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 今日は天気は良く、風は少ない、絶好の外出日和だった。
しかし、アウトドア派であるはずの小蒔の顔は曇り、肩をすぼめるようにして歩いている。
龍麻と雛乃の後ろをついて歩く姿は、二人の仲の良さに意気消沈しているようにも見えるが、
真実は全く異なっていた。
 ブラジャーを着けず、Tシャツ一枚のみで歩いている小蒔は、
乳首が浮きあがっていないか気が気ではなく、自然と猫背になってしまう。
それに、わずかな風でもTシャツがはためいてしまうような気がして、
腋を締めていないと不安でたまらないのだ。
 映画館に近づくにつれて、人も増えてくる。
迷惑にならないように龍麻と雛乃が幅を詰めてくれるのはありがたいが、
見られているという感覚も強くなってきて、小蒔は全く気が気ではなかった。
 ほとんど地面だけを見て歩いていると、いきなり尻を触られた。
「ひゃッ……!! な、なッ……!」
 白昼堂々の大胆な犯行に、心臓が口から飛び出そうなほど小蒔は驚いた。
「ちゃんと前向いて歩けよ」
 それが注意をうながすものではないことを小蒔は知っている。
龍麻が背筋を伸ばせと言っているのは、ひとえに羞恥を煽る意図しかないのだ。
「わ、わかった……から、手、離してよ」
 一杯に広げた手でがっしり尻を掴み、歩きながら揉みしだく龍麻を止めさせようとするが、
武術を修めている龍麻の腕を剥がすのは到底無理だ。
おまけに尻肉が引っ張られると、アナルプラグが小蒔を苛むので、彼の命令に従うしかなかった。
 尻を引っ込め、頭をできるだけ起こす。
歩幅も大きく取れないので、上手く歩けないペンギンのような、
ぎこちない立ち姿になってしまったが、なりふり構っていられなかった。
 尻に力を入れていないと、プラグが抜け落ちてしまいそうな気がする。
ほんの少し息を吐いただけで、下着の支えもない黒い異物はホットパンツの隙間から落ちて、
道行く人々に変態がいると知らしめてしまうかもしれないという恐怖は、
どれほど他のことを考えても拭いされるものではなかった。
そしてその恐怖が、よけいに尻の異物を意識させて、もはや小蒔には、
アナルプラグ自体が脈打っているようにさえ感じられた。
「もう少しです、小蒔様」
 なだめる雛乃の声も遠く、半ば朦朧として小蒔は歩く。
その足取りに不安を覚えたのか、雛乃が手を握ってきた。
「あ、あ……」
 傍から見れば仲の良い友人同士が、じゃれあって手を握っているようにしか見えない。
しかし、雛乃はただ手を握るだけではなく、細やかに指を動かしていた。
「あぁ……」
 絡まった指が、指の腹や付け根を撫でる。
尻に意識を集中させなければならない小蒔に、明確な意図を持って蠢く手を止めることはできず、
一撫でごとに力を奪われていく心地よさに身を委ねるしかない。
「はぁ……はぁ……」
 じわりじわりと侵食してくる気持ちよさに、尻に力を入れるのを忘れそうになる。
それどころか、あれほど気持ち悪さしか感じなかったプラグが、
それだけではなくなりつつあった。
足を動かすたびにもたらされる苦痛が、一緒に別のものを伝えてくる。
決してまだ快感ではないが、むずむずとした感覚は無視できない。
どこに力を入れて歩いたらよいかさえ分からなくなり、
不格好なペンギンのような足取りで歩く小蒔だった。
 五分ほど歩いて映画館が入っている建物が見えてくる。
着いたところでまだ始まりに過ぎないと判っていても、一休みできると小蒔は安堵した。
 映画館に入った途端、涼しさを感じる。
冷房が効きすぎているのではなく、うっすらと汗をかいていたのだ。
それも、外が暑かったからではない。
歩くたびに尻の中で動くプラグが、いつの間にか汗をかかせていたのだ。
