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 龍麻は心持ち足を開いて、愛撫を続けるよう無言でねだった。
意を汲んだ葵は龍麻の尻の方にまで手を回し、袋全体を温める。
左右の手を巧みに操って性器全体を弄る愛撫に、肉茎はいよいよ天を衝かんばかりに硬く、
そして熱を増していく。
すべらかで白い手には不釣り合いなことはなはだしいが、葵は意に介さず、
むしろその異形を愛しむように浮き上がった血管や、傘の張った部分を丁寧に撫でていった。
そうやって性器への刺激を絶やさないまま、葵は龍麻の股間に顔を寄せていく。
揃えていた足を崩し、背中を丸めた格好はあまりにふしだらで、
まだ純真な見学者たちは、思わず声をかけそうになってしまう。
そんな二人をあえて見ないまま、怒張に唇を近づけた葵は、陶然と鼻から息を吸い、
芳しい臭いの見返りとして、ねっとりと根本から舐めあげた。
「く……ッ……!」
 龍麻の腰が大きく浮きあがる。
何度も経験したことであっても、十分に予測していても、
葵の舌はいつも容易すぎるほど容易に龍麻を砕いてしまう。
じりじりと削られていた、後輩達に格好悪いところは見せられないという矜持は、
先端まで自在に動く舌先の一撃で、あえなく消え去ってしまった。
 足をつっぱらせ、物欲しげに腰を引くつかせる龍麻に、葵はすぐに応えない。
自分の一撃がどれほどの威力を持つのか、見学者たちに存分に見せつけた彼女は、
二人が衝撃から回復するのを待ってから愛撫を再開させた。
「どういう風に舐めたら気持ちがいいのか、男の人にも依るみたいだけれど、
龍麻はゆっくり、焦らしながら舐められるのが好きなの」
 説明してから実践する。
口を開け、舌の半ばほどまでを肉茎に添え、蛇行させながら先端へと舐めていく。
美しい口唇から舌を覗かせ、髪をかきあげて男根を弄ぶ姿は人を超越したような
艶めかしさに満ちていて、諸羽とさやかを魅了して離さない。
見ているだけの二人でさえ疼いてしまうのだから、直接愛撫されている龍麻などは、
葵の舌が敏感な所を通過する度に暴発してしまわぬよう耐えるのに、
全身のかなりの力を動員しなければならなかった。
 それは基本的に勝ち目のない戦いであり、定められた敗者は敗北が訪れる瞬間を
引き延ばすのがやっとだ。
 ローマの剣闘士の闘いを特等席で眺める貴族のように、
葵の一挙手一投足に興奮していたさやかは、彼女がその気になればたちまち龍麻を
果てさせることができるのに、あえてそうしていないことに、
早い段階で気づいたが、それが単に男を弄んでいるわけではないと知ったのは、
龍麻の絶頂が近くなった頃だった。
「うッ……あ、葵……ッ……!」
 戦いの最中では絶対に聞かせることのない、悲痛な喘ぎ。
草木を踏みにじるような、あるいは柳が揺れるような、か細く、弱々しい哀願が、
さやかの鼓膜を叩く。
鼓膜を通って脳に伝わったそれは、不思議なことに、
聴いた瞬間とは全く違う印象となってさやかの情動を揺さぶった。
 もっとこの声を聞きたい。
自らの手であの音色を、もっと奏でさせてみたい。
もちろん楽器は龍麻ではなく、隣で息を荒らげている諸羽だ。
葵がしているように諸羽の隆々とそそり立つペニスを撫であげた時、
彼はどんな喘ぎを漏らすだろうか。
根本から舌を上らせ、先端を舌先てくすぐったなら、どんな嗚咽を滴らせるだろうか。
想像したさやかは下腹部の疼きを感じて、そっと腿を擦りあわせた。
そこにある水気を、厭わしいとは思わない。
それどころか、諸羽に見せつけてやりたいとさえ思った。
きっと動揺する諸羽の勃起に淫液を塗りつけ、そのまま彼を迎え入れる。
そんな想像をすると、下腹の熱が収まらなかった。
 さやかが劣情を催したことに男たちは気づかなかったが、女は気づいていた。
龍麻にフェラチオをしながら、今日の目的が何であるかを忘れていない。
男では判らないさやかの機微を見抜いた葵は、熱心にしていた口淫奉仕をあっさりと切りあげて身体を起こした。
「お、おい……」
 もう少しで射精に辿りつくところだった龍麻は不満顔で葵を見るが、
葵は龍麻を無視してさやかに近づいた。
一歩の距離をわざわざ立ちあがるのは、この場を支配しているのは誰か知らしめるためであり、
事実、諸羽もさやかも龍麻には目もくれず、女神と見紛う威厳と肢体を見せつける葵を、
ほとんど崇拝する眼差しで見ていた。
「さやかちゃん、参考になった?」
「は……はい」
「うふふ、良かったわ」
 膝をついた葵は、ごく自然な仕種でさやかの頬に手を添える。
その手はつい今しがたまで龍麻のペニスを触っていたのだということさえ念頭にない様子で、
