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 マリアがアン子を籠絡している間、龍麻もぼんやりしていたわけではない。
友人が教師によって犯されているところを、無言で見守っている葵の身体をまさぐったりしていたが、
葵の肌はいつになく熱く、汗ばんでいたので、そのまま挿入することにした。
 後ろから葵を抱き、勃起したペニスを太股に擦りつける。
愛液はもうそこにまで伝っていて、いきなり挿れても問題はなさそうだった。
「アン子の奴、お前のフェラ見てオナってたんだってよ」
「そ、そんな言い方しないで……」
「でもお前もアン子がクンニされてるの見て濡らしてるんだから、おあいこだよな」
「違うの、私、アン子ちゃんが……!」
 よほど恥ずかしいのか、いつになく激しく反論する葵だが、
龍麻が下着に手を入れ、動かぬ証拠を指先に掬って見せつけてやると、途端に黙ってしまった。
「ほら、挿れてやるからもう少し足開けよ」
 両の太股をペニスで叩きながら命じると、諦めたのか、葵はおずおずと足を開く。
龍麻はさらにアン子が寝かされている教卓に手をつかせ、尻を突きださせると、
スカートを無遠慮にまくりあげ、染みというよりもびしょ濡れになっている下着をずらし、いきなり挿入した。
「ああぁんっ……!」
 フェラチオを中断させられたことでむしろ飢えていたのか、葵はすぐにだらしない喘ぎを発し、尻を揺すった。
相変わらず締まり具合がたまらない淫洞に、龍麻は力強い抽送を行う。
葵の腰を捉え、肉がぶつかるほど激しく突いてやると、葵は身も世もないように髪を振り乱し、牝の悦びに哭いた。
「あンっ、あうぅっ、あぁンッ、あぁ、駄目っ……!」
 直前まで気遣っていたアン子のことさえ眼中にないようで、腹を貫く男根の熱さに酔いしれ、
肢体をいっぱいに反らせて悶える。
 すっかり躾られた媚肉の、快い収縮を愉しみながら、さらなる淫虐を思いついた龍麻は、
やや抽送の速度を緩めると、葵の顔をアン子に近づけさせた。
「ほら、感じてるところをアン子に見せてやれよ」
 何度か絶頂を迎えさせられ、なおマリアに責めたてられているアン子は、意識も朦朧としている。
普段、人の倍は動くのではないかというほど酷使される口も、
今は腹から上ってくる呼気を吐きだすのに必死で、抗議さえできないアン子は、
時々息を詰まらせながら、いっときとして中断しない快楽にほとんど溺れている状態だった。
 そこに、いきなり葵の顔が突きだされる。
真神の生徒の誰に聞いても、間違いなく筆頭に挙げるだろう美人である葵の、快楽に染まった顔。
初めて見る友人の淫らな表情に、アン子は置かれた状況も忘れて魅入った。
「やっ……! 嫌っ、見ないでアン子ちゃん……!」
 さかんに首を振る葵の顔は、左右だけでなく上下にも揺れている。
それが何を意味しているのか、今のアン子には理解できた。
頭上で響く激しい音も、その音が響くたびに葵の顔が苦しげに歪むことも。
「美里……ちゃん……」
 化粧なんてしなくても近隣の学校からも見に来る男がいるくらいの美貌がまだらな朱に染まり、
卵形の滑らかな肌のあちこちには皺が寄っている。
顔だけを見たらどれほど酷い仕打ちを受けているのだろう、と思ってしまうが、
絶え間なく発せられる声はアン子でさえぞくぞくしてしまうほど甘く、
熱い吐息の塊が何度も落ちかかってきた。
 耳を通らず、顔の皮膚から浸透してくる淫らな呼気は、アン子の身体をも熱し、染めていく。
少し曇ってしまった眼鏡の向こうがわで喘いでいる葵と自分を半ば同化させかけて
慌てて頭を振るアン子を、さらにマリアまでもが責めたてた。
「フフ……」
 肩幅程度に開かれた足の間に陣取ったマリアは、匂いたつ淫花の香りをたっぷりと鼻腔に吸い、
スリットに舌を這わせる。
着ているベストと同じ真紅の舌は、的確に女の弱いところを探りあて、
