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桜井小蒔は一週間前と同じ服装、同じ格好をしていた。
下着はもとより靴下に至るまで一糸まとわぬ姿に、
仰向けに横たわって肩幅に開いた足を胸元に引き寄せ、
両の手首と足首を枷で繋ぎ、さらに足首同士を棒でつなぐ。
獣に近いこの姿勢は、もちろん、女性の恥ずかしさを極限まで高めるものだ。
乳房は言うに及ばず、局部やさらには肛門までもが白日のもとに晒され、
隠すこともできないのだから。
それでも、龍麻に頼まれて一週間前にこの姿勢をとったとき、
小蒔は必ずしも拒絶はしなかった。
露出狂とまではいかなくても興奮はしたし、次いで行われた目隠しも、
性的な欲求を高める小道具として受け入れるのに抵抗はなかった。
ただし、それが龍麻一人と共にするプレイならば、だ。
あろうことか龍麻は、小蒔の親友である織部雛乃と通じており、
小蒔は十年来の親友に、最も恥ずかしい場所を、最も恥ずかしい格好で見られてしまった。
聞けば雛乃は小蒔に道ならぬ想いを抱いていたというが、
脅迫に等しい告白を聞いても、小蒔の心が弾むわけもなく、
雛乃もそれは予測していたようで、龍麻と結託した彼女は、
今後自分たちの好きなように小蒔を扱うと宣告したのだった。
小蒔は真神学園一の不良とされる佐久間猪三に対してさえ平手打ちを食わせた
ことがあるほど、筋の通らないものに対しては敢然と立ち向かう性格だったが、
拘束されている間に写真を撮られてしまってはどうしようもなかった。
真神学園には遠野杏子という校内新聞を発行している女子生徒がいて、
彼女に写真を売ると脅されたら、小蒔には従うほかなかったのだ。
彼女の表の稼業である校内新聞にはさすがに載せないだろうが、
裏で彼女が行っていると、証拠はないながらもかなりの信憑性をもって噂されている、
生徒の着替えや下着などを盗撮した写真の売買に流されでもしたら、小蒔は学校に居られなくなる。
男女問わず、特に同性の下級生から相当の人気を集めている彼女の写真、
それも極めつきに激しいやつが流出したと知れ渡ったら、
全校生徒の大半が買い求めるのは想像に難くない。
こうして小蒔は、龍麻と雛乃に従うほかなくなった。
「今日は、何するの……」
常に闊達な小蒔の声に力がない。
快楽を追及するのにはやぶさかでない彼女ではあるが、
それが意に染まぬものでは楽しいはずもない。
まして、友人と思っていた二人に、裏切りに近い形で強要される性行為となれば、
心にあるのは絶望だけだった。
消沈している小蒔に、少なくとも表面的には二人とも関心を払っていない。
龍麻と雛乃はそれぞれ、裸で仰向けになっている小蒔の両側に陣取った。
目隠しをされている小蒔には、二人がすぐ側にいるということしか判らない。
文字通りの生殺与奪――殺す、はないにしても、それよりも恥ずかしい仕打ちを
受ける可能性があるのだ。
実際、前回小蒔は最も恥ずかしい場所である尻の孔を雛乃に弄ばれている。
しかもどうやら雛乃は、いずれ尻孔を犯すつもりであるらしく、
そのための調教を行うと宣告した。
それは龍麻と快楽を追求する行為をしてきた小蒔にさえ、おぞましいと思えるものだ。
他のことはともかく、それだけは阻止しなければならなかった。
だが小蒔の予想に反して、雛乃は不浄の孔に食指を伸ばしてこなかった。
小蒔のあらゆる部分に触れられる状況にありながら、
指の一本さえ触れようとはしなかった。
もちろん、見られてはいるのだから心安らぐわけではない。
それでも、すぐにでも尻孔を触られると覚悟していた小蒔にとっては
意外な肩透かしであり、雛乃が邪悪な考えを改めたのではないかと期待したほどだった。
それが甘すぎる未来予想であったことは、すぐに思い知らされた。
小蒔の足の間に陣取って数十秒も身動きせず、小蒔を落ち着かない気分にさせた