さやかは弛緩した顔を彼女の掌に預けた。
「あ、あ……美里先輩っ……」
 唇が触れただけで、さやかは全身を震わせる。
それは諸羽とのキスとは全く違い、身体の内側から快感で溶かされていくようだった。
入ってくる舌を、ごく自然に受けいれる。
「う……ん……っ、あぁ……は、ぅ……ん……」
 その口づけは淫らさにおいて完璧だったにもかかわらず、
恋人である諸羽でさえ、葵にさやかが奪われたとは微塵も思わなかった。
羽化登仙――羽根が生えて天に登るような快さに、さやかは包まれていた。
「リラックスできた?」
「は、い……」
 陶然と呟くさやかは、別の意味でリラックスできていないのではないかと龍麻は思った。
とはいえ、あくまでも葵との比較の上としても、ほんの少しだけキツめに見える――
あるいは小悪魔的というのかもしれない――顔立ちが、溶けたアイスクリームのようになっているのは、
彼女の写真集でもお目にかかれないレアなもので、彼女を籠絡した葵の手腕には恐れいる他ない。
できればもう少し、葵とさやかの禁断の睦みあいを見たくもある龍麻だったが、
葵はあくまでも後輩たちに性の手ほどきをする指導者という立場を放棄するつもりはないらしく、
さやかのブラジャーのホックを外すと、お見合いを成功に導いた熟年の仲人のような微笑みで後退した。
「き、霧島……くん……」
 胸の前でブラを押さえたままうつむき、軽い上目遣いで諸羽を見るさやかは、
鼻血を噴いて倒れそうなほど扇情的だった。
龍麻がそうならなかったのは、そこにいるもう一人の女性を慮り、全身全霊で自身の血流を制御したからだ。
「さやかちゃん……」
 諸羽の声も興奮に上ずっているが、龍麻からすると、
この状況でそんな悠長なことをしていられるのは愛が足りないんじゃないかと叫びたいくらいだ。
俺なら神速で押し倒し、そこから一昼夜に渡って愛のフルコースを御馳走するのに。
 後輩をけしかけたくなっている龍麻に、葵が手を重ねて囁く。
「うふふ、龍麻もはじめの頃はあんな風だったわね。奥手で、中々手を出してくれなくて」
 絶対違うと反論したかったが、葵の口調からすると、不満なわけではなさそうなので黙っていた。
それに、無粋な言い争いなどして目の前の貴重な愛の交歓を見逃すのは、愚かに過ぎるというものだ。
「さあ、さっき私がしたことを、霧島くんにしてあげて」
「は、はい。霧島くん……してあげる……ね」
 諸羽に近づいたさやかは、彼のボクサータイプのパンツの中心に手を添えると、
実にぎこちない手つきで股間を撫で回した。
「霧島くんの……固く、なってる……」
「……」
 CDが擦り切れるほど聞いた歌声と同じ声が囁く淫らな言葉に、龍麻はたまらず大きく唾を飲んだ。
するとすかさず、たしなめるように指が絡まる。
肝を冷やした龍麻だが、いくら葵でも心の中まで読めるはずがない。
それにさっき寸止めされたので、もう欲望は暴走寸前だった。
いっそ横に跳んで葵を押し倒してしまうか――だが、古武術の達人にして氣を自在に操る『黄龍の器』たる存在は、
武術の心得など全くない少女の、たった五本の指で全身の動きを封じられていた。
爪先ほどの邪心を抱いただけで、肝が冷えるほど的確に指を動かされては、敗北を認めるしかない。
ならばせめてと龍麻は、さやかの痴態を網膜に焼きつけようと眼を見開いた。
「脱がせる……ね」
 毛糸と戯れる猫のような姿勢で、さやかは下着を脱がせていく。
姿を表した諸羽の屹立に、一瞬息を呑んだものの、すぐに顔を近づけ、慈しむように顔を寄せた。
「さ、さやかちゃん……!」
 上ずった声で名を呼ぶ諸羽に、両手で肉茎を握ったさやかは、小さく舌先を出して先端を舐めた。
「う……ッ!」
 一番敏感なところをいきなり舐められて、諸羽の腰がたまらず引ける。
以前のさやかなら、確実に驚いて行為を止めてしまっただろうが、
龍麻を見ていたからか、さやかは再び顔を近づけ、同じところに舌を伸ばした。
「あぁ……っ……」
 今度は諸羽も踏ん張って刺激に耐える。
気を良くしたさやかは、葵がしてみせたように、まずは舌で諸羽の性器を愛撫しはじめた。
 唇を薄く開け、素早く舐めて引っこめる。
まだ恥ずかしさが色濃く残るさやかのフェラチオは、刺激という意味では物足りないものであったに違いない。
だが、恋人に懸命に奉仕しようとする気持ちと、美少女が積極的にかしずくという興奮は、
やはり奥手な諸羽にはむしろ強すぎるくらいの快感をもたらした。
「さ、さやかちゃん……ッ」
 背中を駆けのぼる快感に、思わず諸羽の声がうわずる。
 苦しげにも聞こえる声に、一度は舌を動かすのを止めたさやかだったが、
