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 熱っぽい裸身をしっかりと抱きとめて、唇を吸いあげる。
これ以上はないくらい時間をかけてキスをした九龍だったが、
顔を離してみれば、幽花はまだ明日香の尻の谷間に顔を潜らせていた。
明日香に取りつく黒く、無造作に流された黒髪に、九龍は思わずある種の環形動物を想像してしまう。
仮にも想い人に対してのあるまじき想像を、慌てて頭を振って追いだした九龍だったが、
幽花はそれほど、偏執狂的ともいえるほど明日香のアナルを責めたてていた。
性的な知識すら乏しいはずの彼女がなぜそこだけに執着するのかは疑問だが、
訊いて答えが得られるとも思えない。
 とにかく、幽花が一向にやめる気配がないので、九龍は彼女の肩を叩き、
一度愛撫を止めさせることにした。
 忘我の悦楽に浸っていたのだろう、顔を上げた幽花は中断された怒りめいたものを頬に紅く浮きあがらせている。
「は、ひっ……」
 しかし、しがみつく明日香は息もたえだえで、それに気づいた幽花はたちまち紅を濃くし、
自分がやり過ぎてしまったことを恥じる表情になった。
 ところが幽花が明日香に謝ろうとすると、九龍に制止された。
訝かる幽花に答えないまま、九龍は、肌身離さず持ち歩いているH.A.N.Tを取りだし、何事か操作しはじめる。
手慣れたようすで端末を操り、勢いよく最後のキーを叩いた。
「なに……してるの……?」
 訊ねたのは明日香で、まだ快感が抜けきっていないらしく、気だるげに顔を上げる。
「ちょっと役立つ小道具を注文してんだよ」
「注文……って、なにも今頼む必要は」
 場の雰囲気を読まない九龍に明日香は鼻白んだものの、
部屋の扉の向こうでなにやら音がしたのは、抗議を言い終えるよりも早かった。
「亀急便でーす」
「そこに置いといてくれ」
 ドアの向こうから返事はなかったが、意に介せず九龍は立ちあがり、荷物を取りにいった。
「え、今頼んだばっかりなのに、なんで……?」
 早い、どころではない、一体どこからどうやって来たのか謎すぎる配達に
目を白黒させている明日香を尻目に、包みを開けた九龍は頼んだものを取りだした。
「ほら、幽花」
 三十秒ほど前に注文したものを、無造作に幽花に放る。
 反射的に手を出した幽花の手に収まったのは、男性器を模した張型だった。
九龍のものよりはかなり細い。
それは九龍が変なプライドを持っていたからではなく、使う場所が異なるからだった。
 受け取った幽花も、それを覗きこんだ明日香も、それが何であるかわからないようだ。
しげしげと覗きこむ二人に、九龍は薄気味悪いほどの丁寧さで説明してやった。
「それを着ければ、幽花も俺と同じようにできるだろ?」
「え、でも……?」
 そこで言いよどんでしまった幽花の、後を九龍は適切に継ぐ。
「だから、今お前が舐めてたところに」
 軽く息を呑んだのはこの道具を使う方で、使われる方は信じられないといったように声を荒げた。
「う、うそでしょ……? あたし、初めてなんだよ……?」
「誰でも最初は初めてだからな」
 少女の当然の不安を、九龍は怪しい日本語でけむに巻いてしまう。
そして、なお何か言おうとする明日香を、素早い動きで押し倒してしまった。
「ちょっ、待ってよ、待ってったら!」
「なんだよ、まだなんかあんのか」
「当たり前でしょッ!」
 女の子にとって人生で何番目にかは大切なことを、
ハンバーガーでも食べるように気軽にされてはたまらず、
明日香は九龍を押しのけ、本気で詰め寄った。
「いいか、良く聞け。俺とするのはいいんだよな?」
「う、うん」
 ところが、予想外なことに、九龍は冷静に語りはじめたので、明日香もつい耳を傾けてしまう。
