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霊研に戻った二人は、示し合わせたように椅子に腰を下ろした。
助かった安堵からか、一瞬、龍麻はさっきの物について聞こうと思ったが、
すぐに世の中には聞かなくても良い物があることを思いだし、口を閉ざす。
これまで忘れていた冷や汗が一度に噴き出し、厭な冷たさをもたらしてくれた。
熱いシャワーを思いきり浴びたい、帰ったらまずそうしよう。
そんなことを龍麻が考えていると、ミサが話しかけてきた。
「……大丈夫?」
「俺はなんとか。裏密さんは?」
「大丈夫〜。でもちょっと疲れちゃったから〜、休憩してから帰るね〜。
ひーちゃんは先に帰っていいよ〜、お疲れ様〜」
あれだけの脅威に接しておいてちょっとしか疲れていないのは大したものだが、
そんなことを言われても夜の学校にミサを一人残して帰れるはずもないし、
それに、さっきの化け物がまた現れないとも限らない。
小さくため息をついた龍麻は、
早くも規則正しい呼吸音を漂わせるのみとなったたミサから少し離れた床に腰を下ろした。
ミサの背後から、巨大な満月が煌々と光を降り注いでいる。
本が灼けるから、と陽の光を好まない主を持つ霊研でカーテンが開かれているのは、
とても珍しいことだった。
青白い光を一身に浴びて、いつもと同じ場所で眠っているミサ。
何気なくそれを見ていた龍麻は、今が千載一遇のチャンスであることに不意に気付いた。
「裏密さん……寝ちゃった?」
返事は無い。
音を立てないように慎重に立ちあがった龍麻は、忍び足でミサに近づいた。
月明りを浴びて眠るミサの顔から、眼鏡がずれて落ちそうになっている。
全ての偶然は、必然である──
誰が言ったかは忘れたが、そんな言葉を思い出した龍麻は、
伸ばしかけた腕を二回戻し、呼吸を整えて──そっと、眼鏡を外した。
息を止めたまま、机の上に静かに眼鏡を置く。
あとは、彼女が起きる時の一瞬を待てばいい──
待つ楽しみを得た龍麻は、元いた場所まで後ろ足で戻ろうとする。
しかし、それを楽しむことは出来なかった。
「見たわね〜」
「うッ、裏密さんッ、起きてたの!?」
「ミサちゃんの秘密を知った者には〜、死あるのみ〜」
龍麻はここが夜の学校ということも忘れて、大声で狼狽する。
ミサが言う「死」には、本当に呪い殺されそうなインパクトがあった。
「ごッ、ごめん」
龍麻が謝っても、ミサはじっと見つめたまま答えない。
初めて見る小さな瞳は、魔力を持っているかのように龍麻を惹きつけて離さなかった。
薄い黒色に、微かに紫水晶アメジストが混じっているような色。
それは、見せてもらったことのあるどんな石──もちろんオカルト的な──よりも綺麗だった。
少し目を寄せて、じっと自分を見つめるミサに、龍麻は呼吸を忘れ、我を忘れる。
ミサの細い顎をそっと撫でていると気付いたのは、月が輝きを増した時だった。
二つの宝石に引きこまれるように顔を寄せ、影を生み出す。
その宝石は、昏くなった時にこそ真の美しさが発揮されるようだった。
閉ざされていくミサの瞳に合わせるように、龍麻も光を捨てる。
時が、止まった。
両腕で優に余る華奢な身体。
そして、硬さの残る、小さな唇。
感じるはずのない月光の熱を首筋に感じながら龍麻が唇を触れさせている間、
ミサは身じろぎひとつしなかった。
しかし、わずかに月にかかった雲が、少しだけ引け目を感じていた龍麻を錯覚させる。
怖れを感じて顔を離すと、ミサがじっと見上げていた。
何も言わず、ただ大きく目を見開いて水晶の魔力を開放している。
閉じる前よりも濃さを増した紫は、龍麻の理性をぎりぎりのところまで引き下げ、
そして、満月の妖光のみが照らし出す薄紅の頬は、そのぎりぎりの線をたやすく越えさせた。
ただ、ミサを手中にしたい。
澄みきった欲望は、一途な想いと変わらなかった。
焚きつける心臓に促されるまま、龍麻は小柄な身体を再び抱き締めた。
ミサがいつも使う占いの台の上に座らせ、もういちど軽く口付けながら胸に手を這わせる。
少しでも嫌な素振りを見せたら、すぐに止めよう──
そう誓ってはいたものの、実際それを守れるかどうかは自信が無かった。
現に今、制服の上にあるはずだった手はいつのまにか内側へと潜りこみ、
下着の上から小さな膨らみをまさぐっている。
そしてそれでさえも物足りないとばかりに、早くも下着を強引にずり上げ、
直にミサに触れようとしているのだ。
更に狡猾に背中に腕を回して動きを封じ、足の間に身体を割り込ませる。
