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「か、幽花……さん……」
もっとはっきり言ったつもりなのに、呼び声は、自分自身にも聞こえたかどうかわからなかった。
友人達、相変わらず気だるげにアロマを吸っている友人や、
今はもうこの学校にいない友人から常に注意されていた声の大きさは
どこへいってしまったのかというほどなりをひそめてしまっていた。
だからなのだろうか、幽花は呼びかけに応えない。
声も出さず、音も立てず、そっと身体を滑らせていく。
奇麗な手を、指先をまっすぐに伸ばして、肩から胸へ、そこからさらに下へと。
さっき明日香が触った幽花の場所を、今度は幽花が触ろうとしている。
自分の番になってはじめて、明日香は良く幽花が何も態度に出さなかったものだと思った。
もっとも恥ずかしい部分に視線が注がれるのをはっきりと感じる。
ついさっき、至近で見つめて初めて気づいた幽花の瞳、
冷たくて、でも奥深くは温かな眼差しに見られるのは、とても恥ずかしくて、でもそれだけでもなくて。
明日香が催眠術にかけられたように幽花の双眸から目が離せないでいるうち、
指先は明日香のふもとへと辿りつく。
思わず足を閉じた明日香だったが、細い指はその隙間をすり抜けて一番恥ずかしいところに触れてきた。
「あ……っ!」
表面を撫でるような動きで、明日香は自分がもうかなり濡れてしまっていることを知る。
これまでその手のことにほとんど興味がなかった明日香は、自分のそんな反応に驚いたけれど、
幽花はまるで気にした風もなく恥ずかしいところのあちこちを触ってきた。
微細に動く指が形まではっきりと認識させて、もう恥ずかしくてたまらなくなった明日香は固く目を閉じてしまう。
すると幽花の指先は、それを待っていたかのように身体の内側へと入ってきた。
「ん……っ!」
幽花が挿入したのは、実際にはほんの少しに過ぎない。
けれども身体の中に何かが入ってきたこと、それ自体が明日香には心臓が勝手に踊りだすような驚きだった。
しかもそれは一回で終わらず、幽花はひそやかな裂け目に沿って指をなぞらせはじめたのだ。
「あ、あぁ……」
往復を繰り返す指が端に辿りついて止まるたび、明日香は息を呑んでしまう。
まだ続くのか、それとも終わってしまうのか──どちらにしてもそうせずにはいられない。
そして結果がもたらされると溜めていた呼気を吐きだして、
幽花が次に指を止めるまでの短い時間だけ許された快感に浸るのだった。
明日香が何度か息を呑み、とば口を掻きまわされる感覚にもいくらか馴染んできた頃。
不意に、身体が浮きあがるような気持ちよさが消えた。
沈降していく意識が、水面に達しようという寸前、新たな浮揚が始まる。
「ひゃ、ん……!」
大切な部分に触れた幽花の、予想以上の熱さに驚いた明日香は、幽花に押しつけるように腰を浮かせてしまった。
恥ずかしさと、機嫌を損ねてしまったのではないかという不安とをないまぜにして顔を起こす。
足の間に顔を埋めている幽花は、怒るどころか意に介してさえいないようだった。
明日香が見ているのにも気づかず舌を寄せ、潤う秘唇を押し広げて蜜を掬う。
身体の内側にまで入ってくる舌に、秘められた肉に吹きつける吐息に、明日香は何度も唇を噛みしめた。
幽花の愛撫は少しずつ大胆になっていき、快感が途切れなくなっていく。
自分への愛撫に夢中になっている幽花に一層恥ずかしさが募る明日香だったが、
幽花を止めようとは思わなかった。
熱い舌が刺激を与えるたびに掠れる意識は、この気持ちいい行為を否定しようなどとまるで考えなかった。
幽花の舌は感情をあらわにしない彼女とは思えないほど積極的に蠢く。
ごく表面から、明日香自身でさえ触ったことのないようなところにまで潜りこみ、
痺れるような刺激を植えつけ、広げていった。
「あ、ぁ……っん、幽花……さ、ん……っ」
身体の内側を這うぬらぬらとした感触に、明日香は戸惑う。
キスで感じたじんわりとした心地よさとも違う、
でも決して不快ではない、むしろもっと強くと願ってしまう感覚。
同級生に──それも、美しさに憧れるほどの少女によってもたらされる快感に、明日香は酔いしれた。
そんな明日香を焦らすように、舌はねっとりと、細部に至るまで調べつくすかのように蠢く。
折り重ねられた襞をなぞり、とめどなく蜜を吐きだす洞を進み、
明日香自身ですら知らないような部分まで、くちづけを交えながら探っていった。
「や、ん……っ……」
明日香は足を開き、より深くまで幽花を導きいれようとする。
恥ずかしいという思いよりも、もっと気持ちよくなりたいという欲望の方が勝ってどうしようもなく、
わずかに腰を押しつけさえして求めた。
「あっ……ぁぁ……」
水音と、くぐもった少しの吐息が肌を撫でる。
苦しげにも聞こえたその吐息に、一瞬明日香の背を冷や汗が伝ったが、
幽花は何も言わず、愛撫を止めもしなかった。
明日香が謝るように内腿に触れる髪を掬うと、手が重ねられる。
触れた指先は互いを求め、絡まり、ひとつに合わさった。
温かな手。
自分のそれよりは冷たいけれど、それでもはっきりと熱を帯びている手を明日香は強く握りしめた。
幽花を感じる。
掌に、腿に、身体の内側に。
