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「もう……なんてことすんのさ……」
「新鮮だろ?」
「バカ……!」
いくらなんでもこれは度を超している。
驚きと羞恥はメーターをはるかに振り切ってしまい、両手で龍麻にしがみつく必要がなければ、
小蒔は彼の首を絞めていたかもしれなかった。
「こ、こんな……の、聞いたコトないよ……」
「だから新鮮なんだって」
怨み節も聞き流して、龍麻が軽く腰を動かす。
床に寝ての行為よりもダイレクトに感じる振動は、小蒔からそれ以上の怒りを奪ってしまった。
「ひゃ、あ……ッ、あぅッ……!」
雷が落ちたような衝撃が身体を襲う。
宙に浮いた足の指先にまで走る痺れは、何度か繰り返されるうち、なじみの感覚に変わっていった。
運動した後の気持ちよさに似ているけれど、でも違う、最近知った気持ちよさ。
「あぅっ、ひーちゃ……あ、んっ」
挿ってくるのも出ていくのも、いつもより激しい。
小蒔はすぐにこの快感の虜になって、龍麻に文字通り全身を委ねた。
小蒔の反応に手応えを感じた龍麻が、さらに腰の勢いをつける。
男として力を誇示し、女を手中に収める。
小難しい理屈は抜きで、龍麻は抽送に専念した。
「あ、あ、これ、気持ち、いいよっ、ひーちゃんっ」
髪を揺らして正直な感想を述べる小蒔の、ひときわ奥へ屹立を侵入させると、
桜色に染まった顔が仰け反り、かくんと落ちた。
「ううッ、あぁっ、こんなの、ボク、だめッ……!」
スケベなことばかり考えているし、ちっとも真面目じゃないし、
京一と較べてマシなのは男扱いしないところだけの、ロクでなし――なのに、
この腕の中にいると、たとえようもなく安心できる。
どんな嵐が来ても、地震や津波、火山の噴火に遭ったとしても、ここなら世界一安全だと信じられるのだ。
だから小蒔は離せるものなら離してみろとばかりに、精一杯の力でしがみついた。
小蒔の情愛がこれでもかと伝わってきて、龍麻はご満悦だ。
しかし、あまりに小蒔が強くしがみついたため、腰を動かすのが難しくなってしまった。
それに、そろそろ腕も疲れはじめている。
龍麻は小休止して、呼吸を整えようとした。
するといきなり小蒔に唇を塞がれ、半歩よろめいたものの、意地で踏ん張った。
両手が塞がって動けない龍麻の唇を、小蒔は存分に奪う。
入ってくる舌に龍麻も応戦はするが、分が悪く、持ち主同様すばしこい舌に翻弄され、
いいように感じさせられてしまった。
幸いだったのは小蒔も息が上がっていて、それほど長時間キスは続かず、
龍麻は小蒔ごと倒れる前に回復することができた。
「さ……酸欠になるかと思っただろ」
「えへへッ、そしたらボクが上になってあげる」
それは深い親愛を冗談で表現したに過ぎない。
だが、悪戯っぽく輝く瞳に見つめられた龍麻は、もうどうしようもなく発奮してしまった。
「な、な、なに!?」
屹立を抜いて、小蒔を下ろす。
絶頂間近だった彼女は、突然のおあずけに不満と戸惑いを両目に浮かべていたが、
龍麻は構わず後ろを向かせ、壁に手をつかせた。
すっかり端に寄ったデニムパンツの横で、彼女の膣口は生々しくも開いたままだ。
もちろん龍麻のペニスも痛いほどに勃起したままで、細い腰を掴んだ龍麻は、一気に奥まで貫いた。
「くあッ……!」
深く、強く侵入してきた熱杭に、小蒔が悲鳴をあげる。
身体を裂かれたような激しい衝撃に、涙さえ浮かべたが、龍麻はすぐに動きはじめた。
「はッ、あッ、あうッ、うァッ」
よほど刺激が強いのか、なすがままに小蒔はされている。
なめらかで染み一つない白い背中と、はさみで切ったためにほつれているパンツの裾は、
鮮やかなコントラストとなって龍麻の視覚を奪った。
小蒔に半ば覆い被さり、左手を小蒔が壁についている手に重ね、右手は乳房に回し、
ゆるやかな膨らみを押しつぶすように握りながら、強く腰を打ちつけた。
「あぅッ、あッ、ひー、ちゃ……っ!」
ぶり返す快感は、より強く小蒔を苛む。
垂直に刺さっていた時とは違う場所をえぐられ、一突きごとに小蒔は追いつめられていく。
「あッ、はッ、あッ、あッ、くッ、あァァツ!」
