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高校の三年次となれば、一年後には大学受験か就職か、大きな人生の岐路が待っている。
いずれにしてもそれなりの努力が必要で、ナーバスになる時期だというのに、
こんな時に転校してくるのは、本人の不祥事か親の不祥事で転校を余儀なくされたかのどちらかであり、
どちらにしてもうかつに触れない方が良いに決まっている。
あるいは、自分たちのストレスのはけ口として利用するか――
どの運命の枝の先に辿りつくとしても、そこに実のなる可能性はなく、
感受性が豊かなこの年齢の若者には相当に苦しい一年となるはずだった。
ところが、緋勇龍麻という、聞いたことのないような苗字と、芸能人のような名前を携えて
真神學園三年C組に現れた男子学生は、イブが手にした禁断の果実のように、
人を惹きつける魅力に満ちていた。
細面ではないが自信と図太さ、一言で言えば古風な男っぽさを宿した面構えに、
百八十センチを超える筋肉質の締まった肉体。
そして、やや低い、良く通る声は、たった一言、自分の名前を名乗っただけで、
クラスの六割ほどの生徒の関心を、やや非好意的から好意的へと傾けさせた。
「緋勇龍麻です。一年間よろしく」
首をひねった生徒がいるのは、ひゆうたつま、という名を聞いて、
漢字を当てはめようとしたからかもしれない。
その光景を見慣れているかのごとく、黒板に向き直った龍麻は、
これもチョークさばきに慣れた様子で、自分の名前を黒板に記した。
そしてまっすぐな鉄の棒のように少しもぶれることなく回転し、頭を下げ、
最後に小さく笑顔を浮かべたとき、クラスの八割が彼に友好的になった。
こうして龍麻はわずか数分で自分の教室におけるポジションを確保した。
もちろんそれは自動車のレースで例えるなら、良いマシンが完成したというレベルで、
本選での順位どころか予選が満足に走れるかどうかも保証されたわけではない。
だがこの時季外れの転校生の、人を惹きつける才能が持って生まれたものだけではないと、
周囲に知らしめるのにさほどの時間は必要としなかった。
「席は美里サンの隣が空いているわね」
高校の三年次に転校してきた龍麻ほどではないが、外国人の、それも美貌の女性という
充分に珍しい個性を持つ、担任のマリア・アルカードが指し示す席に、龍麻は歩いていく。
彼の移動に合わせて集中する視線をごく自然に受けとめながら、
教室の半分ほどを縦断し、マリアが指し示した空席に腰を下ろした。
窓際のその席を、龍麻は気に入った。
良く陽が差しこむのと、多少は新鮮な空気を取りこめるからだ。
できればもう、一つか二つ後ろだと最高だったが、高望みは良くない。
満足して教室の方に向き直ると、隣の席の少女と目が合った。
「一年間よろしく、緋勇君」
彼女はずっとこちらを見ていて、話しかけるタイミングを待っていたのではないか。
そう龍麻が自省してしまうほど、少女の顔に邪心はなく、善意だけが浮かんでいた。
「えっと……美里さんだっけ」
いくらか声調を整えて龍麻が返事をすると、少女は穏やかに微笑んでうなずいた。
陽光さえ彼女の美を引き立てるべく励んでいるのではないかというくらい、彼女の顔は光り輝いている。
「ええ、美里葵って言います」
「よろしく、美里さん」
龍麻が軽く頭を下げ、先ほどの壇上で浮かべたよりも二割ほど友好的な笑顔を浮かべると、
葵もごく自然に、彼に対して好意を持つのだった。
それから休み時間のたびに、龍麻のところには男女問わず級友が集まり、彼を質問攻めにした。