甘美な痺れをアン子に与えた。
「あぅ、先生ッ……! あッ、あんッ、あぁあッ」
 剥かれたクリトリスを舌で包みこむようにねぶられ、たまらず叫ぶ。
自分のものとも思えない蕩けた声にアン子の羞恥は一層高まり、
それがまた快感を、気の遠くなるような快感をもたらした。
 下腹の一点から弾けた熱が、全身に広がっていく。
自分で触れたときとは比較にならないその熱は、しかも立て続けに発生するのだ。
特ダネのためなら何時間でも張り込める忍耐力も、この、
内側から衝きあげる情動に対しては何の役にも立たなかった。
「んッ、あぅッ……あ……ッ、あぁぁッ……!」
 吸いついて離れないマリアの舌に、アン子は翻弄される。
身体が動かせない分、快感は内側を駆け巡り、かろうじて自由になる口から少しでも熱を吐きだすのが精一杯だった。
 しかし、下腹から生じる熱は、吐きだすよりも圧倒的に多い。
マリアの愛撫は乱暴でこそないが、アン子の許容できるそれよりもずっと長く、間断ないのだ。
押しあげられ、一度着地することも叶わず再び連れ去られ、
アン子は奇妙な浮揚感を抱きつつあった。
 一人でするときは、どれだけ激しくても、浮きあがったりはしない。
落ちる感覚はあるのだが、だからといって飛んだような気分には、一度としてならなかった。
それが、マリアに愛撫されてからは、体重がゼロになったかのような気持ちよさが続いている。
このまま、もう少しこの気持ちよさを感じていたい。
いつのまにかそう思いはじめているアン子だった。
 そんなことを思っているアン子の頭上で、葵の動きが止まる。
それを感知する余裕はすでにアン子にはなかったが、その理由はすぐに身をもって知ることとなった。
「アン子ちゃん……」
「……!!」
 葵の唇が触れる。
同性と、逆さまに、そして――初めての。
幾つもの異常な状況が、何重もの衝撃となって触れた唇から全身を苛む。
特ダネを掴んだ瞬間でも、身に危険が及んだ時でさえも早まることのない鼓動が、
恐ろしいほどの早さでアン子の胸を叩いた。
しかも鼓動は頭の中に心臓を持ってきたかのような激しさで鳴り響き、あらゆる思考を蹴散らす。
生まれて初めてと言って良いくらい、アン子は自失していた。
 さらに葵の舌はアン子の唇を舐め、機関銃にも負けない、
アン子の強力な武器である言葉を紡ぐこともできない口の中に割って入ろうとしてくる。
「……ッ!」
 ぞくりとする情動に我に返ったアン子は、反射的に口を閉じ、侵入を防いだが、
葵は手慣れた様子で唇に愛撫を始め、こじ開けるのではなく自然に開かせようとする。
ぬらぬらと動き回る粘質の感覚は顎の筋肉から力を奪っていくようで、
アン子は思い通りに動かぬ頭を懸命に振って逃れようとした。
「ん……ふ……」
 けれども、それは最初から負けが決まっていた戦いだった。
身動きはできず、下半身はマリアに責めたてられ、級友のセックスを間近で見せられて、
理性が保つはずなどなかった。
 葵はそれが同性の唇であることなど知らぬかのように愛おしげに舐める。
これまで喋るが九割、食事が一割で、その他の用途など考えたこともなかったアン子の口だが、
何度もついばまれ、ふやけるほどに舐められ、甘い情動が目覚めつつあった。
「あ……う……」
 くちづけは想像していたより遥かに甘美だった。
雑誌の甘ったるい読者投稿を鼻で笑いながら読み飛ばしていたアン子も、認識を改めざるを得なかった。
もっと触れたい、もっと重ね合わせたい――
こんな異常な状況でも、そんな風に考えてしまう。
それほど葵のキスは情愛にあふれていて、
もしかしたら彼女は本当は自分のことが好きなのではないかと錯覚してしまうアン子だった。
「美里……ちゃん……」
 うつろなまま掠れる声で名を呼ぶと、葵はその柔らかな唇をぴったりと押しあててくる。