雛乃は、ようやく口を開いたかと思うと、小蒔の想像を絶する日本語を紡いだのだ。
「今日は小蒔様の御大事を、剃ろうと思います」
「えっ、剃るって、まさか……嘘でしょ……!?」
雛乃が口にした御大事という古風な言葉が何を意味するのか、とっさには解らなくても、
剃るという動詞が意味するものは明白だった。
驚いた小蒔は首を懸命に伸ばし、自分の股間を見る。
目隠しをされているから、何が見えるわけではなくても、
雛乃が何をしようとしているのかは、脳裏にくっきりと描くことができた。
「ね、ねえッ、なんでそんなことするの!?」
アンダーヘアに愛着などないし、普段意識することもほとんどない。
それでも身体の一部には違いないし、恥ずかしい部分を隠す役割がある毛を
剃られることに対して、より大きな羞恥があるのは当然だった。
シェービングクリームの準備をしている雛乃に代わって、龍麻が答える。
「お守りだよ」
「お守り……?」
「浮気防止のな。剃られてる股間を誰かに見せようとは思わないだろ?」
「そッ、そんな、誰かに見せたりなんてしないよ」
むしろルール違反をしているのは、雛乃を巻きこんだ龍麻の方だ。
その点を強く主張すれば、二人も少しは考えるところがあったかもしれない。
しかし、人生初の経験――それも、全く嬉しくない類の――を、半ば強制的に
させられようとしている小蒔に、そこまで思い至る余裕はなかった。
「それでは、開始いたしますね」
「ま、待ってよ――」
「動くと怪我するぞ」
小蒔はがちゃがちゃと鳴っていた鎖を急停止させる。
不満と不安は一ミリも解消されなかったが、事ここに至っては従うしかなかった。
両足を繋いでいる棒の下から顔を出した雛乃が、場違いな穏やかさで微笑む。
龍麻が用意した、クリーム状に立てられた泡を手に掬った雛乃は、
小蒔の両足の間に広がる黒い森に落とした。
「ん……っ……」
塗るというよりもむしろ、恥毛の一本ずつに浸透させていくような、
恐ろしいほどの丁寧さで、森は雪原へと変わっていく。
ほどなくして、小蒔のヘアは性器も含めてその全てが泡に覆われた。
「や……だ、何してるの……?」
恥辱の重みに押しつぶされそうになっている小蒔の声が、哀れを誘う。
仏ならば慈悲を与えそうな懇願にも、神に仕える雛乃は耳を貸さなかった。
白い頬を朱に染め、剃刀を小蒔の下腹部に当てる。
「……っ!!」
恥毛が剃りおとされる小さな音が、小蒔の全ての動きを封じこめた。
敏感な部分を傷つけられたら、という恐怖は、容易に克服できるものではない。
まして目隠しをされて、何をされているのか視覚で把握できないのだから、
どれほど恥ずかしくても動かずに耐えるしかなかった。
友人の恥毛を剃る雛乃は真剣そのものだ。
泡にまみれた毛を左手で押さえ、根本から剃っていく所作に淀みはない。
小蒔を辱めようというのではなく、身を清めようとしているのだと言われれば信じてしまいそうな、
神事のような厳かささえ感じさせた。
小蒔の恥毛はどちらかといえば薄い方だったが、雛乃は産毛の一本も残さないとばかりに
徹底的に剃っていき、十分ほどもかけて下腹から陰唇の周辺までを剃り終えたときには、
素肌がすっかり露出していた。
「……凄えな」
ぬるま湯で絞ったタオルで泡と毛を拭い、露わになった性器を眺めて龍麻が呟く。
小蒔の性器は見たことがあるし、指や舌でも触れたことがあるが、
こうやって隠すもの全てが取り払われて曝けだされた光景は、異様な興奮をそそった。
閉じ合わされた淫扉をなぞると、貝のように収縮する。
収縮はヴァギナだけでなく、その後ろにあるアナルにまで及び、
すばやく閉じたそれらが、ゆっくりと弛緩していくさまが、一切隠されることなく観察できた。
人体の神秘ともいうべき光景に、龍麻は愛撫を繰り返す。
「や……だ、やめてよ……」
怒るべき機会を奪われ、あまつさえ感じさせられている小蒔が、弱い哀願を漏らす。
