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龍麻と葵は並んで下校している。
真神學園でも一、二を争う美少女である葵と、
人気は及ばないとしても充分に好漢である龍麻は、
こうして交際を公にしても大丈夫な程度には友人達の信頼を得ていた。
二人の交際の中身を知ればまた別の意見があったかもしれないが、
彼らを邪魔する存在は、少なくともいなかった――今日までは。
何人かの同級生と挨拶を交わしながら、二人が龍麻の家に着いたのは午後五時に近かった。
葵は両親の信頼が篤い娘であり、夜七時までには帰宅しなければならないとしても、
まだ二時間はある。
二時間あれば葵の両親の期待を裏切るには充分で、龍麻は意気揚々と玄関を開けようとした。
そのとき、視界の端に何かがよぎる。
以前にもこんな展開があった、と記憶をたどる間もなく、
猛烈な勢いで突進してきた何者かに首を掴まれた。
首を掴まれる、というのは尋常ではなく、奇襲を受けて完全に息が止まった龍麻は、
薄れていく意識の中で過去を思いだした。
武術の達人である龍麻をここまで追い詰める、恐ろしい敵手の存在を。
「ぐ、うッ……!」
全力で絞めてくる両手を、龍麻は掴む。
首を絞める力からすると細い手首は、葵と同じ制服に包まれていた。
指と、何より爪が深く食いこんで危険な痛みをもたらしてくる手を、
龍麻は必死の努力で引きはがす。
葵の目の前でなかったら両腕を折っていたかもしれない、それほど死の危険を感じた相手は、
プラスチックのレンズの向こう側でまぎれもない殺意を浮かべていた。
「アンタ美里ちゃんに何する気よッ!!」
甲高いドスの効いた声を張りあげたのは、龍麻と葵と同じ学校に通う、遠野杏子だった。
ただしその名で呼ぶ人間はほぼ皆無で、アン子が彼女を識別するコードネームになっている。
「何しに来やがった、アン子……!」
「何だっていいでしょ、質問に答えなさいよッ」
言質は全く与えず、自分の質問を押し通す。
それはまさしく彼女が目指しているジャーナリストの流儀に則ったものであり、
龍麻は、彼女のかぎ状に曲げられた指をちらりと見てから仕方なく答えた。
「別に、恋人同士がすることだよ。それくらいわかるだろ?」
憤怒に燃えあがる目を見て、龍麻は虎の尾を踏んでしまったかと冷や汗を背中に滲ませた。
武術の達人であっても苦手なものはあり、アン子は龍麻にとって、まさに蛙に対する蛇、
蛇に対するマングースだった。
『黄龍の器』という神秘の力を抜きにしても、武術を修める者としてどんな時でも
不意打ちには警戒するという心構えを龍麻は持っている。
だが、どういうわけかいつもレーダー網をかいくぐって侵入してくるアン子は、
不意打ちどころか致命の一撃を龍麻に与え、少なからず自尊心を傷つけているのだった。
「で、なんでお前が来るんだよ」
「目の前でいたいけな美少女が頭の中まで腐りきった最低男にたぶらかされるのを
黙って見過ごせるわけないでしょ」
数メートルほど移動した場所でも、アン子の舌鋒は毒針のごとしだった。
家の外で騒がれては敵わない、と龍麻は葵の手を引いて自宅に入った
――決して逃げたのではない――
のだが、素早い身のこなしでアン子まで家に入ってきてしまったのだ。
何人もの女性をたぶらかし、女性が家に来るのは普通なら大歓迎の龍麻も、
言葉の毒針をマシンガンの勢いで撃ちだす彼女にはまったく辟易し、
反撃の無益を悟るとベッドに腰を下ろして制服姿の二人を見やった。
白いセーラー服に黒のストッキングもまぶしい葵は、
制服などなくても正統派の美少女であるが、
下品ではない膝より少し上程度のスカート丈をはじめ、
一カ所たりとも着崩してはいない服装が今や東京では希少種となった清楚ぶりを、
ごく控えめながら燦然と主張している。
その隣に立つアン子は、同じ真神の制服であり、
葵と同様にスカート丈を短くすることに欠片も価値を見いだしていないにもかかわらず、
受ける印象は月とスッポンほども違った。
「どこ見てんのよ」
お前は見ていない、という台詞をさすがに飲みこんで、龍麻は足を組む。
実際、アン子もスタイルは相当に良いし、
顔立ちもやや目が険しくなりがちな点を除けば決して悪い方ではない。
なのに彼女を見て色気や可愛さというものを微塵も感じないのは、
やはりあの、遠野杏子の本体は口であとはおまけだという
まことしやかな噂が本当なのだろう。
腰に手を当てて傲然と見下ろすアン子に、今日はもう諦めて二人を帰らせようかとも思った
龍麻だが、それではアン子を調子に乗らせるだけで、
むしろ意地でも予定通りに事を運ぶべきだと考え直した。
「それじゃ着替えてくれよ、葵」
「はい」
「ちょっとアンタ、美里ちゃんに何させようってのよ」
「今日体育あっただろ? そん時に葵見たらちょっとムラムラしたからよ」
「……アンタ、本ッ当に最低ね」
この程度の罵倒で屈していてはアン子とは到底渡りあえない。
本当、と最低、のコンボボーナスで五割り増しのダメージを受けつつ、龍麻はしたたかに反撃した。
「どうせだからお前も着替えろよ。金曜日だから体操服持って帰ってきてるんだろ?」
「どうしてあたしがアンタの変態コスプレ趣味につきあわなきゃならないのよッ!」
「そうか、お前の正義感は言葉だけなのか。
葵を救うなんて言っておきながら、窮地には飛びこまずに
遠くから見まもるだけがお前の友情だったのか」
「くッ……」
言おうと思えば龍麻でもこれくらいは言える。
でなければ何人もの女性をたぶらかし、後宮の王のようにふるまうことなどできないのだ。
「傍観者でいるならそれでいいさ。どうせなら俺と葵がヤッてるところをじっくり見て、
記事にでもしてくれよ。さすがに実名はマズいけどな」
「わ、わかったわよッ、着りゃいいんでしょ着りゃッ!!
