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そして亜柚子は気づく。
求めているものはもっと、口にすることで形となるものだと。
それに気づいた途端、渇望が亜由子を襲った。
渇きではない、口の中に唾が湧きだす欲望への飢え。
欲しい、欲しくてたまらない。
思考中枢にほとんど瞬間的に満ちた飢えが、亜柚子の口を開かせる。
「……」
それでも亜柚子が一旦は口を閉じたのは、彼女の理性がいかに強く、
女性としての気品に満ちていると証明するものだったかもしれない。
しかしここは教室ではなく、彼女の依って立つものを支えてくれる何物も存在しない。
在るのは彼女の常識では計り知れない古代の遺跡と、男だけだった。
乾いてしまった唇を舐め、亜柚子は顔を上げた。
「欲しい……わ」
「ん?」
「欲しい、の。お、おちんちん……が」
生まれて初めてその言葉を口にした途端、身体がかっと燃えあがった。
何か行動をしたわけでもない、ただ言っただけだというのに、
熱病にかかったように身体は変調し、動悸が激しさを増した。
「どこに?」
言おう、と決めた瞬間でさえ、言いたくないと思った言葉。
どちらかを言わねばならないとしたら、まだ男性器の方が抵抗が少ない。
亜柚子は無意識的にそう考えて選んだのだが、九龍は容赦しなかった。
そして一度足を踏み出した以上、亜柚子に戻る道はもう残されていなかった。
「お……おまんこ、に……」
言ってしまった。
ふしだらな言葉を。
四文字の言葉は視界を歪ませるほどの影響を与え、亜柚子は顔を伏せずにはいられなかった。
九龍の手が、褒めたたえるように亜柚子が口にした場所を撫でる。
そこは、亜柚子がかつて経験したことがないほどに熱く、濡れそぼっていた。
亜柚子の意思とは無関係に、牡を受けいれる準備を整え、
うっすらと口を開けて待ち構えていた。
「へえ、色んな言い方があるけど、先生はおちんちんにおまんこなんだ」
九龍が妙に感心しているのが、亜柚子にはひどく恥ずかしい。
言われてみれば、どうしてそんな言い方をしてしまったのか、いまさら後悔する。
もっとぼかした言い方だってあっただろうに、知る限りでもっとも直接的で淫らな語句を言ってしまった。
「いいよ。俺もいいかげん我慢できないしな」
ナイフを取りだした九龍が、スパッツに小さく切り目を入れる。
もともとそれほど厚手ではない生地は、あとは簡単に裂けてしまい、
亜柚子の股間の辺りは隠すものもなく露わにされた。
「ほら先生、立って」
亜柚子を強引に立たせた九龍は、さらに強引に片足を掲げる。
壁を背にしているので倒れはしないが、恥ずかしい部分を剥きだしにされた亜柚子はさすがに隠そうとした。
「……っ」
至近距離で九龍と目が合う。
これも九龍に言わせれば凄い技術らしい、灯りなしでも歩ける程度には明るい遺跡の照明が、
黒い瞳を一層硬質に照らした。
残忍ではないけれど、優しくもない目が亜柚子を問いただす。
小さく喘いだ亜柚子は、数瞬の空白の後、一度は隠した部分をもう一度九龍に差しだした。
それでも彼の瞳の色は変わらない。
変わったのは、大きさだった。
「ん……ッ……!」
嘘のように優しいキス。
きっとこんな場所で、状況でかわされるべきではない、白馬の王子とかわすようなくちづけ。
下から掬いあげるように唇をついばみ、深く呼吸を交わす。
亜柚子が思わず恍惚の吐息を漏らしてしまうと、それを合図として九龍が挿ってきた。
足の間から九龍が侵入してくる。
充分すぎるほどに濡れていたその場所は、長大なペニスをたちまち奥まで迎えいれた。
「あッ……う、ん……ッ……!」
圧倒的な快感に目がくらむ。
だらしのない悲鳴を噛みころすこともできないほど、身体の深奥を突かれた悦びは凄まじかった。
右足だけでかろうじてバランスを保つが、今にも力が抜けて倒れてしまいそうだ。
「いつもより濡れてるからかな、凄いな、今日は」
