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「く、ふぅ……ん……」
満ちる寸前で止められ、干ききる寸前で再開された愛撫に、
葵は、正確には彼女の肉体は期待をこめる。
だが、今度も頂まで押しあげられることはなく、心地よい刺激は心地よいだけで終わってしまった。
「あぁ……」
微量のうらめしさが含まれた吐息が消え去り、亜里沙の指が動きだす。
そして繰り返される寸前での停止。
「……」
顔を覗きこむ亜里沙を、葵は珍しく真っ向から見据えたものの、
何かを言うには至らず、唇をきつく閉じ合わせただけだ。
強い意志を表明する仕種も、しかし、拭うこともできない快楽の残滓が唇の端に溜まっているのでは、
迫力を醸しだすことなどできはしない。
亜里沙は彼女の瞳を見返したまま、股間に添えたままの指を軽く左右に振った。
「あっ……あ……!」
見せたはずの意志をたやすく崩壊させてしまい、葵は一転して目を伏せた。
「ほら、認めなさいよ。『私はオナニー大好き女です』って言うだけなんだからさ、
簡単でしょ? このままだとずっとイケないわよ?」
言いながら亜里沙は指の動きに緩い弧を描かせた。
蜜をたくわえた湖の、岸とごく浅い部分を擦られて、葵は満足げに息を吐く。
けれども満たされたのはわずかな間で、すぐに、身体はより強い刺激を求めはじめた。
「あぁ……」
肩のところで水平に掲げられた手が、せわしなく開閉する。
まだ伝った小水が乾ききってはいない足先が、もどかしげにくねる。
亜里沙が指を動かす。
収まりかけた痛痒感がぶり返して、葵は目を閉じ、息を止める。
快感が追ってくる。
葵が息を止めているあいだずっと、その時だけ亜里沙は愛撫を続ける。
たまらず葵が息を吐くと、その瞬間に愛撫は止み、満たされなかった不満が全身を苛む。
そして不毛な、絶対に逃げ切れない逃走劇を繰り返す都度、不満が、
砂粒がいずれ砂丘となるように、葵の内側に堆積していくのだ。
「くっ、ん……」
葵が訴えかけるように見る。
潤んだ瞳を真っ向から受けとめながら、しかし亜里沙は彼女の口が開くまで、
決して求めるものを与えない。
値切ろうとする客を相手にする老練な商人のように、相手が折れるまで辛抱強く待つのだ。
「は……ふ……」
とば口まであふれ出ている粘液を指に付け、鼠蹊部に塗りたくる。
そんな微弱な愛撫でさえ、焦らされている葵には巨大な快感となるらしく、
いきむような息遣いが不規則に漏れていた。
「そろそろ我慢も限界じゃない? どうしてそんなに意固地になってるのかしらないけどさ、
いっぱい気持ちよくなりたいでしょ?」
亜里沙の囁きに顔を上げた葵の瞳は、焦点を失いはじめている。
だが、亜里沙が呆れ、かつ感心したことに、それでも葵は屈服しなかった。
「わ……たし……そんな、こと……言え、ません……」
「あらそう。それじゃ残念だけど、また続けなくちゃね」
刃向かえる可能性も逃げられる可能性も皆無なのに、
なぜ抵抗を続けるのか、怒りよりもむしろ興味が湧いてきて、亜里沙は責めを再開させた。
「くふっ、あ、あぅ……」
何度となく絶頂の寸前で止められている葵の腰は、もう哀れなほどひくついていて、
イカせてしまわないよう亜里沙の方が気を遣わなくてはならない。
制服はほとんどが破かれ、葵の裸身は彼女を縛める鎖によってかろうじて保護されている有様だ。
その鎖も彼女を包み隠すにはとうてい足りず、
乳房や股間など肝心な部分はほとんど晒けだされていた。
クレヴァスに指を浸し、同時に鞭の軌跡も生々しく残る肌にも、亜里沙は指を走らせる。
