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 抱擁を解いた咲重は、九龍の手を取ってプールサイドに立った。
水面に揺れる影を少しの間見つめ、静かに水に入る。
あえて九龍を待たず、咲重は漂うようにしてプールの中央へと進んだ。
 白い月光が水面を切りとり、即興のステージを作っている。
そこで咲重は振りむき、九龍に手を差し伸べた。
 咲重のようにうまくはいかず、水音を立てて九龍は中央にたどりつく。
泳ぐと歩くの中間で、水面をかきわけてきた九龍を咲重は遠慮なく笑った。
「泳ぐのは得意じゃないんだよ」
 憮然とする九龍にまた笑い、腕を取る。
頼るようにしっかりと掴んでくる強さが快かった。
「今度、あたしが教えてあげるわ。貴方ならすぐに泳げるようになるわよ」
 それくらいの約束は求めても良いはずだった。
果たされない約束は、破られることもない。
そして女は、約束を信じて生きていけるのだ。
「そうだな……つり橋が崩れた時に困るもんな」
「経験があるの?」
「何度か、な」
 九龍の見せた白い歯がきらめく。
笑って応じた咲重は、少し濡れた、癖のある髪に手を伸ばした。
前髪を横に分けるように指をそよがせると、九龍はくすぐったそうに肩をすくめる。
子犬に似た仕種に咲重はまた小さく笑った。
 笑われたのが面白くなかったのか、あるいは指先のくすぐったさから逃れようとしたのか、
九龍はやや強引に咲重を抱きよせる。
ところが力が強すぎたらしく、九龍は自分で招いた咲重を支えきれず、咲重を抱いたまま後ろにたたらを踏んでしまった。
 九龍を支えようとした咲重は、逆に床を蹴って九龍と共に水中を軽く跳び、
そのまま二度、三度とステップを踏んだ。
「ふふッ……まだ泳げなかったころ、こうして遊んだの」
「……俺は、昔から水が嫌いだったんだ」
「それじゃ、好きになるおまじないをしてあげる」
 笑って咲重はキスをした。
息を止め、それに合わせて九龍が息を止めてから、あらためて唇を重ねる。
二人の周りではやしたてていた水が静かになって、さらに何十秒か過ぎてから、顔を離した。
「どう? 好きになった?」
「まだ、あんまり」
 小声で、どこか演技っぽい返答に、咲重は唇に淡い三日月を描かせたままもう一度くちづけた。
顔を離しても今度は返事を待たず、続けて唇を重ねる。
 淡い吐息が水面に消え、水面の下で絡みあう身体はより深く重なりあい、
引き寄せる力と押し流そうとする力、そのどちらにも抗わず、二人はただ唇の求めるがままに水に戯れた。
「ん……はぁ……ん」
 甘い香りをまとった声がプールに満ちる。
青白い月明かりが照らす咲重の肌は、うっすらと朱に色づいていた。
満開の薔薇のように鮮やかな色をした髪は不思議に濡れておらず、
明度を落とした室内のなかで鮮やかに咲き誇っていた。
 海月くらげのようにただようなか、腰に回されていた九龍の手が臆病に乳房に触れる。
あまりにもぎこちない、どう頑張っても落第はまぬがれないような下手な触れ方だったが、咲重は押しとどめなかった。
九龍が求めるのは嬉しかったし、いまさら初心うぶな女を演じて、貴重な時間を浪費するのはばかげていた。
だから、咲重は九龍が触りやすいように自分から身体をずらして、遺跡探索という力仕事に携わっていながら、
少しもごつごつしていない手が左の乳房を掴み、大きさをもてあますように捏ねるがままにさせた。
 そのかわりに、咲重はキスをもらった。
左の胸を好きにさせるかわりに、咲重の好みよりもほんのわずかトーンの低い声を発する口を、
咲重は自由にすることにした。
「ン……っ……んんッ」
 薄く開きはしたものの、そこで止まってしまった唇を舌でなぞり、時間をかけて口を開かせていく。
こうしたことに疎い九龍は、咲重が少し舌を絡ませただけで、とまどったように動きが止まってしまっていた。
乳房への愛撫も中断してしまったことに、少しものたりなさを感じつつ、咲重は男の口腔を蹂躙していった。
艶かしく舌をあやつり、されるがままの九龍に快楽をうえつけていく。
