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それからも、九龍が図書室に入り浸る日々は続いた。
九龍は牝を征服する悦びに酔いしれ、月魅も、少なくとも表面的には嫌がらなかった。
それを九龍は、月魅があまりの恥辱に神経の何本かが断線してしまっているためだと思っていたのだが、
そうではないと気づいたのは、地下遺跡の探索も半ばが終了した辺りのことだった。
「ようやくわかったよ」
月魅を立たせ、スカートを捲りあげて下腹を観察していた九龍は、得心したように言った。
細長い叢の奥にある、早くも潤い始めている泉に手を伸ばす。
すっかり馴染みとなった透明な粘液を掬い、指の間に橋をかけると、
西日を受けて艶やかにきらめいた。
「お前はこういうのが好きだったんだな。こういう風にされたいとずっと思っていた」
「ち、違います……!」
月魅は当然、激しく頭を振って否定する。
しかし九龍は態度を崩さず、手を月魅の内腿に戻して続けた。
「だったらどうしてあんな所に本を置いておいた?
鍵はお前が持っているとはいえ、見つかったら立場がなくなる。
なのにわざわざ寮じゃなくここであんな本を読んでいたってことは」
さほど難しい推理ではなかった。
いくら秘密を握られたとはいえ、ほとんど抵抗らしい抵抗もせず屈し、
さらには毎日の陵辱にも嫌がるそぶりも見せないのであれば、むしろ自然に導かれる結論だろう。
九龍が気づくのが遅れたのは、月魅自身に対してはさほど関心がなかったからに過ぎなかった。
しかし今は違う。
新たな蜜を指に乗せた九龍は、立ち上がり、目を合わせようとしない月魅の頬になすりつけた。
「好きなんだろ? 真面目じゃない自分をさらけだすのが」
「……」
「皆は真面目な図書委員としてのお前に接する。
でも本当はそうじゃない。お前はもっと奔放に生きてみたいと願っていた」
刺激に反応して蜜を吐きだした秘唇の、ごく浅いところを掻きまわしながら、九龍は月魅を見上げる。
大きな眼鏡の向こうにある、気の弱そうな目は、所在なげにさ迷っていた。
「私……は……」
「俺がこの學園に何をしに来たか、もう知ってるんだろう?
不自然だもんな、やたら日本神話に興味のある転校生だなんて。
なのにどうして俺の正体をバラさない? お前も遺跡に行ってみたいのか?」
九龍の指摘は正鵠を射ていた。
現状に不満があったのではない。
寮と教室と図書室を行き来するだけの生活も、
ほとんど訪れる者のない図書室でひとり本を読むのも、むしろ月魅の好むところだった。
ただひとつ、鍵を預かった書庫に官能小説を隠し、時折こっそり読むのだけはやめられなかったが、
人には誰でも秘密のひとつやふたつはあるものだし、誰に迷惑をかけるわけでもないのだから、
とそれほど深刻に悩んだりはしなかった。
それでもそうやってわざわざ見つかる危険を省みずに本を読むのは、
もしかしたら誰かに見つけて欲しかったという欲望があったのかもしれない、と思うこともあった。
月魅が読んだ本のなかには、そういった性癖を持つ女性も登場しており、
異常な行為だと嫌悪しながらも、そうなったとしたらどれほど気持ち良いのだろう、
という二律背反は、いつまでも消えずに月魅の中でくすぶっていた。
そこに奔放な、少なくとも月魅にはそう見える九龍が現れた。
九龍は月魅が待ち望んでいた以上の人物だった。
月魅の持つ知識を実体験によって上回る博学と、この學園にやって来た真の動機。
生ぬるい環境で育ってきた自分や他の生徒にはない野性味もさることながら、
明日香からおぼろげに聞いた『宝探し屋』という九龍の職業は何よりも強烈に月魅を惹きつけた。
せいぜいが書庫に淫らな本を隠し、それを読んで人知れず自慰に耽るだけであった月魅にとって、
九龍はほとんど救世主のようにすら思われたのだ。
しかし、九龍はきっと、自分のような地味な人間には目もくれないだろう。
そんな彼の関心を惹くには、ひとつしか方法がない。
そう考えた月魅は、彼に書庫の存在を教えた。
彼の探索に有益な、月魅がずっと本を隠し、快楽に耽溺してきた場所を。
それからの展開は、ほぼ月魅が予想した通りだった。
ただひとつ異なったのは、九龍が遺跡に連れていってくれなかったことだ。
知識だけで運動能力のない自分では、足手まといになるだけかもしれない。
しかし月魅には、もう欲求を抑えきれなかった。
「私、あなたの為ならなんでもします。だからお願いです、
私にもっと、あなたの知っている世界を教えてください」
決然と告げた月魅を見た九龍の目は、ぞくりとするほど冷たかった。
一瞬、選択を誤ったかという後悔が月魅の脳裏をよぎる。
しかし九龍は、彼女の望まない答えを返しはしなかった。
「いいぜ……連れてってやるよ。その代わり戻れなくなっても知らねぇぞ」
