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間近でそれを見たとき、絵莉は軽く息を呑んでしまっていた。
これまでも見たことがないわけでもなかったが、龍麻のそれは、
まさしく怒り、張っているように思えたのだ。
穏やかで、臆病とすら思える彼に生えている、欲望を直截に示す生殖器。
不自然なほどそり返っているそれに圧倒され、絵莉は触れることもできずただ見ていた。
「あの……絵莉さん、嫌なら別に」
「違うの」
気遣う様子の龍麻に、自分が小娘のように思えて絵莉は恥じらう。
「するのが嫌なんじゃなくて、その……初めてだから」
「え?」
「違うのよ、したことはあるんだけど、その、するのが初めてで」
不思議そうな、当然そうであるべきことを知らずにいるのを訝(るような声に、
ますます頬は熱くなり、自分でも何を言っているのか解らなくなった。
説明することを諦めた絵莉は、思いきって肉柱を掴む。
しかし、焦ったあまりの行動は、龍麻に悲鳴をあげさせてしまった。
「痛……っ」
「あ、ご、ごめんなさい」
慌てて手を離し、顔を上げる。
龍麻は大丈夫、というように笑ったが、
その痛みが男性にとって最大級のものであることは絵莉にも解る。
うろたえる絵莉の眼前で、肉茎がさかんに上下していた。
なだめるように手を添え、絵莉は今度は慎重に擦ってみる。
肉茎は火傷しそうなほど熱く、今にも爆ぜそうなほど脈打っていた。
恐怖と、一瞬だけ期待がよぎる。
唇を舌で湿らせた絵莉は、そのままこわごわと舌を伸ばし、顔を近づけた。
やがて舌先に触れた龍麻は、手で感じたよりもずっと熱かった。
そして軽く舌が触れただけなのに、龍麻の身体は思いきり握ってしまった時に劣らないくらい跳ねる。
「まだ……痛むの?」
「いえ、そうじゃなくて……気持ち良かったんです」
感じている──そうなるようにしているのだから当たり前なのだが、
快感を口にする龍麻というのはひどく新鮮だった。
勇気付けられた絵莉は再び舌を差し出し、今度は知識だけはあった、
ソフトクリームを舐めるように動かしてみる。
味はないが、先端に滲む分泌液とかすかな臭いが五感を刺激した。
双方ともにかなり癖があり、とても良いとは言い難い。
なのに、どうしてか臭いを吸いこんでしまう。
自分が思ったよりも嫌悪を示さなかったので、絵莉はもう少し大胆に口淫を行ってみることにした。
側面に回り、根元へと舌を這わせる。
赤黒くなっている部分はかさで途切れ、そこから浅黒くなっており、
これが剥けている、という状態なのか、と絵莉は知った。
根元へと舌を這わせる、ということは、当然龍麻の股に顔を埋めるということであり、
絵莉は膝立ちのまま摺り足で足の間に割って入っていく。
右手が、龍麻の膝から腰へと滑る。
無駄な肉のない腹部は大きく上下していて、まるで催促しているかのように絵莉には感じられた。
だから絵莉は、屹立を舐め上げる。
情感を込めて、ゆっくりと。
数回舌を動かすと抵抗も薄れ、それにつれて昂ぶりも増していった。
四方から感じる龍麻の息遣いに、身体が火照っていく。
舌遣いに応じて敏感に変わる呼吸は嬉しく、絵莉は龍麻を悦ばせることに幸福を感じていた。
先端から根元まで一通り舐め終え、次のステップに進む。
一旦顔を肉茎の正面に戻し、大きさを測りながら口を開けていった。
それは思ったよりも大きく、ほとんど一杯まで開かないと収まりそうにない。
一瞬、喉が詰まってしまわないだろうかという恐怖が掠めたが、
それよりも好奇心と、龍麻を感じさせたいという欲求の方が勝り、絵莉は思い切って先端を頬ばった。
「ん、っ……! 絵莉……さ、ん……っ」
途端に情けない悲鳴が上がる。
それを自分が発しさせているものだと思うと、嬉しくなった。
口の中で一段と大きくなる亀頭を、円を描くように舐める。
「ふっ……んふ……」
苦しくなった絵莉は、一旦塊を口から抜く。
すると不思議なもので、何もなくなってしまった口の中が、今度は物足りなく思えてしまった。
衝き動かされるように再び咥えこもうとして、絵莉は視線に気付く。