九龍の囁きも頭に響きはするものの、意味のある言葉として処理できない。
腹の中に収まっている肉茎が、全てを圧して亜柚子を苛んだ。
「あ、ぁ……ッ、はぁッ、く……九龍、さんッ……!」
何を伝えたいのかも解らないまま、男の名を呼ぶ。
その淡い桃色の唇の端には涎が伝い、清楚な美貌は見る影もなかった。
「んっ……ふ、あぅっ、あんっ」
亜柚子がキスを求めると、九龍はわざと強く突きいれ、続けられなくさせてしまう。
悔しい、と思いながらも、腹の中を貫かれる悦びはそんな悔しさなど簡単に浚ってしまうほど強く、激しい。
一突きごとにじっくりと膣内を掻きまわすグラインドに、亜柚子はあえなく屈服した。
「あっ、あァ……ん……はぁぁっ、あぁ、あァ……ッ」
腹の中の異物が上へとのぼってくる快感は、片足で支えるにはあまりに快美で、ずり落ちそうになる。
だが九龍はそれを許さず、自分の腰で亜柚子を押しあげるようにして支えるのだ。
「……ッ、く、九龍、さ……ひんッ……!」
ありえない、膣内が拡げられていくという感覚。
到達してはいけない場所までペニスが侵入し、蹂躙されるという錯覚に亜柚子は囚われた。
嫌ではない。
臍の下に溜まっていくどろどろの、脳と直結したかのように頭の中を疼かせるたまらない気持ちよさが、
嫌なはずがない。
崩れおちそうになる身体を九龍に支えてもらいながら、亜柚子は彼の眼を見る。
肉体の激しい動きをよそに、黒く硬質なままの瞳。
亜柚子が見ているのに気づきはしても、輝きを放ったりはしない。
ただ、己の欲望を充たそうとしているだけ。
それでも、亜柚子は彼の瞳に魅せられてしまう。
冷たい――冷徹なまでの彼の瞳に。
九龍がおもむろに動きを止める。
かと思うとそのまま息をつく暇もなく後ろ向きにされ、壁に手をつかされた。
スパッツの裂け目は大きく広がり、尻の谷間が完全に露出していた。
しかも、九龍によってさらに毟られ、尻の半分以上が晒けだされてしまう。
ほとんど暴行されたのと同じくらいに無惨な姿だったが、亜柚子には知る由もなく、
中断された快楽の再開を求めて、控えめに腰を揺するばかりだった。
「なんだよ、そんなに我慢できないのかよ」
「だって……お願い……」
九龍がヒップに手を置いたのさえ苛立ちを感じる。
早く、早く挿れて。
そう叫びそうになるのを寸前でこらえて、亜柚子は犯されるのを待った。
「もうちょっと足開けよ、挿れにくい」
そんな命令にも疑いを挟まず従ったばかりか、挿入しやすいように尻を持ちあげてみせさえする。
よほど必死に見えたのか、たしなめるように尻を軽く叩かれたが、
九龍はそれ以上は焦らさず、亜柚子の望み通り再び挿入した。
「はァ……ン……」
よみがえる快楽に、喉がおのずと震える。
不安定な姿勢から体位が変わったことで、よりしっかりと男性器を感じられた。
すぐに抽送が始まる。
先ほどに較べてリズミカルになった抽送は、脳を途切れなく灼いていった。
後ろから突きこまれ、腰を押さえて引き抜かれるたび、途方もない快感に悶え、喘ぐ。
肉と肉、粘液と粘液がぶつかる卑猥な音が響き渡って亜柚子を高みに押しやり、泥濘にひきずりこんだ。
「先生さ、今度からはブラもなしで来なよ」
セーターをたくしあげた九龍が、ホックを外しながら命じる。
こぼれおちた双つの果肉はすぐさま摘みとられ、両の手に弄ばれた。
「あァッ、あッ、んっ、んッ、あんッ、ひあンッ」
新たな場所から快感を注ぎこまれて、亜柚子には答える余裕もない。
絶えず息を吐いていないと、その瞬間に達してしまいそうだった。
「先生聞いてる? 返事は?」
「ひッ、んあッ……! え、ええ、わかった、わ……」
けれども九龍は容赦なく乳首を抓りあげ、返事を求める。
痛みと恐怖が化合して、透明な液体となって亜柚子の目からこぼれた。
涙は頬を伝うことも許されず、背後からの振動で床へと落ちていく。
純度の高い水分は、しかし、亜柚子の足下で他の体液と混じって小さく泡立ち、臭いたつひとつの染みとなった。
