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 彼の持つ、熱。
手や胸や、あるいは唇とは違う滾り。
初めて触れたとき、手が火傷してしまうのではないかと思ったほど、その部分は一身に熱を宿し、
女の腹に挿る時を待っていた。
その臭いが、熱が、腹に収まった時の恍惚を呼び覚まし、
闇夜のかがり火のように亜柚子を引き寄せてしまうのだ。
唾液は口の中に留めておくのが困難なほど湧きでていた。
 といって自分から口を開けて咥えるまでに羞恥心を捨てることはできず、亜柚子は途方に暮れる。
だが、このまま待っていても、九龍が一度決めたことを止める可能性はない。
どれほど深い谷であろうと、険しい岸壁であろうと、往くと決めたら必ず往くように、
亜柚子が死にでもしない限り、罰を与えるのを止めはしないだろう。
 亜柚子は意を決し、九龍に掴まって背を伸ばした。
ペニスを口に含めるよう、足幅で頭の高さを調節する。
唇を軽く舐め、普段よりも大きく見える肉茎を頬張ろうとしたところで、九龍が声を発した。
「手、出して」
 言われるままに両手を差しだすと、頭上に持ちあげられる。
このまま行うのだ、というのは訊くまでもなかった。
拒否権はなかった――その前に、両手を委ねてしまったのだから。
 口を開け、再び亀頭に近づく。
にわかに不安定になってしまった身体で口腔を埋めつくすほどのものを咥えるのは、
針に糸を通すような難しさだった。
顔を突きだして位置を合わせようとする自分の滑稽さに泣きそうになる。
しかし、そうして訪れる冷静さも、鼻腔を掠める彼の臭いと、周りに漂う熱によってほどなく覆われてしまい、
次第に亜柚子はどうでも良くなりつつあった。
気がつけば九龍に腕を操られ、ちょうど口を開けば咥えられる位置に誘導されている。
思いきって口を開けた亜柚子は巨大な塊の、まず先端を唇の内側に収めた。
「はっ、ふはっ」
 口だけで咥えようとしているからか、いつもよりも肉柱を大きく感じる。
顎を限界まで開けて頬張ることはできても、呼吸が苦しくなって鼻の穴を広げなければならなかった。
「んっ……んふぅ……」
 舌の動きで肉茎を奥へと誘っていく。
九龍の方から動くことはなく、亜柚子がすべてせねばならなかったが、
なんとか半分以上を咥えることができた。
「んふっ、んふんっ」
 苦しくて喘いでも、九龍はじっと見下ろしているだけで助けてはくれない。
あくまでもこれは亜柚子が受ける罰であり、性行為ではないのだといわんばかりに。
 嗚咽をこらえながらもさらに残りの部分も口腔に収めると、亜柚子は奉仕を始めた。
といっても両手が使えず、舌もほとんど動かせないので、頭全体を前後させるしかない。
頭上で握られている手を支点にして何度か試みたが、ほとんど何もしないうちにペニスは抜け落ちてしまった。
「はぁっ、はぁっ……」
 もう一度咥えなおさなければならないのか、と悲嘆に暮れて九龍を見上げる。
すると九龍は怒るでもなく、彼が握っている手の、人差し指の先を舐めた。
呆然とする亜柚子の前で、指先だけを執拗に舐める。
やがて亜柚子は、九龍が真似をしろと命じているのだと理解した。
彼が舐めている指の腹に当たる部分に顔を近づけ、同じように舌を這わせると、
正解だったらしく、指を舐める動きが変わった。
今度は爪のすぐ下、男性器では鈴口に当たる部分を縦に。
そこから亀頭全体を舐め、さらに舌を波打つように動かしながら、根元へと。
九龍が指を舐め、亜柚子はその動きをトレースする。
そうしていると時折九龍が小さく腰を震わせ、感じているのが伝わってきた。
それが次第に嬉しくなってきて、一通り舐めたあと、九龍が指の先端を咥えたときには、
最初から一杯に口を開けて肉柱を咥えることができた。
「んッ……ふぅんッ……」
