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 長大な肉茎を口から抜いた亜柚子は、身体を起こし、まとっていた残りの服を脱ぐ。
九龍が見ているのは承知の上で、ブラウスとブラジャーを脱ぎ、
さらには下半身も全て脱いでしまった。
 床にあお向けになったまま、ぎらつく目だけを向ける九龍に、
裸であることなど忘れたような無防備さで、亜柚子は彼の腰の辺りにひざ立ちになる。
そこから腰を落とし、今にも性器同士が触れそうなくらい近づけ、上半身を折って顔を寄せた。
「九龍さん……私が、欲しい……?」
 壊れた人形のように、九龍がうなずく。
 ひそやかな呪縛をかけ終えた亜柚子は、後ろ手にペニスを握り、位置を合わせると、
慣れた腰つきで彼を収めていった。
「あぁん……っ……!」
 普段よりも滑らかに入ってきた肉柱が、教え子に聞かせるには淫らすぎる喘ぎを放たせる。
溶かしたガラスのように糸を引く、そのくせ澄んだ音色は、
だが、生徒の脳にまでは届いていないことを亜柚子は知っていた。
亜柚子の下で、亜柚子に劣らず快楽に惚けた顔をしつつ、遅まきながら乳房に手を伸ばしてきた九龍は、
今の喘ぎも情欲をかき立てる効果音程度にしか捉えていない。
もとからこの若き『宝探し屋』は、教師と生徒という関係で亜柚子を見ておらず、
それが亜柚子の琴線をもっともかき鳴らしたのだ。
 いささか乱暴な手つきで左の乳房を揉まれても、亜柚子はたしなめなかった。
すでに多少の痛みなら快感へと変じるくらいに肉体は火照っており、
汗まみれの手が稚拙な動きで女の果実を握るに任せた。
 その代わりに亜柚子は、彼の男幹を弄ぶ。
すでに腹の奥深いところまで挿入されている猛々しい男根は、
わずかな動きでも膣内を抉り、陶酔の吐息を絞りださせてくれる。
有無を言わさぬ快感に、わずかに残っていた慎み深さも消え、
亜柚子は、前屈みの姿勢で、ゆるゆると腰を動かしはじめた。
「はぁ、あっ、んっ……! んんっ、……ぅあ、あ、ぅん……!」
 腹の中が熱く燃える。
雁首の内側まで舌を這わせ、形を脳に刻みこませた剛直が、
身体の中心を貫き、隘路をかき回すさまに、亜柚子はたまらず悶えた。
大きな尻をぶるりと震わせ、蕩けた顔で九龍にくちづけを迫る。
「んぅ……っあ、ふっ、はふっ、あぁっ」
 濃さを増した、もはやどちらのものともつかない体臭を嗅ぎいれながら、舌をふしだらに交ぜた。
彼の舌を吸ったときに立ちこめる臭いが、ことのほか亜由子は好きだった。
九龍がどれほど頭を振ろうとも、唇だけは離さず、ほとんど自分の欲望のためだけにキスを続けた。
 気がつけば、九龍の手が臀部に伸びている。
乳房よりも力強く掴まれるのは心地よいくらいだったが、
執拗に揉みほぐす男の関心を、亜柚子はできれば他所に移したいと思っていた。
 均整の取れた身体の中で、唯一亜柚子が気にしているのがヒップだった。
垂れてはいないが大きめの尻に、時として生徒のみならず同僚からの視線も感じてしまう。
彼らの品評などどうでも良くても、九龍にだけは嫌われたくないという心理は、
いつもつきまとっていた。
 実は亜柚子はスタイルを気にする必要などなかった。
九龍は亜柚子の尻が大きいことに気づいてはいたが、もしも亜柚子が訊ねていたら、
古代の彫刻や土器に親しい九龍の好みは、明らかに胸と尻が巨大な方に傾いていて、
特に、柔らかさと張りを備えた女の尻に興奮してしまうのだという、いかにも恥ずかしげな返事を聞けただろう。
 しかし、亜柚子の羞恥など知る由もない九龍は、両手で尻を掴み、いよいよ激しく揉みしだいてくる。
屹立が挿さったままの膣道を、思わぬところから責められて、亜柚子は腰が砕けそうになった。
「あ、あ、九龍さん、駄目ぇっ……!」
 十近くも歳の離れた少年の胸板にしがみついて咽ぶ。
深くに刺さった彼に、二足飛びに快楽の果てに追いやられた亜由子は、