だがそれは、剃り落とされた毛の重さほども龍麻に感銘を与えなかった。
「お、クリが勃起してきたぞ」
「ち、ちが……そんなコト、ないってば……」
「んなこと言ったってなあ、現に大きくなってるしな、なあ雛乃」
龍麻がぷくりと腫れた淫珠を弄びながら同意を求めると、
雛乃は剃り落とした小蒔の恥毛から、何本かを選りすぐっていた。
異様、というか気色の悪い光景に、思わず龍麻は訊ねた。
「何してるんだ?」
「お清めをして、お守りにしようと思います」
「え……毛を?」
「はい、昔の兵隊様が出征なさる折には、大切な方の御大事を頂いたそうです」
「ふうん……」
雛乃の話は嘘ではないだろうが、正直龍麻は気持ち悪くもある。
とはいえ、雛乃は喜んでいるのだし、小蒔を恥ずかしがらせることもできるのだから、
口を出すつもりもなかった。
「ね、ねえ……ボクのそんなトコお守りにしたってご利益ないよ」
小蒔の説得には真剣味がたっぷりと含まれているが、雛乃は意に介さない。
「ふふッ、いいえ、どの神様よりもわたくしに幸をもたらしてくれますわ」
あまりの信じように、龍麻も一本もらっておこうかと思ったほどだった。
とはいえ、やはり龍麻が興味があるのは毛よりも肉の方で、
龍麻は改めて覆いが取り払われた小蒔の裂け口を眺めた。
色素の沈着も小蒔には少なく、陰唇も肥大化していないので、
性徴が訪れていない幼女のような恥丘が現出している。
神々が食べる果実のような美しさは、龍麻でさえむしゃぶりつきたくなるくらいだから、
龍麻が横から覗きこんでも場所を譲ろうともしない雛乃には格別だったようで、
恍惚の吐息を隠す気もなく吐きだした巫女は、
神に祈りを捧げるようにうやうやしく白野に触れた。
「んっ……」
自らが作りあげた丘の滑らかさを確かめようとしているのか、
雛乃は何度も丘を撫であげる。
愛撫でこそないものの、敏感な部分への刺激は当然、小蒔に伝わらないはずがなく、
華奢な腰が艶かしくひくついた。
横で眺める龍麻は雛乃が予定を変更してここで始めてしまうのではと思ったが、
雛乃はあくまでも剃り残しがないか確かめただけのようで、
彼女が崇める神への崇拝が滞りなく済むと、龍麻に顔を向けた。
「龍麻様、御道具をお願いいたします」
龍麻から道具を受け取った雛乃は、小蒔の尻孔にそれを挿入する。
「やっ、な、何……!?」
股間の異物感に気づいた小蒔が声を張り上げる。
龍麻が用意したのは、先週挿入したアナルビーズではなく、小さな円錐が挿るだけの器具だ。
奥まで挿らないから日常生活に支障をきたすわけではなく、
むしろ装着したまま生活させることで、異物感に慣れさせることができるのだ。
「うふふ、小蒔様、とても可愛いです」
恥毛を剃られて真っ白になった小蒔の下半身に、一つだけ染みのように残る、
器具が奥まで挿らないようにするための黒い蓋を見て、雛乃は口元をほころばせた。
「な……何言ってるの……」
尻の孔をじろじろ見られて嬉しいわけがなく、
小蒔の声は冷めたコーヒーのような酸味と苦味に満ちている。
小蒔は性に厳粛というわけではなく、同性であっても受け入れる素質があったかもしれないが、
尻に関しては論外で、触れられることさえ嫌だった。
それが龍麻の奸計に引っかかったばかりに、いいように弄られてしまっている有様だ。
おかげで十年来の親友であったはずの雛乃に対しても今は嫌悪感しかなく、話もしたくなかった。
親友に――親友だった小蒔に嫌われても、雛乃は意に介した様子はない。
雛乃は元々あらゆる他人を区別せず、和を以て貴しとなすを体現した少女だったが、
陥れた小蒔に対しては、ほとんど一方的に弄ぶ立場を、むしろ嬉々として受け入れていた。
「こちらもすべすべで、赤ちゃんみたいです」
雛乃には邪気がなく、それが小蒔のみならず、龍麻をも戦慄させる。
当人は知人たちの反応などお構いなしで、自らが作り上げた白丘を愛おしげに撫でながら、
二人がさらに戦慄するようなことを言った。