「はッ……はぁッ……んッ」
 ぎこちなく応じる九龍の舌を誘い、伸びたところを唇で食む。
ことキスに関する限り、咲重は完全に主導権を握り、渡す気もなかった。
快楽に呆けた男の顔を見るのは愉しいし、それで男が積極的になるのならなお良い。
九龍は残念ながらキスで焚きつけられるタイプではないようだったが、
彼の瞳から、一時的にでも力強さが失われるのは背筋がぞくりとする悦びがあった。
「んっ……んむっ……」
 今度は一転して彼の口腔に舌を入れた咲重は、じっくりとねぶり回した。
唇がめくりあがるのも厭わず、ただれた吐息を与え、滴る欲望を飲む。
腕を掴む九龍の力は弱々しく、咲重が支えなければ水中に没してしまうだろう。
だから咲重は足を絡ませ、全身で九龍を支えて口づけを続けた。
 たっぷりと愉しんだ咲重が泡だった唇を離すと、
やはり九龍はバランスを崩し、後ろに数歩よろめいてしまった。
そのままなら沈んでしまっただろうが、いつのまに漂っていたのか、そこはもうプールの端だった。
壁に背をつけた九龍に、咲重は艶然と微笑む。
「ね……そこに座って」
 九龍をプールサイドに座らせた咲重は、水に入ったまま膝にしなだれかかった。
乳房の重みに気づかないふりをする九龍に、咲重は艶やかな微笑みを浮かべて膝を押し割る。
乳房で変化の訪れている部分を探しあてると、降参した九龍から力が抜けていった。
微笑んだまま九龍を見上げた咲重は、乳房の間にある愛しいものに視線を移す。
こみあげてくる感情を抑え、まず双つの丘で屹立を包みこんだ。
 決して小さいわけではない九龍の屹立が、どこにあるのかわからないくらい埋没している。
肉柱を包んでなお余りある豊かな膨らみを咲重は両側から押した。
胸の内側に刻まれた九龍の熱が、体内に染みていく。
それによって熱された吐息を、咲重はすぐには吐かず、乳肉を使って屹立をしごきはじめた。
「う……っ」
 九龍の呻き声と共に、水面が小さな音を立てた。
身体を撫でる波紋の快さを感じながら、咲重は胸を使って九龍の熱塊を愛撫する。
挟んだ屹立を上下にこすり、豊かな谷間で前後にも刺激を与えて、
乳房の内側に感じる熱を、烙印のように肌に刻みつけ、丹念に愛しんだ。
「あぁ……」
 九龍がたまりかねたようにうめくのが嬉しくて、咲重はより丁寧な動きで屹立をもてあそぶ。
張りつめた肉柱は火傷しそうなくらいに熱く、プールに半身を浸けている咲重は不思議な感覚のずれを抱いた。
冷静を装っている今の自分との奇妙な一致に小さく笑うと、九龍がくすぐったそうに身をよじる。
その仕種に新たな笑いを誘われ、今度は意図的に肉茎に吐息をかけると、そのまま先端に唇を落とした。
触れたとたんにびくりと跳ねる肉茎が愛おしく、何度もくちづける。
次第に口許を緩め、少しずつ亀頭を含んでいき、ついに半分ほどを咥えた咲重は、ゆっくりと舌を動かしはじめた。
顔はまだ動かさず、口内の大部分を占める異物を転がすように舐めていく。
「ふッ……うぅンッ……」
 眼を閉じて意識を舌に集め、屹立を余すところなく味わう。
口の中に満ちていく九龍の感覚は、咲重にとって不快ではない。
むしろ口腔を埋めつくす熱い猛りは水に浸かっている下腹をも熱するかのようで、
咲重は唇を吸いつかせ、深く飲みこんでいった。
「んっ……ん……ぅ」
 歯を立てないよう、舌で塊を奥へと進ませ、激しくしごく。
独特の臭いを鼻と喉の両方で吸うと、身体がかっと熱くなり、おもむく情動のままに屹立の下にも手を伸ばした。
男の肉体にあって、不思議なやわらかさを有する部分をやさしく揉みしだく。
「あ、うっ……」
 感じているようすの九龍に、咲重はより情熱的に舌をまとわりつかせていった。
浅く咥え舌先で亀頭を舐め、深く呑みこみ舌腹で肉茎を刺激し、九龍の猛りを片時も離さず頬張る。
呼吸するたび流れこんでくる臭いをも愛しく想い、咲重は息を弾ませて屹立を吸いたてた。
「う……」
 ときおり九龍の腰がびくりと跳ねる。
男を感じさせるのは好きだし、感じているのを我慢する男を見るのはもっと好きだった。