「うっ……」
痛みか、それともそうでないものにでか、葵が呻いた。
恥毛を、腹部を、乳房を、腋を。
無遠慮に、かつ採寸するときのような細やかさで撫で、葵が昂ぶったとみるや離れる。
責め苦を負わされた葵は目から大粒の涙をこぼしながらも耐えていたが、
亜里沙の焦淫が十回に及んだとき、遂に折れた。
「おね……がい……も、う……おか、しく……なりそう……」
「言う気になった?」
大きくだらしなく開かれた口から、涎と呼気とを吐きながら葵はうなずく。
その頬に掬った愛液を擦りつけて、亜里沙は愛さえ込めて言った。
「それじゃ、言ってごらん。あんたがどれだけいやらしい女か、はっきりとさ」
「わ……たし……毎日、い、いやらしい……ことを考えて、夜……オ、オナニー、して……」
「たとえばどんなことを考えてしてんの?」
「ら、……乱暴にされるのとか……」
「とか?」
亜里沙は聞き逃さなかった。
葵は言いたがっている。
秘めた性癖を吐露したがっていると確信していた。
「この際だから全部言っちゃいなさいよ。その方がスッキリするでしょ?」
それでも、葵が告白するには長い時間を要した。
もう一度焦らしをかけようかと亜里沙が考えはじめた頃になって、ようやく唇が開いた。
「む……鞭で……叩かれたり……」
「……それってもしかして、あたしのを見て?」
葵の頭はかろうじて視認しうるていどに動いた。
不思議な『力』を持つ仲間達の中で、何も持たない亜里沙が必死に振るっていた鞭を、
まさか打たれたいと思って見ていた女がいたとは。
亜里沙は爆発しそうな気分だった。
怒りではなく、いくつかの圧縮された感情によって。
「あははッ、あんたのことお高くとまってるお嬢様だと思ってたけど、
中身はとんだ変態だったんだね」
鞭の傷跡を、今度は強く握る。
「ちょっとやり過ぎたかなって思ってたのよ。でも全然、あんたは悦んでたなんてね」
うつむく葵の髪を掴み、前を向かせた。
「やっとわかったわ。この世界を創ったのも、あんたでしょ」
「ち、違うわ」
「この期に及んでシラを切るつもり? まさか鞭で打たれたいからってんじゃないでしょうね。
だったら許さないわよ」
「本当よ、信じて!」
葵は割れた声で叫んだ。
「じゃあ誰がやったってのよ」
「それは……わからないわ。でも絶対に私じゃないわ」
「どうかしらね」
答えながら亜里沙は違うと思っていた。
葵を信じたわけではないが、鼻水まで流しながら否定するのが演技だとは思えない。
「……てことは、どっかにあたし達を見てる奴がいるってこと?
面倒くさいわね、結局探さないといけないのね」
亜里沙はぼやいて頭を掻いた。
その亜里沙を葵は意味ありげに何度か見やり、亜里沙が気づかないと知ると、
彼女らしからぬ早口で注意を惹きつけた。
「ふ、藤咲さん」
「何よ?」
「は、話したから、だから」
「だから?」
「だから……お願い、最後まで、して……」
最後は消え入りそうな葵の声に、亜里沙の哄笑が被さる。
砂漠の熱風に似た乾いた、容赦のない笑い声に、葵の眼の端に涙が滲み、頬を伝った。
「こっちはここから出る方法考えてるってのに、
エロいこと考えてるなんて、あんた筋金入りだね」
「だ、だって」
そんな状況に追いこんだのは亜里沙なのに、という
恨めしげな葵の眼差しを亜里沙は完全に無視した。
「いいわ、イカせてあげる」
亜里沙は葵の乳首を口に含み、左手でも弄び、右手は股間に伸ばす。
巧みな愛撫がこれまでと異なるのは、葵が求める以上の快感を与えるところだ。
四肢を縛られて身動きができない少女が、散々に焦らされ、