 さっきあれほど辛かったのが、嘘のように苦にならない。
九龍が指先を吸えばその快感を返してやりたいと深く息を吸い、
じゅるじゅると醜い音がするのも厭わずに唾をまぶし、献身的にしゃぶった。
 いつしか亜柚子は九龍の動きを先回りするほど淫らに口淫を続けている。
対する九龍は亜柚子の指を根元までねぶり尽くすと他の指に目標を変え、
今では十本のうちの半数が薄暗い地下遺跡で淫靡な輝きを放っていた。
「ふぅ……ッん、んふぅ、っふ……」
 無心で奉仕を行う亜柚子の口の中で、ペニスの反応が変わる。
それは亜柚子も良く知っている反応で、男の生理的な限界が近いという合図だった。
どうすればよいのか、という判断を、亜柚子は九龍に委ねる。
 その答えは唐突に与えられた。
口の中で性器が脈打ち、先端から勢いよく精液が爆ぜる。
「……ッ、んッ、む……!!」
 顎が壊れるのではないかというほどの、想像をはるかに越える激しい噴出に、亜柚子は息を詰まらせた。
性器の半分以上を咥えこんでいたのが災いして、とっさに出すこともできず、
窒息しかけながら必死にペニスを口から抜き、なお呼吸を妨げる精液を吐きだそうとする。
だが亜柚子が顔を下に向けると、反対方向から腕を強く引っ張られた。
「飲みほして」
 何を飲みほせというのか、耳を疑いつつも同時に、それこそが九龍の罰なのだと亜柚子は理解した。
九龍と行動を共にするようになって、今まで知りもしなかったことを経験してきた亜由子だが、
精液を飲まされるのは未だ経験がない。
愛欲のためのセックスをそもそもあまり好意的には捉えてはいなかった亜柚子だから、
子種を飲むなどまったく埒外で、九龍の頼みであっても聞きいれることはなかっただろう。
 けれども、亜柚子は今日罪を犯した。
彼の奔放な、そして強引な行為が原因とはいっても、嘘をついたのは羞恥心のためだ。
それを自覚している亜柚子は命令を拒めなかった。
 飲みほす、と言ってもひどく粘り気のある液体は、口の中全体に広がっているような感覚で、
得体の知れない気味悪さがある。
飲み下して大丈夫なのか、不安になりもする亜柚子だ。
喋るわけにはいかないので、目を上向けて九龍に問う。
 九龍は何も答えてはくれなかった。
倒錯的愛好者のように手首を掴み、唾液でべとついた指を吊るしながら、
じっと亜柚子を見下ろしたまま、引き結んだ唇を動かそうともしない。
彼と同年代の、亜柚子の教え子たちには見られない、力強い意思に満ちた瞳。
目標を見据え、揺らぐことのない眼に亜柚子は魅入られる。
従わないことなど考えもしていない。
年上だろうが、教師であろうが、数千年の古代を相手にする彼には、そんなものは何の意味も持たないのだ。
あらゆる国の秩序も法律も無視して、己の欲することを為して、彼は生き抜く。
その自信、生物としての確乎たる意思は、宝石に勝る輝きを有して他者を惹きつけるのだ。
「……」
 畏れにも似た感情に支配され、亜柚子は覚悟を決めた。
舌に乗る塊が先に臭いを腹に落としていく。
呼吸に伴って喉を灼き、身体の中心に溜まる臭いは、
彼と同じく強烈な香りを放ちながらも亜柚子を引き寄せた。
その香りの元、彼の精であり生を、亜柚子は自分の中へと導きいれた。
「ん……ッ……」
 白い喉が艶めかしく震える。
へばりつくような粘度の塊は一度では嚥下できず、二度、三度と喉がうごめく。
ようやく喉へと落ちていってからも、気道を塞ぐかのような粘液に亜柚子は苦しみ、咳きこんでしまった。
両手は掴まれたままなので、口を押さえることもできず、
女性として他人には見せられない醜い顔でしばらく激しくむせた。
 それが収まった頃になって、ようやく九龍が腕を離す。
久しぶりに自分のところに戻ってきた腕は、ずいぶんと疲れていた。
もう一度上げるのがおっくうなくらいで、力が全く入らない。
