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夜。
布団をしっかりとかけて寝ないと風邪を引いてしまうこの季節ではあったが、
織部雪乃の布団のかぶり方は普通ではなかった。
羽毛の掛け布団の中にすっぽりと身を隠し、胎児のように身を丸めている。
家の者が見たら何かあったのかと思わずにはいられない、
部屋の真中に敷かれた寝具の内側で、雪乃は傍目には判らないほど小さく身体を動かしていた。
正確には身体全体ではない、肩と、足の間から覗いている手だけ。
誰にも見咎められることのない秘密の空間で、ひそやかな遊びが行われていた。
ひそやかで、そして──淫らな遊び。
あれから毎日、雪乃は妹と禁断の契りを交わしていた。
始めのうちはためらいもあったものの、ひたむきな妹の想いは背徳の意識を溶かし、
快楽が身体に染みついていくにつれ、妹が訪れるのを待つまでになっていた。
しかしこの一週間、雛乃が部屋にやって来ることは無かった。
それが焦らしているのだ、と判ってはいても、
二人きりの時以外はこれまでと変わらぬたおやめぶりを演じている雛乃に、
自分からねだるだけの勇気はまだ雪乃には無い。
そんな心を嘲笑うように、解き放たれた欲望は快楽をねだり、
とうとう雪乃は自ら慰めようと乏しい知識を総動員していたのだった。
パジャマの上から、そっと秘裂をなぞる。
臆病な手付きは、壊れ物に触れる時のそれで、どれほどの効果があるのか疑わしい。
しかもただ中指を前後に動かすだけの単調なもので、全ての感覚を下腹に集中させていても、
妹と親友の与えてくれる悦楽には程遠く、満たされない切なさだけが積もっていくだけだった。
これまで、自慰はおろか、自分の恥ずかしい部分などじっくりと見た事の無い雪乃は、
触れることにさえ恐怖を覚えていたのだ。
以前小蒔のは触ったことがあったが、あの時は下着越しで、
しかも過度の興奮状態にあったので、何をどう触ったのかほとんど覚えていない。
妹のやり方を思い出そうとしても、雛乃はあまりに上手に自分に触れてくるので、
やはり参考にはならないのだった。
それでも、塵も積もれば山となるとでもいうように、雪乃は下手くそな自慰を続ける。
そのさなか、静かに襖が開く音がした。
注意深く聞けば、聞かせるために調節されたものだと判るその音に、
雪乃は全身の動きを止めて耳をそばだてる。
こんな時間に、ノックも、何のかけ声も無しに家族が入ってくることはあり得ない
──ただ一人を除いては。
その一人、雪乃がずっと待っていた一人は、暗闇の中を危なげなく進み、
雪乃の背中側に立った。
「姉様」
妹に呼ばれる、ただそれだけでそれまで決して得られなかった快感が噴きだす。
どんな声を出してしまうか怖くて返事は出来なかったが、
妹は姉の匂いに満ちている空間に身を滑りこませてきた。
身体を丸めた雪乃に、蛭のように身体を張りつかせた雛乃は、
姉の、下ろした髪に隠れている耳を露にし、ゆっくりと輪郭をなぞる。
その触れ方が、妹がこれまで自分が何をしていたか、
そして何を欲しているかを知っていると雪乃に雄弁に伝えていた。
「姉様……おひとりで、慰めておられたのですか」
「だって……だって」
「はしたない」
自分をこうしてしまった妹に一刀両断に切って捨てられ、雪乃は声を詰まらせた。
ねじ伏せていた羞恥心が甦り、身を縮こまらせる。
人間としてはやや遅くに目覚めた、動物としてはごく自然な本能は、
その目覚め方が普通で無かった事もあり、自分がどうしようもないことをしている、
という罪悪感から雪乃を完全に解き放つことは無かった。
そして彼女の写し身、魂を分けた半身である妹の雛乃は、
そんな姉の心境を知りつつ、それを利用しようとしていた。
「どんなことを考えて……慰めておられたのですか」
