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 土曜日――昼下がり。
この日は学校もなく、高校生にとっては存分に時間を使える日だ。
勉強、スポーツ、あるいはアルバイト。
何を選んでも、貴重な経験となるに違いなかった。
 しかし、緋勇龍麻と桜井小蒔は、それらのいずれも選んではいなかった。
それどころか、大人たちが聞けば更生を促さずにいられない、
仲間たちにも言えない、爛れた時を過ごしていたのだった。
 小蒔は布団の上に横たわっている。
横たわる、というのは正確ではなく、仰向けの姿勢で足を上げ、
膝を胸の方に寄せた姿勢で、右と左の手首はそれぞれ足首と鎖でつながれ、
さらに、足を閉じられないように、足首同士には棒が架せられていた。
その上でアイマスクをされ、かなり不自由な姿勢を強いられている。
それが、今の小蒔が置かれている状態だった。
「エヘヘッ、こういうの初めてだけど、ちょっとドキドキするね」
「そりゃ、お前に素質があるんだよ」
「あーッ、ヒドいな、ひーちゃんがどうしてもっていうからやってあげたのに」
 頬を膨らませる小蒔に、怒っている様子も緊張している様子もない。
むしろ、拘束というSMの第一歩に、興味津々といった風だった。
「痛いところはないか」
「うん、平気」
 小蒔は小さく舌を出して唇を舐めた。
窮屈な姿勢ではあるが、拘束とはそういうものだと理解している。
股間が丸見えになっているのも、どちらかといえば興奮してしまうあたり、
龍麻の言う通り、素質があるのかもしれなかった。
「ふーん」
「なっ、何!?」
「いや、ここに」
 怪しい龍麻の声に、小蒔はぎくりとする。
どこを見られているか分からないというのは、思っていた以上に不安をそそった。
おまけに、四肢は全くといっていいほど動かせない。
何をされてもどうしようもないという危険に、今さら思い至る小蒔だった。
 小蒔の不安をよそに、いきなり龍麻は持ちあげられている尻の、
谷となっているところに触れる。
「ホクロがあるんだな」
「……! み、見ないでよそんなトコ」
「んなこと言われてもな、丸見えだぞお前のアナル。あ、締まった」
「いちいち報告しないでよッ!!」
 こんなプレイを受け入れてしまう程度には爛れている小蒔だが、
尻の孔をまじまじと見られるのはやはり抵抗がある。
「いやあ、いいケツだよな実際。京一なんかはでっけえケツばっかり追い回してるけど、
俺はこれくらい小さい方が好みなんだよ」
「へ、ヘンな褒め方しないでよ」
 欲望むきだしであっても、悪い気分はしない。
さらに龍麻が愛おしげに尻を撫でるので、早くも下腹がむずむずする小蒔だった。
これからどんなプレイが始まるのか、期待してしまう。
 しかし、尻から龍麻の手はあっさり離れてしまった。
何をするのか訝る小蒔に、龍麻は信じがたいことを言った。
「入ってきていいぞ」
 明らかに自分以外の誰かに向けられた龍麻の呼びかけに、小蒔は蒼白となった。
こんな恥ずかしい格好をしていられるのも、
相手が龍麻だけという絶対条件があるからであって、誰かに見られるなど論外だ。
信頼を裏切られた小蒔は、奔騰する怒りのままに叫んだ。
「ちょっとッ、どういうことなのひーちゃんッ!! ほどいてよこれッ!!」
 手足を動かしてなんとか拘束を自力で解こうとしてみるが、
もちろん解けるはずがない。
さらに問題なのは目隠しをされているため、誰が来たのか全く判らないことで、
股間を晒けだしている姿は、さすがに羞恥の限界を超えていた。
「ねえってばッ!! 怒るよッ!!」
 どれほど声を荒げたところでどうしようもないのは分かっている。
それでも、小蒔は叫ばずにいられなかった。
近くにいるはずの龍麻を探し、頭を闇雲に動かしてなじる。
「小蒔様……」
 だが、自分に呼びかける小さな声を聞いた瞬間、
小蒔の動きは心臓までも含めて急停止した。
声の主は、この場所にいてはならない人間の中でも、もっとも最悪の人物。
そして、もっともありえないはずの人物だった。
「ひっ……雛、乃……?」
 まだ機能を回復していない声帯から無理やり作りだされた声は、
小蒔自身にすら何を言っているのか聞き取れないほどの現実感のなさだった。