心持ち身体を縮めて、小蒔は館内を見回した。
 館内には龍麻の言ったとおり、数組の客しかいなかった。
だからといって小蒔の心が慰められたわけではなく、むしろ、数組でも居たという事実が不安を煽る。
彼らのうちの一人にでも気づかれたら、
うら若き少女には辛すぎる羞恥が待ち受けているのだ。
 小蒔の不安をよそに、龍麻と雛乃は小蒔を挟んで歩き、選んだ席に座る。
最後方から二列目の席は、確かに後ろに人はおらず、周りにもいない。
スクリーンも遠いが、少なくとも龍麻と雛乃は映画など最初から観る気がないようで、
場内が暗くなるとすぐに、小蒔に魔手を伸ばしてきた。
小蒔の左側に座る龍麻が下半身に、右側の雛乃が上半身に、無言の役割分担で手を伸ばす。
「ちょっと、やめてったら……!」
 小蒔は囁いてみるものの、これが目的で映画館に入った二人が言う事を聞くはずなどなかった。
打ち合わせでもしたかのような巧妙な連携で、たちまち小蒔の抵抗は潰されてしまう。
苦渋に満ちた約九十分の始まりだった。
 龍麻は小蒔の足の間に手を入れ、左の内腿を愛撫する。
健康的で張りのある肌を、珠を磨くように弱く、たっぷりと時間を掛けて往復した。
「っ、ふ……!」
 感じてはいけないという緊張と、いつもと違う微弱な刺激が、
不幸にも余計に小蒔を感じさせる。
映画館に来るまでに、充分性的な刺激を受けてしまっていた小蒔が、
龍麻の手を払いのけようとしたのは最初だけで、
一度感じ始めてしまったらあとはいいようにされ、
足を大きく開かされて足の付け根から膝まで、弄ばれるだけだった。
「……! ……っ……!」
 温かな掌で太腿を数度往復されたらもう押しのけるどころではなく、
両手で口をふさいで声を漏らさないようにするのが精一杯だ。
龍麻は愛撫を激しくしないかわりに止めたりもせず、
小蒔の体内に生じた、淫らな熱溜まりはあっというまに大きくなっていった。
 反対側からは、龍麻に劣らぬ手際で雛乃が責めている。
頭を小蒔の肩に乗せるように身を寄せて繊手を伸ばした雛乃は、
Tシャツの上から、ブラをしていない胸を指の腹で撫でまわし、
なだらかな丘の頂にある蕾を硬くさせると、そこを重点的に責めたてた。
「くっ……ふ、やっ……」
 小蒔は曲げた人差し指を噛んで、どうにか声が漏れるのを防いだが、
雛乃の指がその動きを止めることはない。
人差し指と薬指でTシャツを押さえて乳首を浮き上がらせ、
中指でシャツのしわを伸ばすように丹念に小蒔の性感帯を刺激する。
 胸からじわじわと広がっていく快感を、小蒔はなんとか抑えようとするが、
乳首から一瞬たりとも離れることなく蠢き続ける指先は、
身動きの取れない彼女を的確に追い詰めていった。
「……っ、はぁっ、だ、め……だってば……」
「暗闇だからってあんまり動いてると怪しまれるぞ」
 龍麻の囁きが釘となって小蒔を縫いつけた。
両手で口をふさぎ、下半身を前にずらして、なるべく周りから見えないようにする。
すると、それを待っていたかのように龍麻が、小蒔の左足を自分の右足の上に乗せた。
「……!」
 大きく股を開いた格好は、薄闇であっても恥ずかしいことに変わりはなく、
おまけに足が動いたせいで、尻に挿れられているプラグを意識させられてしまい、
小蒔は危うく声を出してしまいそうになった。
「や……やめて、よ……!」
 心臓が館内に響き渡っているような錯覚に囚われて、龍麻の手を掴む。
だが、男の手を止められるわけもなく、逆に腿の付け根に近いところを撫でられただけで、
身体はあえなく反応してしまう有様だった。
「ん……っ……!」
 自分でも驚くほど肌が敏感になっている。
足を開いて、無防備になっているという警戒心がそうさせているのだとしても、
くすぐったさと甘い疼きは必要ない。