前にいた学校やら誕生日やらに始まって、将来の目標や志望大学まで訊かれ、
この一日で緋勇龍麻という個人に関する情報は、ずいぶんと級友達に共有されてしまった。
三年次の転校生がよほど珍しいのか、それともすでに龍麻の印象がよほど良いのか、
授業が終わっても龍麻のところにやってくる同級生は後を絶たず、
龍麻が解放されたのは三十分以上が過ぎてからだった。
これほど喋った日は記憶になく、自嘲気味に独り笑いながら席を立つ。
帰ろうと出口を向いた途端、龍麻は、彼をじっと睨む眼光に出くわした。
身長は龍麻より二十センチ近く低く、一方で肩幅は龍麻と同じくらいだろうか。
均整の取れた身体の龍麻に対し、足が短く、おまけにがに股で肩をいからせているので、
ずいぶんと醜悪な印象を見る者に与えた。
男の名は佐久間猪三――この真神學園において、おそらく最も嫌われている学生の一人だ。
だが、彼は紛れもなく三年C組、つまり龍麻と同じクラスの生徒だった。
歩み寄ってきた佐久間は、その小さな目で龍麻を睨んだ。
目が小さくとも相手をたじろがせる何かがある、濁った眼光だった。
「女に囲まれてずいぶんご機嫌じゃねえか、転校生よぉ」
龍麻の声とは対照的に、聞くだけで嫌悪を催させる声だった。
酒、煙草、それらの類似物で喉が灼けているのかもしれない。
しかしそれよりも、圧倒的に彼の声質を決定づけていたのは、どす黒い感情だった。
世の中か、他人か、あるいは自分自身か――
何一つ認めようともしない、そして変えようともしない、暗黒に染まった魂から
発せられる声は、聞いた者を闇に引きずりこむような陰に満ちていた。
蜘蛛の子を散らすように去っていく級友達を、龍麻は引き留めなかった。
彼らの反応を見れば、この男がどのように扱われているのか判る。
そして、自分がどのように対応するべきかも。
「何か用か」
「ヘッ、粋がるじゃねぇか。……ついてこい、てめェに真神のルールってモンを教えてやる」
充分にドスの効いた低い声にも龍麻は怯えなかったので、
苛立たしげに睨めあげた佐久間は、背を向けて歩きはじめた。
佐久間に続いて龍麻が廊下に出ると、すぐに五人の男に囲まれた。
佐久間ほどではないが暗い雰囲気をまとっており、彼の子分なのは間違いないだろう。
少しでも大きく見せようというのか、肩をいからせ、短い足を醜くがに股に開いて龍麻を威嚇している。
まるで意味のない威嚇はともかく、折に触れ小突いてくるのに龍麻は辟易しかけたが、
不良達が知っている、つまり学校関係者の目の届かない場所に着くまでは辛抱した。
佐久間が連れてきたのは、龍麻が居た校舎ではなく、隣に立っている別の校舎の裏手だった。
同時期に建てられたとは思えない、ひどく老朽化している校舎に龍麻は興味をそそられたが、
不愉快な佐久間の声に遮られた。
「逃げなかった度胸だけは褒めてやるぜ」
「転校初日で早速入院たァ、お前ェもついてねェな」
「これに懲りたらおとなしくしてるんだな」
佐久間に追随してはやし立てる手下の声に、この学舎に入って初めての不愉快さを覚えた龍麻は、
無言で制服を脱ぎ始めた。
「手前ェ、いい根性してるじゃねェか……ッ!」
六人を相手に許しを請おうともしない龍麻に、不良達はたちまち触発され、龍麻を囲む。
本当なら龍麻は木陰に制服を置きたかったのだが、こうなっては地面に置くしかない。
ゆっくりと、その実隙のない動作で足下に置き、正面の佐久間を睨みつけた。
「……」
もはや無言となった佐久間がじりじりと近づいてくる。
手下達も呼応して包囲の輪を縮め、いよいよ拳が届く距離となった。
「右も左もわからねェ転校生相手に六人がかりたァ、ちょっとセコくねェか、佐久間よォ」
