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ベッドに慎重に桃香を寝かせると、一度ゆっくりと深呼吸をして、
彼女と同じベッドに身体を乗せる。
さほど大きくは無いベッドが、龍麻には広大な海のように感じられた。
「龍麻君……」
儚い声を頼りに、顔を近づける。
薄暗がりの中見つけた唇に、夢中で触れた。
「ぅ……ん……」
くぐもった響きが肌を撫でる。
唇を押し付けるたび、少しずつ異なる音色を奏でる彼女の部分を、龍麻はより深く感じ取ろうとした。
「ん……む……っ」
舌同士が触れた瞬間、快い痺れが走る。
桃香の温かく濡れた舌は我を忘れるほどの感覚を伝え、
それを受け取る自分の舌も、身体中の神経が集まったかのように敏感になっていた。
より強い快感を求めて、彼女の裡をまさぐる。
「んふ……ふっ、うっ」
次第に小さくなる鼻息と比例して、桃香も舌を絡めるようになってくる。
遠慮がちだった動きはすぐに相応のものになり、
二人は表面を擦り合わせ、先端をくすぐり、文字通り快楽を貪った。
「はぁっ……はぁっ……」
息が続かなくなり、やむなく顔を離す。
しかし荒げた呼気は欲望を揺さぶり、龍麻はすぐにまた桃香に覆いかぶさっていった。
桃香は肩を掴み、拒絶する姿勢を見せたが、
それは呼吸を整える時間が欲しかっただけで、キスを拒んだ訳ではないようだった。
その証拠に、龍麻が乱暴とも言えるくらいの強引さで唇を割り、舌をこじ入れると、
あとはもう身を任せ、迎え入れる。
幾分冷静さを取り戻した龍麻は、意識して舌を絡みつかせた。
「はっ……あ……ぅ……む」
そちらの方が気持ち良いのか、桃香がしがみついてくる。
柔らかな身体が全身に触れ、龍麻はえも言われぬ幸福感に満たされた。
その源に触れようと、トレーナーの上から膨らみを撫でる。
厚手の生地の上からでは感触が良く判らず、すぐに直に触れてみたくなった。
「ん……」
素肌に指が当たった時、桃香の口から微かな声が漏れた。
押し殺したその声は、かえって龍麻の手の動きを早める。
ほとんど一息に服の下に潜り込ませた手を胸に辿り着かせると、桃香が服の上からそれを押し留めた。
「待って……脱が……せて」
掠れた声が、自分が随分と焦っていたことを気付かせて、龍麻は赤面した。
それを補うように桃香の身体を起こし、トレーナーを脱がせる。
広がった髪の香りが嗅覚を甘く刺激し、ホックの外れる小さな音が聴覚を鋭く打った。
「龍麻君も……脱いで」
うっすらと浮かぶ桃香の輪郭を凝視していた龍麻は、
消え入りそうな桃香の声に、弾かれたように服を脱いだ。
下まで脱いでしまって良いものかどうか迷い、思いきって全て脱ぐ。
既に硬くなっている下腹のものをを桃香に知られるのは恥ずかしかったが、
そうも言っていられず、横たわっている彼女の隣に身体を倒した。
「龍麻……君……」
桃香の声は強張っている。
それは龍麻も同じことで、桃香に気付かれなかったのは、喋る必要が無かったからに過ぎなかった。
唾を呑みこんだ龍麻は、先ほど中断させられた、胸への愛撫をしようと腕を伸ばす。
その拍子に、素肌が触れる。
それは、キスに匹敵するくらいの心地良さだった。
身を強張らせる桃香に、思わず手を引っ込めてしまう。
今度は龍麻が硬直してしまっていると、温かい物が頬に触れた。
「龍麻君……もしかして」
「……」
「そうなんだ……実は、あたしもなの」
なんと答えてよいか解らず、龍麻は唇を寄せることで返事に代えた。
三度重なる唇。
想いとは裏腹に淫靡に交わる舌が、緊張を封じこめてゆく。
「ふぅ……ん……」
