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 一人暮らしで良かった、と龍麻は心から思った。
いくら東京を護るという大義を抱えていても、いくら仲間たちから信頼されて
彼らを率いるリーダーだといっても、親と同居していたら、
決してこの境遇は手に入らなかっただろうから。
 龍麻の家は一人用のワンルームではなく、少し大きめのリビングとダイニングキッチンがある、
若い夫婦用のような広さのものだった。
これもまた幸運というべきで、今日これから始まる事態に、
ワンルームでは狭すぎてどうしようもなかっただろう。
 部屋には龍麻を含めて四人の男女がいた。
そのうち一人は、龍麻に次いでこの家に多くいる。
学校帰り、戦いの後、さらには休日。
入り浸るというよりは住んでいるといって差し支えないほどで、
部屋の隅のホコリやら、トイレットペーパーの買い置きチェックやら、
ありとあらゆる住環境に干渉してくる。
家主である龍麻も辟易するのだが、今日の話は彼女がいなければどうにもならなかったので、
その点は感謝していた。
 残る二人は、龍麻の家に来るのは二度目だ。
そしてこの二人、正確に言うなら片方の女性こそが、
氣を使うための辛い修行に耐えて良かったと龍麻を舞いあがらせる原因なのだった。
「それじゃあ、始めましょうか」
 講義を始めるような口調で、葵が告げる。
 軽く聞き流した龍麻は、真剣極まりない表情で葵を見ている二人を微笑ましく思った。
すると黒真珠のような瞳が真横に動いて龍麻を一瞥する。
顔には出していないはずだが、なぜ判ったのだろうと首をすくめた龍麻は、
その深刻な疑問を考察するより、即物的な快楽に浸ることにした。
 真面目な顔をしながら、眼球だけを正座している二人に向け、さらにその片方にピントをあわせる。
 彼女を見て勃起するなという方が無理だった。
双眸が結んだ焦点の先には、舞園さやかが座っている。
それも、下着姿だ。
隣にいる諸羽などはどうでもいいが、百回生まれ変わっても拝めるものではないアイドルの生下着姿が、
手を伸ばせば届くところにあるとなれば、いかに謹厳実直な男であっても性的興奮を抑えるのは不可能だろう。
 自身もパンツ一枚である龍麻は、開き直って大きくあぐらをかいたまま、さやかを観察した。
 淡い黄色の下着は、まさにアイドルが着用していそうな可愛いもので、
葵にはおそらく似合わないと思われるのは絶対に口にはできない。
隠しても隠しきれない胸の谷間は葵に較べればほんの少しだけ控えめではあるが、
表現するならしっとりずっしりといった葵の乳房に対して、
ぴちぴちでふわふわといった瑞々しさは甲乙つけられるものではなかった。
 自分に課せられた宿命が普通ではないことを知ってはいても、
今回はその宿命とやらに大いに感謝したい龍麻だった。
 時は二週間ほど前にさかのぼる。
深刻な面持ちで葵に相談があると訊ねてきた霧島諸羽と舞園さやかは、
ついにセックスをする運びになったのだが、
上手くいかず、自信を喪失してしまったのだと驚きの告白をしたのだ。
 なぜ俺に頼らない、という龍麻の小さな不満はさておき、葵は二人に答えた。
百聞は一見に如かず、実際に私達がしてみせるから、それを参考にすると良い、と。
龍麻の意向というものを全く考慮していない発言に、龍麻は一度は憤慨しかけたものの、
それよりもさやかの裸身を見られるという期待が上回り、
自宅で二人にセックスの実地指導を行うことに反対するのは止めた。
 結果、諸羽とさやかは無事に事を終え、めでたしめでたしとなったのだが、
葵はそれで終わりにはしなかった。
一度ではとても性の深奥には辿りつけない、もっと学ぶ必要があると、
長老と近所のおばさんを合わせたような態度で二人を諭し、
こうして二度目の講習会が催される運びとなったのだった。
 
「あのさ」
 恐る恐る龍麻は訊ねた。
葵はめったなことでは怒らないが、彼女の意に沿わないとどうなるのかは骨身に染みて知っている。
火山が噴火するのならマシというもので、噴火の予兆もなく、
噴火したことも他者にはわからない、龍麻だけに命中する溶岩が延々と降り注ぐのでは、
それなりに強いはずの龍麻の精神も保たない。
龍脈を御するよりも難しいと思われはしても、一生をかけて挑戦する価値はあると、
今のところは信じているのだ。
「何?」
「縛ることはないんじゃないかなって」
 腰の後ろで縛られた親指を所在なげに動かしてみる。