この場にいない何者かの声に、佐久間達が狼狽する。
龍麻でさえ予想外の事態に驚き、佐久間を殴るのも忘れて声の主を探したほどだった。
「蓬莱寺――!!」
声の主を見つけた佐久間が怒号を放つ。
龍麻が佐久間よりも声の主の発見が遅れたのは、蓬莱寺と呼ばれた男がちょうど佐久間の正面、
つまり龍麻の真後ろに立つ木の上にいたからだった。
「人が良い気分で昼寝してたのによ、こうウルさくちゃそれも出来ねェ」
六人分の憎悪と一人の好奇の視線を浴びながら蓬莱寺は、
地上から二メートルほどはあった枝の上から軽やかに身を躍らせて地面へと降りたった。
右手には竹刀か木刀か、一メートルほどの、紫色をした細長い包みを持っている。
包みを右肩に乗せた蓬莱寺は、誰が見ても挑発しているとしか見えない、
そのくせ尋常でない爽やかさを持った笑顔を浮かべた。
「蓬莱寺──手前ェ、佐久間さんに盾突く気かよッ!」
「さてね……」
子分の恫喝にもまるで怯んだようすもなく、蓬莱寺はその場から動かない。
龍麻か蓬莱寺か、標的が二つに増えて惑う子分達に、地面に唾を吐いて佐久間は吼えた。
「蓬莱寺……俺は、手前ェも前から気にいらなかったんだよ。スカした面しやがって」
「そうまで言われちゃ、見過ごせねぇな……それに、実はよ」
蓬莱寺は再び笑顔を浮かべた。
凛とした眉に力強い意志が宿る、凄烈な笑顔だ。
「俺もお前らの不細工なツラが気に入らなかったんだよ」
「手前ェ……ッ!!」
「殺してやる……」
不良達が一斉にいきり立つ。
すでに龍麻など眼中にないようで、脇役に回らされた龍麻は苦笑いを浮かべた。
紫の包みを自分が上っていた木に立てかけ、蓬莱寺は指を鳴らす。
「今日はこいつは使わないでおいてやるよ。
お前らも新学期早々入院したくねぇだろうし、木刀が汚れちまうからな」
「てめェら二人とも、ぶッ殺してやるッ!!」
とどめと言わんばかりの挑発に、ついに佐久間が激発した。
蓬莱寺と不良達も一斉に動きだし、たちまち乱闘になった。
龍麻が制服を脱ぐ、数分前。
生徒会の用事で生徒会室から戻ってきた葵は、今日転入してきたばかりの転校生が、
佐久間達と歩いていくのを見た。
良からぬ事態なのは明白で、助けを呼ぶ必要がある。
ここで葵は判断に迷った。
教師達に助けを求めれば、龍麻も当事者として事情を聞かれるだろう。
佐久間達の悪評は教師達も知っているだろうが、それでも、転校初日から騒ぎを起こせば
龍麻の心証も良くはならないだろう。
だからといって佐久間達を止められる人間は――
ひとりの人物を思いだした葵は、その人物が居る場所へ駆け足で向かった。
部活棟の端にある、レスリング部の部室。
訪れる者もほとんどいない部室に着いた葵は、軽く呼吸を整えると、忙しくドアを叩いた。
しかし中から返事はなく、葵はもう一度、今度はやや強めにノックする。
「誰だ。……ドアは開いているぞ」
返ってきた野太い声を、聞き終える前に葵はドアを開けていた。
部屋の中には様々なトレーニング器具が雑然と置かれている。
そのうちのひとつ、ベンチプレスを行っていた、部室内に居る唯一の男が、葵を見て目を瞠った。
「なんだ、美里じゃないか。どうした、こんなところへ」
「醍醐君、大変なの。緋勇君が佐久間君達に」
醍醐と呼ばれた男は上げていたバーベルを下ろし、上体を起こした。
Tシャツに包まれたはちきれんばかりの筋肉が、高校生離れしている。
体格も良く、タオルを取ろうと立ちあがった姿は、百八十センチを優に超える身長だった。
「どういうことだ……そもそも、緋勇とは誰だ? 聞いたことがないが」