不規則に漏れる吐息の音色が、わずかに変わったように思われて、龍麻は胸に触れる。
掌に収まる膨らみは、軽く力を込めただけで形を変え、女性の身体に初めて触れた龍麻を驚かせた。
痛がらせることのないよう、ほとんど触れるか触れないかの手付きで撫でる。
「ん……」
桃香の肢体がくねる。
それは形としては向こうから乳房を押し付けてきたようになって、
龍麻は自分で課した気遣いも忘れ、握ってしまった。
「んっ……ぁ」
桃香の声に拒む様子はなく、それは指先が胸の頂に触れた時に一層はっきりとした。
既に膨らみかけていた蕾は、少し刺激を与えただけで硬さを増した。
指で摘めるほどの大きさになったそれをゆっくりと指腹で転がし、爪の甲で撫でる。
「んッ……んっ」
押し殺した吐息が、くぐもったものに変わる。
あふれてしまう喘ぎを押さえようと、桃香が手の甲を口に押し当てたのだ。
桃香が動いたことでかき回された空気が、龍麻の動きをも変える。
小さなベッドの上で身体全体を少しずらし、更に首を折り曲げて、
指先が触れている部分に顔を近づけた龍麻は、膨らみ全体を食べるように唇を吸いつかせた。
舌を伸ばし、広げた口の縁に沿って這わせる。
「んんッ……!」
酒のせいなのか、火照って熱くさえ感じる肌を舐めまわし、その中心にある柔らかな突起を舌で弾く。
そうしたいという欲求に逆らわず、口をすぼめ、
乳房の中にあるものを吸い出そうとするかのようにその出口を咥えた。
「ふッ、う……」
歯で甘く挟みこんだ乳首を、舌先でつつき、時間をかけて吸う。
くすぐったそうな、それでいてまとわりつくような嬌声は、
その度合いを高め、龍麻を劣情のただなかに誘うものだった。
乳房に触れていた手を下ろし、下腹部へと移す。
指先が繊毛に、そして秘溝の入り口に触れる。
うっすらと湿っている裂目は、龍麻がその湿りを塗り広げるようにすることで
一層愛液を分泌し、指全体を濡らすほどになっていた。
女性の神秘に感動した龍麻は、更にその神秘に触れるべく指を埋めようとする。
すると、桃香がそれを押し留めた。
「おね……が……い……」
いよいよその時が来たことを知った龍麻は、身を包む新たな緊張に生唾を飲み下しながら、
桃香の願いに応えようと身体を起こした。
何か、彼女の緊張を和らげることを言ってやろうと思ったが、
自分の方が緊張していてそれどころではなく、結局何も言う事が出来なかった。
屹立を掴み、ゆっくりと桃香の体内に進ませていく。
三分の二ほどを埋めたところで、腕に食いこむ彼女の指に気付いた龍麻は、
彼女が感じているはずの痛みを気遣った。
「痛い……けど、そんなに……我慢、できない……ほどじゃ……ないわ」
あるいは桃香の方こそ気を遣ってくれているのかも知れなかったが、
そこまで推察する余裕は龍麻に無かった。
初めて味わう快感の坩堝は、どんな美辞麗句もたわ言として呑みこんでしまうほどの凄さだったのだ。
彼女の語尾が消え去らないうちに、欲望の猛りを燃え上がらせる。
「あッ……うっ……ぁ……」
少し動かしただけで、新たな悲鳴が漏れる。
申し訳無く思いながらも、神経に直接触れられたような快感に抗う事は出来ず、
上下左右からせめぎあう肉の路から逃れるように腰を引き、ゆるやかに撃ちこんだ。
初めて異物を迎え入れた隘路は、それが引きぬかれるとたちまち通路を閉じてしまい、
再度の侵入を拒むかのようだ。
「うっ……んッ……」
破瓜の痛みは思ったほどではないとは言え、もちろん痛みが全くない訳でもないらしく、
桃香の口からは苦しそうな呻きが途切れない。
本当にこのまま続けて良いのだろうか、と思うくらいの狭隘な彼女の中は、