ミサの表情から逃げるように耳朶を咥え、指先が捉える小さな蕾を擦りたてていると、
いきなり後ろ髪が引っ張られた。
予想もしていなかった奇襲に、臆病な狩人は一瞬で硬直してしまう。
何故か走馬燈めいたものまで回り出す龍麻に、
いつもと同じ調子の、しかしどこかくすぐったさを含んだ声が聞こえてきた。
「えっち〜」
自分の心臓の音にかき消されて良く聞こえなかったが、ミサは確かにそう言った。
二重の驚きに包まれる背中を、続きを促すようにミサの手が撫でる。
龍麻は思いきって、ミサが今どんな表情をしているか覗いてみた。
煌々とした月の光が、青みがかったミサの髪を幻夢的に染め上げている。
昼間はぼさぼさにしか見えない髪は、この夜の灯りを浴びてはじめて真の美しさを放っていた。
髪だけでない、化粧などまるでしたことのなさそうな肌も、
あまり血色の良く無さそうな唇も、
月光の下に彼女と立つ事を許された者のみが知り得る姿を解き放っていた。
それを、恐らく人間では初めて目の当たりにする光栄を担った龍麻は、
感歎の吐息を漏らしたが、自然の照明に頼らずとも以前から彼女の真価を見抜いていたから、
特別に驚きはしなかった。
それどころか容赦無く二人を照らし出す月光が、今となっては少し無粋に思えたため、
自分の身を持って月からミサを奪いとる。
「どうしたの〜?」
「ん……いや、なんでもない」
説明するには恥ずかし過ぎる事をやってのけた龍麻は、口を濁して愛撫を再開した。
しかし、それも程なく中断させられる羽目になる。
「えっと……その、ちゃんと……感じ……てる?」
そんなことを聞くのが男としてなってないということは知っていたが、
あまりに反応の薄いミサに尋ねずにはいられなかった。
「……大丈夫だよ。ちゃんとひーちゃんの想いエロスは伝わってきてるから」
「そ、そう」
半信半疑のまま、一応硬くはなっている胸の先端を指腹で転がしてみる。
すると確かに、ごく微量ながらもミサは身体を震わせていた。
ミサが淡白なのか、それとも自分が下手なのか判然としないまま、龍麻はゆっくりと続きを行なう。
房、と呼ぶのも少し難しい、小さな胸。
ただ一遍で征服してしまわないよう、何度も何度も指先を往復させて丘を登った。
それでもさほどの時間はかからずに頂まで来てしまい、
ようやく摘める程度にしかなっていないそれを爪の甲で軽く撫でる。
「…………」
背中を掴んでいる手が、小さく強張った。
それをシャツ越しの皮膚で捉えた龍麻は、今度は反応を覗うように二本の指で摘んだ。
「…………」
背中はさっきよりも強く掴まれたが、やはり声は聞こえない。
諦めた龍麻は、やや早急に腕をスカートの中へと忍ばせた。
足の間に手を差し入れ、それらしき場所を撫でていると、少しずつ湿り気が伝わってくる。
今度はその湿っている場所を中心に指を前後させると、やがて熱を帯びてきた。
ミサは相変わらず顔を隠し、感じているかどうかを容易に判らせないが、
時折不規則な呼吸が首筋に浴びせられることで、人並には快感を味わっているとなんとか解ったので、
唾を飲み、いよいよミサとひとつになろうと、下着に手をかけた。
そこではたと気付く。
ミサはどんな下着を履いているのだろうか。
それは、ミサに関する事柄の中でも最大級の秘密であり、
どうしようもなく興味をそそられた龍麻は、さりげなく身体をずらして自然の照明にミサをあてた。
するとどうしたことか、これまで明るすぎるほどだった月は、今や完全に雲間に姿を隠してしまっている。
思わず後ろを振り仰いでそれを確かめた龍麻は、肝心な時に役に立たない月に呪詛の念を投げつけ、
無念のうちにミサの方へ向き直った。
「うふふ〜」
まるで自分の力で雲を呼んだとばかりに笑うミサに敗北感を募らせたが、
気を取りなおして慌しくズボンを脱ぐ。
高鳴る心臓が飛び出さないよう口を固く引き結び、いよいよひとつになろうと言う時、
ミサが胸を軽く掴んで押し留めてきた。
「待って〜。本当は、今日は星辰ほしのめぐりが良くないから〜、
あとあとひーちゃんに悪い影響が出ちゃうかもしれないよ〜」
「……いいよ」
そんなことを言われて引き下がる訳にもいかない。
それに、これはミサらしい照れ隠しかもしれないのだ。
上擦った声で頷いた龍麻は、華奢な腰に腕を添え、ゆっくりと腰を押し進めた。
極度の緊張が全身を包む中、秘溝の入り口が、軽く触れる。
下着の上から感じていたとおり濡れている秘唇は、先端を当てるだけで滑らかに入っていった。
温かな肉と愛液が亀頭にまとわりつき、痺れるような愉悦をもたらしてくる。