なのに、暗いとはいえ周りに人もいるような場所で、性の悦びを覚えてしまうのは、
うら若き少女にとって受け入れがたい認識だった。
 小蒔の動揺に生じた隙に、雛乃が入りこむ。
それまで指の腹で与えていた刺激を、一転して指を立ててより細やかなものに変えた。
「……!」
 硬くなった乳首を嫌でも意識させられる、円を描く動きに小蒔は身をよじるが、
尻の異物のせいで大きく動けず、雛乃の指を振り払うことはできない。
しかもTシャツに剥きだしの乳首が擦れて、よけいに感覚は鋭敏さを増してしまった。
「う、ふっ……!」
 甘い痺れが身体から力を奪う。
押し殺さなければならない声と、お構いなしに訪れる快感に、
唇を噛むことだけが、小蒔に許された抵抗だった。
 龍麻の左手が、小蒔の左手を掴む。
乱暴にではなく、何かに掴まろうとする赤ん坊に添えるような手つきだ。
強い力であったなら、振り払おうとしたかもしれないが、
思いがけない優しい手つきに、反撃の機会を逸してしまった。
 だがそれはもちろん、偽りの優しさだった。
映画館に行く途中、雛乃がしたように、龍麻の手は小蒔の手を愛撫する。
柔らかさという点では雛乃の方が優れていたかもしれないが、
龍麻の愛撫も心地よさでは劣らない。
大きくて温かな手に、小蒔は取りこまれていく。
「ん……」
 指の間を、爪先を、磨きあげるように撫でる指に、身を任せる。
冷房の効いた館内で感じる温かさは、想像以上に気持ちよく、
ともすれば異常な状況に置かれていることを忘れてしまいそうだった。
 龍麻には左手と左足、雛乃には右足と右胸を弄ばれている。
さらに尻にはプラグを挿れられて、小蒔の快感は留まるところを知らない。
だが、間断なくもたらされる快楽の波にたゆたっているうち、小蒔はあることに気づいた。
 二人とも、さんざんに追い詰めておきながら、決して最後の一線を超えさせようとはしない。
指が溶けそうなくらいにねっとりと撫で、小指の先まで使って腿をさすり、
精密な型が取れるほど執拗に乳首を捏ねておきながら、小蒔が半ば自暴自棄的に触って欲しいと
思っている、すでに確かめるのが怖いくらい濡れているのが明らかな股間には、
ただの一度も触れてはこないのだ。
「うっ、ふ……ン……ふッ、んっ、ふぅッ……!」
 身体が跳ねるのを抑えられず、何度もひくつく。
鼻息が音を立てて漏れる。
二人の残虐な愛撫に、小蒔はほとんど自制心を失いつつあった。
めちゃくちゃにして欲しいという欲望さえ頭をよぎる中、
足をさらに開いて、龍麻に触らせようとすると同時に、
椅子の座面を使って尻のプラグをもっと奥へと挿れようとする。
試みは少しだけ成功し、下腹に鐘を鳴らしたように快感が響いた。
けれどもそれは短い時間のことで、アナルプラグがそれほど大きくないこともあって、
上手く剥がれなかったテープのように疼きが残ってしまった。
「うっ、ふッ、ううっ」
 全身が凄まじい快感に苛まれながら、満たされることがない。
頭の芯まで桃色に染められながら、どうしてももたらされない最後のひと押し。
残酷に残されたひとかけらの理性で小蒔ができるのは、
両手できつく口をふさぐことだけだった。
 結局九十分の間、一度もイクことができなかった小蒔は、
映画が終わったとき、立つこともできない有様だった。
龍麻と雛乃に両脇を支えられ、かろうじて外に出る。
足取りもおぼつかない小蒔を、奇異の目で見る通行人もいたが、
その視線にすら気づかないほど憔悴していた。
「はぁッ……はあッ……」
 理性が限界に近づいている小蒔は、訴えかけるように龍麻を見る。
龍麻は小蒔の腰を抱いて支えながらも、彼女が欲しているものをなお与えなかった。
「帰るまで我慢しろよ」
「そんな……」
 自分が何を口にしたか、もう小蒔には判っていなかった。
九十分に渡って感じさせられてきた彼女には、頭の中から足の先に至るまで、