「そうするとだ、一人余るよな?」
「け、けど、それはだって」
「不安なのはわかる。でもな、」
 そこで語句を切った九龍は、明日香の耳元に口を寄せて囁いた。
「のけものにすると幽花がおっかねぇんだよ」
「……」
 離れた九龍の顔は冗談を言っているようには見えず、明日香は途方に暮れる。
この虫も殺さぬような美少女が、同年代の男の子よりはずっと男らしい九龍を恐れさせるなど、
ありえるのだろうか。
明日香はもう一度九龍を見るが、『宝探し屋』は探索中でも見せたことがないような顔をしていた。
次に幽花の方を見ると、彼女もまたひどく思いつめた顔をしていた。
幽花に真意を訊こうにも、まさかあたしのお尻に興味があるの、とは訊けず、明日香は窮地に陥ってしまう。
そうして気がついてみれば、九龍と幽花はすっかりその気で準備を整え、
嫌だと言えない状況になってしまっていたのだった。
 九龍に言われ、とまどいつつペニスバンドを装着した幽花は、
股間に生えた人工の男性器を、しげしげと見つめていた。
次いで本物がある股間にも目をやったりして、九龍はサイズを慎重に選んで良かったと内心胸を撫でおろす。
「うわぁ……白岐さん、おちんちん生えちゃった……」
 そして明日香はといえば、最初の拒絶はどこへやら、
真っ白な身体に生えた黒々した棒を興味津々で触れたりしていた。
「や、八千穂さん……」
 人造物だからか、遠慮なくあちこち触ってくる明日香に、幽花は戸惑っている。
それもそのはず、明日香は股間に顔を近づけているわけで、
幽花にしてみればただごとではない事態なのだろう。
物静か、というよりも冷たい印象すら与える顔立ちを、
沸騰しているかのように上気させて明日香を見つめていた。
 「好きになる」と「こういうことをする」のが、まだ幽花の中で完全には結びついてはいない。
それでも九龍はしようとしているし、明日香もされようとしていて、
ならば自分もしてみたい、という気持ちにはなっていた。
実は全く普通ではない、好きであってもこういうことをするとは限らないことをしようとしているのだが、
雄しべと雌しべの関係程度しか知らない幽花にそこまでわかるはずもない。
ただ、九龍に言われて横たわる明日香と、その上に重なる九龍を見て、
身体の奥に今まで感じたことのない熱さを感じてはいたのだった。
「んっ……」
 九龍が入ってくる。
何かを身体の中に挿れる、というのは男の子と女の子がそういうことをするのだ、と知ってからも、
明日香はほとんど絵空事のように受けとめていた。
多感な時期には好きな男の子がいなかった、というのもあったし、
どこかで本当に信じてはいなかったのかもしれない。
けれども、生まれて初めて男の子に告白してからたった二日で、
明日香は全く想像もしていなかった形で初めてを経験したのだった。
それなりの緊張はあったけれど、思ったほどでもなかった。
なにしろ、九龍に顔を覗きこまれてから、そういえば最初って痛いんだっけ、と思う始末だったから。
「痛い……のか?」
 問いかける九龍の声は、いたわる気持ちがそれなりには含まれていた。
 いかに学校屈指の変人である黒塚至人と胸襟を開いて語り合えるほど遺跡を愛する九龍といえども、
初体験が痛みを伴うことくらいは知っている。
とはいってもなるべく痛くないよう処女を散らすやり方などは知るはずもなく、
おせじにも上手いとはいえない挿入をしたのだが、
明日香の顔はそれほど痛がっているようにも見えなかったのだ。
「う、うん……案外、痛くないかも」
「そりゃ良かった」
 どうせなら、痛いよりは気持ちいい方が、泣くよりは笑っている方がいい。
そんな程度の軽い気持ちで九龍は言ったのだが、
明日香は感極まったようで、いきなり涙を浮かべてしまった。