縛るといえば手首を縄で、と思っていたが、葵によると親指を縛るだけで拘束できるのだという。
ドラマで得た知識らしいが、そんな知識を事もなげに実践する女子高生というのもなかなか怖い。
もちろん葵があらゆる面で高校生離れしているというのを、
やはり骨身に染みて知っている龍麻ではあった。
「今日は、女の方から積極的にするやり方を覚えてもらおうと思うの」
「うん、それは聞いたけど」
 葵と二人なら別に何をされようと構わない。
しかし霧島やさやかが居る前で醜態を演じさせられるのは、御免こうむりたいのだ。
龍麻にもささやかながらプライドがあり、後輩の前では格好をつけたい。
それに、もしこのことを他の連中に話されたら、仲間達を率いるリーダーとしての立場が
揺らぐことになるかもしれないのだ。
諸羽とさやかの口の堅さは信用しているが、特に諸羽の方は、
心酔している京一にうっかり漏らしてしまうかもしれない。
そんなことになったら最後、龍麻は一生頭の上がらない相手が二人になってしまうことになり、
それは絶対に避けねばならなかった。
 とはいえすでに拘束された後では、何を言ったところで無駄だろう。
だいたいにして葵が決めたことに、龍麻が逆らえたケースはほとんどないのだ。
案の定、龍麻の逆接詞を葵は歯牙にもかけなかった。
「龍麻は強いから、その気になったらすぐ私を組み伏せてしまうでしょう?」
 二人がぎょっとして龍麻を見る。
これは解いておかねばならない誤解だと龍麻は思った。
 まず、龍麻はこれまでに葵を無理やり組み伏せたことなどないということ。
 そして、葵を組み伏せた時は、彼女の意向が強く働いているということ。
 だが、弁解をする機会は与えられなかった。
 龍麻の背後に回った葵が、身体を密着させる。
背中に当たる乳房の柔らかさに瞬間意識を奪われ、息を呑んでいる間に乳首を触られていた。
「お、おい……っ」
 望ましくない展開に、しかけた抗議は後ろ髪の襟足をかきあげての
首筋へのキスであえなく潰される。
舌先でくすぐるように波を描かれ、五本の指で一点を集中して責められては、
喘いでしまわないように堪えるしかない。
「龍麻はここが好きになってきたのよね」
 違うと叫ぶ前に身体が震えてしまう。
興味津々で眺める二人の視線が痛く、情けないところは見せたくないという
龍麻の意地は脆くも崩されつつあった。
 龍麻の乳首を愛撫する葵の指は、天女が舞うように優雅だ。
そのくせくすぐったいだけでない、快感を与える動きにもなっていて、
不本意ながら龍麻の口数は減っていく。
龍麻にすれば乳首だけが気持ちいいのではなく、背中に当たる乳房の弾力と、
吐息を交えながら見えないところを舐める舌との三位一体が極上なのだと
諸羽に教えてやりたいところなのだが、葵はそんな指摘さえさせてくれないほど執拗に責めてきて、
純真な後輩に爛れた男女の姿を見せる羽目に陥ってしまうのだった。
 その諸羽は、龍麻の意向に反して片時も龍麻から目を離さない。
 異形の化け物や鬼の群れにも怯まない頼れる先輩が、たった一人の女性に籠絡されているさまは、
確かに経験の少ない少年の心を奪ってはいるものの、だからといって龍麻に幻滅はしない。
戦士にも休息は必要だと心得ていたし、愛する女に心身を委ねるというのは深く共感できる。
そして、龍麻をそれほどまでに蕩かせている葵の技巧に魅入り、
葵をさやかに、龍麻を自分に重ねて夢想していた。
 諸羽の夢想をさやかも共有していた。
それは超自然的な力などではなく、諸羽とさやかが抱く理想が全く同じだからに他ならない。
 愛し、愛されたい。
シンプルで最も強い愛の形を、龍麻と葵は具現化しているように二人には見える。
それは大体において事実であったから、二人は全てを学ぼうと、
真剣そのものの眼差しで龍麻と葵を観察した。
「くッ……う……」
 食いしばった歯の隙間から、快楽が漏れる。
葵に背中を預け、全身を愛撫されるのはいつでも強すぎる麻薬だ。
屈強な鬼の一撃に耐え、化け物の汚染にも屈しない肉体も精神も、
ただ一人の女の繊手に裂かれ、捏ねられる。
それはあらゆる危険を犯してでも手に入れる価値のある、龍麻自身が望む愛のあり方で、
その意味では諸羽とさやかにとって理想的な手本といえた。
 身体に回った快感が、龍麻自身を支えるのさえ難しくさせる。
それでも葵に体重をかけてしまわないよう、龍麻は良く耐えていたが、
葵はそれを見抜いたかのように彼の背中から離れ、愛する男を横たえた。