小刻みに身体を震わせるほかなかった。
思惑とは違い、あまりに急激に快感を与えられてしまったので、心の方がまだ充たされていない。
九龍が一瞬で虜になってしまうような気だるげな眼差しを投げつけた亜柚子は、
自分がどれほどひどいことをしたのかも解っていない子供の、耳を噛んで罰を与えた。
「……!?」
 それなりに強い力で噛んだので、九龍は驚いている。
理由を説明しないまま亜柚子はまだ尻を掴んでいる手を引きはがし、
握りしめて身体の前に持ってきた。
ロープよりも信用できる彼の腕に体重を預け、足を開いて腰を突きだす。
それは學園内で定着している清楚な教師というイメージなどかけらもない、卑猥に過ぎる姿だった。
「ね、見える……? あなたのが、私の中に」
 言いながら腰を突きだし、上下させる。
猛る男根を咥えこみ、滴る愛液に淫らな音を奏でさせて、肉体の奥の快感を求め、
膣内を貫く肉棒に操られるように、悩ましく肢体をくねらせた。
「うっ……く、あ……!」
 期待以上の快感が身体に流れ、亜柚子はあられもなく叫ぶ。
セックスがこんなに気持ちいいのだと、九龍に出会うまでは知らなかった。
肉体的な結合は、あくまでも心の交わりの行き着く果てか、子供を作るための手段にすぎないという考えは、
何度かの経験を経ても変わることはなかった。
求められれば拒みはしなくても、それは相手を失望させないためというだけにすぎなかった。
けれども、性的な知識など皆無だったのではないかというくらい疎い年下の男は、
亜柚子に初めての絶頂を与え、腰が抜けるほどの悦びをもたらした。
以来亜柚子は彼の邪魔にならないことだけは心がけながら、
機会あればこうして肌を重ねることを求めた。
 九龍は断らなかった。
それが彼の年齢から来る、当然の異性への興味から生じたものに過ぎなかったとしても、亜柚子は構わなかった。
むしろ彼が女の身体に興味を持つのなら、それを利用して彼を惹きつけたいと思った。
九龍が求めるものを、それ以上のものを与える。
そうして彼が夢中になってくれる時、亜柚子は九龍と同じ処に居るような気分になれるのだ。
 それは、もちろん錯覚にすぎない。
高処に立ち、はるか彼方を目指す男と全てを共有できるなどと、甘えもいいところだ。
 それでも、亜柚子は願った。
彼と同じ位置に並ぶことを。
「はぁっ、う、ん……んふぅっ、あぁ、あッ……!」
 九龍の手を掴み、そこを支点にして腰を振る。
だらしない、仮にも教師なのだから喘ぎ声くらい抑えなくては、と思っても、
膣内のたまらない場所を抉られるとどうでも良くなってしまう。
身体が弾むたびに淫らな臭いに混じってかすかに漂う彼の体臭に頭の芯まで痺れを感じながら、
亜柚子は快楽を貪った。
「うぅッ……せんせ、い……!」
 歯を食いしばる九龍にくちづけを浴びせ、彼の努力を無にする。
溜められていた息がいちどきに流れこんできて、喉を灼くのが快かった。
気道を彼の成分が落ちていくのをはっきりと感じながら、亜柚子は九龍の口腔を舐めまわした。
「う、う……ッ」
 歯列を舐めるたび、腹の中の彼がびくびくと震える。
彼も気持ち良くなっているのだと都合良く解釈して、亜柚子は教え子の口の中を隅々まで犯していった。
「ん……ふッ……」
 あらゆる感覚から流れこんでくる快感に、目がくらみそうになる。
唇ではなく口を接合させ、届くところ全てを舌で舐め、唾液までも彼に飲ませた。
九龍はその全てに抗わず、舌に落とされた唾液を嚥下する。
彼の喉を体液が通過し、大きな音が口中から伝わってきた時、亜柚子は軽い絶頂すら覚えていた。
人を意のままに従わせるのが、こんなにも快いとは。
教師として決して抱いてはならない邪な気持ちを、女として亜柚子は抱く。
今は教師ではなく、一人の女なのだという、言い訳にもならない言い訳で理性を封じこめ、
世界の遺跡に埋もれた『秘宝』を探すという、別世界に生きる男を身体で繋ぎとめるという罪悪感を