少し冷たくて、でもとても暖かな、不思議な感覚。
すぐに離れてしまいそうな不安定な幽花を、逃すまいと明日香はしがみついた。
熱い──それまでのどれよりも熱い感覚が、弾ける。
それが幽花からではなく、自分自身の身体からもたらされたものだと、明日香ははじめわからなかった。
それくらい強くて、浮きあがってしまいそうな気持ちよさ。
幽花の舌先があるところを通った時にだけ訪れる、甘い痺れ。
軽く触れられただけでも我を忘れてしまいそうなくらい気持ちいいのに、幽花の舌は少しずつ触れている時間が長くなっていく。
それが明日香には怖くて、待ち遠しかった。
「あ……っ、ん……!」
少し強く、幽花が触れる。
敏感な一点をなぞるように触れていた舌が、弾くような刺激をもたらした。
途端に腰が浮きあがり、明日香は足を一杯に突っぱらせて身体を支えた。
身体が沈むと幽花が再びひそやかな肉芽を弾く。
単調だけれど効果的な愛撫を何度か繰り返されると、明日香はすっかりぐったりしてしまった。
一人の時には経験したことのない気持ちよさが、身体の奥からじわじわと広がっている。
もう少し強く、もう少し長く──
口には出せないそんな願いに、幽花は的確に応えてくれた。
「やっ、あっ……!」
慎ましやかに露出した薄紅色の尖りを、舌で転がす。
舌の軟らかさと硬さとを使いわけ、小指の先にも満たない明日香の、
まだ刺激に慣れていない淫核を幽花は何度もねぶりたてた。
「く、ん……っ、あぁっ……!」
刺激が強すぎるのか、明日香は腰を浮かせて逃れようとする。
幽花はそれを無理に押さえつけようとはせず、愛撫を止めて、
明日香が落ちついたところに再び舌を這わせるのだった。
「ひ、ん……っ」
すっかりとば口を開けて、とろとろと粘液を吐きだし続ける秘唇にも、指を沈める。
浅く、粘液をかき混ぜるように動く指は、たちまち白く濡れていく。
幽花はそれを厭わず、無言のまま、ひときわ強く明日香の、慎ましやかに姿を見せている淫核を吸いあげた。
「んっ、幽花……さん……っ!」
高まりがはじけた。
何度か経験した中でも一番大きな高まりが、明日香の胸を押しあげた。
じっとりと汗の浮かんだ肌を極限までそらし、手近にあった枕を力いっぱい握りしめて、明日香は絶頂を迎えた。
「あ、ぁ……っっ!!」
弓なりに反った背中が床に落ちる。
大きく息を荒げて、ぼんやりと快感の余韻に浸る明日香の視界に、白くて黒い何かが収まる。
ほとんど条件反射で、明日香はその人型をした愛おしい何かにしがみついた。
そのほっそりとした何かはひんやりとした手で髪を撫でてくれて、明日香は安らいだまどろみに落ちていった。
髪が触れる。
床にまで届きそうな長い髪が、幽花の背中からこぼれてきたのだ。
肌を包んでいく綺麗な黒は、明日香をとても幸福な気持ちにさせた。
「ん……」
明日香は目を閉じ、幽花の背に腕を回す。
とてもいい匂いの身体。
そしてそれよりももっといい匂いのする、二人を包みこむ髪。
薄い背中を撫でながら、明日香はそっと幽花の耳にくちづけた。
起き上がった明日香は、自分よりも先に幽花にガウンを着せてやる。
その間幽花は無言だったが、明日香が自分の下着を着けおえると、それを待っていたかのように口を開いた。
「あの……八千穂さん」
「何……?」
こうした後に呼ばれる名前はひどく恥ずかしいものなのだと知った明日香は、少し顔を逸らして応じた。
逸らした視線の先の、白い手は動かない。
細長い指先を見つめていた明日香は、不意に、幽花も何を言って良いのか迷っているのだと直感した。
そして幽花が迷っている、そのこと自体が明日香にはとても嬉しかった。
明日香は奇麗に伸ばされた指に触れ、二人の胸の前に持ちあげる。
細い指先はやがて折れ曲がり、明日香の手と合わさった。
「……えへへっ」
「……ふふっ」
繋いだ手を見て明日香が笑うと、幽花も小さく笑う。
それは明日香がこれまで見た幽花の笑みの中で、いちばんきれいな笑顔だった。
幽花を座らせ、明日香はその隣に腰を下ろした。
相変わらずガウンは赤く、ガウンを覆う髪はどこまでも黒い。
教室で見るよりもずっときれいな幽花を、明日香は半分だけ見て訊ねた。
「ね、白岐さん。あたしは嬉しかったんだけど……今日、その、最初からそういうつもりだったの?」
幽花が振りむく。
思いがけず近くから見られて、明日香の心臓はまた踊りだした。
「八千穂さん……ブルーベリーの花言葉を知っているかしら?」
「え? ……ううん」
「ブルーベリーの花言葉は『好意』なの」
「あ……あはは、そうなんだ」
それはつまり、自分からこういう関係を望んだということになってしまうのだろうか。
ブルーベリーの味と香りにしか興味のなかった明日香は、
まさかアイスクリームの原材料が幽花の心を動かすことになったと知って苦笑するしかなかった。
と、幽花が今回の全ての始まりともいえる金属板を指差す。
「今度は……私がこれを使わせてもらってもいいかしら」
幽花の提案に大きくうなずいて、明日香は、
近いうちに開催されるだろう二人きりのアイスクリームパーティーに思いを馳せるのだった。
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