そのまま舌を滑りこませてきた葵を、アン子は遂に受けいれた。
「んっ……んッ……!」
 口の中を舐められるのは、もう充分に驚いたはずのアン子に、さらに新たな驚愕をもたらした。
ゆっくりと、けれど確実に中に入ってくる葵の舌は、今まで食べたどんなものとも違う感触だった。
耳の裏側が粟立ってしまうような、口腔以外の場所まで侵食される感覚。
おぞましさと紙一重ではあるけれど、確かにそれは、とろけるような気持ちよさだった。
「は……ふっ……」
 葵の熱く、甘い吐息が流れこんでくる。
あの葵がこんな声を出すのかというほど淫らな、淫らとしか言い表せない呼気が、
口腔に充満し、気道を落ちていった。
「んふぅ……ん……ん……っ、あぁ……」
 葵の舌がもたらす快美感に、アン子もいつしか舌を伸ばす。
触れあった舌同士はまだこんなに気持ち良くなれるのかというほど柔らかく、
すぐにアン子は葵に誘われるまま舌を絡め、唾液を擦りつけあった。
「あ、あぅ、美里ちゃん……」
「アン子ちゃん……」
 名前を呼ばれるだけで、ゾクゾクしてしまう。
女同士なのに、という嫌悪はそこにはなく、アン子は歯の裏側にくすぐったいものを感じながら、
葵の名を呼び、呼ばれて応えた。
唇を触れさせて、あるいは口の中で。
アン子は初めて味わうキスの甘さに、溶けるほど酔いしれた。
 後ろから葵を突く龍麻は、アン子が静かになったのを敏感に嗅ぎとっていた。
いくらアン子といえども、マリアの技巧と葵の魅力には抗いきれなかったようだ。
普段あれだけやかましいアン子が、教卓の上でぐったりとして美女二人に弄ばれているというのは
なかなか劣情をそそる構図で、龍麻は抽送を止め、葵の膣内から屹立を引き抜いた。
「あ……」
 物欲しげな声を発した葵が、アン子とのキスを止めて振り返る。
その仕種に満足した龍麻は、右腕で葵の腰を抱え、左手は葵の右足を持ちあげると、
生々しくくつろげられたままの淫唇に、今度は正面から挿入した。
「あぅっ……!」
 ぬかるみはたやすく肉茎を受けいれ、少し急激すぎたのか、葵は眉をしかめ、強くしがみついてきた。
嗜虐心をそそらずにはおかない表情に、龍麻は乱暴に腰を突きあげた。
「あっ……はぁっ、緋勇君……!」
 こんな体位で犯されてさえ健気に名を呼ぶ葵に、龍麻の血液は股間の一点に凝集する。
啜り泣く葵を壊れてしまえとばかりに、いきり立つ男根を渾身の力で葵の中心に撃ちこんだ。
「ひぅ……ッ、あぁッ、んはぁぁっ!」
 膣奥まで突きこまれ、葵は濁った悲鳴を続けざまに放った。
学舎には全くふさわしくない淫声が、たゆたい、くすぶる。
三年C組の教室内は、異様な淫気に満ちつつあった。
 龍麻が葵を立ったまま犯し、教卓の上に寝かされたアン子はマリアに禁断の扉を開かされようとしている。
性の宴に巻きこまれた友人を初めは気遣っていた葵も、片足を抱えた龍麻に突きあげられ、
ひとりで立っていることさえできずしがみついている有様だった。
「あぁっ、あ、緋勇……君っ、駄目、駄目っ……!」
 しっかり抱きついているくせに、そんな台詞を口走る葵に、龍麻は容赦のない抽送を繰りかえす。
制服もそのままに、片足を抱えあげられ、長い髪を振り乱して悶える優等生の姿は、
どこまでも龍麻の加虐心を加速させた。
「ほら、アン子にもっと聞かせてやれよ、お前のよがり声を」
 繋がったまま一度机の上に葵を座らせた龍麻は、両足を抱えて葵を持ちあげる。
「あんッ……んぅッ、許してっ……!」
 自身の体重で膣のより深くまでペニスを迎えた葵は、もはやアン子のことなど頭の片隅にもない様子で、
龍麻に揺すられるまま口をだらしなく開き、喘ぐばかりだった。
 愛液でどろどろになっている膣内は、乱暴なストロークにも葵に痛みを与えることはなく、
この体位でなければ届かない奥を抉られて、葵は半ば失神しかけている。
そこで龍麻が抽送を緩め、顔を寄せると、葵はほとんど本能的に唇を重ね、舌を交えた。