体操服でもナース服でもなんでも着てやるわよこのすっとこどっこいッ!!」
ナース服という発想はなかったが、今後のレパートリーとしてしっかり記憶に留めた龍麻は、
アン子が前言を撤回しないうちに事を運んでしまうことにした。
「いい、着替えてるところ見たら殺すわよッ」
どうせ脱ぐのに何を今さら、と思ったが、
アン子の言い方には本気度が三十パーセントくらい感じられたので、
龍麻はおとなしく部屋で待機することにした。
数分後、現れた二人を見て、龍麻は思わず口笛を吹き鳴らした。
それほど二人のブルマ姿は劣情をそそるものがあったのだ。
葵もアン子もスタイルは申し分なく、基本的には何を着ても似合うのだが、
特徴として二人とも尻が大きく、ブルマはその大きさをいやというほど引き立てていた。
さすがに二十歳にも近いので上着は外に出しているが、
股のところにちらちらと覗く赤色の三角形がまたたまらないエロスを醸しだしている。
しかもその三角形の両側から下方へと伸びる白い足は、
いかにも龍麻好みにむっちりとしていて、何度となく触ったことがある龍麻でも
興奮をかきたてられずにはいられなかった。
くっつきそうでくっつかない膝の少し上のあたりなど、何時間でも見ていたくなる。
どうしても下半身ばかりに目が行く服装だが、
では上半身はどうでもいいかというともちろんそんなことはなく、
白いシンプルな体操服は二人の、同世代の平均を大きく上回るバストを
惜しげもなく浮かびあがらせていて、中途半端な水着よりもかえっていやらしい。
さらにその丘の大きさゆえに生じるしわに目を凝らしてみれば、
うっすらと下着のラインまでが見えて、
これもまた男を興奮させるのに充分な役割を果たしていた。
男はなぜ、ブルマに興奮するのか。
それはおそらく日常と非日常、機能とセクシーさが絶妙の融合を果たしているからだ。
水着ほど非日常ではなく、見せることを目的とはしていない。
かといって制服とは露出の度合いが明らかに異なり、機能を優先させて設計されたブルマは、
足の付け根で生地が終わっているため激しく動けば尻肉がはみ出てしまう。
それをなおす仕種と、さらにそれに伴う女の子の恥じらいという、
おそらくデザイナーにとって予想外の産物までもたらし、否応なしに男の目を惹きつけるのだ。
などと龍麻が健康的な四本の太腿を見ながら考えていると、
アン子の吐き捨てるような声がした。
「ねえ美里ちゃん、本当にこんな奴とつきあうの考え直した方がいいわよ」
まったくもって余計なことを言うアン子だが、葵は困ったように笑うだけで言質を与えない。
その態度はアン子に劣勢を、龍麻に勢いを与え、二人に近づいた龍麻は大胆に腰に腕を回した。
「あっ……」
「何いきなり触ってんのよ、このスケベ!」
すかさずアン子が引きはがそうとしてくるが、この程度でひるむわけにはいかない。
龍麻は二人を自分の方に引き寄せ、同時に二人を近づかせた。
「アン子ちゃん……」
「み、美里ちゃん……」
アン子が葵に弱いのは先刻承知済みだ。
マリアがアン子を狙ったのは、単に彼女の血液が美味だからという
極めて散文的なものだったのだが、その血には秘めた耽美の嗜好が流れていたらしく、
マリアによって蛹から羽化させられて以後は特に葵につきまとっている。
しかも葵は本人の自覚なしで雄雌問わずに惹きつける妖花であり、
今もまた、薄い羞恥を浮かべた顔を向けただけで、たちまち群がる虫を陥落させていた。
もじもじするアン子、などという珍妙なものを目にしながら、
どさくさに紛れて龍麻は手を下ろしていく。
腰から尻に触れたとき、アン子の身体がわずかに硬くなったが、
表に出しての反抗はもうなかった。
掌をブルマに当て、まずは軽く撫でる。
いきなりブルマを食いこませるようなもったいないことはせず、
柔らかすぎる肉の弾力をじっくりと堪能するのだ。
「……ん……」
敏感な葵は早くも腰をくねらせる。
まだ軽く撫でただけなのにこの反応だ
自分がどれだけ葵に惚れられているか、というのを図々しくも把握している龍麻だが、
それにしてもここまで感じやすいのは、少し問題ではないかとも思ってしまう。
龍麻の目の前ではさすがに誰も口にしないが、容姿端麗かつ頭脳明晰かつ生徒会長と、
四字熟語の美辞麗句が多数並ぶ葵は歩いているだけで話題の種となり、
その中にはかなり品のないものもあることを龍麻は知っていた。
庭師の務めとして変な虫がつかないようにするのは当然であるが、
花のできばえがどのようなものかを確かめるのも大事な仕事である。
たぷん、と揺れた尻肉に得もいわれぬ幸福を覚えつつ、
龍麻はさらに尻を撫でまわした。
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