「ありがと……エヘヘッ、嬉しい……」
 ちょうど涙の通り道にあるほくろが輝いて視線を誘い、誘われた九龍は思いがけず息を呑む。
それはこれまで明日香に対しては全く、これっぽっちも抱いたことのない感情で、
ややパニックに陥ってしまった九龍は、これはあれか、不良が子猫を助けていると善人に見える効果なのか、と
この数ヶ月、日本の文化に触れまくって得た知識で無理やり納得しようとした。
「……どうしたの?」
「や、うん、あー、その……ってうわ」
 黄金ドーザー並の出力で心臓をぶち破ってきた率直な気持ち、
幽花にさえまだ口にしたことのない想いを言ってしまってよいのかどうか、
ためらっているうち九龍は、呪うがごとき陰鬱な眼差しを感じる。
明日香の頭上にあって明日香は気づかない、苛烈なまでに真っ直ぐな眼光に、
急転直下、今度は心臓がきりきりと痛みだしてきた。
「?」
 目尻にあるほくろに指を乗せ、涙を拭いながら、明日香は不思議そうな顔をする。
泣いている女の子を心配させてはならない、と男の本能で理解した九龍は、
ひとまずまるで黒髪の塊に見える少女のことは脇に置いて、明日香の方に意識を向けた。
「な、動いてみるぞ」
「……うん、でも優しくしてね」
 いつもと全然違う不安げな明日香に、また胸をひどく高鳴らせながら、九龍は腰を使いはじめた。
「あ、うっ……!」
 悲鳴と共に顔をしかめる明日香を、あえて見ないようにして、抽送を繰りかえす。
その動きは女性を気遣うような優しいものではなく、かろうじて合格点、といったレベルだったが、
明日香はけなげにもそれ以上の悲鳴をこらえ、九龍に身を任せていた。
「九ちゃん、九ちゃんっ……!」
 想い人でなかったとはいえ、眉根を寄せて喘ぐ美少女に名を呼ばれればぐっと来ないわけがなく、
九龍は乱れた明日香の髪をそっと撫でてやる。
すると明日香はますます感極まったように眼を細め、
九龍にやたらとしがみついて親愛の情を露わにするのだった。
 そんな明日香にきわどいながらもまずは愛情優勢で情交を結ぼうとする九龍だったが、
そうするには、白岐幽花の存在は、あまりにも近くにありすぎた――物理的な意味で。
 下半身の肉欲と、上半身の情愛に浸かっていた九龍は、ふと顔を上げる。
そこにはまばたきすらせず九龍を凝視している幽花がいて、
驚きのあまり九龍は思わず抽送を止めてしまったほどだった。
幽花の黒瞳は憎しみでこそないものの、強い意思がブラックダリアのように彩らせていて、
文字通りに息を呑む美しさで、その美しさが自分の方を向いてはいないことを残念に思いつつも、
彼女の願いを叶えてやりたいと思ってしまう。
もちろん、今ひとつになっている明日香をおろそかにするつもりはない。
天秤はほとんど等しくても、完全に同じ重さではないわけで、
それは明日香も、そして幽花も同じなのだろうから。
 明日香の頭上で羨望と嫉妬とその他いろいろな情念のこもったまなざしを射こむ漆黒の瞳に少し待て、
と目くばせしてから、九龍は破瓜の痛みも醒めやらぬ様子の明日香に対して腰を使いはじめた。
「あっ、あ……ッ」
 動けばさすがに少しは痛いのか、明日香はのどを詰まらせたような嗚咽をもらす。
心配げに覗きこむ幽花に気づかないふりをして、九龍は幾度か抽送をおこなった。
「あぁ……九、ちゃん……っ」
 うめき声と共に背中に回された手は、異形の化け物と平気で大立ち回りを演じたとは思えないほど弱々しい。
加えて切なげに眉を寄せる表情の合間に覗く、いかにも幸福そうな上気した顔を見れば、
どんな男でも高まる情動はあるというもので、身体を倒した九龍は明日香を気づかうようにくちづけた。
「んっ……あふ……」
 唇を触れさせると、明日香は赤ん坊のように吸いついてくる。