一刻を争うというのに、葵は同じクラスだというのに今日一度も教室に顔を見せなかった同級生に
事情を説明しなければならなかった。
とはいえ、佐久間の名前が出た時点で、醍醐にもおおよその見当はついている。
制服の上着を着こむと、事情は道すがら聞くことにして、佐久間達がたむろしているであろう
旧校舎裏へと向かった。
ところが、葵が醍醐と共に校舎裏に到着したとき、すでに事態は収拾がついていた。
それも葵の予想とは裏腹に、龍麻と、同じクラスの蓬莱寺京一のみが立っており、
佐久間率いる不良集団は全員が地に伏していたのだ。
佐久間や不良の男達が実際に強いのかどうか、葵は目にしたことがなかったが、
それにしても、たった二人で六人もの相手を叩きのめしてしまう龍麻と京一の強さは只事ではない。
血の臭いこそしないものの、暴力の吹き荒れた地に残る熱風に葵は圧されて声が出なかった。
「……」
暴力の中心地に佇立する龍麻が、新たに現れた二人に気づく。
振り向いた龍麻と目が合った葵は、この瞬間の彼の瞳を後々まで忘れることがなかった。
興奮して燃えあがっているのでも、つまらぬことをしたと醒めているのでもなく、
勝ち誇っているのでも、反省しているのでもない眼。
ただ起こったことを見据えるだけの、その代わりに決して迷いのない、
錆びすら発生しない超高純度鉄のごとき瞳は、敵であるはずのない葵を容赦なく貫いた。
視覚どころか五感の全てが、彼の眼光に射抜かれたようで、その場に立ち止まった葵はよろめく。
唇に当たる、いつのまにか薄く開いていた口から吐きだした呼気の熱さに驚きはしたものの、
それもどこか遠い場所で感じているような気がした。
あと数秒、彼の視線を浴びていたら、何か大変なことが起こっていたかもしれない――
そんな予感さえしてしまう葵だった。
「そこまでにしておくんだな」
喧嘩はすでに決着がついていたが、醍醐は場を諫めようと呼びかけた。
龍麻が視線を葵から彼へと移す。
安堵した葵は、視線から逃れるように醍醐から一歩離れた。
醍醐に敵意がないと見て取った龍麻は、構えを解いて口を開きかけたが、そのとき、
彼の背後から声がした。
「くそッ……手前ェ……ッ……!!」
葵に無様な姿は見せられないと思ったのか、佐久間が立ちあがる。
とはいえ息一つ乱していない龍麻と対照的に、呼吸は乱れ、足下もおぼつかない様子だ。
すでに戦闘力は失われているのが明らかな佐久間にも、容赦なく再び龍麻は構えたが、
新たに現れた大柄な男が二人を制止した。
「待てッ。もういいだろう、二人とも」
佐久間はなお龍麻に敵意を向けていたが、龍麻と蓬莱寺に加え、
この醍醐という男まで相手にするのはさすがに無理と悟ったか、
大きな歯ぎしりを立てつつ龍麻達に背を向けた。
伸びていた不良達もなんとか起きあがって彼について去っていく。
彼らの姿が見えなくなって、十秒ほど置いてから、ようやく完全に構えを解いた龍麻は、
喧嘩の後だというのにいやにさっぱりした顔をしている、木の上から現れた男に話しかけた。
「一応礼を言っておくよ。一人じゃ全員は倒せなかったと思う」
「本気で言ってるようにゃ見えねえがな……ま、いいさ。ところで、お前誰だ?」
「……」
二秒ほど蓬莱寺を見つめた龍麻は、今朝に続いて自己紹介を再び行った。
「緋勇龍麻だ。今日真神に転校してきた」
「緋勇君は、私達と同じC組なの」
葵の補足は、男達をそれぞれの表情で驚かせた。
「するとお前、転校初日に佐久間に絡まれたってワケか。何やらかしたんだよ」
「別に……あいつの言い分だと、女に囲まれてたのが気に入らなかったみたいだが」
今度は龍麻を除いた三人が表情を変える。