しかしそれも途中までのことで、程なく引っかかり、それ以上は容易には入らなくなってしまった。
体重を乗せ、無理やりに押しこむと、ミサが息を呑むのが聞こえたが、動きは止めず、
肉壁をこじ開けるように屹立を挿れていく。
胸を掴むミサの手が爪を立てたところで、龍麻は動くのを止めた。
全てをミサの中に埋めることは出来ていなかったが、それでも深い満足感が波のように押し寄せてきた。
「あの……大丈……夫?」
興奮した血液が下腹に集まったことで、少し落ち着きを取り戻した龍麻は、
ようやく自分が与えた痛みに耐えているミサを気遣った。
「……」
返事は無いが、額を身体に強く押しつけているところからすると、
破瓜の痛みはまだ治まってなどいないのだろう。
一言も声を出さずに我慢を続けているミサがいじらしくなり、
龍麻はしがみついている丸まった背中を幾度も撫でてやった。
罪を咎めるように昏さを増す夜の中、二つの影はいつまでも折り重なっている。
硬く、狭い彼女の中は侵入者を拒み続け、龍麻は動いて良いものか迷っていたのだ。
ゆっくりと、自然に荒くなった呼気を、押し殺しながら吐き出していると、
胸元を掴んでいたミサの手が、わずかに強まった。
それに勇気付けられるように腰を引き、再び媚肉の中へと己を押し入れる。
ミサは胸に顔を押しつけ、決して表情を見せようとはしない。
それでも、腰の動きを繰り返しているうち、小さな吐息が聞こえるようになった。
まだ喘ぎではないものの、普段ののんびりとした声ではない、掠れた呼吸は興奮を激しくそそり、
龍麻はぎこちないながらも繰り返し腰を打ちつける。
その度にしなるミサの身体は、彼女が受けているのが快楽よりも苦痛の方が多いと示していたが、
もう動きを止めることは出来なかった。
あまり滑りこそしないものの、それを補って余りある締めつけが、
痛みにすら近い快感を屹立に伝える。
欲望に侵食されていく理性を快いものに感じ、昂ぶるままに女体を蹂躙した。
叩きつける度に逃げようとする腰を捕らえ、密着せんばかりに身体全体で押しこむ。
小さなミサの身体の中では、無理やりにこじ開けられた媚肉の通路が、
凄まじいばかりの収縮で初めて迎え入れた異物をなだめようと蠢いていた。
もはや龍麻にも快楽はほとんどなく、ただ本能に従って牡の器管を突きこんでいる。
しかしそれも、終わりに近づいていた。
欲望を吐き出したい、という命令が、一点に集まっていく。
それに抗う事に慣れていない龍麻は、最初の射精感でもう耐えきれず、
そのままミサの膣に精を放ってしまった。
「──ッ! はぁ、はぁっ……」
膝が震え、砕けるような気持ち良さ。
ぎちぎちに塞いでいた屹立が力を失ってミサから抜け、
刺激から解放されたことで、改めて龍麻は快感に酔いしれていた。
男の身勝手さで身体を離そうとすると、ミサに服を掴まれる。
赤面しながらミサの顔を見た龍麻は、そこにありうべからざるものを見て、息を呑んだ。
目許に輝く、透明な宝石。
瞳の紫水晶とはまた異なる、しかしそれに劣らない美しさの輝き。
おそらくそれは痛みが生み出したものであったろうが、
龍麻は、二つの異なる輝きに完全に魅了されていた。
思わずそのひとつを指先で掬うと、ミサが小さく鼻をすすりあげる。
慌ててハンカチを取り出した龍麻は、
それが使い物にならなくなるまで鼻をかむミサにずっと付き合っていた。
こうして、龍麻にとって夢のような──というよりも、夢そのものの体験が終わったのだった。

翌日。
気配を感じて、龍麻は振り向いた。
すぐ目の前に、ミサが立っていた。
「……ど、どうしたの?」
驚きを抑えこむことは出来ず、やや上擦った声で尋ねる龍麻に、ミサは手を差し出した。
「はい、これ〜」
龍麻の手に何かを押しつけると、ミサはあっという間に姿を消してしまう。
呆然と見送った龍麻がふと手を見ると、そこには二体の人形が握られていた。
片方は制服を着ているところからすると、どうやら自分を模したものらしい。
そしてもう片方は、大きさこそ小さいものの、
ミサが普段肌身離さず持っているものと良く似たデザインだった。
「うわ……お前、呪われんぞ」
龍麻に声をかけようとしてやり取りをたまたま見ていた京一が、いかにも不気味そうに呟く。
「……そうかもな」
いや、きっともう呪われているに違いない。
小さく笑った龍麻はポケットに人形を入れると、訝しむ京一の肩を抱いて歩き始めた。



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