無心で繰りかえされるくちづけは、下手に技巧を凝らしたものよりよほど情感に訴えかけてきて、
九龍の背筋を大きな快感の波がうねっていった。
 これまで九龍は男女の快楽など『秘宝』を見つけ出した時のエクスタシーに較べれば塵芥のようだと
高をくくっていたが、いざ実際に経験してみると、おさおさ劣らぬ快感だと認めざるをえない。
それどころか、あくまでも精神的な恍惚に終始する秘宝の悦びに較べて、
精神的かつ肉体的にももたらされる快感は、様々な古代の遺物のモチーフに男女の交合が用いられていることを、
今更九龍に納得させるほど快いものだった。
 柔らかな唇、背中を掴む汗ばんだ手、そして男性器を包む熱い壺と、
全身で女を感じていた九龍は、浮かされたように顔を上げる。
するとそこには、哀しく、そして恨めしげに細めた瞳でじっとこちらを凝視している幽花と思いきり目があった。
「……」
 幽花をないがしろにするつもりなどなくても、一時的に忘れていたのは確かだ。
まして失念の原因が、幽花が想いを寄せる少女を抱いていたからなのだから始末が悪い。
昂ぶっていた熱も一気に冷めた九龍は、幽花の機嫌を取るため、
予定を前倒しして明日香の身体を起こし、両の尻に手を置いた。
「ね、ほんとにするの……?」
 明日香の不安はもっともで、たった今処女を失ったばかりだというのに、今度は後ろでしようというのだ。
らしからぬ怯えを浮かべる明日香に九龍は同情したが、
ここでやめてしまってはたぶん自分以上に幽花の収まりがつかないだろう。
今度はこっちをどうなだめるか、と危惧した九龍だったが、
明日香は強くしがみついてきただけで何も言わなかった。
どうやら覚悟を決めてくれたらしい明日香に感謝しつつ、九龍は幽花を促す。
待ち構えていた幽花は九龍が注文したペニスバンドを着け、明日香の背後ににじり寄ってきた。
過度の興奮に支配されているのか、幽花は全身で大きく息をしている。
怨霊めいた趣さえ漂わせる幽花に、九龍はその情念が向けられている少女に同情したが、
ここで止めたら呪われてしまうかもしれない。
古来から人身御供は女と決まっているのだから、と怪しい知識を盾にして、
狙いをつけやすいよう、尻たぶを大きく押し割って小さなすぼまりを差しだした。
「八千穂……さん……」
 うわごとのように呟いた幽花が狙いを定める。
膣穴に較べればずっと小さな孔だったが、ほとんど迷いもなく切っ先をあてがい、
偽りの男根の先端を沈めた。
「ひっ……!」
 尻に押し入ってきた異物に、明日香は石像と化したかのように固まる。
異物感は九龍の時以上で、腹全体がその異物感にたちまち支配されてしまっていた。
幽花は興奮して気づいていないのか、構わず張型を押しこんでくる。
息を呑み、少しでも圧迫感をやわらげようとした明日香だが、それよりも幽花が想いを遂げるほうが早かった。
「あっ、う……」
 明日香の腰を掴んだ幽花は、一気にまだ入っていなかった残りも挿入した。
貫くような勢いで、明日香のアナルに細いとはいえ硬さのある棒が入っていった。
「――!!」
 瞬間、健康的な肢体が大きく跳ね、固まる。
九龍が強く支えていたから倒れはしなかったものの、
九龍の肩に置かれていた手からは、痛みを感じるほど強い力が伝わってきた。
同時に膣肉がぐっと締まり、九龍は歯を食いしばって快楽に耐えた。
「はぅっ、はっ、く、るし……お腹、いっぱい……」
 後ろは細いとはいえ、二穴に同時挿入されて明日香は息も絶え絶えだ。
昨日まで何も知らなかった腹を、いきなり前後から異物で満たされては当然に違いない。
眉間に深いしわをよせ、苦しそうに短い呼気を何度も繰りかえしていた。
 今動くのはさすがにむごいと思った九龍は、明日香を挟んで向こうにいる幽花に話しかける。
「幽花、どんな気分だ? 明日香と繋がったのは」