少し心配そうな、そのくせ性への期待を持ち合わせた視線。
龍麻にゆっくりと頷いた絵莉は、もう一度屹立を含んだ。
舌先に乗せた肉茎を、奥へと導いていく。
半分ほどを呑みこんだところで、それ以上は入らなくなった。
「ん……ぅ……っ」
口の中で逃げ場を失った呼気が、彼から放たれる熱気と混じって腹へと落ちていく。
それは計り知れない悦びとなって絵莉の心を濡らすのだった。
舌の動きに吸引も交え、絵莉は口淫を続ける。
もう臭いにも圧迫感にも完全に抵抗はない。
どこを刺激すれば龍麻が感じるのかというのも判ってきて、それを愉しむ余裕すらあった。
目を閉じ、唇で起伏を捉えながら顎を引く。
しかし、濃い男の臭いを鼻腔深くに導き入れ、また咥えようとすると、龍麻に制止された。
「待ってください、もう……イキそうで」
「あ、そ、そうね」
どうやら随分夢中で行為に没頭してしまっていたようだ。
少し慌てながら、絵莉はベッドの上に乗った。
近づいてくる龍麻に、戸惑うだろうと思い自分から足を開く。
すぐに灼けるような視線が、一点に注がれた。
最も恥ずかしい部分を見られているという羞恥と、
彼がそこを欲しているのだという興奮に、絵莉は静かに喘いだ。
硬くなった、否、絵莉が硬くした勃起が浮かび上がる。
今にも押し入ってきそうな猛りから、絵莉は目が離せない。
あれが入ってくる──
そう思っただけで股間が熱くなり、既に秘唇を蕩かしている蜜に新たな数滴が加わった。
「絵莉……さん……」
うわ言のように呟いた龍麻が、猛った肉茎を秘唇にあてがう。
絵莉は息を呑み、彼が自分を貫くその瞬間を待ちうけた。
「……は、ぁっ……」
龍麻が入ってくる。
その事実は、何より絵莉を興奮させた。
開き、押し入ってくる肉塊。
それは間違いなく幸福な瞬間だったけれども、
彼の大きさと、随分久しぶりだという事実が、絵莉に自身も予想していなかった呻き声を発しさせた。
「……っ、ぅ……」
「絵莉さん?」
仲間と共に在る時の、自信に満ちた顔ではなく、ただの世慣れぬ少年の顔。
その顔を自分一人だけが見られるという喜びはあったが、
それよりも彼のそんな顔を見たくないという思いの方が強かった。
だから絵莉は、笑ってみせる。
「平気よ、それより……ね?」
「は、はい」
再び訪れる鈍痛。
声を堪えながら、セックスというのはこんなにも痛みを伴うものだったろうかと絵莉は考えていた。
疎遠だったからだろうか、それとも彼のものが大きいのだろうか。
焦点を失った思考が身体の中を漂い、気がつけば龍麻の顔がすぐそばにあった。
「あ……」
真摯な欲望に彩られた瞳に正面から見つめられ、絵莉はたまらず顔を両腕で隠した。
「ど、どうしたんですか」
見ればわかりそうなものなのに、龍麻は律儀に訊ねる。
答えなければならなくなった絵莉は、
今まで最も落ちこんだ時でさえ出さなかった、線香のような声で告げた。
「聞かないでよ」
「でも」
こういう時に限って龍麻は食い下がってくる。
羞恥を通り越して腹が立ち始めた絵莉は、本気で心配している様子の朴念仁の頭を手繰り寄せた。
「いいから、動きなさい」
キスをしてから、少し強い口調で言ってやる。
年上の権限を用いた絵莉に、龍麻はしゃっくりを呑みこんだような顔で頷くと、
言われた通りに抽送を始めた。
「あ……くっ」
おさまっていた痛みが、再び臍(の下を走る。
だが年長であることを示したばかりであるから、悲鳴をあげるわけにはいかなかった。
龍麻はやはり初めての快感に我を忘れてしまうのか、
気遣うようにゆっくりだった抽送も段々激しくなっていく。
しかし、それがかえって良かったのか、断続的な痛みは少しずつ薄れていった。
身体が馴染みはじめてきたのだ。
それまで抑えつけられていた鬱憤を晴らすかのように、悦びが身体の奥から湧き起こってくる。
「あっ、ん……ぁっ」
「絵莉さん?」
明らかにトーンの変わった声に、龍麻が驚きと心配を瞳に浮かべる。
女性のこんな声を聞くのも、もしかしたら初めてなのだろう。