硬くなった姉の心の表面を、雛乃は滑る。
心を覆う殻の、脆くなった箇所を探して。
白く細やかな指で耳朶に触れる。
深い愛を乗せて耳全体を擦ってやると、姉の身体が面白いように硬くなった。
怯えてしまった獲物を、あとは弄るだけ。
雛乃の心を構成しているのは、その裏側に底の無い淫欲を含んだ、純真な、純真すぎる想い。
それは水に浮かんだ球の表面に刻まれていて、波ひとつで激しく浮沈するため、
雛乃自身にもどちらが顔を出しているのか解らないことがある。
しかし少なくとも今は、どちらなのかは解っていた。
耳孔の中をもくすぐり、耳の裏側に舌を這わせ、雛乃は少しずつ姉を常世の闇に引き摺りこんでいく。
昏い輝きを宿した瞳で、姉の横顔を見据えながら、すぼめた唇から生温かい息を吹きかける。
肌をくすぐる甘美な風に、雪乃はぎゅっと目を閉じたまま罪を告白した。
「あ、の……雛……雛のことと、小蒔の……こと……」
「嬉しゅう……ございます」
自分を想って慰めていた姉に、妹は褒美を与える。
パジャマのボタンを、ひとつずつ。
見せつけるように外していっても、石像の如く固まった雪乃は抵抗しない。
ただ肩から足の間へ、一直線に伸びている腕をひときわ硬くするだけだった。
それだけでも片手で、しかも手探りでボタンを外す雛乃にはかなりの邪魔になったが、
とうとう全てのボタンを外すことに成功する。
寝る時はしないのか、それとも違う理由からか、雪乃は下着を着けていなかった。
これが、理由──
耳朶をくすぐり続けている指に、熱が伝わる。
恐らく耳だけでない、顔全体を真っ赤にしている姉を思い、雛乃は我知らず微笑んでいた。
一層身体を密着させ、姉の身体に半ば覆い被さる。
それでも、まだ残っている中途半端な理性が妨げさせるのか、
雪乃は胸を腕でしっかりと守り、すぐには雛乃の侵入を許そうとはしない。
一旦そこを諦めた雛乃は、可哀想に、いびつな形に凝ってしまっている肩へと標的を変えた。
襟許に繊手を移し、皮を剥くようにパジャマをはだけさせる。
雪乃は妹の意図に気付いたものの、動くことも出来ず、されるがままでいるしかない。
まずは左肩を支配下に収めた雛乃は、美しい曲線で構成されているうなじに唇を寄せた。
「あ……っ」
不意を衝かれた哀れな子兎は無防備な背中に今更気付いたが、時既に遅かった。
恭しく姉の身体に最初のキスを放った雛乃は、
一転して歯が当たるまで顔を押しつけ、唇の裏側で姉の肌を舐める。
溜まっていく唾液がある程度の量になったところで、歯の間から押し出すようにして擦りつけた。
泡立った唾液が、それ自身の重みで滑り落ちていく。
不快で、そしてたまらなく気持ちの良いぬめり。
身を強張らせている以上、自分ではどうすることも出来ないうちに、
妹が残した徴(は、妹自身によって綺麗にされる。
美しい輝きを残しつつ姉の身体を伝う体液が邪魔な布地に隠れる寸前、
べっとりと舌腹を押しつけて掬った雛乃は、それを口内には戻さずになすりつけた。
「んぅ……っ、ひ……な……」
肺の奥から押し出すような吐息。
それが止むまで待ってから、もう一度、今度は小刻みにくねらせて舐めあげる。
姉の薄い背肉に猫のように舌をいっぱいに伸ばして毛繕いをしてやりながら、
雛乃はもう一度隠されている膨らみに腕を伸ばした。
背中に気を取られていたからか、姉の腕の力は緩んでいて、
その隙間にするりと手を滑りこませる。
小さな丘陵を新たな領土に加えた侵略者は、じっくりと手にいれた土地を検分し始めた。
すっかり快楽に過敏になった桃色のしこりが、数度撫でてやることですぐに目覚めて主に忠誠を誓う。
未だ小ぶりな、これからも大きくならないかもしれない乳房を、雛乃はやんわりと揉みしだいた。
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