、柔らかな口付け。
呼気が混じりあい、下腹に響くような快感が走る、男女のキス。
それは永遠に続けていても構わないと思えるほど甘美なものだったが、
千晶の身体に押し当てた屹立のしつこい抗議に、俺は渋々口を離した。
千晶が幾分頬を染め、少し柔らかさの増えた視線で俺を見る。
その顔を無言のまま見返すと、千晶は薄く笑みを浮かべて足を開いた。
屹立を掴んだ俺は、彼女のクレヴァスに押し当て、一気に貫く。
「くぅっ…………!」
俺の腕に立てられていた爪が食いこみ、皮膚を裂く。
彼女と繋がっている場所に目をやると、鮮血が太腿を汚していて、
その赤さは、彼女が失ったもの、これから失うものを冷たく暗示しているようだった。
流れた血の量からすると痛みは相当なものだろうが、
千晶は気丈にもついに悲鳴を上げる事はなかった。
「……っ……いいわよ、動いても」
そう言われて動ける訳もなく、端正な顔をたわめ、
苦悶の色を浮かべる千晶の乱れた髪を撫でつけてやると、目が驚いたように見開かれる。
「……優しいのね。でも、平気よ。これが……この痛みが、私の、最後の証だから、動いて」
短く言葉を切りながらそう言う千晶に俺は小さく頭を振ると、遠慮無く動き始めた。
動かす事さえ難しいほど締めつける隘路を、無理やり押し広げ、奥へと進ませる。
「はっ、はぁっ、はっ……」
幾度か腰を打ちつけても、千晶の痛みは和らぐどころか増しているようだったが、
それでも動かしている内に慣れ出した秘肉は少しずつ滑らかにうねり、蠢動を覚えていく。
もう少し続ければもしかしたら、千晶を感じさせてやる事が出来たかもしれない。
しかし、その前に俺の限界の方が訪れてしまった。
俺の顔色を敏感に悟った千晶が、頬に手を添えて囁く。
「中で出しても構わないわ……もう、この身体に未練は無いもの」
もとより外で終わらせる気など無い俺は、その言葉に反発しつつ、
抽送の勢いを強め、新たな受胎をさせようと力んだ。
もし、ここで新たな生命を産み出せたなら、
それは俺にとっても彼女にとっても大いなるコトワリとなると思ったからだ。
……その可能性が、皆無なのが解っていても。
「はぁ、っあ…………ん、んっ……くぅぅ…っっ!!」
迎える絶頂に、千晶の腕が俺の首を掴み、締める。
しかし片腕では呼吸を乱す事さえ適わず、俺は白濁を彼女の中に放ち、
最後の一滴まで注ぎ込んだ後、身体を離した。
続いて身体を起こした千晶の瞳が俺を捉え、一瞬、和らぐ。
その消えてしまいそうな表情に、俺は何を言っていいのか判らないまま口を開きかけたが、
この場にいる部外者──少なくとも、今は──が割りこんできた。
「娘よ、別れは済んだか」
どこか、近くも遠くも無い場所から重々しい声が響き渡る。
それは新たな依童を渇望する焦りと、
この期に及んで情を求める人の子への嘲笑とをはっきりと含んでいた。
「それじゃね」
千晶は最後に小さく口の端をほころばせると、わずらわしげに腕を振り上げ、儀式の始まりを告げる。
落ちてきたゴズテンノウの頭像が俺達を別ち、轟音と、神性を帯びた閃光が辺りを満たした。
まばゆい景色の中、何かが千晶と重なり、そして消える。
訪れた静寂の後も、しばらくは何も変化が無かったが、
突然ゴズテンノウに亀裂が入り、次の瞬間、跡形も無く砕け散った。
粉塵の彼方から現れたのは、人では無かった。
人の形を執っているだけの、禍霊。
失われた右腕には暴走する力を無理やり束ねたような触腕が生え、
抑えきれない禍力は口元にまで疾り、美しかった顔立ちは見るも無惨なものになっていた。
ついさっき触れたばかりの、上質の絹のようだった髪は邪に変色し、
見る者を傷つける棘となって彼女を飾り立てている。
しかし最も印象を異にするのは瞳で、そこには永遠に満たされない力への渇きと
選ばれた者という陶酔が混じり合い、更にコトワリを見出した確信がブレンドされた事で、
力無き者は見るだけで打ち倒されてしまう輝きを放っていた。
恐らく、今の力は五分だろう。
そう分析した俺は、直後に自嘲の笑みをこぼす。
抱きあった直後に闘う事を考えるなど、異常極まりない。
俺も、やはりとうの昔にニンゲンでは無くなっていたのだ。
「熱い……手が燃えるよう……見て。美しいでしょう? 
力有る者は美しいわ。私は自分の道を切り開く力を得た……」
新たな力を宿した彼女は、禍々しき魂を新たな腕から傲然と放ちながら、
俺を挑発するように目の前の空間を薙ぎ払った。
顔を流れる血液の量を一滴さえ変えずに躱した俺に、おどけたように肩をすくめてみせる。
「それじゃね。次に会う時は敵じゃ無いといいわね。……お互いの為に」
確乎たる、力感に溢れた足取りに、彼女がもう橘千晶では無くなった事を受け入れざるを得なかった。
創世に取り憑かれた、魔丞。
それを悲しいとは思わない。
ただ、首の後ろがチリチリと痛むだけだ。

俺は彼女が創世に向けて広間を出て行った後、しばらくしてから同じ扉をくぐった。
……彼女と、違う道を歩む為に。



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