だから、かがんだ九龍に腰を抱かれて引き寄せられても、押しのけることなど出来はしなかった。
 口の中に残る精液の臭いと九龍の体臭が交じる。
濃度の高い感覚は亜柚子の意識にもやをかけ、九龍の手が蛇のように身体をまさぐりはじめても、
嫌だという気持ちを生じさせなかった。
セーターの内側に潜って素肌に触れ、スパッツの生地を滑り、
さらに異なる質感の場所を求めてさ迷う掌。
後ろ側から身体の中心を通って前へと回りこんだ手は、その場所へと的確に辿りついた。
恥ずかしい――けれども、望んでいたもの。
何かを受けるような形にすぼまった九龍の指は、亜柚子を無防備にしていく。
そして無防備になった心に、九龍の声がぬらりと侵入してきた。
「さっきより濡れてないか?」
 今度は問われるまでもなかった。
彼に奉仕をしている間中、下腹はどんどん熱くなっていき、
少し身体が揺れただけで水気を含んだスパッツが卑猥な音を奏でていたからだ。
両手を掴まれていたのはかえって良かったかもしれず、
もし自由だったなら、ひそかに慰めるくらいはしていたかもしれなかった。
「ええ……濡れてる、わ……」
 この問いは九龍が試しているのだ。
ここで嘘をつけば、また罰を与えられるだろう。
亜柚子は迷ったが、短い時間のことだった。
 そして罰を選ばなかった亜柚子は、羞恥心に灼かれる。
濡れている、と口にしたことで、あらたな湿り気を鼠溪部に感じた。
九龍が性器に置いた手を上に、ぐいと持ちあげるように動かすことで、湿り気はさらに増す。
不快な、ほとんど漏らしたように濡れている股間が、触られることで気にならなくなっていった。
「俺の精液を飲んだから?」
「……ええ」
 そんな風には思っていなかったが、言われてみるとそんな気がする。
どろりとした粘液は喉を通っていくのがはっきりと判ったし、
胃に落ちてもそこに溜まっているような感覚があった。
胃と下腹部では微妙に場所が違うのかもしれない。
だが、亜柚子にはどちらでも良かったし、彼の質問に肯定で答えるのは、気分が良かった。
「だいぶ正直になってきたな」
 九龍が褒美を与えるようにスパッツ越しに秘裂をなぞる。
そう、これまでの自分は正直でなかったかもしれない。
彼が命令調で話すのは、いつからだったろうか。
この遺跡に入ってからだろうか――それとも、自分が正直でなくなってからだろうか。
彼の言う正直とは何だろう。
敏感な部分を芋虫のように這いずる指先に、考えがまとまらない。
両腕は鉛のように重く、口にはまだ粘り気が残り、秘唇はさっきからぐずぐずに溶かされている。
今、正直になるとはどういうことなのだろう。
「ノーパンは気持ち良かった?」
「……ええ」
 小刻みだった指の動きが大きくなっていき、尻の窪みあたりまでをなぞりだした
途中にある孔も当然触る指先は、決して性急でないスピードで、亜柚子の痺れを広げていく。
問いに対する答えは、まだ間違えていない。
自分は正直であるはずだ。
だから九龍の指は止まらないのだ。
止めて欲しくないのなら、正直であればいい。
「それじゃ、今……どうしたい?」
 肯定か否定か以外の返答を求められて、亜柚子の心臓が脈を打った。
どうしたい、と言われて真っ先に思い浮かんだ言葉。
一人で慰めるときにさえ、滅多に思い浮かべない言葉。
どうしてそんな言葉を思い浮かべてしまったのか、亜柚子は恥じる。
卑猥な――教師としてほとんど禁句に近い語句だというのに。
言えば教え子に模範を示せなくなる。
でも、して欲しい。
 葛藤を見透かしたかのように、指の動きが散漫になっていく。
薄れ、弱まり、どうでもいい場所をおざなりに撫でる。
むろん、それも快感には違いなかったが、亜柚子が求めているものからは程遠かった。



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