ついにもたらされた淫楽で歓喜に打ち震える姿は、神々しいまでにいかがわしかった。
「ふ、あぁっ、あ、あ、んんっ」
自らを抑圧から解き放った葵のあられもない叫びは、周辺を埋め尽くす砂にも匹敵するほどだ。
陽炎にように立ちこめる聖女の淫ら声は、彼女自身を包み、亜里沙をも包む。
「ああ、本ッ当、いやらしいのねあんた。男共を食いまくってんじゃないの?」
「そ、そんなことしてないわ」
「じゃあ、まだバージンなの?」
快楽に酔いながらも、葵は頷いた。
亜里沙は膣内に指を挿れて確かめる。
「嘘じゃないわね。へえ、あんた男知らないくせにこんなエロいんだ」
挿れた指をそのままに、浅く掻き回す。
とめどなく零れる蜜は、瞬く間に亜里沙の手をびしょびしょにした。
「いいね、あたしあんたにすッごく興味が湧いてきちゃった。
あんたが男にヤラれる前にさ、もっともっと、どうしようもないくらいエロくしてあげる。
男が引いちゃうくらい」
葵が低く喘ぐ。
それが亜里沙を恐れてか、それとも快楽を期待してか、亜里沙にはもう解っている。
「あんたのエロいところをたっぷり見れば、あたし達をここに閉じこめた奴も
たまんなくなって出てくると思うんだ。そうすりゃ一石二鳥だからね」
淫珠に触れた亜里沙は、葵の耳に口を近づけて言った。
「で、あんたどんな風にオナニーしてんの?」
言わなければまた責め苦が待っているだけだと観念したのか、葵はつまびらかに語りはじめた。
「最初はクリトリスを……上から撫でて……んっ、き、気持ちよくなってきたら、
つ、摘んでみたりし、てっ、それと、し、下から持ちあげるよう、にっ、したりとか、
ちょっと強く擦ってみたり、とか……」
葵の声が途切れるのは、亜里沙が彼女の言った通りに触るからだ。
小さい絶頂も何度か迎えているようだが、本格的な波には至っていない。
「胸も触ってるんでしょ? 感度いいもんね」
乳首を甘噛みしながら訊ねると、葵は言わずもがなといった風に激しく頷いた。
「え、ええ……お願い藤咲さん、もっと……強、く……んあッ……!」
「噛まれた方が感じるなんて、あんたも大概ねぇ」
「はァッ……はァッ……」
また一つ小さな絶頂を迎えたのか、葵はぶるりと腰を揺らす。
その直後、亜里沙は一転してクリトリスを責めはじめた。
「ひッ、う、ふ、藤咲さんッ、ま、待ってッ、今はまだッ」
引ききらない波がより大きな波を呼び、葵は狂乱の態だ。
彼女から吐きだされる体液の飛沫を浴びながら、
亜里沙は動けぬ葵をいたぶり、高みへと押しやった。
「かはッ、ゆ、ゆるしてっ、苦しいの、ひぅッ、ひぃぃっ」
しわがれた悲鳴はおよそ聖女のものとは思えない。
葵にそんな悲鳴を発っしさせている亜里沙も、興奮の極みにあった。
「ほらッ、イキなっ、イッちゃいなよッ」
乳房を思いきり掴み、首筋に、胸に、二の腕に歯を立てる。
さらには葵のもっとも弱い場所である淫らな芽を、中指と人差し指で挟み、激しく擦りあげた。
「うッ……はァんッ、あ、あ、駄目、あぁッ、だめ、だめぇッ――!!」
鎖を千切らんばかりの勢いで、葵の腰が跳ねあがる。
弾きとばされそうになりながら、亜里沙は、とどめの一撃を与えた。
「ひぐぅぅッッ――!!」
淫珠を潰された葵の口から、もはや官能を通り越して下品と言える悲鳴がほとばしる。
吐き散らされた体液が偽りの陽光を浴びて異様に煌めき、
メッキの剥がれた聖女を、彼女にふさわしい装飾として飾りたてた。
「あッ……あぁぁっ……はぁァん……」
禊ぎを終えた罪人の顔で、葵は絶頂の余韻に浸っている。
それはある種の神聖さをも備えていて、弛緩しきった彼女に、
亜里沙は自分でも捉えどころのない激情に衝き動かされて詰め寄った。