「……そうだ、どうせならラクロスの格好で来てくれよ。夜だしいいだろ?」
「そ、れは……」
加熱した頭を束の間とはいえ冷やすほど、その命令を聞きいれるのには抵抗があった。
大成はしなくてもラクロスをしていたのは亜柚子にとって大切な思い出であり、
それを汚すのには大きなためらいがあったのだ。
「あれ、嫌なのか?」
だが、返事がないと見るや、たちまち九龍は抽送を止めてしまう。
さらに微細に腰を動かしたりして、亜柚子を狂おしいまでの焦慮に駆りたててきた。
「来……る、わ……ラクロスのユニフォームで来るから……」
「来るから?」
「焦らさないで……もう、我慢、できない、の……っ!」
叫ぶと同時に激しく突きあげられる。
「んはぁァッ……!」
肉の悦びに歓喜の悲鳴が口を衝く。
どれほどの理性も良識も、この瞬間に消し飛びさった。
股を割って入ってくる太い肉柱に、全てを委ねて蕩けきった。
「あ、あ、あぅ、はぁッ、ひっ、ん、あ、あッ……!」
稲光めいたものが幾度も頭をよぎる。
後背から激しく突かれる亜柚子は、繰りかえされる抽送にただ喘ぐだけの獣と成り果て、
あさましくも舌を垂らして嗚咽した。
自分が何を叫んでいるのかも判らなくなり、掠れ、抑揚も定まらない淫声を古の迷宮に響き渡らせる。
「そんなに気持ちいいのか?」
尻を叩かれながら問われると、嘘をついてはいけない、と思う。
それほど痛くはなかったが、さっきのスパンキングで条件づけられてしまったようで、
九龍に従わなければ、という意識に囚われていた。
「あぅッ、え、ええっ……気持ち、いい、わ……っ……」
麻痺した脳が、身体の中で起きている快楽をそのまま口走らせる。
もちろん、言葉だけで全ての快楽を説明することなどできない。
それでも自分の声に出すことで、感じさせられているのではなく、
感じているのだという認識が亜柚子に根づいた。
痴態――それも、普通の女性なら演じないような痴態を晒す。
それが快く、内側から送りこまれる快感と混じり、溶けていった。
「どこが気持ちいいんだ?」
「お……おまんこがッ、おまんこがいいのッ、あんッ、んゥッ……!」
一度口にしてしまえば、禁句もただの恥ずかしい語彙にすぎなかった。
そしてその恥ずかしさはに亜柚子は震え、言うたびに身体が燃えあがるのを感じた。
「も……もっと、ああッ、そ、うッ、んんうぅっ」
激しく、弱く、自在に膣内を掻きまわし、貫くペニス。
突かれて嬌声をあげ、引き抜かれて煩悶に尻を震わせ、肉欲に埋もれ、溺れていく。
「九龍……さんっ、九龍さんッ……! あ、ぁっ、私、ひ、んっ、あっ、ふゥッ……!」
「イキそうなのか?」
「え……ええっ……」
イク、という新しい言葉。
現象としてはもちろん知ってはいても、口にしたことはない。
以前なら、きっと言わなかっただろう。
でも、今なら。
一突きごとに崩されていく何かが、もう保ちこたえられないと叫んでいた。
その向こうでは別の何かが、言ってしまえと荒々しく吠えていた。
「だ、め……っ……!」
何に対してかはっきりしないまま亜柚子は叫ぶ。
次の瞬間、最も奥深くにまで彼が入ってくるのを感じた。
「――ッ、イ、ク――ッッ……!!」
絶頂が口を衝く。
初めて口にした淫らな言葉を、極小の時間で脳は受けいれ、悦びとして刻みつけた。
「んあァ――ッ――!!」
卑猥に尻を震わせ、亜柚子は絶頂を迎える。
その直後、腹の中に九龍も射精し、二人は折り重なるようにその場に膝をついた。
「う……うンッ……」
床に尻をついた亜柚子の股間から、精液が流れだす。
床の冷たさと急速に冷えていく粘液が、ひどく不快だった。
それは一瞬、心の裡にある別の何かに対する不快さと繋がって亜柚子の胸を刺す。
けれどもその正体を確かめようとするのは、怖くてできなかった。
怖ろしさを振り払うように、亜柚子はいつまでも股間の汚れを拭い続けていた。
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