「葵……」
 より濃密な接触を求めて呼びかける龍麻に、柔らかく微笑んで応じ、龍麻の下半身に移動する。
「下着を脱がせるわね」
 葵の宣告に逆らえるはずもなく、龍麻はなすがままにされた。
 押さえつけられていた下着から解放された男性器が、滑稽なほど愚直にそそり立つ。
見紛いようもなく牝を求める牡の器官に、さやかは思わず両手で口を押さえてしまい、
諸羽も、自分にも備わっている、今はあれほどではないにしてもさやかを求めて
下着を圧迫している器官の雄々しさに唇を引き結んだ。
 これから何が始まるのか――半ばは知り、半ばは信じていない諸羽とさやかは、
葵が二人の方に顔を向けて薄く微笑むと、自分たちの期待が現実となるのだと確信して、知らず唇を舐めた。
 龍麻は両手を後手で縛られているので、腰が浮いた格好になっており、
股間が否が応でも強調されている。
諸羽とさやかの視線が集中する、逞しく勃起している肉茎を、
葵は衣を羽織らせるように右手で包んだ。
「あっ……」
 絶妙な強さで熱い柱を包みこむ掌に龍麻は背を反らせ、声をうわずらせた。
 諸羽とさやかは、聖女とも称される美少女が、髪をかきあげるような自然さで
男の性器を弄るところを、火が点きそうなほど凝視する。
「ま、待っ……あっ、待った、あふッ」
 数秒と経たず感じはじめた龍麻に、二人は呼吸すら忘れていた。
大きく張りだした男性の象徴を、ガラスを伝う雨水のような複雑な動きで撫でさする右手は、
催眠術のように二人の目を惹きつける。
しなやかな指のひとつひとつの動きに、大げさなくらいに感じている龍麻を、
諸羽とさやかは滑稽だと笑いもせず、ひたすらに凝視した。
 龍麻と葵が仲がよい――というより愛しあっているというのは、諸羽もさやかも良く知っている。
どちらかといえば、葵が龍麻を立てるように振る舞っていることも。
二人きりの時、彼らはまた印象が変わるというのはこの間、初めて知ったことだったが、
それでも、諸羽は龍麻が葵をそうするようにさやかを扱いたいと思い、
さやかは葵がそうするように諸羽に接したいと願った。
 その葵が、積極的に龍麻を責めている。
龍麻の陰部に自ら触れ、快感を引きだそうと繊手を操っている。
多くの仲間を揺るぎなく率いる龍麻が、女の手に支配されている姿にも驚いたが、
やはり、葵が龍麻を弄んでいる光景のほうが二人には衝撃だった。
 セックスという行為を知ってはいても、やはり子供を作るためという意識が強い二人にとって、
ただ快楽を求める、それも挿入だけでなく、そこに至る過程を愉しむというのは、
価値観が変わってしまうほどの驚きだった。
 細い指の隙間から、肉の塔が覗く。
そそり立つという形容がふさわしい逸物は、諸羽とさやかに生唾を呑ませずにおかなかった。
 あれほど大きなものが、葵の体内に入るのだ。
自分に重ねて想像したさやかは、無意識に自分の恋人の股間に目をやり、
龍麻と同じ部分が大きく膨らんでいることに気づいた。
諸羽は葵を見て興奮していることになるが、嫉妬は感じない。
今の葵は同性から見ても妖艶であり、誘うように揺らめいている葵の手の動きを、
さやかもすぐにも真似したいと思っていたからだ。
唇をそっと舐め、心持ち身を乗りだしたさやかは龍麻と葵を注視した。
 葵の右手がゆるやかに上下する。
白い手にはあまりに似つかわしくない異形の肉柱を羽衣のように包みこみ、何度も、何度も扱きあげる。
全く力は込めていないながら、龍麻は乳房を与えられた赤ん坊のようにおとなしく愛撫を受けいれ、ていた。
「ねえ、龍麻。気持ちいい?」
「ああ」
 龍麻の返事に満足したように微笑んだ葵は、屹立を弄ぶ手を左手に替え、
右手で睾丸を優しく揉みあげた。
「うッ……あ……!」
「龍麻はここも好きなのよね」
「葵は……触るの嫌じゃないのか?」
「どうして? 龍麻の大切なところでしょう?」
「そう……だけど……うぁッ……」
「始めは少し驚いたけれど、慣れたら可愛くなってきたわ」
 半分以上はさやかに言い聞かせるために言っているのだとしても、こういうところが敵わないと龍麻は思う。
葵は龍麻が望むことなら、何でも叶えようとするだろう。
それは龍麻も同じ気持ちだとしても、葵は何も言わなくても察してくれるのは、
龍麻が見習おうとしている彼女の美点だった――たとえ、彼女自身が望んでいるだけだとしても。



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