なぜ。どうして。なぜ。どうして。
同じ疑問が綿菓子を作る機械のように、頭の中で渦を巻く。
「駄目だって、こんなに早くバラしちゃ」
「あ……すみません」
 たしなめる龍麻の声も、こんな状況ですら律儀に頭を下げる雛乃の声も、
遠い世界から聞こえてくるかのようだった。
雛乃がここにいる理由を知りたくて、小蒔は束の間怒りも忘れて訊ねた。
「ど、どういうことなの!?」
「どうもこうも、雛乃にお前とどんなセックスしてるか話したら、
ずいぶん乗ってきたからさ、なんなら雛乃も一緒にするかって訊いたら、
二つ返事ではいって」
「そんな……」
 龍麻の説明は耳に入ってはきても理解ができない。
雛乃は小学生からの友人で、織部神社の娘であり、
おしとやかという言葉に目と鼻をつけたような少女だ。
性に奔放な小蒔と違って、男の影さえ近くにないような、
小蒔にとってある意味で憧れの女性だった。
 雛乃がこの部屋にいるという、最大級に衝撃的な事実に完全に動転していた小蒔は、
それ以上二人に質す気力も失ってしまっていた。
 部屋に入ったときから、片時も小蒔の裸から目を離さない雛乃と、
彼女と小蒔の中間に視線を固定させた龍麻が、等しく瞳に浮かべているものの正体は、
邪淫――制御を失った他者への劣情だった。
 二人がどのような表情をしているのか、確かめることができないながらも、
二つの眼光が灼く肌の熱が、小蒔を不安に駆り立てる。
その不安は、落ち着き払った龍麻の声で、一層深くなるのだった。
「それじゃ、始めるか」
「はい」
「まッ、待ってよッ、一旦これ外してってばッ!!」
 小蒔のいつになく真剣な叫びも、龍麻と雛乃には届かなかった。
二人にしてみればこれからすることのために小蒔を拘束したのだから、当然である。
「ねえ、ねえってばッ」
 二人が何も言わないので、小蒔の声が不安を帯びる。
彼女の不安は的中し、小蒔は、いきなり思ってもいないところを触られた。
「ひゃッ!? ひ、雛乃ッ、どこ触ってんのさッ!?」
 寝た姿勢から、わずかに浮きあがっている尻の部分。
完全に丸見えになってしまっている恥ずかしい部分の中でも、
もっとも予想していなかった、もっとも触れられたくない、排泄の孔に受けた刺激は、
小蒔を、尻尾を踏まれた猫のように叫ばせた。
 彼女の声の大きさに顔をしかめつつ、龍麻は説明する。
「ああ、言い忘れてたけど、ほら、雛乃は巫女だから処女を失くすわけにいかないだろ?
だから雛乃にはケツの方専門になってもらったんだ」
「もらったんだ、ってボク関係ないじゃない!」
「いやあ、雛乃もすっかりハマっちまったみたいでさ。
まあモノは試し、一回やられてみろって。どうせ俺もするつもりだったんだから」
「や、お尻なんて嫌だってッ! やめてってば雛乃ッ!!」
 こういったことに縁遠いと思っていた親友に、
考えられる限りほとんど最悪の状態を見られて、小蒔は短い髪を振り乱す。
 小蒔の股間に三つ指を突くような姿勢で陣取る雛乃は、
小蒔とは対照的な長い髪を身体の左右に垂らしたまま、
親友の興奮に合わせて収縮する菊門を愛おしげに眺めていた。
「ああ……小蒔様のお尻の孔、とても綺麗です」
「そッ、そんなトコ褒められたって嬉しくないってば」
 雛乃の呼吸を肌に――アナルに感じ、小蒔はどうにか尻を閉じようとする。
むろんそれは無意味な努力で、器具で固定された足は肩幅より閉じることもかなわず、
雛乃の前に全てを晒し続けるほかない。
「小蒔様……」
 うっとりと呟いた雛乃は、小蒔の臀部を左右に拡げる。
尻の孔が拡げられる感覚に、小蒔は動揺し、再び鎖を鳴らした。
「やッ、やだッ、何する気なの!?」
 疑問が形となる前に、雛乃が息を吸う音が聞こえる。
自分の悲鳴よりもはるかに小さな音なのに、
爆弾が耳元で炸裂したのに等しく小蒔には聞こえた。
「臭いなんて嗅がないでよ、雛乃ッ!?」
 雛乃が一体どのような表情でそんなところを見ているのか、
考えるだけで気が遠くなる。
当然の恥辱も、むしろ知らないが故の幸せだったかもしれない。
喜怒哀楽のうち、喜と楽しか持っていないのではと、
小蒔が半ば本気で思っていた織部雛乃は、淫欲に呆けた顔をして、