それが痛みに由来したものではないと知ると、不思議な昂ぶりが胸中を満たした。
その昂ぶりに押されるように背中を丸めて肉竿に顔を寄せると、
舌を触れさせる時間を少しずつ長くしていった。
「あ、あ……ッ……」
 如実に変わっていく諸羽の声に、さやかの興奮も増していく。
諸羽を感じさせているのは、まぎれもなく自分なのだ。
高まる熱を、むしろ封じこめるように唇を閉じたさやかは、屹立から一度顔を離して俯瞰で眺めた。
 龍麻のものよりは細いとはいえ、咥えこむのにためらいを覚えるのには充分に太い尖柱だ。
大きさを測るように口を何度か開閉させたさやかは、やがて意を決した表情で口を開け、
先端を一気に口に収めた。
「あッ……!」
 口の中に諸羽が満ちる。
これまで嗅いだことのない強い臭いが鼻から脳を刺激した。
一度は顔をしかめたものの、それが諸羽の牡の臭いだと思うと、嫌悪は薄まっていく。
口の中に広がる、諸羽の味を意識しながら、さやかは葵がやってみせたようにより深く勃起を咥えた。
「うぁッ……!」
 これまでより遥かに強い刺激が諸羽を襲う。
亀頭を包む温かさは、へその下に力を入れなければ、そのまま射精してしまいそうなほどの快感だった。
さやかは屹立を呑んだだけで、技巧と呼べるようなものは何一つ使っていない。
それでも、まだ刺激自体に慣れていない若い牡柱は、初めての口腔に、さらに硬さを増していく。
「うぅッ……んふッ……」
 さやかのくぐもった呻き声が、振動となって伝わる。
苦しそうな声を出させているという罪悪感と、奉仕させているという牡の征服感が諸羽の中でせめぎ合う。
けれどもひとたび味わってしまったこれほどの快感を手放すのは惜しいという劣情は、
諸羽のような禁欲的な男であってさえせき止めることができなかった。
 浅ましくも広げた足の間に傅く、天使のような少女。
ふしだらに身体を丸め、無防備な裸身を晒しながら、男の股ぐらに顔をうずめている。
いずれ音楽業界を席巻するのは確実な、奇跡の歌声とも呼ばれる美しい声を発する器官を、
あろうことか男性器で満たしているのだ。
しかも、少女自らそれを望んで。
諸羽はさやかが歩む道を邪魔するつもりなど毛頭ないが、
このただれた行為を止めさせることもまた、できそうになかった。
 熱を持った肉塊が、口の中で跳ねる。
息苦しくもあるが、舌に感じる熱さは、これまで感じた諸羽の熱さのどれとも違って
さやかには興味深い。
彼の形を意識し、ゆっくりと舌を転がしていく。
「ふ……ッ、あッ……!」
 顔を前後させながら舐める場所を少しずつ変えていくと、諸羽の反応が良いところがある。
生真面目な、どちらかといえば硬い諸羽の声質が、チーズフォンデュのようなどろりとした
粘り気を持つものに変わっていくのを、さやかの鋭敏な聴覚は捉えていた。
悪戯っ気を出したさやかはリズムを取らせるように弱いところを刺激する。
「う……うッ、さやか……ちゃんッ……!」
 悶える諸羽が、おそらく無意識にさやかの頭に手を乗せる。
止めさせようとしているのか、それとも催促しているのか、手の強さだけでは判然としなかったが、
頭に手を置かれる、それ自体がさやかには悦びだった。
じわりと股間が熱くなるのを感じながら、さやかは脈打つ男性器への奉仕に没頭した。
 あまりに艶めかしい、少女と女の中間の横顔に、龍麻の興奮はいや増す。
もうこれ以上は勃起できないと、もてあました血流が痛いほどで、
龍麻はたまらなくなったが、葵は相変わらず指先だけで龍麻の動きを封じ、
恋人の発情にも応えようとはしない。
さやかで興奮しているのが面白くないのか、それとも性の指導者という立場をまだ堅持するつもりなのか、
いずれにしてもあんまりではないかと龍麻は嘆いた。
 龍麻の嘆きなど一顧だにしない葵は、さやかの口淫奉仕をじっと観察している。
さやかが失敗しても口を出すような野暮はしないと決めていたが、心配は杞憂に過ぎなかった。
歌手と同時に女優も目指している彼女は、葵の実演を一度見ただけで、的確に舌遣いをマスターしていたのだ。
 軽く頬を膨らませたさやかが、くぐもった声をあげる。
口内に収めた亀頭を舌で転がし、敏感なところを探っているのだ。
「あ……あぁ……っ……」
 諸羽の喘ぎはずいぶんと情けなく龍麻には聞こえたが、それも無理のないことだろう。
何しろ、すでに龍麻の家宝である写真集に収まる舞園さやかその人が、
唇をすぼめて男性器を咥えこみ、舐めているのだ。
仮に同じ立場になれたなら、龍麻でさえも長く耐える自信はなかった。



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