<<話選択へ
次のページへ>>
(1/3ページ)
小さな電子音が立て続けに鳴っている。
広いとは言えない部屋の中で、その音を出す機械を手にした男は、
長身をかがめてせわしなく動いていた。
眩い光が走る。
同じ機械から放たれた光は、部屋の中で立っている女性に向けて放たれたものだ。
白い光は女性の、剥き出しの肌を嘗め、彼女を切りとって機械の中に像を作っていく。
これらの行為は無言で行われ、少し不気味さをも感じさせるものだったが、
二人ともそれを口にすることはなかった。
軽く曲げた膝に両手をついている女性の、正面に回りこんだ男が、
遠慮なく近くからシャッターを切る。
腕の中には特にそうしなくても豊かな膨らみを形作っている乳房がたわわに寄せられていたが、
レンズは次第にその胸に的を絞っていった。
女が当然それに気付いていないはずはない。
だが女はわずかに潤んだ瞳を、自身のかけているレンズを通してカメラのそれに向けただけで、
扇情的な格好を止めようとはしなかった。
「少しだけ唇開いてみろよ……そう、そんな感じ」
カメラの下から覗く男の口が、劣情を煽る指示を出す。
女がそれに従い、更に舌で艶めかしく唇を舐めてみせると、
男は明らかに喜んだ様子でシャッターを切った。
「だんだん判ってきたじゃんか」
一度カメラを顔から離した男は、顔を薄く朱に染め、期待に満ちた眼差しで見上げる女に応えた。
触れさせた唇を離す直前、からかうように囁く。
「でもお前、ほんとおっぱい大きいのな」
「し、知らないわよ」
下卑た言い方に顔をしかめながらも、ほんのりと嬉しそうな形に目許が緩む。
離しかけた顔をもう一度戻し、龍麻は恋人の身体を軽く抱擁した。
「いやほんと……写真集だって出せちゃうかもよ」
「眼鏡かけててそんなこと出来るわけないでしょ」
「取りゃいいだろ」
「取るとほとんど見えなくなるって何回も言ってるでしょ」
他愛ないやり取り。
学校での、例えば京一に対する口調とはまるで異なる、鈴の音色のような声。
この声をあいつらに聞かせてやりたいものだ、
そうすれば杏子の評価も相当変わるだろうに、と思いながら龍麻は続ける。
「別に写真撮る時なら見えなくたっていいだろ」
「寄り目になっちゃうのよ。そうすると眉間にしわが寄っちゃうの」
だから杏子は、こうして二人だけでふざけて写真を撮る時でも、中々眼鏡を外そうとはしない。
そのため、眼鏡を外した杏子の顔も捨て難いと思っている龍麻は、
いかにして天岩戸を開かせるか、毎回腐心しなければならないのだった。
休憩兼ご機嫌取りを終えた龍麻は、再びカメラを手にする。
身体を重ねるときはSMめいた関係を取ることもある二人だったが、普段の主従関係はむしろ逆だ。
強引で、かつ脆い杏子には実に細やかに気を配らねばならず、
こんな理不尽なことはないと時々は思うこともある龍麻だった。
「もうちょっと撮るぜ」
「まだ撮るの?」
杏子は少し呆れていながらも、本当に嫌がってはいない。
緩む表情を隠すために、龍麻はカメラを構えた。
「後ろ向いてさ、顔だけこっち向けてくれよ」
それは写真集などでは定番とも言えるポーズであり、龍麻も何気なく指示したのだ。
しかし、他のポーズは何やかや言いながらもとってくれた杏子は、
何故かこの、特に過激とも思えないポーズに妙な抵抗を見せた。
「なんだよ」
始めはおどけて促していた龍麻も次第に苛立ちを見せ、
遂にはカメラを置いて彼女の許に寄る。
膝をついたまま移動した龍麻が下から見上げると、眼鏡の向こうの瞳はやや弱気になっているようだった。
「お尻……大きいのが……目立っちゃう……から」
絞りだすように言った杏子に、龍麻は必死に笑いを噛み殺さなければならなかった。
同時に可笑しみ以外のものもこみ上げ、勢い良く立ちあがる。
あまりに勢いが良かったので、杏子は怯えてしまったのか、軽く顔を引いた。
「な、何よ……んっ」
「モデルの機嫌が悪くなったから、撮影はやめ」
中断を杏子のせいにして、龍麻は彼女を抱き締める。
部屋の中で立ったまま抱き締めるというのは中々新鮮で、腕には自然と力が篭っていった。
「ちょっと、痛……」
始めは身動きしていた杏子も、やがて諦めたのか、腕を回して応じてきた。
同時に突っ張っていた力が抜け、心持ち身体を預けてくる。
龍麻は彼女が何か言う前に、素早く右手を彼女の腰から下へと移動させた。
「大っきいのか? これ」
「お、大きいわよ……だから、あんまり……触らないで」
杏子の懇願を無視し、龍麻は掌に大きく円を描かせて丸みを撫で回す。
「や……っん」
尻が大きいことがコンプレックスになるのだろうか?
胸の大きさとバランスが取れていていいだろうに。
女性の心理というものを全く考えず、龍麻は男性的な観点のみから柔らかな臀部を愛しむ。
指を一杯に広げ、弾力を愉しみつつ揉みほぐすと、伸ばしている後ろの髪が引っ張られた。
「痛て……そこ引っ張んなよ」
「アンタが止めないからでしょ」
「……俺が止めたら止めんのか?」
「もちろんよ」
一歩も譲らない杏子に、龍麻はふっくらとした丘に添えていた手を離す。
数秒の後、彼女が安心して髪を離すと、いきなり腿の隙間に指を滑らせた。
「ひっ!」
心底驚いたのか、杏子は身体を浮き上がらせる。
それはとりもなおさず龍麻にしがみつくということで、
龍麻は心地良い感触を存分に味わうことができた。
「あッ、アンタ……何考えてんのよ」
杏子が怒るのはもっともな話だが、
龍麻はそ知らぬ顔で尻の大きさに比例して深く刻まれている谷間から淫裂にかけてをさする。
「……っ」
悔しいのか、杏子はつま先立ちで愛撫から逃れようとしている。
もちろんそんな程度では魔手から逃れることは叶わず、
その為に密着している身体にはどんどん熱が篭り、龍麻を喜ばせるだけだ。
しかも、下半身の筋肉が張るので、程よい弾力までも提供してしまう。
左腕一本で器用に彼女を支え、龍麻は思うさま下着の上から淫靡な動きで指を動かし続けた。
程なく、下着に体温以外の熱とかすかな湿り気が伝わってくる。
指を立ててその部分を集中的に触れると、遂に杏子は敗北を認めた。
「し、下着……脱ぐ……から……」
ふと目にした彼女の耳が、気の毒なほど赤くなっている。
その色は龍麻に、愛情とは不可分のある感情を呼び覚まさせた。
<<話選択へ
次のページへ>>