九龍の言葉には深い意味が隠されていたと、この時の月魅は知る由もなかった。
ただ九龍が自分の願望を叶えてくれたことを喜び、その交換条件として彼の欲望を満たす。
そんな風に考えていただけだった。
それが全くの思い違いであったことは、早くもその日から明らかになったのだった。
その日から、九龍の生活に新たな要素が加わった。
図書室に入り浸ってただれたセックスをするのも、放課後に遺跡を探索するのも変わりない。
ただ、探索がひとりではなくなったのだ。
「碑文か……読めるか?」
近寄った月魅は眼鏡をかけなおし、神代文字に目を走らせる。
九龍も対訳表は持っているが、月魅はそれを暗記しており、彼女の方が素早く解読できるのだ。
素人にしては驚くべき頭脳であり、良き仲間(となるのは間違いなかった。
何よりも彼女には情熱がある。
もしかしたら、九龍をも上回るかもしれない情熱が。
「終わりました」
「よし……良く読めたな。してもいいぞ」
月魅の訳を端末に記録した九龍は、期待に目を輝かせる月魅に許可を出す。
頭を撫でられ、喜悦を全身に滲ませた月魅は、
衣服を脱ぎ捨てて解読した碑文に近寄ると、その身を押しつけた。
足を開き、蛙のような格好で碑文にしがみつく。
やがて開かれた足の間から、九龍に許された飛沫が放たれはじめた。
碑文についた濡筋は醜く広がり、水溜りを作る。
足下から立ち上る湯気が頭上にまで達した頃、月魅は恍惚の吐息をついた。
「これで幾つめだ?」
「は、はち……八つ目です……」
放尿を終えた股間を碑文に擦りつける月魅は、自らが生み出した熱気と臭気に酔いしれていた。
これひとつで世界中の学会を揺るがすのは間違いない碑文に小便をかける。
その途方もなく学問を踏みにじる行為は、月魅に与えられた最高の褒美だった。
この遺跡が発掘され、学者達がこぞってこの碑文に群がったら。
小便が浴びせられたせいで碑文が解読できなくなっていたとしたら。
人類史を根底から覆す発見が、たったひとりのただれきった快楽によって闇に閉ざされるのだ。
最初に九龍に碑文の前で命じられた時、話を聞いただけで月魅は果てた。
なんという恐ろしいことを考えつくのだろう、なんという悪魔じみた人なのだろうと、
ぶるりと震えた。
そしてそれだけでも恥辱的な行為を更に、立ったまま、碑文にしがみついてしろと命じられ、
それを実行に移した時のエクスタシーは、月魅に悟らせた。
もう一生、この人から離れることはできない。
自分以上に自分を知り、それを受けいれてくれるこの人以外に、自分を托せる人など一生現れない。
貴重な超古代の遺跡に排泄しながら、
月魅は九龍に初めて会った時からの予感が正しく報われたことを知った。
どろどろに汚れた股間を九龍の手がまさぐる。
小便と愛液にまみれた股間にためらうこともなく触れる手は、恍惚にわなないている花唇を開く。
伝う蜜を恥じらいもせず、月魅は石碑に頬を擦りつけて九龍を待った。
「あッ……んんっッ……」
塊が身体を引き裂く。
腹に感じる熱と、頬から伝わる冷たさが月魅を酔わせ、快楽に溺れさせていった。
しかし、押し入ってきた快楽そのものは、月魅を余韻に浸らせることなく戻っていく。
それに月魅がただれた抗議を行おうとした瞬間、一気に熱がほとばしった。
「っ……!!」
意識が途切れるほどの快感。
意識と肉体の双方から感じる、深く、高いエクスタシーに月魅は浚われ、押し上げられていった。
休む間もなく九龍に乱暴に振り向かされ、両足を抱えられて再び貫かれる。
背にした碑文に強く押し当てられ、冷たさが背中に弾けた。
「ああっ……!! 九龍、さんっ……!!」
「世界中の遺跡に小便をさせてやるよ。それがお前の望みなんだろう?」
「は、はいっ……私、九龍さんと一緒に……っっ」
何度も突きこまれながら、月魅は答える。
快感は引ききらない波となって身体中に押しよせ、小刻みな絶頂が続けざまに来ていた。
乱暴に突かれ、背中を何度も碑文に打ちつけながら、月魅は霞む意識で思った。
彼の言葉は本当だった。
もう戻れない。
知識を尽くして古代の遺跡を探索し、そこに淫らな証を残していくという快楽は、
魂に烙印となって刻みこまれてしまった。
普通に卒業して普通に大学に進むという漠然とした希望など、粉々に砕け散った。
彼と一緒に世界中の遺跡を旅する。
そして先人達の偉大な歴史の跡地で、こうして卑猥に交わるのだ。
それは一生を賭すべき、月魅の新たな目標だった。
「ああっ……! 私……もうだめ、イキます……っ!!」
熱い白濁が膣を満たす悦びに打ち震え、月魅は達した。
満たされた悦びは途絶えることなく、遺跡に幾重にも響き渡り、やがて最下層へと消えていく。
──いつか二人が交わるべき、約束の地へと。
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