「んふぅっ……ふっ、はッ、緋勇君……!」
 身体を大きく揺らされ、くちづけがままならなくなっても、舌だけでも絡めようと伸ばす。
びちゃびちゃという品のない音を響かせ、クラス誇りの委員長は数多の体液で床を汚した。
 すらりとした肢体を屈め、白い足のほとんどを剥きだしにして、葵は龍麻にしがみつく。
赤ん坊がするような格好は、均整の取れたプロポーションの葵がすると滑稽にすら見えるが、
それは卑猥さと隣り合わせのもので、龍麻に抱っこされた葵は、自身の重みでずぶずぶと挿ってくる肉茎に、
赤ん坊の無垢とは対極の淫悦を貪っていた。
「あぅん……あ、あ、あっ、あ、あぁ――!」
 絶頂はすぐそこまで近づいている。
ほどなく龍麻が与えてくれるであろう最高の幸福を、葵はわずかたりとも逃すまいと、
最後の力を振り絞って龍麻に抱きついた。
 葵を軽々と抱きかかえる龍麻は、全能感に酔いしれながら葵を追いつめていく。
天を向く怒張に女陰を挿し、ぐいと突きあげるのは、まさに神と一体化するかのような恍惚だった。
女を哭かせ、ものにするという根源的な支配欲に、腰はそろそろ爆発しそうだ。
葵を降ろした龍麻は、ふらふらになっている身体を支え、教卓に手をつかせると、再び後背から犯した。
「あふっ……う、あ、んう、ああんっ……!」
 すでに何度か絶頂を迎えている葵は、息もたえだえになっている。
龍麻にもそれほど余裕はなく、葵の、細やかな収縮を始めている膣壁に、
もはや技巧も何もない、ただ力任せに打ちつけるだけの抽送を繰りかえした。
「あぅッ、緋勇君、緋勇君っ、私っ、も、うっ、あぁッ、あぁ――!!」
 教室中に響き渡る声で、葵が果てる。
その快い悲鳴をトリガーとして、龍麻もこらえていた絶頂を解き放った。
狭い膣内に思いきり射精する、牡として最高の至福を存分に味わう。
さらに腰を密着させ、全ての精液を葵の中に注いでから、ゆっくりと龍麻はペニスを引き抜いた。
「うぅッ……あぁ、ん……」
 胎の中に熱い飛沫を注ぎこまれて、葵は最後の痙攣をする。
ぐったりと崩れおちる葵を抱きとめながら、龍麻は隣で行われている、
もうひとつの媚宴を思いだし、そちらに視線をやった。
 アン子にも、終わりの刻が近づいていた。
マリアによって下半身はいうまでもなく、葵にも劣らない大きさと美しさを備えた乳房もさんざんに責められ、
しかも級友のセックスをすぐそばで聞かされているのだ。
理性を保っていられるはずもなく、とうに暴力的なまでの快楽に髄まで犯され、何度となく達していた。
「はぁッ……あぅ、んんッ、やぁッ――!」
 金属質の悲鳴が弾け、消える。
気持ち良い、良すぎる快感に、我を忘れて悶えるアン子は、自らの放つ喘ぎで束の間我に返った。
けれどそれは一呼吸するかしないかのうちに、マリアの肉感的な唇で封じられ、
再び絶頂までの数分間、意識が霞んでいく、その繰りかえしだった。
「うぅ、んうぅっ……はぁッ、あぁんッ……」
 ねぶられ尽した舌は、もはやそこにあるのかどうかすらわからないほど感覚が失せている。
マリアの舌に、あるいは唇に触れることでようやく取り戻せる感覚を、アン子は求め続けた。
先ほど交わした葵とのキスとは全く違う、根元から引っ張りだされるような、けれど段違いの快感。
口の中をまさぐる舌と、苦しくなった息を鼻から吸う時に嗅ぐ香水の匂いが、アン子を酩酊させる。
どうせ身体は動かないのだから、身を任せていればいい。
胸や秘唇をたえず触りつづけるマリアの手にも、いつしか反発の気持ちはなく、
敏感なところを違わず触ってくれる繊手を待ち望むようにさえなっていた。
「あぅん……あ、あ、あっ、あ、あぁ――!」
 ひときわ大きくなった葵の声が聞こえてくる。
聞くだけで下腹が熱くなるのはアン子だけではなかったようで、