彫像のように硬直している九龍から一度顔を離した咲重は、再び、小さなメロンほどもある乳房で屹立をはさむ。
唾液ですべりがよくなった屹立は、咲重が好きな熱気にあふれかえっていた。
物欲しそうにひくつく肉の棒をあやすように胸の谷間のもっとも深いところに押しあて、乳房で圧迫する。
「……っ、うあ……っ」
 埋没した屹立を強く押しはさみ、乳房を揺する。
九龍が漏らす感極まった声に、咲重はにっこりと笑いかけた。
「どう? 感じてる?」
 言わずもがなの問いに、九龍は悔しそうに口元を隠した。
その子供めいた仕種に、咲重の下腹は熱される。
温い水に浸かっている下半身をぶるりと震わせると、咲重は水から上がった。
みずみずしい裸身を惜しげもなく晒し、起伏に富んだ肉体に水滴をまとわりつかせたまま九龍の上に跨る。
屹立を握り、愛撫している間に充分に火照った自身の秘裂に添えると、自分から腰を落とした。
 熱い塊が一気に入ってくる。
もう少し焦らし、ひとつになる瞬間を愉しもうとしていた咲重だったが、
切っ先が淫扉をこじあけた途端、腰がひとりでに沈んだ。
「あ、ん……っ……」
 九龍の熱と硬さに、咲重は挿入しただけで軽く達してしまった。
訪れた快感に身震いすると、九龍が背中を抱いてくれる。
咲重は身を任せ、体内の奥深くで感じる九龍の鼓動にしばらく浸った。
何も考えず、ただ九龍を感じることだけに集中していると、慣れない手つきが背中を撫でてくれる。
こころもち身体を離した咲重は、九龍の瞳を覗きこんで厚くふくらんだ唇を動かした。
「ふふッ……少し、イッちゃった」
「俺もイキそうだった」
「貴方はダメよ、まだこれからなんだから」
 咲重がウィンクしてみせると、苦笑いで答えた九龍の手が下へと滑っていく。
ヒップに添えられた手から逃れるように身体を前に出した咲重は、
そのまま腰を動かし、感じるところを自分で探った。
身体の奥、腰を軽く浮かせて前に突きだしたあたりに深く感じる場所を見つけると、
そこを中心に小さな円を描かせた。
「あっ……あ、あんっ……」
 快感に、ひとりでに腰が弾む。
咲重が身体の深いところから広がる、とろけそうな気持ちよさを何度も求めるつど、
たっぷりと膨らんだ双乳が大きく揺れた。
 物理的な法則に反しているのではないかというほど、大きいながらも形よく張った丘が、
リズミカルに動くのは抗いがたい魔力を秘めたものであるらしく、九龍は魅入られたように凝視している。
咲重は腰を支える彼の手を優しく取り、望みのままに触れさせた。
九龍の、『宝探し屋』という肩書きからは想像もつかない、細くしなやかな手は、すぐに動きはじめる。
指先を使わず、手のひらで丘を転がす一風変わった愛撫は、九龍のくせのようだった。
稚拙ではあるが、薄く汗ばんだ手のひらは程よい快感をもたらしてくれる。
身体の奥からこみあげてくる快さに、咲重は大きく息を吐いた。
 それを契機に、九龍が左の乳房に吸いついてくる。
やはりさりげないとは言いがたい、どさくさ紛れのやり方は、けれども咲重には愛おしかった。
浮かせていた腰を落とし、動きをゆるやかなものに変えて九龍が愛撫しやすいようにする。
美しい丘の形を保っているのが不思議なくらいの巨大な乳房の頂を口に含んだ九龍は、
赤子のようにひたすら吸いたててきた。
 邪魔しないよう後頭部に指を梳きいれて、咲重は満たされる。
男に身体を捧げる、それ自体の恍惚。
すべてを与えるにふさわしい男を見出し、想いを遂げるのは、女にとって最高の悦びだ。
その悦びを、咲重は今存分に享受していた。
 九龍は舌先で乳首を転がし、右の乳房は手でもてあそんでいる。
撫でるような弱い刺激と、母乳を吸うようなやはり甘い愛撫は快いものの、
咲重はすでにそれだけではもの足りなくなっていた。
子供が夢中になっているおもちゃを取りあげるように九龍を引きはがし、
「ねえ……今度は水の中で」
 誘うくちづけを顎に残して先に水に入る。
火照った身体に温水は心地よく、咲重は唇を薄く開いて九龍を見あげた。



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