身体のすべてが気持ちよくなりたいという欲望に支配されていた。
行きはあれほど嫌だった、歩くたびに擦れるアナルプラグの刺激を、
いつの間にか求めるようになっている。
下腹の熱はどうしようもないほど溜まっていて、
熱く硬いペニスで思い切り掻き回して欲しいと、叫んでしまいたかった。
なのに、さっきまであれほど好きなように触っていた龍麻と雛乃は、涼しい顔をしている。
もう肉体にはすっかり火が通り、煮崩れしてしまいそうだというのに、
家に帰るまではお預けだというのだ。
吐息と一緒に撒き散らしてしまいそうな肉の疼きに耐える小蒔は、
ゾンビさながらに虚ろな瞳で二人について歩くしかない。
 当然帰りは、行き以上に辛い道のりだった。
爆発寸前だった火照りはかろうじて燃えあがってはいないものの、
くすぶるというには大きな炎が未だ燃えており、Tシャツとホットパンツが肌に擦れるたび、
無視できない快感を小蒔にもたらす。
鼓動が頭の中で響いてほとんど何も考えられず、
龍麻と雛乃の足元だけを追って、普段の快活さはすっかり失われた足を動かすだけだった。
 龍麻が急に立ち止まる。
全く前を見ていなかったのでぶつかってしまった小蒔は、
大した衝撃でもないのに息が止まりそうになった。
それほど身体を蝕む快感は、限界に近づいていた。
 龍麻の家についた訳でもなく、どうして二人が立ち止まったのか分からない小蒔は、
ぼんやりした目で龍麻を見る。
一度目を合わせてから、左へ九十度視線を転じる龍麻に小蒔が釣られて振り向くと、
そこにはコンビニがあった。
「飲み物とお菓子を適当に買ってきてくれ」
「えッ……」
 龍麻の意図がわからず、小蒔はもうひとりの同行者を見る。
彼女が浮かべる淡い月のような笑みが、薄い膜のかかった思考に一筋の光となって射した。
「やっ……やだよ、ひーちゃん行ってきてよ」
 小蒔がブラもパンツも着けていないばかりか、尻にはプラグを挿れられている状態で、
龍麻の家から映画館まで行き、そしてここまで帰ってこられたのは、
誰とも声を交わさず、龍麻の影に隠れるように歩いてきたからだ。
店員と一対一で話すなど論外だった。
「行かなきゃずっとこのままだぞ」
 龍麻の低い声が小蒔の心を締め上げる。
下着は龍麻の家に置いてきてあるので、この場を逃げだしたとしても、
この格好で家に帰らなければならない。
それに何より、龍麻たちには恥ずかしい写真を撮られているので、
最初から拒絶などできるはずがなかった。
「ひ、雛乃もいっしょに……」
「俺たちはここで待ってるから、早く行ってこいよ」
 儚い願いもあえなく拒絶されて、小蒔はふらふらとコンビニに向かった。
万が一にも他人に気づかれたら身の破滅だという恐怖が、
小蒔の動きをぎこちなくさせる。
自動ドアが開いたときでさえ、店員や客が見るのではと怯えた。
 コンビニ内には十人ほどの客が居た。
男女は同数で、高校生が六人だ。
彼らとすれ違うとき、小蒔は巧みに身体の正面を彼らに見せないようにして、
すれ違った後も真後ろを見られないように身体をずらした。
それでも、自分では確認できない後ろ、特に尻を見られていないか、気が気でなかった。
とはいえ、尻を引っ込めれば胸が出てしまう。
身体を不格好にすぼめ、奇妙な動き方をしている小蒔を、
一人の男子高校生が不思議に思って見たのは、当然の成りゆきだった。
 普段なら気にしない視線を、小蒔は感じてしまう。
男子高校生は小蒔を露出癖のある変態として見たのではなく、
ただ彼の常識とは異なる歩き方をする少女を反射的に見ただけだったのだが、
彼が視線を戻した後も、小蒔は全身を凝視されていると思いこんでいた。
 気づかれたかもしれない。
いや、きっと気づかれた。
羞恥と緊張で小蒔の胸は張り裂けそうになる。