アン子の耳元に顔を寄せたマリアの囁きは、はっきり興奮しているのが伝わってきた。
「フフ、美里サン、イクみたいね……アナタもイキなさい、遠野サン……!」
 耳筋を素早く舐めあげたマリアは、クリトリスへの責めを激しくする。
求めるよりも遥かに大きな快感が、一気に刺激を受けているところから膨らんできた。
それはあっという間に身体全体へと広がり、もう何度目かもわからない浮揚感となった。
「ッあ、う、せん……せッ、嫌ッ、あたしッ……!」
 アン子は叫んだ――自分の意思によらず。
そして包まれた――途方もない、身体がバラバラになってしまうかというような恍惚に。
赤く濡れたマリアの唇を至近に見たのを最後に、アン子は記憶を失ったのだった。

「おはよう、緋勇君」
「ああ、おはよう」
 夜は幾人もの女性を侍らせる龍麻も、朝の早い時間は普通の高校生と変わらない。
校門のところで葵から挨拶を受け、確かに人好きのしそうな笑顔で応じた龍麻は、そのまま二人で教室へと向かった。
 道すがら、龍麻が昨日の顛末を語る。
「昨日、あれからマリア先生、アン子を連れて帰ったんだってよ」
「え……?」
 龍麻の口調は実にさりげなく、はじめは意図を把握しそこねた葵も、
すぐに気づいてみるみる顔を赤くした。
龍麻と異なり眠気を引きずるような生活は送っていない葵には、
ブラックのコーヒーよりも強烈な話題だったようで、その後もしばらく言葉が出てこない。
龍麻が次に葵の、一滴だけ垂らしたミルクのように、控えめながら好奇心がわずかに滲んだ声を聞いたのは、
廊下を歩いて教室を一つ通り過ぎてからだった。
「それで……?」
「さあ、でもマリア先生も結構容赦ないからな、今頃アン子死んでるかもな」
 物騒な冗談に葵はますます顔を赤くする。
 それを横目で見た龍麻はこの時間、空いてる場所はどこかあっただろうかと算段を始めた。
さすがに教室は危険なので、どこか特別教室辺りで――
画家も顔負けの正確さで頭の中で校舎を描いていると、いきなり尻をひどく蹴とばされた。
武術もそれなりに修めている龍麻が、まるで気配を察知できず、ぶざまに吹っとばされて振り返ると、
そこには腰に手を当て仁王立ちしている遠野杏子その人がいた。
「ア、アン子……」
「誰が死んだんですってェ」
 赤い布を見た闘牛もかくや、というほど鼻息を荒くしたアン子は、
龍麻と、彼を助け起こすふりをして背後に隠れた葵ともども、指を突きつけて弾劾した。
「アンタ達、昨日はよくも親友を酷い目に遭わせてくれたわね」
 誰が親友だ、と龍麻は葵に目で問うが、葵から返事はない。
そもそも酷い目に遭わせたのは自分たちではなくてマリアなのだが、
多くの女に手を出し、その全員と上手くやっている百戦錬磨の龍麻でも、
今のアン子を言いくるめられるとは全く思えなかった。
 逃げるにしても葵を置いてはいけず、進退極まった龍麻は、
せめて致命傷は避けようと鞄をたぐり寄せる。
アン子が腰を落とし、右足を軽く引いて構えるのが見えたからだ。
武術を修めている龍麻には、その構えが理にかなっていて、狙いもきちんと定まっているのが良くわかる。
鞄だけで、防げるだろうか――
生唾を飲み下し、龍麻はその瞬間に備えた。
 しかし、走る、蹴るという能力においては真神一かもしれない健脚は、
予想に反して振りかぶられはしなかった。
「今日、マリア先生の家に来なさいって。美里ちゃんもよ」
「――え?」
「いい、伝えたわよッ!」
 闘牛士を仕留められなかったのが不満な牛のように、足を踏みならしてアン子は去っていく。
「……」
 その後ろ姿が見えなくなるまで追っていた龍麻と葵は、
短い伝言の意味を噛みしめると期せずして顔を見合わせ、
アン子を一晩でここまで変えたマリアの手腕に、慄然とする他ないのだった。



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