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黄金色の光が、閉ざされたカーテンの隙間から射しこむ。
生命を育む慈愛の光は、だが、部屋の主によって室内を照らすことを拒まれ、
細長い輝きをわずかに床に投影することしか許されなかった。
その、わずかな輝きを、二つの影が覆う。
全ての光は、この部屋に必要ないというように。
捕らえられた魚のように女が身をくねらせる。
男はそれを押さえつけ、もがく女の曲線がうねるのを愉しむように手を這わせていった。
諦念と蔑みが、元の彼女の色よりも瞳を濃く塗りたてている。
波すら立たぬ深い情念の篭った視線を平然と受けとめた男は、
女の、暴れたために赤みがさしている頬に舌を這わせ、
胸から腹、そして下腹へと進めた手を彼女の足の間へと割りいれた。
「いやぁ……ッ」
秘すべき部分を無造作に踏みにじられ、女は懸命に足を閉じようとする。
だが男は体重をかけて足を開かせ、慎ましくあるべき園を意のままに弄んだ。
「やめ……て……」
薄く刻まれた溝をくつろげられて、女は懇願する。
もっとおごそかであるべきその行為を、獣の欲望によって為されるなど、到底受け入れられるものではない。
しかしより合わさろうとする秘裂の上をなぞっていた男の指は、
女の心中など一顧だにせず門扉の内側へと侵入してきた。
「ぁぁ……」
絶望の呻き。
また今日も、抵抗叶わず蹂躙されてしまうのだ。
男の欲望のままに。
彼の欲望が尽きるまで。
体内で異物が蠢く。
その部分に触れられると、哀しいまでに力が入らなくなってしまう。
抵抗は、無駄。
そう自分を諦めさせた女は、背中の下端辺りからさざめきはじめた感覚に心を委ねた。
内側から、触られる。
もう未知ではない、もう慣れてしまった刺激。
これまで生きてきて感じたどれよりも強く、気持ちよいこと。
下腹に縦に刻まれた溝を、浅く探る男の指に、女は支配される。
表情をくらませようと目許を覆う腕の下で、涙が滲んだ。
心は──心は決して屈していないはずなのに、こんなにも容易く反応してしまう身体に。
どれほど彼を憎もうとしても、数センチ沈んだだけであふれんばかりの強い憎悪おもいすら
簡単に消え去ってしまう己の弱さに。
押さえつけられた足の間が、痺れていく。
彼の指にはきっと毒が塗られていて、だから自分はこんなにもおかしくなってしまうのに違いない。
少しずつ、しかしはっきりと聞こえ始めた水音に、新たな涙を滲ませて女はそう思った。
「……っあ」
男が襞を擦る。
ただそれだけ動きがかわっただけで、女の唇はあっけなく開いてしまう。
蕾が花開くよりも、もっと鮮やかに。
耳を塞ぎたくなるようなみっともない声に、耳朶が脈打つ。
閉じ合わせるだけでは抑えきれない、と、女は美しい唇を血の滲むほど噛んだ。
「……っ!!」
指が、奥へと入ってくる。
するとその、強く噛んだ唇さえ開きそうになって、女はとっさに顎を浮かせた。
喉元まで出掛かっていた嬌声を、唾と一緒に無理やり呑みこむ。
快感に濡れた呼気は押し戻された腹の中で熱く弾け、女は更に追い詰められたが、
醜態を男に見せるのだけはどうにか防げたようだった。
全身を弛緩させた女は、次に加えられる責め苦に耐えるべく、わずかな休息に身を沈めた。

彼女はもしかしたら自分では気付いていないのかもしれないが、
指を入れた瞬間、腰が浮き、柔らかな肉が歓喜に震えたのを、龍麻は見逃しはしなかった。
素直に快楽に身を任せれば良いものを、まだ拒んでいる彼女に微かな苛立ちを覚えながらも、
だがそれも愉しい、と思いなおし、半ばほどまで沈めた指を一度引き抜いて囁いた。
「まだ……我慢しようとしているの? 葵はいやらしい女なのに」
育ちが良い彼女は、こんな状況でさえも問われると目を見て答えようとする。
「ち、が……んぁぁっ」
そんな彼女をいじらしいと思いつつも、龍麻は予想通りの反論が返ってくる前に、
再び、今度は素早く指を埋めた。
媚肉がひくりとうごめき、滴る蜜が指を濡らすというのに、
葵は自分の発した言葉が嘘であると腕の下で首を振った。
