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「やッ、マリア、やめ……っ」
「フフッ」
口腔を蹂躙する艶めかしい舌に、絵莉は子供の頃、軽く溺れた記憶が甦る。
必死にもがいても入ってくる水。
一生懸命吐き出しているのに、口の中一杯に広がる生ぬるい苦しさ。
マリアの舌は、それと似た感覚を絵莉にもたらしていた。
しかし幼少の記憶と異なるのは、まとわりつく快感。
彼女の舌が這い回った後に残る、根源的な心地良さに、絵莉は溺れ、沈んでいった。
「んぅ……ン……」
沈んでいくのを助けるように、マリアの舌が差し伸べられる。
だが彼女の舌は絵莉を助けることはなく、快楽の水底へ没していく為の案内人に過ぎない。
それと知りつつ、絵莉はマリアにしがみつく。
同性という抵抗も、理性を投げ出すという嫌悪も、
満ちてしまった快感の前にはもはや意味を持たなかったのだ。
「あ……ぁっ」
これまでに交わしたどのキスよりも酔いしれるマリアの、技巧に満ちたキス。
下腹を埋めつくす、龍麻の逞しい男根。
そして、その二つだけでも耐え難い悦びだというのに、背後から最後の孔を愛撫する葵は、
絵莉にかつてない、意識が白むほどの恍惚をもたらした。
知識として、そこでも快感を得ることができるというのは知っていた。
しかし記者として必須の条件である、強い好奇心を持つ絵莉もさすがに試す気にはなれずにいたのだが、
それが今、年下の少女の手によって禁断の快楽に目覚めさせられようとしていた。
そして程なく絵莉は、マリアが、葵は上手いと言っていたのを実感させられることとなった。
ためらいなく不浄の孔に触れる繊手は、性急に責めてきたりはせず、
孔の周りをやわやわとくすぐり、奇妙な、むず痒い感触を植えつけてくる。
身動きもままならず愛撫を受け入れてしまうと、
快感が孔そのものを拡げられてしまったかのように蔓延していった。
「ん……んっ……」
葵は指腹だけで刺激を与えているが、少しずつ孔に沈んできている。
初めての場所なのに、確実に馴染まされているという事実に、
本能的な恐怖感に苛まれた絵莉は葵の手を掴もうとするが、マリアの舌と龍麻の屹立に阻まれてしまう。
嫌悪と快感に全身を嬲られた絵莉が混乱しているうちに、指先はするりと入りこんでしまった。
「……!! っ、むぅ……ッ!」
それは葵の側から見れば、中指のほんの先端が埋まっただけにすぎない。
しかし、その数ミリが絵莉の内面にもたらした衝撃は巨大だった。
膣とはまるで違う、身体の内側を嬲られる感覚。
汚いという意識の前に、来てしまう快感。
反応を試すように戻っていく指が、たまらなくもどかしかった。
ほとんど無意識に入り口の辺りをさ迷う指を求めて尻を振る。
その、まさに絶妙な瞬間に、葵の指は角度を変え、孔に対して垂直に立っていた。
「…………っ!」
望んでいた以上の快感に、限界を超える。
指先は爪が隠れる程度入っただけだったが、絵莉はあっけなく達していた。
一度大きく縮み、弛緩する感覚が意識を浚っていく。
だが、いつもなら気怠さと共に失せていく意識が、今はまだ体内に残る異物が繋ぎとめていた。
「絵莉さん……イキましたね?」
揶揄する龍麻にも応じる余裕はなく、絵莉は焦点を失いかけた瞳を向けるだけが精一杯だ。
もうこれ以上、どんな快感も受けつけたらいけない──警告を発する身体に従おうとするが、
まとわりつく者達はまだ彼女を解放しようとはしなかった。
「ひ……ッ、だめ、駄目ッ……お願い、もう許してっ」
これまで微動だにしなかった龍麻が、下から屹立を突きこんでくる。
脳を揺さぶられ、絵莉は涙すら流して許しを請うたが、
屹立は胎の奥にある、最も深い快感をもたらす部分を執拗に責めることを止めない。
「んく……ッ、はぁッ、ひっ、うあッ……」
閉じる暇も与えられない口からは、理性と対極にある叫びと涎が、
壊れたレコーダーのように垂れ流される。
腰を掴まれ、奥の奥を叩かれると、瞼の裏が痛みを感じるほど白んだ。
「あっ……んッ、あッ、っくッ」
一方上半身は、蛇のように腕を巻きつけたマリアに、
じわじわと首筋をねぶられ、同時に乳房を弄ばれていた。
マリアは爆ぜそうに膨らんだ乳首を爪先であやし、指腹で押さえて爪を立てる。
ひとつひとつの快感は小さくても、途切れることなく送りこまれる波は、
強く激しいけれども終わりを予感できるものと違って、いつ終わるともしれない恐怖があった。