「今度、おむつをつけてみましょうね」
「ぜ、絶対やだよ」
小蒔は芯まで怯えていた。
龍麻の言動はまだ理解できるのだが、剥きだしになった雛乃の本性は、
小蒔の理解の遠く及ばぬところにあった。
知り合って十年以上経つ雛乃が、いつからこのような正気とも思えない淫情を
宿していたのか、考えると全身が怖気だってしまう。
「ふふッ、ご用意しておきますね」
「嫌だってばッ!」
かなり強い拒絶も、生気に満ちた眼光がなければ陰には届かない。
まして手足さえ動かせない状態では、どのような意思も伝わりようがなかった。
それが小蒔には悔しく、このままずるずると言いなりにはならない、
絶対に自由を取り戻してみせるという決意を新たにする。
強く握りしめられた小蒔の拳を見ていた龍麻が、ふと心づいたように時計を見た。
「そろそろ時間だぞ」
「すみません、夢中になってしまいました」
雛乃は赤らんだ顔もそのままに立ちあがり、衣服を整える。
「な……何……?」
さらなる責め苦が続くのかと怯える小蒔の、手首と足首をつなぐ枷が唐突に外された。
困惑したまま小蒔は、重力に従って落ちた足ですべらかになった股間を隠し、胸も腕で隠す。
戸惑う小蒔に龍麻はそっけなく言った。
「映画を観に行くんだよ」
「映画……?」
ラーメン屋に入ったら蕎麦のメニューしか並んでいなかったかのように、
状況の把握ができないでいる小蒔に、構わず龍麻は告げる。
「ほら、早く着替えろよ」
「え……あ、うん……」
小蒔は起き上がろうとして下腹の違和感に気づいた。
「その前に、お尻の……抜いてよ」
アナルビーズ、とは言いづらいらしい小蒔に、龍麻は残酷な一言を言い放った。
「そのまま行くんだよ」
「……! や、やだよそんなの、できるわけないでしょ」
表情を変えない龍麻が、別の生き物に見えて小蒔は怯える。
しかし龍麻はともかく、雛乃まで驚いていないところをみると、
二人は最初から示し合わせていたのだろう。
それはすなわち、命令に従わなければならないという意味で、
暗澹たる気分が、小蒔の両肩に重くのしかかった。
仕方なく、出かけるために小蒔は服を着ようとする。
「あれ?」
デニムのパンツとTシャツはあるのに、下着が上下とも見当たらない。
龍麻の前で訊くのは恥ずかしいので、無言で部屋を見渡してみるが、
そう広いとはいえないリビングのどこにもなかった。
「ね、ボクの下着知らない?」
同性であってもかなり訊きづらいことを、恥を忍んで雛乃に小声で訊ねると、
頬を上気させている以外は、深窓の令嬢としか見えない少女は、
どれほど悪意を持った人間でも友好的になるしかない笑顔で応じた。
「わたくしがお預かりしております」
「なッ、なんで!?」
ことここに至っても、雛乃が心の底まで淫奔に憑かれているとまでは
思っていなかった小蒔は、唖然として聞き返した。
答えたのは龍麻の方で、実に恩着せがましい口調で説明した。
「露出ってやつだな。初めてだからまあ、服は着させてやるよ」
「何言ってんの!? そんなコトできるわけないじゃないッ!!」
龍麻と雛乃に弄ばれる今の状況でさえ恥ずかしくてたまらないというのに、
他者に気づかれるかもしれない下着無しでの外出、
しかも尻に異物を入れてなど許容できるはずがなく、小蒔は憤然と抗議した。
「大丈夫だって、映画を観て帰ってくるだけだし、
映画も人気のないやつの終了間際だから客なんていねえって」
「映画館に行くまでがダメじゃないッ、そんなの」
「俺と雛乃と三人で歩いてたら、露出してるなんて思わないだろ」
「それは……そうかもしれないけど……」
自信たっぷりに断言する龍麻に、小蒔の語勢はしぼんでしまう。
元々ヌード写真を撮られて逆らえない立場でもあり、結局、
押しきられる形で下着無しでの外出を承諾させられてしまうのだった。
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