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九龍もすぐにプールに入ってきて、咲重の肩に腕を回す。
「ふぁっ……ンっ……」
 九龍のほうから仕掛けてきたキスに、咲重は呼吸を忘れて応じた。
触れあう舌ももどかしく、口腔をまさぐりあう。
九龍も興奮しているのか、背を抱く腕の力は少し強すぎたが、咲重は痛いとは思わなかった。
むしろもっと強く、感触を刻みつけて欲しいと身体をよせた。
「ん……っ、あぁ……」
 きつく唇を吸われ、上手いとはいえないながらも情熱的なキスをされる。
咲重は乱暴に口内を掻きまわす舌に応じ、より深く絡ませ、ふたつの塊を熱く融かしていった。
「……っ……ん……」
 あまりに心地よい融和は、それが終わった時咲重にらしくない吐息をつかせた。
ひとかけらの余裕もない、呆けきった心。
水の中でなければ立っていることさえ難しいくらい全身から力が抜けていて、
九龍にもたれかかるのがやっとだった。
 男のたくましい肉体はよろけもせず支えてくれる。
たったそれだけで悦びが、微弱な電流となって満ちた。
「愛してるわ」
 言葉が思考によらず口を衝く。
「あたしは……あなたのもの。だから、あなたの好きにして」
 叶えられない願いは、今この時だけ口にすることができた。
九龍もきっと忘れてしまう、欲望の狭間でならば。
 九龍からの返事はなかった。
予想は充分にしていたとはいえ、極小の痛みを消すことはできず、咲重は後ろを向いた。
何も言っていなかったように装い、プールサイドに手をつく。
肩幅に足を開くと、待ちきれないように九龍が入ってきた。
「あぁッ……」
 体内に押しいってくる塊に押しだされるように、咲重は息を吐く。
しかし、息を吐ききる前に異物は遠ざかり、すぐに、今度はより早くはらを割った。
「んぁあ……ッ!」
 気の遠くなるような恍惚。
満たされる悦びに、咲重は胸に劣らず豊かな尻を震わせ、牡をねだった。
「お願い……突いて、もっと強く」
 頼みに九龍はすぐに応えてくれた。
猛る柱が一息に最奥まで入ってくる。
脳まで貫かれたかのような痺れに、咲重が声も出せないでいると、
九龍は続けざまに強く、深く自身を挿入してきた。
「あッ……はァッ……!」
 痛みにも似た快楽が咲重の中で広がる。
体内を掻きまわす熱い歓喜を、咲重はもっと感じようと尻を押しつけ、九龍の動きに合わせて腰をくねらせた。
 硬い杭はやみくもに下腹を貫く。
九龍の動きと咲重自身の動きが、時に重なり、時に不協和音となり、咲重の膣を抉り、擦りあげた。
「い、い……いいわ……っ」
 体内を焼きつくされる感覚。
塊は腹の中を掻きまわし、咲重にいくつもの跡を刻みつけて去る。
そして残された快感に咲重が浸る間もなく、新しい跡を刻もうと再び押しいってくるのだ。
押しよせる波にあらがわず、咲重は全身をわななかせた。
男の性器を感じようと下腹に意識を集め、それが快感に邪魔されて散っていく感覚をも愉しんだ。
 乳房を掴む手のひらが熱く、背中には覆いかぶさる体温を感じる。
温かく、そして熱い九龍に、咲重は酔いしれ、自分から腰を押しつけて求めた。
「んッ……、あぁ……あっ、んあぅっ」
 身体の深いところに九龍を感じる。
まとわりつく水を押しのけて入ってくる猛りは、えもいわれぬ陶酔を咲重にもたらした。
それに応えて背後から入ってくる九龍を奥深くで歓待し、快感を分かちあう。
乳房を掴む手の力が強くなるのが、咲重にはうれしかった。
「あッ……あぁ……ン……ッ」
 皮膚に染みる男の匂いに、腰のくねりが自然と大きくなる。
身体の半分を愛撫するぬるい水と、残りの半分を包む人肌のぬくもり。
二つの温かさが、咲重を深い恍惚へと導いていった。
 抽送は何度も繰りかえされる。
背後から貫かれる快感に充分に酔いしれていた咲重は、
動きを止めた九龍が、少し乱暴に向きを変えさせても素直に応じた。
「早く……頂戴……」
 九龍に片足を預け、首に腕を回した咲重は、再び入ってきた屹立に甘い啜りを漏らした。
「あっ……は……ッ」
 身体のもっとも奥深いところを犯された悦びが、爪先にまで浸透していく。
それが消える前に新たな波紋が九龍によって呼びおこされ、増幅されて咲重の肉体を満たしていった。
「んッ、あぁッ、あぁァ……ッ」
 ともすれば倒れそうになる不安定な姿勢で、九龍にしがみつく。
首に腕をかけ、密着の度合いを高めると、抽送によって人工的に作られた波が腹を撫でた。