「つ、繋がった、だなんて、言わないでよ、九ちゃ、ん……っ」
「あ、あの……」
 よほど興奮しているのか、幽花は、どちらに対して話しかければ良いか迷っているようだ。
九龍は先手を取り、幽花の顔を覗きこんだ。
耽美的という言葉の似合う儚げな顔立ちは、頬をわずかにゼラニウムの朱に染めて、
所在なげに瞳を揺らしていた。
「嬉しい……わ。とても……嬉しい。こんな想いが叶うなんて、思っていなかったから」
 それはそうだろうと内心で苦笑しつつ、九龍は幽花の手を握る。
細く、簡単に折れてしまいそうな白い指には、驚くほどの力がこもっていた。
うなずいた九龍は、まだ苦悶が醒めていない明日香をあえて無視して言った。
「動いてみろよ、動き方は俺の見てただろ?」
「……」
 露骨に言われ、幽花は長い睫毛を伏せた。。
そんな表情でさえも――否、戸惑い、迷うそんな表情こそが幽花を引きたたせる。
可愛いのは笑顔でも、彼女らしいのは憂いを帯びた顔だ。
引き結ばれた唇にくちづけたいと思った九龍だったが、それには体勢に無理があり、少しだけ届かなかった。
 幽花はしばらく迷っていたが、やがてそろそろと動きはじめる。
腹の奥深くまで入っている人工の男性器は、すでに限界にまで明日香を追いつめているようで、
幽花が少し動いただけでびくりと身体が震えた。
「あうぅっ……! し、らき……さん……っ」
 明日香は絞りだすように窮状を訴える。
破瓜の痛みさえ忘れさせてしまうほど、尻孔に埋められた異物の衝撃はすさまじかった。
額に浮かぶ脂汗をぬぐうことさえできず、息を止めてこらえるのが精一杯だ。
もうこれ以上、どんな小さな刺激でも耐えられない。
頭の中ができたての豚汁みたいにぐつぐつ音を立てていて、それがいっぺんにひっくり返ってしまいそうなのだ。
だから吐く息も少しずつ、「息をしている」と意識しないぎりぎりの量だけを吐きだしていた。
もう少し、あと少しだけお腹から息をだせば、楽になれる。
明日香は勝手に呼気が漏れてしまわないよう上を向いて、必死に頑張った。
 幽花も息を呑んでいた。
それはもちろん明日香とは異なる理由で、初めての性行為と、豹変した友人の姿に呼吸を忘れていたのだ。
いつも明るく、たまりかねた九龍が黙ってろと一喝してさえ数分後にはまた喋りだす、ガーベラのような陽気な少女。
極力他人との交流を避けてきた幽花にもお構いなしに話しかけ、ついにはその蕾を開かせた太陽。
幽花にないものを全て持っている、幽花がいつからか憧れていた明日香が、
健康的な、いかにも女の子らしい身体を石像のように硬直させている。
肌には汗を滲ませ、唇からは苦しげな吐息を絶えることなくこぼしている。
端から見れば苦しんでいるとしか見えない姿だが、これが性的な快感を得ているのだ、
と幽花は初めて知ったのだ。
「八千穂、さん……!」
 小さく、咲き始めの花のようにひそやかに、幽花は想い人の名を呼ぶ。
それは幽花に養分を与え、接ぎ木でしかないものの生命を感じさせた。
「あぅ、動かない、で……ひゃうっ、駄目だってばぁっ……お尻……変な……やぁんっ……!」
 明日香が身体を揺らすたび、確かに何かが伝わってくる。
明日香の体内に収まっている、ただの無機質の塊から、
身体中が痺れるような気持ちよさが流れこんでくる。
生まれて初めて味わうその気持ちよさを、もっとたくさん感じてみたくて、
明日香の身体から伝わる蜜を搾るように、幽花は自分からも動いた。
「んぅっ……! や、だ……こんな、お腹、一杯で……あたし、やぁっ、はっ、あぁん……!」
 明日香の頭の中は、お湯を入れた風船みたいになっていた。
ぐつぐつと煮えたぎった快感が前やら後ろやらに振られて、頭全体に熱さを残していく。