焦がれていた相手の尻の孔を眺めていたのだから。
 鼻を近づけて臭いを嗅ぎ、あるいは顔を離して息づくさまを観察していた雛乃は、
やがて指を伸ばし、すぼまりに蓋をした。
細い指先でも容易に塞ぐことのできた孔は、雛乃に恍惚を、小蒔に恐慌をもたらした。
「――ッ!!」
 沸騰したやかんに触れたように、小蒔の全身の毛が逆立つ。
自分でもトイレットペーパー越し以外では触れたことのない場所への直接の接触は、
あまりに刺激が強すぎた。
「や、やめ、てよ……」
 喋ろうと息をするだけで、雛乃の指に触れる場所が変わるのがわかる。
そのため声はとぎれとぎれになって、雛乃の耳に届いても、
彼女を説得するだけの力はなかった。
 指の腹を褐色の円にぴったりと合わせたまま、雛乃は緩やかに揺すりはじめる。
当事者達以外にはわからないくらい小さな円を描くように、何周も、何十周も延々と、
同じ動きを繰り返した。
「う……あ……やだ……ぁ……っ……」
 どれほど嫌悪感を持っていても、次第に増してくるむず痒さまでは否定できない。
淡々と、それが当然のように続けられるアナルへの愛撫は、
徐々に小蒔を困惑させていった。
「ああ……あ、うっ……ん……」
 自分の声が変質しはじめていることに、小蒔はまだ気づいていない。
そして、雛乃が触り続けている尻の孔も、目に見えないほど少しづつであっても、
ほぐれ、緩みはじめていることにも、全く気づいていなかった。
 頃合いと見た雛乃は、尻の孔にあてがっていた指を一度離すと、
身体ごとさらに小蒔に近づき、足の間に顔を埋めると、
ためらいなく今しがたまで指が触れていた場所に舌を伸ばした。
「ひゃうッ!?」
 緩やかな刺激に慣れつつあったところに襲いかかった強烈な刺激に、
小蒔は二オクターブほど高い悲鳴を放った。
「う、嘘ッ、まさか雛乃……舐めた……の……!?」
 想像もつかない行動に、本気で怯えた小蒔は必死に恐怖を訴えるが、
白皙の頬を淫ら色に灼いた雛乃は、反射的にすぼまったアナルをさらに舐めていく。
「や、だ……っ、やだよ、ね、お願いだから雛乃……やめてってば……!」
 敏感な場所を襲う異様な刺激に、小蒔の手足の指がせわしなく開閉する。
熱く、そして柔らかな、掻きたくてたまらない感覚に、彼女は戸惑っていた。
 そんな親友に雛乃は目もくれず、小蒔の尻の谷間に顔を突っこみ、
舌先を伸ばしてすぼまりを舐める。
むやみに孔をこじ開けようとするのではなく、皺を伸ばして緩めていくような愛撫を、
指腹の愛撫と同様、何度も、何十回も繰り返す。
「あ……う……ッ、やだッ、助けてよひーちゃんッ……!」
 ときおり大きな波のようにせりあがってくる、快楽めいた何かに、
小蒔の声が怯えに変わっていく。
歪む彼女の口元を見ながら、龍麻は無言だった。
 龍麻と小蒔はこれまで、劣情をぶつけあうというよりは、
快楽を愉しむパートナーの仲だった。
お互いの嫌がることはしなかったし、セックスの最中でも笑いあったりするような、
爛れてはいても良好な関係だった。
それが今日の龍麻は別人となったように冷たく、小蒔の恐怖にも一向に頓着しない。
やはり別人となったかのような雛乃と、
小蒔は異世界に迷いこんだような錯覚を抱いていた。
四肢が動かせないこともあり、夢の中ではないかとさえ思ってみたりもする。
 だが、頭の中のできごとにしては快感はあまりに生々しく、
頭痛のようにずきずきと鳴り続けていた。
「やっ……ん、やだ、嫌だってばッ、止めてよ雛乃……っ」
 尻の孔周辺をさ迷う舌は、止まる気配もない。
窮屈な姿勢を厭わず、ミルクを飲む仔猫のように、一心に褐色部を舐める雛乃は、
アナルに泡ができるほど唾液を塗りたくっていた。
 その奇観を小蒔は直接見られるわけではないが、
 もしも自分の尻の孔がわずかな空気の動きで
泡を収縮させている光景を見たなら、羞恥で卒倒してしまっただろう。
しかし、小蒔の精神を崩壊から救う目隠しは、同時に快感の源泉ともなった。
見えないがゆえに鋭敏になった感覚は、
生温かい唾液が皮膚を数ミリ伝うだけで背筋を逸らせ、
ざらりとした舌先が尻の孔を通り過ぎると抑えきれぬ喘ぎを口走らせる。
「あ、うッ……はァッ、くッ、ん……ッ……!」
 逃がれられない快感に、小蒔の肌が染まっていく。