しかしそれだけにたまらない締めつけとなって龍麻を苛んだ。
幾度か抽送を繰り返すうち、滲み出てきた愛液が潤滑の役目を果たすようになり、
いくらかはスムーズに腰を動かせるようになる。
ただしそれは新たな快感が龍麻に加えられるということでもあり、
己にまとわりつく液体と、押し包む肉壁は、抗い難い命令を牡の本能に下してくるのだ。
もう少し堪えなければ──そう思った直後、媚肉が柔らかく締め上げた。
「──っ!」
止める間もなく、昂ぶりが解き放たれてしまう。
快感と引き換えに、二人の間に溜まっていた熱が、急速に冷めていく。
桃香の身体から緊張が失われていくのを感じ取った龍麻は、無言のまま彼女の傍らに倒れこんだ。
桃香がどんな表情をしているかは覗い知ることが出来なかったが、
とても目を合わせられなかった。
このまま帰ってしまおうか、とさえ考えていると、後髪が軽く引っ張られる。
彼女が振り向かせたがっているのが指先から伝わってきても、意固地に拒んだ。
身体を丸め、壁を見つめていると、背中に彼女を感じる。
格好悪い龍麻に、何故か愛おしさがこみ上げて来た桃香が身体を密着させたのだ。
「気にしてるの?」
「そりゃ……ごめん」
「そう思ってるなら……こっち向いて」
そこまで言われてはいかにも自分が子供っぽく感じられ、
目を閉じながらではあったが、龍麻は狭いベッドの上で身体の向きを変えた。
その胸に、桃香が飛び込んでくる。
「龍麻君……」
胸が、濡れる。
肌を伝う熱い滴に、龍麻は渾身の力で桃香を抱きしめた。
「コスモ……グリーンは、ずっとピンクのそばにいるよ」
それは一応真面目に言ったのではあるが、桃香が唖然とするのが伝わってきた。
続けての失策に、巨大な穴を掘りたくなった龍麻の耳に、小さな笑い声が聞こえる。
「子供向けの番組じゃ、こんなこと放送しないわよね」
今度は龍麻が唖然とする番だった。
「……」
「そんな顔しないでよ。あたしだって……すっごく恥ずかしかったんだから」
恐らく耳まで赤くなっているだろう桃香の、顎に手を添えた龍麻は、
子供向けの番組でも放送出来ることを、彼女と交わした。

「おはよう、龍麻君ッ!」
ぶり返しなのか、昨日よりも頭痛が激しい龍麻は、
元気の良い桃香の声が頭蓋の中で反響するのを、あまり考えないようにしていた。
並べられた食事にも手を付けず、オレンジジュースだけを飲む。
そんな龍麻に、さっさとパンを食べ終えた桃香が話しかけた。
「ね……昨日のこと……なんだけど」
「うん」
「出来たら、その……忘れて欲しいの」
「……そっか」
やはり、どれほど想いを確かめあったとしても、一夜の夢が終われば、
五年という歳月は容易には埋められない、深い濠となって横たわっていたのだ。
世界を救う、という聞こえだけは良い仕事も、資金援助はあるとは言え、
今の日本で理解される職業とも思えない。
桃香が安定を望むのなら、当然と言える選択だった。
むしろ一時だけでも心を通じ合えたことを、彼女に感謝するべきだ。
そう考えた龍麻は、取り乱さないようにするだけの余裕を取り戻すことが出来た。
かくなる上は、彼女と別れるまではみっともないところを見せずにいよう。
そう決めた龍麻に、桃香は告げる。
「これからは、コスモじゃなくて……二人で新しいチームを作りましょう」
「……へ?」
「男女のペアっていうのはちょっと収まりが悪いけど、大丈夫、
愛と勇気で力を合わせればなんとかなるわッ!」
圧倒された龍麻は頷きながら、結成の前祝いだけは勘弁してくれと願わずにはいられなかった。



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