しかも熱さは、内側から破裂しそうなくらい際限なく入ってくるのだ。
「やだぁ、九ちゃん助けて……!」
 後ろから幽花に突かれて、明日香は前に助けを求める。
しかしその九龍も助けるふりをして腰に手を添えたかと思うと、
まだ開いたばかりの隘路に熱い棒を押しこんできて、明日香の退路を塞いでしまうのだった。
「ひっ、ぐ……! あぅ、だめ、力……はいん、ない……!」
 腹の中から生じる灼熱の感覚に力を奪われて、明日香は手近にあった九龍にしがみつく。
たくましい身体はしがみつく助けにはなったけれど、もうそれではあふれる快感はとどめきれなくて、
全身から湯気のように噴きださせながら、体内を荒れ狂う気持ちよさに流されるしかなかった。
「あっ、うん……! あ、あっ、んんぅっ……!」
 掻きまわされる――めちゃくちゃに。
九龍と幽花に挟まれ、抽送を繰りかえされる明日香は、もうほとんど意識がなかった。
頭の中でブザーのように快感が点滅し、その合間にようやく息をする。
少しずつ気持ちよさより苦しさが募ってきて、でもどうすることもできないでいると、
急に、腹の下あたりから強く大きな波を、意識は朦朧としているのにはっきりと感じた。
「あ、あっ、はぁぁっ……! あっ……ん、あぁ……!」
 吐きだそうと叫んでも、それはすぐにまた押しよせてきて、明日香はたちまち溺れてしまう。
頭のてっぺんまで浸かっちゃう、と思った瞬間、明日香の中で何かが消失した。
「あ……っ、あ――っっ……!!」
 自分の身体が自分のものでなくなったような、手足も、声も勝手に弾けていく。
沈み、浮き、その両方がいっぺんに来たような不思議な感覚が、
最後にお腹の中から熱い塊となって吐きだされて――
明日香の初めては、終わりを告げた。
 明日香の絶頂に少し遅れて、九龍も射精を迎える。
もともと初めてで狭いところに、後ろからも貫かれて、肉路はぎちぎちに締まっている。
そこに絶頂が加われば、ちぎれるのではないかと九龍が戦慄を覚えたほどの強烈な締まりがもたらされて、
あえなく限界に達したのだった。
 初めて秘宝を見つけた時に背筋を駆けた時にも似る、身震いするような快さ。
その時と異なるのは、背筋だけではなく、下半身にも快感が凝集されているところだ。
ふわりと漂ってくる明日香の体熱を肌に感じたとき、
性器に溜まっていたものが一気に、間欠泉のように噴きだした。
「……っ!!」
 肉路の中で射精する快美感にのけぞりつつ、九龍は、しなだれかかる明日香を受けとめ、
訪れる虚脱に身を委ねたのだった。

「ううう……なんか腰の感覚が全然ないよ。九ちゃん部屋まで連れてってよね」
 それくらいはたやすい、と返事をしかけて、九龍はやめた。
それよりも名案を思いついたのだ。
「泊まってきゃいいんじゃねぇか? 冬休みだから見回りも大丈夫だろ、たぶん」
 思案に暮れる表情を明日香はしたが、一瞬だけのことで、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「その手があったね。エヘヘッ、白岐さん、いいよね?」
 明日香の提案に対して、幽花に否などあるはずもなく、答えずに頷いただけなのは、
あまりの展開に驚きすぎただけにすぎない。
「決まりだね。んじゃあたし真ん中ね。九ちゃんがこっちで、白岐さんがこっち」
 左右を指さして明日香はさっさと布団に入ってしまう。
残された九龍と幽花はしばし見つめあったが、同時に噴きだすと、
明日香に言われたとおり、布団の両側からいそいそと潜りこんだのだ。
夜はまだ長い――冬休みは、もっと。
けれども三人で居る時間は、どれだけあっても足りそうにはなかった。



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