「あ……あぁ……!」
亜里沙が彼女の顎を掴み、激情をぶつけようとした寸前。
締まりのない声で呟いた葵の下方から、情けない音が聞こえてきた。
二度目の放尿は亜里沙も予想できず、間近な距離で飛沫をまともに浴びてしまう。
「ちょッ、ちょっとッ、あんたもう漏らさないって言ったじゃない……!」
しかし、亜里沙は最後まで叫ぶことができなかった。
何が起こったのか把握する間もなく、葵と亜里沙、そして十字架と砂漠の、
夢の世界を構成する全てが薄れ、消えていく。
数秒も経たずして世界は虚無を迎え、そして、光が弾けた。
開いてしまった重い瞼を半分閉じて、亜里沙は渋々朝を迎えいれた。
頭を起こす前に目のピントを合わせたものの、すぐには起きあがらない。
もともと朝は多少苦手ではあるのだが、今日起きなかった理由は低血圧ではなかった。
なぜか身体が熱い。
季節外れの風邪でも引いたかと疑った亜里沙は、布団の中で小さく身じろぎした。
「……?」
下腹に感じた不快感。
何気なく手を伸ばした亜里沙は、そこがひどく濡れていることを知った。
「う……嘘でしょ!?」
思わず口に出してしまい、慌てて布団を被る。
確認のためにもう一度、今度はおそるおそる触れてみると、
そこはやはり漏らしたかのようにびしょびしょになっていた。
不快感に耐えつつ臭いを嗅いでみるが、アンモニア臭はしない。
おねしょという十八歳の少女には受けいれがたい悪夢ではなかったものの、
悲惨さにおいてはさほど変わらない現実に、亜里沙は愕然とした。
「あたし……寝ながらイッちゃったの?」
これまでこういった方面で飢えていると自覚したことはなく、
昨日もそういった夢を見るような経験は全くしていない。
なのに下着はもう捨てるほかないというくらい濡れていて、
身体にもうっすらと膜を張ったように快感が残っていた。
「じょッ、冗談じゃないわよ、何なのよいったい」
自分が自分でなくなったような悪寒に亜里沙は跳ね起きた。
とるものもとりあえず浴室に駆けこみ、身につけているもの全てを脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
思いきり熱い湯を浴びて頭をすっきりさせても、不愉快な気分は簡単に晴れるものではなかった。
いっそ湯船に浸かりたいと思い、少し迷った末に実行する。
全身が温まるにつれて落ち着きを取り戻した亜里沙は、顎を水面に着けて昨日の記憶を反芻した。
「つっても、学校終わったらずっと龍麻達と一緒だったし、他になんにもしてないわよ」
彼らとなら一晩中でも一緒にいたいくらいだが、そういうわけにもいかず、
亜里沙からすれば夜とさえいえないような時間に別れ、家に帰ってきた。
その後はもう一度外出するようなこともなく、おとなしく眠りについたのだ。
亜里沙は禁欲主義者ではないから、気持ちいいことは歓迎だ。
しかし夢の中で快楽を得るというのは、さすがに不愉快だった。
「にしても、よっぽど気持ちよかったのかしら、あたし。
その割にどんな夢だったのか全然覚えてないし」
亜里沙は呟き、爪を歯に当てる。
今まで自慰でもこんなに濡れたことはなく、それも謎に拍車をかけていた。
「あーもう、考えるだけムダムダ。さっさと忘れましょ」
それには現実で気持ちいいことをするのが一番だ。
湯船から上がった亜里沙は、目下のところ最も気持ちいい行為である、
龍麻達と一緒に行動するために、念入りに身体を洗い始めたのだった。
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