生あたたかな水はなぜかひどく快感をもたらし、咲重を昂ぶらせる。
自分から動かせない腰がもどかしく、もっと深くを貫いて欲しいと咲重は腕に力をこめた。
「うッ、ンッ……」
 突かれながら、くちづけをかわす。
うまく重ならない唇が情欲を加速させ、鼻息も荒く舌をもつれさせた。
「はッ、んッ、ふっ、んふッ」
 キスに夢中のあまり、バランスが崩れる。
倒れるほどではないものの、膣内に埋まった屹立が深奥を抉るには充分だった。
「……ッ、あ……!!」
 頭の中が白み、快感が全身から噴きでる。
九龍への想いさえ一瞬忘れそうになり、慌ててしがみついた。
火照った肉体に九龍を思いだし、いささかの恥ずかしさと共に口づける。
しかし、予期せぬ一撃は咲重と、そして九龍も一気に限界へと追いつめていた。
「……っ……!!」
 屹立が膨れ、そして爆ぜる。
女の一番深い部分を叩く飛沫に、咲重は浚われた。
「あぁッ……!!」
 身体がばらばらになってしまいそうな、快感。
腹に満ちるものに衝きうごかされるように、咲重は九龍にしがみついた。
「あ、あ……ぁ……っ!」
 腹の中で二度、三度と九龍が爆ぜる。
そのすべてを咲重は受けいれ、受けとめた。
「あぁ……」
 九龍が体内で溶けていく感覚に酔いつつ、咲重はより深く彼の背中に腕を回した。
 激しい情事が嘘のように、水面は静けさを取り戻していた。
咲重はまだ水から上がらず、九龍を抱きしめ、プールを漂っていた。
水の中で抱きあうのは、陸の上でそうするよりも一体感があって好きだった。
どちらのものかもわからなくなる体温が、肉体を水に溶かしていくような感覚にさせるのだ。
かなうなら、一晩中でもこうしていたい。
けれどもそれは、許されない望みだった。
九龍は明日の朝には発たねばならない。
世界を救い、この学園に囚われた多くの人を救った英雄は、
功績を誇ることなく、その余韻に浸ることさえなく、新たな『秘宝』を求めて旅立つのだ。
 これが最後、と強く身体を押し当てた咲重は、自分から先に上がろうと九龍に背を向けた。
こうすれば、気づかれずに済む。
涙は、より大きな水の中に溶けるだろうから。
 しかし、重さを増した水を半歩かきわけたところで、強い力にそれを阻まれてしまった。
振りむいてはいけないという理性は、振りむきたいという想いに敵わなかった。
本当に、これで最後にするつもりで、咲重は腕を掴む男の方を向いた。
「卒業式には、戻ってくるよ」
 薄暗がりからでもはっきりとわかる強い眼差しと、
控えめに水面を揺らしたその言葉を、咲重は額面どおりには受け取らなかった。
そんなつもりで身体を重ねたわけではないのだ。
重荷にはなりたくない――
先んじて頭を振ろうとした咲重は、さらに先んじて九龍に制された。
「そうじゃなくて」
「え?」
「俺、子供の頃から世界中連れまわされてたから、卒業式ってひとつも出たことないんだよ。
だから一回くらい出てみたいんだ。天香ここの仕事がなけりゃ、そんな風に思わなかっただろうけど」
 予想外の台詞に、咲重はとっさに何も言えなかった。
いくつか言葉を紡ごうとして、唇を震わせるのがやっとだ。
ようやく身体の外に出せた意味のある言葉は、自分のものとは思えないほどうわずっていたが、もう咲重には関係なかった。
「信じて……いいの?」
「ああ。次がどんな場所なのか知らないけど、ここよりは簡単だろうし、それに」
「それに?」
「教えてくれるんだろ、水泳? 一週間あれば泳げるようになるかな」
 隠そうとしていた涙を拭いもせず、咲重は笑った。
水のむこうでは九龍がやはり笑っている。
数歩にも満たない短い距離を、咲重は九龍のようにたどたどしく歩いた。
差し伸べられた腕の中に飛びこみ、失われかけていた温もりを取りもどす。
「どうかしら、足りないような気もするけれど」
「……それじゃ、なるべく早く」
「ええ」
 強がっていられるのは、そこまでだった。
全身の力でしがみついて、咲重はもうほとんど言うことをきかなくなっている口を、無理に動かした。
「一秒しか時間がなくてもいいから、お願い。あたしに逢いに来て」
 あとは言葉にならなかった。
濡れた手で髪を撫でてくれる九龍に甘え、咲重は思いきり泣いた。
 水に溶けた涙は、無色の約束となる。
咲重と九龍の間から生じた淡い波紋の形をした約束は、月の灯りに照らされて、プール全体へと静かに満ちていった。



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