醍醐は渋面を作り、葵は困った顔をし、蓬莱寺は愉快そうに龍麻の肩を叩いた。
「そいつァ災難だったな。まァ、あいつらもしばらくはおとなしくしてるだろうがな」
龍麻の制服を拾いあげた彼は、新たな同級生に手渡してやる。
「俺は蓬莱寺京一。このデカいのが醍醐だ。美里が言ったとおり、俺たちゃ同級生ってワケだ」
京一に胸を小突かれた醍醐は渋面のままだったが、小突かれたからではなかった。
「醍醐雄矢だ。佐久間が迷惑をかけたようで、済まなかったな」
その口ぶりに龍麻は疑問を抱かざるを得なかった。
「身内みたいな言い方だな」
「ああ……佐久間は同じレスリング部なんだ。学校側は更生させるつもりなんだろうがな。
それより、お前も多少は腕に覚えがあるみたいだが、あまり粋がらないほうがいいな」
「別に粋がってなんかいない」
何をどのように解釈したら、六人がかりで暴行を加えようとする輩に対して自衛しただけで
粋がっているという話になるのだろうか。
それよりも、仮にも同じ部だというのなら、そちらの管理責任の方が大きいのではないか。
そう反論しようとする龍麻に、京一が割って入った。
「まァ、いいじゃねぇか。とりあえずは片もついたんだしよ」
京一のとりなしは双方に肩すかしを与えたようで、頭を掻いた龍麻は、
もうここに居るべき理由はないとばかりに軽く手を挙げると、危なげない足どりで帰っていった。
残された三人は龍麻を見送るでもなく見送っていたが、
彼の姿が見えなくなると、葵が独り言のように、その実二人にはっきり聞こえるように呟いた。
「緋勇君……手を怪我していたわ」
「ああ、行ってやんな」
京一が同意すると、ほっとしたように頷いた葵は、小走りで龍麻を追った。
「おーおー、カワイイねえ、全く。真神の聖女にも春到来か?」
幾分邪気の混じった笑みを浮かべながら、京一は木に立てかけてあった木刀を取りに行く。
彼の背を見ながら醍醐が、同調はせずに話しかけた。
「そんなに強かったのか?」
木刀を担いだ京一は、花より喧嘩とでも言うべき、強さにしか関心のない同級生に、
今度は邪気のみの笑顔を向けた。
「あァ……動きが素人じゃねェ。拳法みてェなのをやってんだろうが、
それよりも何か変な技を使いやがる」
「変な技?」
「あいつら、ほとんど一発でノサれちまいやがった。二対六だったが、あいつが四人で俺が二人。
しかも、佐久間もあの野郎が獲っちまったし、反撃だってほとんどナシだ。
久しぶりに運動できると思ったのによ、拍子抜けだぜ」
「ふむ……」
腕を組み、右手を顎に当てる醍醐に、京一は苦笑する。
「おいおいタイショー、目の色が変わってきたぜ。次は自分の番だとか思ってんじゃねェだろうな」
「む、いや、しかし……それほどの技を使うのなら、一度見せて欲しいものだな」
「ま、焦んなくてもそのうちチャンスは来るだろうよ。佐久間だって黙っちゃいねェだろうしな」
京一に頷く醍醐の顔は、全く納得していなかった。
やってることは佐久間と変わらねェじゃねえか、と京一は内心で肩をすくめる。
とはいえ、転校初日から不良達を叩きのめした龍麻の動向が気になるのは京一も同じだった。
久しぶりに風が吹きそうな気がする。
それも、激しい風が。
傍にいれば巻きこまれるかもしれない――だが、遠くに離れてやり過ごすのも、良策ではないだろう。
どうせなら、ドでかい台風でも持ってきやがれ。
龍麻の去った方向を見つめる京一の、口の端が釣りあがる。
その表情は明らかに、嵐の到来を待ち望んでいた。
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