壁に爪を立てる小蒔は、揉みしだく手に気持ち悪ささえ感じていた。
もっと強く、もっと乱暴に。
声に出せない小蒔の願望を、読み取ったかのように乳房に指がめりこみ、深い奥まで熱い塊が挿ってくる。
身体がバラバラにされそうな刺激に、小蒔は酔いしれ、渇望した。
腰が何度もぶつかってきて、声にならない悲鳴がなんども口からこぼれる。
無意識に逃げる腰を捕まえられて、根元まで挿ってきた肉茎に、身体の中の全部をえぐり回される。
乳房はもぎ取られるかというくらい強く掴まれ、重ねられた左手も、
旧校舎に絡まった蔦よりも深く、絡まりあっていた。
それらの全てが小蒔を、言いしれぬ悦びへと誘っていく。
「ふッ、あッ、ひーちゃんッ、ボク、ああッ、もうボク、イッちゃう――ッ!!」
吐きだした言葉を追いかけるように、波が押し寄せる。
「あ、あ、あぁッ――!!」
背中をしなやかに反らせて、小蒔は昇りつめた。
尻がぎゅっとすぼまり、膣内の龍麻を食い締める。
うねり、収縮する媚肉に抗えず、龍麻も限界に達していた欲望を解放した。
精液が噴きだし、脊髄を快美感が駆けのぼっていく。
射精を終えた龍麻が屹立を引き抜くと、それが支えであったかのように、小蒔がずるずると崩れ落ちた。
「うあ……ひー、ちゃん……」
うつぶせたまま小蒔が振り向こうとするが、体力を使い切ってしまったようで、
亀のように首だけがかろうじて動くありさまだ。
龍麻も疲労していたが、転んだ子供を立たせるように、両脇に手を入れて起こしてやる。
すると小蒔は礼を言うどころか、身体ごと龍麻にもたれかかってきた。
お互いにうっすらと汗が滲んだ肌は、気持ちよさと不快さが、
微妙に釣りあわない天秤のように交互に訪れる。
ところが小蒔はそうでもないようで、龍麻の肩に頭を乗せるが早いかまどろみはじめた。
「えへへッ……ちょっと、このままね……」
「……しょうがねえな」
どうせ長い時間のことではない。
少しくらいなら構わないと、小蒔の好きなように龍麻はさせることにした。
無防備にまどろむ小蒔の、顔にかかる髪を払ってやる。
健康的な寝顔を見ていると、愛おしさがこみあげてくる。
背中を優しくさすり、さりげなく、手を前に移動させようとすると、いきなり小蒔の目が開いた。
生気が漲る瞳に直視され、龍麻は見苦しく狼狽する。
「う、うわ、何にもしてないぞ俺は」
身体を離した小蒔は素早くベッドに移動し、シーツで身体を包んだ。
「替えのパンツ買ってきて。ちゃんと履けるヤツだよ、ヘンなのだったら何回でも買いに行かせるから」
先に浪漫に浸るのは女だが、すぐに呑みほし、酔いを醒まして新たな浪漫を探す。
一方で男は、グラスが空になっても、なみなみと注がれていた頃を
いつまでも懐かしみ続けてテーブルに突っ伏す……
どこかで読んだそんな文章を龍麻は思いだしていた。
それにしてもこの変わり身はあんまりだ。
あわよくばもう一戦、と考えていた龍麻は、夢を打ち砕かれて思わず毒づいた。
「それ履いて帰ればいいじゃ……ンごッ」
顔面で枕を受けとめた龍麻は、ずり落ちた枕の先で、小蒔の眉がV字になっているのに気づくと、
着替えもそこそこに家を飛び出していった。
龍麻が出ていった扉をしばらく睨んでいた小蒔は、不意に表情を和らげると、
シーツを身体に巻いたまま、念入りにチェーンロックをかけにいった。
べつに怒っているわけではない。
ただ、切られてしまったパンツの仇は取ってあげたかったし、
ずいぶん乱暴にもされたので、そのおかえしというわけだった。
龍麻が帰ってくるまでに、シャワーを浴びる時間は充分にあるはずだ。
着るものがないというのは不満だけれど、こうしてシーツを巻いておけばなんとかなるだろう。
玄関から浴室に行きかけて、小蒔は小さな白い箱が置いてあるのに気がついた。
箱を手にすると破顔して、行き先を冷蔵庫に変える。
もし、シャワーを浴びても龍麻が戻ってこなかったら、
これはもう龍麻の分も食べていいという天のお告げに違いない。
シーツを引きずったまま軽くスキップしながら、小蒔は浴室に入っていった。
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