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こじ入れるように挿入した膣は、
入ってきた屹立を必死で食い止めようとするかのように強烈に締め上げてくる。
気持ちは良かったが、それよりも小蒔の苦しそうな顔が気になって、
快楽を受け入れるまでにはならなかった。
ただ本能のままに、ぎこちなく腰を動かしていた龍麻は、
やがて、股間の一点に何かが溜まっていく気配を感じる。
たちまち爆発的な高まりとなった、まだ堪える術も知らない屹立を、欲望のまま解き放つ。
と言っても避妊具を着けていたから解放感は無かったし、
何よりもこれ以上小蒔を痛がらせなくてすむという安堵感のほうが大きかった。
射精もそこそこに、小蒔を苦しめていたものを引きぬき、ベッドに倒れこむ。
二人の初めては、こうして終わりを告げた。

隣に龍麻が寝転がる。
その横顔を見ながら、小蒔は額に張りついた髪の毛をかきあげた。
龍麻が悪いわけでは無いと知っていても、全ての感覚を奪い去ってしまったような破瓜の痛みに、
つい恨み言を言いたくなってしまう。
「痛かった……死ぬかと思ったよ。ホントにこんなんが気持ち良くなるのかな?」
「……そんなに?」
「んーとね、このくらい」
少し考える表情をした小蒔は、おもむろに龍麻の頬を力一杯つねりあげた。
ご丁寧にひねりまで効かせている為に、
龍麻は痛みから逃れようと顔を一回転させ、首の筋をひねってしまう。
「わかった?」
「良くわかりました」
「じゃさ、なんか飲む物持ってきてよ。喉乾いちゃった」
「あいよ」
気軽に応じて立ちあがった龍麻だったが、突然何かに尻を押されて危うく転びそうになる。
驚いて振り返ると、布団の端から小蒔が足を覗かせて怒っていた。
「何てことすんだよ」
「何か履け、このヘンタイ!」
「蹴るこたぁねぇだろ」
「こっち向かないでよッ!」
いそいそと下着を履く龍麻に一瞬だけ痛みを忘れて怒鳴りちらした小蒔は、
幾分表情を和らげると、シーツを胸元に手繰り寄せる。
「まったく……女の子の前なんだぞッ。少しは気をつけてよね」
「すまん」
「いやに素直じゃない……どうしたのさ」
「な、なんでもねぇよ」
龍麻は口元がひとりでに歪んでしまうのを隠そうと、無理やりしかつめらしい顔を作る。
剥き出しになっている肩の細さに気付いた時、ようやく実感が湧いてきたのだ。
「気持ち悪いなぁ……ま、いいや。あっち向いて。服着るから」
「もう一回、したいって言ったら怒るか?」
「ヤダ。絶対ヤダ」
ものすごい剣幕で睨まれてしまい、すごすごと後ろを向き、自分も服を着る。
さっさと着終わってしまってから、小蒔が今裸だということにはたと気付いた。
そっと、空気の一分子も乱さないよう注意しながら、顔を後ろに向ける。
薄暗がりの中でぼんやりと動く白い肌が見えたと思った瞬間、何かが飛んできた。
「ごッ!」
「絶対見ると思ったよ」
人体の急所──顎に見事に命中して、反動で龍麻の顔は再び後ろを向かされる。
それは質こそ違えど、小蒔が受けた破瓜の痛みに匹敵するものだった。
「だからって目覚まし時計投げるか普通……」
「ボクの裸は安くないんだから」
ぶつけられた物を拾い上げ、憮然として顎をさする龍麻に向かって
勝ち誇った笑みを浮かべた小蒔は、今度こそ落ちついて服に袖を通しはじめた。