背徳の恍惚にすり替え、亜柚子は腹に咥えた男根を、技巧を尽して歓待した。
 腰を振り、落とす。
膝とつま先を支点にして、男根を支柱とした複雑な図形を亜柚子は描いた。
描いては消し、消しては描き、絶え間なく、しかし一度として同じ画にはならず、
淫靡な軌跡を走らせ続けた。
時には腹に力を入れ、ペニスを締める動きさえやってのけ、
この方面においては右も左も分からない少年を、淫楽の深い沼に誘いこんだ。
「あ……ッ、く、うぅッ……!」
「イキそうなの、九龍さん……?」
 歯を食いしばる九龍に、甘く囁きかける。
敏感な器官を根元から責めさいなまれ、九龍は息も絶え絶えに頷くばかりだ。
 彼の瞳がもたらされる快楽に溺れているのを確かめた亜柚子は、最後の一滴を垂らした。
「いいわよ、私のなかに、出して……っ!」
 叫ぶと同時に、激しい爆発を腹の中に感じる。
とうてい逆らいようのない、荒ぶる奔流に亜柚子は身を任せ、全身で九龍の絶頂を受けとめた。
「あぁっ、あ、っあぁあ……っっ!!」
 たっぷりと彼の欲望を浴びた亜柚子も、ほどなく淫らの極みへと押しやられる。
一切を浚い、どこへともなく運ばれていく悦びに、
亜柚子は頭を起こす芋虫のように身をくねらせ、そして九龍の懐に沈んでいった。
 潮が引いていき、腹から粘った体液が流れだす気持ち悪さに救いようのない幸福を感じながら、
去ってしまった快感の残滓をかき集めるように、九龍にしがみつく亜柚子だった。

 腹の中で彼が力を失っていっても、亜柚子は動かなかった。
そうしていれば、九龍はきっと帰らない。
古代遺跡の財宝ほどには女の扱いに慣れていない少年は、困りつつも邪険にはできないだろう。
彼には仕事があり、今日の夜も、明日の探索の準備で無駄にできる時間はないはずだ。
そうと解っていながら、亜柚子は彼を帰したくなかった。
ずっと――せめて、彼がこの学園にいる間はずっと、彼を感じていたい。
彼の体温を、彼の匂いを、そして、彼の男を。
 控えめに背中に乗せられた手が、離れていく。
やがて呼吸も緩やかになり、亜柚子は、彼が今日の帰宅を諦めたと知った。
けれども、まだ足りない。
尽きせぬ貪欲な欲望を、亜柚子は彼の身体に押しつける。
「ねえ、今日は泊まっていったらどうかしら」
「え? でも……」
「大丈夫よ、明日は土曜日で授業もないから、先生方もすぐには出ていらっしゃらないわ」
 あえて曲解して亜柚子は答え、さらに考える時間を与えぬように、彼の頭をかき抱いて乳房に埋めた。
しばらくの間息遣いが伝わってこなかったのは、逡巡していたからだろうが、
やがて控えめながら乳房の柔らかさを確かめるように頭を振り、女を求めはじめた。
 九龍が身体をまさぐるに任せつつ、亜柚子は思う。
これでまた何時間か、確実に探索が遅れる。
悪意を持って、ではないにせよ、そうなると解っていて肉欲に誘うのだから、自分は罪深い女なのだと。
彼は気づくだろうか――學園の闇を払いたい、と言って探索に同行した女が、
いつしか闇に成り果てていたことを。
そして九龍が気づいたとき、闇をはねのけるか、逃げ出すか、それとも――闇を光に変えてくれるだろうか。
亜柚子にはわからなかった。
わかっていたのは、光は闇などなくても存在できるが、闇は、光がなければ生きてはいけないということだ。
光は闇を消し去り、闇は光を包みこむ。
 影になっている九龍の肉体に指を滑らせ、亜柚子は囁いた。
「ね……九龍さん。今度は九龍さんがして……」
 誘われるままに伸びる手を、望む場所へと導く。
そこに触れた九龍の指についた二人の体液が、ひどい臭いを放った。
そろそろ部屋に染みついてもおかしくないそれを、深く肺まで導き入れる。
自分が笑っているのに気がついた亜柚子は、そっと九龍に半月の形をしたままの唇を押しあてた。



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