ほんのりと上気する肌は、桜の花片にも劣らぬ美しさだったが、
雛乃はそれに目もくれず、尻に咲く薄褐色の菊に丹精込めた世話を続けた。
「う……ん……うっ……」
 快感だけがもたらされる状況で、次第に小蒔の反応が静かになっていく。
快感に慣れてきているのだ。
尻の孔そのものに舌が触れたときはさすがに声を漏らすものの、
雛乃が周縁を舐めているときは、夢を見ている赤ん坊のように、
小さくむずかる程度になっていた。
 そんな小蒔を見て、龍麻が雛乃に話しかける。
「そろそろいいんじゃないか?」
「はい」
「な、何するの……?」
 半ば夢うつつにあった小蒔も、二人の会話に不吉なものを感じて意識を戻した。
けれども二人が質問に答えることはなく、その代わりに何か物音が聞こえてきて、
小蒔はますます不安になった。
 彼女の不安をよそに、龍麻が取りだしたのは、
直径一センチほどの幾つかの球が連なった、棒状の道具だった。
反対側は猫の尻尾を模したものになっている。
アナルビーズという名前の、調教用の道具だ。
 立ちあがって龍麻からビーズを受け取った雛乃は、小蒔の前に今度は座り、
道具を使うべき場所にあてがった。
「ひッ……やだ、何……!?」
 すっかりふやけていた尻の孔に硬いものが触れ、小蒔は身をすくませる。
もちろん、身体は数センチ程度しか動かず、
雛乃が進入させようとする異物を拒むこともできなかった。
 球体が唾液でふやけたアナルに、押し入ろうとする。
雛乃は強引に挿入してしまうようなことはせず、
呼吸するたびにわずかずつ沈んでいくビーズを、
実験を見守る研究者のような、陶酔した瞳でじっと眺めていた。
そうして球の三分の一ほどがアナルに嵌ったところで、はじめて力を加え、
ひとつめの球を小蒔の尻に埋めた。
「か……ッ……!!」
 尻から体内に何かが入ってくる。
その異物感に、小蒔は声も出せなかった。
空気の塊を吐くのがやっとで、たわめた指先がぴんと張りつめている。
「ぬ……ぬい、て……!」
 少し深く息を吸うだけで異物の硬さを感じてしまうので、浅い呼吸しかできない。
そんな努力をあざ笑うかのように、二回目の異物が腹の中に押し入ってきた。
さらに続けて三つ、四つと、呼吸を整える暇もなく異物は腹を掻き回し、
全ての球が腹の中に収まるまで、実際には数分も経っていないにも関わらず、
小蒔には一時間以上もかかったように感じられた。
「はッ……はぁッ……はぁッ……」
 頭の中で巨大な何かが脈打って、何も考えられない。
腹の中で異様なまでの存在感を放つ異物に、小蒔は支配されていた。
懇願や抵抗も頭から抜け落ち、ただ腹に刺激を与えないよう呼吸することだけを考える。
「小蒔様……本当に、お似合いです……!」
 雛乃の声も聞こえてはいても脳にまで届かない。
細い顎を上向け、発情した猫のような呼吸を繰り返すだけだった。
 小蒔の頭側に移動した龍麻が、脂汗で額に貼りついた小蒔の髪を梳いて呟く。
「犬か猫か迷ったけど、猫にして良かったな。探すの大変だったけど」
「はい」
 龍麻が話しているのは、小蒔の腸内に埋没した球体の、残りの部分のことだ。
三十センチほどの黒い、猫の尻尾を模したそれは、球体が全て埋まっているため、
尻から生えているように見えた。
「調教っていったら犬だと思うんだけど、そこは雛乃が猫って言い張ったんだよな」
「小蒔様は犬というよりは猫の性だと思っていたものですから」
「まあ、今は俺も雛乃が正しかったと思ってるけど」
「ふふ、ありがとうございます」
 雛乃は自らが挿入したアナルビーズをうっとりと眺めている。
薄褐色のすぼまりは、球が埋まった今は再び縮まっているが、完全に閉じてはいない。
孔の周縁を人差し指でなぞった雛乃は、荒い息をひとつ吐くと、球をひとつ引き抜いた。
「ひぐッッ……!!」
 鎖を引きちぎりそうな勢いで小蒔の身体が跳ねる。
経験したことのない衝撃に、小蒔の頭の中は真っ白になった。
涙や涎がこぼれるのにも気づかず、ひたすら臀部から頭頂へと突き抜けた、
苦痛でしかない快楽を緩和しようと息を吐く。



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