それを見ていると、幼い頃、好きな──その当時は好きなどという感情は知らなかったが──
女の子の泣き顔を見たくて、酷いことをしてしまった過去を龍麻は思い出す。
成長の過程で誰しもが経験することだ、
と言うには少し酷過ぎることをしてしまったことも克明に憶えている龍麻は、
その反省からそれ以後、女性には──否、彼と関わる全ての人に甘いと言えるほど優しい。
そんなものが贖罪しょくざいになるとは露ほども思っていないが、とにかくそうしてきたのだ。
だが、葵は──この春に出会った同級生は、そんな龍麻が封印していた、
心の闇の部分を暴き立てる少女だった。
彼女に非など一つもない。
昔、苛めた女の子と同じで。
だが、もうとうに失くなったと思っていたどうしようもないかげの心は、
彼女が自分に向けて笑うたびに膨れ、彼女が他の誰かに向けて笑うごとに燃えさかった。
このままでは、気が狂ってしまう──いっそそうなってしまった方が、どれほど良かったか──
己の裡に巣食う闇に追い詰められた龍麻は、遂にこうして彼女を苛めることにしたのだ。
──成長した自分に、ふさわしい方法で。
「こんなに濡らして、指だって、ほら。わかる? 何本入ってるか」
既におびただしくあふれ出した淫らな涙を掻きだし、口に含む。
その味に満足しながら、龍麻は人差し指と中指を束ねて膣に挿入した。
太さを増した、彼女にとっての異物を、内側で折り曲げて肉壁を抉る。
慌てて唇を噛む彼女を見つつ、上壁の、彼女の感じる場所をじっくりと探っていく。
ほとんど直角に曲げた指で身体の内側を刺激していくと、
彼女の反応がはっきりと変わる場所があった。
「し、知らない……しら……ひッ、やっ、止め……て……ッ」
開かされた足が突っ張り、左手がシーツをちぎれそうなほど掴む。
薄白い肌も紅潮を始め、葵がそこが弱いのは明白だった。
快感を堪えているためか、淫らにぬめる秘所を思いきり見られているのにも、葵は気付いていない。
陶器と見紛うような彼女の身体にあって、生々しく蠢く唇をくつろげる興奮に酔いしれながら、
龍麻は女の急所を責めあげた。
「言うまで止めないよ」
「そ、んな……やっ、そ、れ……ッ」
葵の声が途切れがちになる。
しっとりと汗を帯びてきた太腿に左手を滑らせ、龍麻は彼女のなかにある指の真上に口づけた。
「あ、ぁ……っ、んふぅ……」
細く長い吐息。
力が抜けているのが、かえって彼女の快感を思わせ、龍麻の劣情を掻きたてる。
伸ばした舌を渦を描くように一点を責めさせ、内側からも強い刺激を与えた。
今、身体のどこを弄られているのか──たっぷりと知らしめられ、葵の肢体は苦しげによじれた。
「もしかして葵、止めて欲しくないからわざと答えない?」
「ち、が……う……ッ、ちが、そんな、こと……」
「じゃ、教えてよ。今葵のここは、何本指咥えてるの?」
淫語を、なぶるように肌に吐きかける。
豊潤な乳房の肉が揺れ、彼女はこんな言葉ですら感じてしまう身体なのだと、陵辱者に教えた。
指を咥えこんだ秘唇からはとめどなく蜜がこぼれ、歓喜にさざめいている。
なのにそれを否定し、快楽を拒む葵の、身体ごと持ち上げるように龍麻は肉壁を突いた。
刹那、葵の身体が隠しようのない快感に震える。
生温かく濡れる指を、龍麻は再度彼女の中で動かした。
「……ッ! に、二本……二本、入って……」
答えを知らしめようと膣の中で広がる指先。
腹の中をぐいと開かれ、大きく息を吐いた葵はやっとの思いで答えた。
だが。
「はずれ」
「ひッ、やぁ……っ!!」
もう一本指を侵入させてから、龍麻は間違っていると告げる。
葵は反論しようとするものの、内側でろうとのように開く指先に、身体を裂かれるかと悶えるしかない。
体内で暴れまわる指は、葵にとって楽園を荒らす蛇そのものだった。
いくらかでも刺激を弱めようと、息を浅くして蛇が去るのを待つ。
しかし奸智に長けた蛇は、葵が息を吐き出し、身体が縮んだその瞬間を狙ってその鎌首をもたげた。
「……っ!」
目蓋の裏が白く染まる。
堪える暇さえなく下腹から疾ってきた感覚が、頭の中で弾けた。



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