浅瀬にいたつもりが、気付いたら首まで浸かっていた──
ましてや居るのが最初から全身浸かる深さの場所で、そこから果てなく沈んでいくとしたら。
だがマリアの愛撫は、そんな恐怖すら忘れさせるほど細やかで、
細胞に染みこんでくるような心地良さを与えてくれる。
龍麻とマリア、二人がもたらす共振めいた恍惚に、絵莉はなすすべなく浚われていた。
そこに訪れる、もうひとつの波。
「んはぁッ……あ、あッ……!」
そして、後ろの孔を掻きまわす葵の指は、最も激しい感覚を絵莉の全身に疾らせていた。
浅く突きたてられた指は、繊細な粘膜を傷つけまいと優しく動く。
それが絵莉には狂おしいじれったさとなって、ゆるゆると腰を動かさせた。
すると葵は心得た様子で指を埋めてくる。
ほとんど全身を犯している快感のただなかにありながら、絵莉にはその動きが手に取るように解った。
「……ッ、ぅ……」
呼吸しただけで、尻の辺りを漂う異物感が背筋を駆けのぼる。
それは葵の指先が孔を広げるように動き、少しずつ中へと入ってくることで途方もない愉悦となった。
全身の血管が興奮に脈打つ。
絵莉は、初めて経験する尻孔での快感を明らかに期待していた。
そんなところで感じてしまうという羞恥も、
異常な状況下の今ならさほど気にはならず、ただ快感にのみ没頭できる。
加えて龍麻とマリアが絶えず続けている愛撫が嫌悪や恐怖を薄れさせており、
絵莉は新たに覚えた快楽を、早くも享受し、貪ろうとしていたのだった。
「はぁッ……んむッ、う」
息を吐き出し、尻の中で点る熱に震えていると、マリアに唇を掬われる。
それに積極的に応えつつ、絵莉は腰を動かして葵に尻を差し出した。
「んッ……、ふぅッ!」
葵の指が抜けていく。
排泄の快感は、しかし長くは続かず、絵莉は腰を揺すってねだる。
求めに応え、すぐに再び入ってくる指先。
今度は中に留まらず、また排泄の快感を。
往復を始めた指に、絵莉は涙を流して悶えた。
「ふ、ぐぅっ……んふぅっ」
マリアにしがみつき、上体を預けて堕淫を味わう。
下腹の二つの穴からも、同じものが。
異なる方向から身体の中心へと向かう快感を流しこまれて、絵莉はひとたまりもなかった。
「んッ……! ッはぁっ、あぁっッ……!!」
身体が哭く。
穴を全て塞がれ、逃げ場を失った快感が濁流のように頭へと押し寄せた。
「んんっ……あ、ぁ……ッ、はぁ……っ」
奔流はすべてを押し流し、絵莉を絶頂へと連れ去る。
ただ肌に感じる龍麻とマリア、それに葵に必死に掴まって、
絵莉は荒れ狂う愉悦の波に晒され続けていた。

意識を取り戻した絵莉の五感が最初に得たのは、女の淫らな声だった。
何も見えず、一瞬うろたえた絵莉は、
自分が目を閉じていることを知り、恥ずかしく思いつつ目を開ける。
どれくらい続いたのかも判らない長いエクスタシーの末に、気を失ってしまっていたようだった。
まだ起きあがる気になれない絵莉は、セックスで気絶するのはもちろん初めてで、
それほどまでに乱れてしまった原因に自然と思いを馳せる。
下腹の、特に後ろ側には、まだ奇妙な感覚が残っていた。
セックスなど好きではないと思っていた自分だったが、どうやらそれはとんだ思い違いだったようだ。
全身に薄くたゆたう快楽の残滓をそっと撫でた絵莉は、再び目を閉じて小さく笑った。
龍麻に出会わなければ決して知ることはなかったであろう感覚は、しかし不快なものではない。
この歳で初めて雌の悦びを知った絵莉は、苦笑してその事実を受け入れた。
そっと顔を傾け、飽きることなく戯れている三人を見る。
今度はマリアを責めることにしたらしく、龍麻と葵は前後から彼らの教師を挟み、
それぞれに技巧を凝らして性の宴に興じていた。
それを見ていた絵莉は、不意に自分が仲間はずれにされているような気がした。
彼らにしてみれば、そんなつもりはないのだろうが──そこまで考え、絵莉は苦笑した。
既に彼らを繋いでいる鎖の一端に、自分も繋がれていることに気付いたのだ。
断ちきることは、決してできない鎖に。
指先を動かし、逃げ去っていた五感が戻っているのを確かめた絵莉は身体を起こす。
すると龍麻が目ざとく気付き、瞳で誘いかけてきた。
頷いた絵莉は、龍麻を端とし、どこまで続いていくかわからない連鎖の中に、
淫蕩な笑みを浮かべて飛びこんでいった。



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