制服を着終わった小蒔は、自分が変わってしまっていないか確かめるように身体を見渡す。
もちろん見た目は何も変わりなどしていなかった。
なのに、足下からは、なんとなくこそばゆい感じが漂ってくる。
その正体を確かめようと一歩踏み出した途端、足の間が、
まるでまだ龍麻のものがそのままそこにあるかのようにずきずきと痛み、
思わず龍麻にしがみついてしまった。
「痛っ! 帰れるのかな、ボク……」
「泊まってくか?」
「そういう訳にもいかないでしょ。大体泊まってったら何されるかわかんないもん」
「信用無いのな……」
龍麻は初めてキスした時にも同じ台詞を言われたのを思い出し、しょんぼりと呟く。
小蒔もそれを思い出し、小さく笑った。
「ま、ね。……んじゃね」
最後に一言言おうか迷った小蒔が、結局何も言わずに背を向けると、手を掴まれた。
「何?」
なんとなくそれを予想していた自分に照れくさくなって、少し尖った返事をしてしまう。
「……あのさ、絶対何もしないからさ、やっぱ泊まってかないか?」
「何もしないんだったら泊まる意味ないじゃない」
鋭い突っ込みに龍麻は頭の後ろを掻きながら、悪事を告白するような顔で口を開いた。
「……笑わないか?」
「何を?」
「今から言うこと」
「多分。言ってみてよ」
「……手を繋いで寝たいんだ」
「……またどうして」
「ほら、小さい子とか手を繋いで寝てやると安心するだろ」
「ひーちゃんさ、今年でいくつになるの?」
「い、嫌ならいいよ」
相当に恥ずかしいことを言ったという自覚があるのか、龍麻は目を合わせようとしない。
何もしないというのは多分本当だろうし、
言っていることは相当魅力的ではあったが、やはりいきなり外泊というのは気が引けた。
ためらいはじめる心を押しきって髪を揺らす。
「うーん、やっぱり帰る。ごめんね」
「いや、いいよ。じゃあな」
明るく返事しながらも、残念さがありありと判る様子で離した龍麻の手を逆に掴み返す。
「送ってってよ」
「え?」
「え、じゃないよ。夜道を一人で歩かせる気?」
「外、寒い……」
「怒るよ」
「判ったよ、すぐ手振り上げるの止めろって」
ぶつぶつ言いながらも口許が綻んでいるのを、小蒔は見逃さない。
下手くそな愛情表現に、上着を羽織る背中に飛びつきたくなってしまって、
それを隠す為に先に表に出た。

「はい」
「?」
靴ひもを縛り終えた龍麻は、目の前に差し出された手を不思議そうに眺めた。
「繋ぐんでしょ、手」
手を握ると、初めてキスをした時のような、新鮮な恥ずかしさが掌から疾る。
その快さを味わおうとしっかりと握り直して指先まで絡め、ゆっくりと歩き出した。
「えへへッ、あったかいね」
「やっぱ、こうやって寝たかったなぁ」
「こんな寒いところで寝たら死ぬよ」
未練がましくしみじみと呟く龍麻を肘でつつきながら応じる。
やっぱり、ボク達はこういうのがお似合いだよねッ。
まだ残る初体験の痛みのせいもあって、
今ひとつそういうことに消極的にならざるを得ない小蒔だったが、
龍麻はそうは思っていないようだった。
「裸で暖めあうんだよな、そう言う時って」
「もう……嫌だからね、ボク、毎日とかするの」
「嘘……」
「する気だったの!? 冗談じゃないよ、絶対やだ」
「そんな……」
「やだったらやだ」
「じゃ、週に三回」
「や」
「二回」
「い、や」
「ううう……」
泣きまねまで始めた龍麻にうっとうしさを覚えて、小蒔はついに立ち止まって問いただす。
「はぁ……ね、マジメに訊きたいんだけどさ、付き合うってさ、
やっぱりそういうことしないとダメな訳?」
「いや、全然」
「……は?」
龍麻がまだふざけているのかと思って、短い言葉に鋭いとげを込める。
しかし、返ってきた言葉の真剣な調子は、思わず龍麻の顔を見なおしたほどだった。
「お前が嫌ならもういいよ。そんなの全然楽しくないし」
「……怒っちゃった?」
「違うって。そりゃする気ゼロとは言わないけどさ、
しょうがなくやってもらったって意味ないだろ。だから、いい」
「し、しょうがなくは……ないよ。ボクも……痛かったけど、その……嬉しかったし」
急に低姿勢になった龍麻につられて、つい本音を漏らしてしまう。
それを聞いた龍麻の口から、安心したような白い息が吐き出された。
「ん……んじゃ、それなりってことで」
「そ、そうだね、それなりに」
なんとなく言いくるめられた気がしないでもなかったが、
今日はもう、それで良かった。

そこの角を曲がれば、家はもうそこだった。
もし家族に見られたら大変だから、本当はもっと離れた場所で別れるつもりだったけど、
結局言い出せなかったのだ。
「……ここでいいよ。ありがと」
でもやっぱり、もうちょっと手繋いでいてくれたらいいな。
そう思ったけれど、龍麻はあっさりと手を離してしまった。
チェッ。
もうちょっと女心を勉強しなよッ。
しかし、頭に浮かんだ言葉を形にする前に、目の前が真っ暗になる。
龍麻が自分を包み込んだ、と知るまで数秒かかり、知った時にはもう身体は離れていた。
「じゃあなッ」
小蒔にだけ聞こえるように囁いた龍麻は、身を翻し、そのまま走り去る。
──バカ。どうせなら、キスもしてってよッ。
小蒔は夜空に向かって声を出さずに叫ぶ。
見上げた濃紫色の空には、口許と同じ形をした月が浮かんでいた。



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