豪雷のように鳴る心音が、身体を飛び出して店中に響いているような気がした。
 もうこの店には一秒だって居られないと、
飲み物とお菓子を適当にカゴに入れた小蒔はレジに向かった。
アナルプラグを落とさないよう、尻に力を入れながらなので、どうしてもぎくしゃくとした動きになる。
それでもここに至るまで、小蒔の露出に気づいた者はいなかった。
あと少し、会計を済ませてしまえば、一気に店を出てしまえばいい――その焦りが、命取りとなった。
 勢いよく突き出されたカゴに店員は驚き、顔を上げた。
なぜか顔どころか耳まで赤くして怒っているような、そのくせ目を合わせようとはしない少女。
難癖をつけてこない限り、店員の方から客に干渉するなど百害あって一利なしと心得てはいるが、
小蒔がボーイッシュな美少女だったので、ほんの少し義侠心が湧いて、
具合が悪いのかと声をかけようとした。
「――!」
 バーコードを読ませようと商品を手にしながら開けた口が、固まる。
客の少女が着ているTシャツの胸の部分に、
あきらかにブラジャーを着けていないと思われる突起を見つけたのだ。
少女が意図してか否かなのかは不明でも、降って湧いた好機を逃す必要はない。
声はかけない――が、手早くレジを済ませる必要もない。
店員は商品のスキャンを遅らせながら、小蒔の胸を凝視した。
 店員の視線が胸に注がれるのを、小蒔はすぐに感じた。
右と左、あるいは両方を、忙しく、そして熱の篭った眼光が行き来する。
昼間からノーブラで歩く女など変態としか思っていないのだろう、
無遠慮で、欲望にぎらついた眼差しだった。
早く会計を済ませて、立ち去りたい――小蒔の願いとは裏腹に、
店員は明らかにゆっくりとレジ処理をしている。
手元には目もくれず、胸を凝視したまま作業を行っているので、
バーコードが中々読み取れないが、むしろそれを歓迎しているかのようだ。
早くしてくださいと言いたくなるのを、小蒔はこらえなければならない。
言えばきっと、店員はもっと時間を稼ごうとするに違いないからだ。
必要最低限の注意を惹くだけにしておかなければ、恥辱の時間が長引くだけだろう。
 店員の凝視は続く。
強力に収束する眼光は、ほとんど物理的にTシャツを焦がし、穴を開けようとするかのようだ。
もはや商品を読み込ませる手すら止まり、退屈でしかないアルバイトの途中に
突如として現れた、刺激的なイベントを余すところなく堪能しようとしている。
 男からこれほど純然たる欲望を浴びたことのない小蒔は、
注がれる視線から乳首を守ろうともせず、呆然と耐えていた。
下卑た、龍麻のそれとは比較にならない剥きだしの性欲が、肌を嬲る。
嫌悪感に身体が震え、悲鳴をあげようとするが、唇は力なく開いただけで、
どんな意味のある言葉も発しようとはしなかった。
 店員はさすがに触れようとはしてこないが、完全に浮あがっている乳首を見て喉を鳴らし、
ゆっくりと唇を舐め回している。
 コンビニの一角に出現した異様な熱は、どこまでも上昇し続けるかと思われたが、
いつの間にか小蒔の後ろに並んでいた、苛立った男の声で急激に冷めていった。
「おい、早くしろよ」
 サラリーマン風の男の声に、店員はレジの半ばほどまで乗り出していた上半身を引っ込め、
いそいそと会計を処理する。
「……1786円です」
 千円札を二枚出した小蒔は、店員の顔を見ずに釣りを受け取ると、
駆け足で店を出ていった。
コンビニの方を振り返る気にもならず、一目散に龍麻と雛乃のところに戻る。
「結構時間がかかったな」
 コンビニ内での出来事などつゆ知らぬ風の龍麻に、もはや言い返す気力もなく、
二人に手を引かれていくしかない小蒔だった。



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