動きを止めた龍麻が、またじっと見るのに耐えられなくなって、絵莉は彼の首に腕を回した。
視界を塞ぐために、キスをする。
もう龍麻も積極的に応じてきたので、途中から動きを委ね、快感に没頭した。
「ああ……んぁっ」
声が抑えられない。
それまでの経験でも気持ち良くなかったわけではないが、
こんなにも快感を意識させられ、嗚咽じみた声を発してしまうのは初めてだった。
あまりにはしたなく、自分のものとも思えない声は、完全に龍麻の動きと同調している。
まるで身体の奥にそういう声を発しさせるボタンがあり、
彼の切っ先がそれを押しているかのように、絵莉は意思とは関係なく喘いでしまっていた。
「絵、莉……さん……」
叩きつけるような声と、身体を貫く塊。
膣壁を抉られ、腰が浮きあがる。
頭の中で火花が散り、固形物と化した喘ぎが止まらない。
気持ち良いながらもどこか醒めた理性を残していたこれまでとは違って、
龍麻は本当の快楽を絵莉にもたらしていた。
「あっ、はっ、んあっっ、は……んぅっ」
声を発するごとに、追い詰められていく。
どこへ──考える暇もなく、新しい快感が波涛のように来る。
頭の中一杯に詰めこまれた快感は、行き場を失い、弾けるしかない。
気持ち良い、と思った直後、絵莉は最も大きな快感が自分を浚っていくのを感じた。
「あ、あっ……! んんっっ……!」
意識が遠のく。
たとえようもない心地良さの中で、胎(に熱を感じた。
彼も今、達している──
一層の幸せに満たされ、絵莉は深い陶酔の中に落ちていった。
厚い胸板に、頭を預ける。
そっと髪を撫でてくれる手が、とても幸福だった。
今日は、このまま眠ってしまおう。
掃けることのない仕事は今も片付けられるのを待っていたが、
絵莉は今日だけは彼らを放っておくことにした。。
疲労と満足を完全に調和させた吐息と共に、絵莉は目を閉じる。
すると急に龍麻が身を起こした。
何事かと訝る絵莉の前で、龍麻は下着を履くこともせずにスーツのポケットを探る。
「あの、クリスマスプレゼント買ってきた……んですけど、受けとってもらえますか」
「もちろんよ」
若干の驚きを隠せないでいる絵莉に龍麻が差し出したのは、小さな箱だった。
開けてみると、中には指輪が入っている。
「すいません、どうしても何かお揃いのが欲しくて……
でも俺指輪なんて買うの初めてだからデザインとか判らないし、
絵莉さんが気に入らなかったら持っててくれるだけでもいいんですけど」
こんな時は、強気に嵌めてくれればいい。
そう言おうとした絵莉は、さっきも同じようなことを言ったのを思い出して、
今度は黙って手を差し出した。
理解した龍麻が、何故か掌を太腿で拭ってから指輪を嵌めてくれる。
飾り気のないデザインは、きっと仕事の邪魔にならないように選んでくれたのだろう。
サイズは多少違ったが、絵莉は彼からの初めての贈り物に、心から礼を言った。
「あ、あのそれじゃ俺も」
揃いの指輪を嵌めた龍麻は、心底嬉しそうに手を眺める。
ずっと忘れていた甘酸っぱい気持ちを思い出し、絵莉は彼の肩に頭を乗せた。
「あなた……学校はどうするの?」
「これくらいなら大丈夫だと思います。年明けたらあんまり学校も行かなくなりますし」
女性のように手を何度もひっくり返して指輪を眺めている龍麻に、
絵莉も彼へのプレゼントがあることを思いだし、ベッドから抜け出て取りに行った。
全裸に今更恥ずかしがっている様子の龍麻に、絵莉は龍麻がくれたものよりは大きな箱を手渡す。
それは、まさか龍麻が高価なものを贈ってくれると思っていなかったので、
釣り合いはとれていないが、心から考え、選んだ物だった。
「コーヒーカップ……ですか?」
「ええ。でもそれは置いていって欲しいの」
意味が解らないのだろう、龍麻は贈られたばかりでもう返さなければならないらしいカップに
視線を落とし、次いで絵莉を見る。
その反応は期待した通りのもので、絵莉は彼の手からカップを取り上げ、
とっておきの悪戯を完成させるための最後の欠片をさりげなく渡した。
「飲みたくなったらいれてあげるから」
「え……? あっ……!!」
龍麻の顔がみるみる赤くなる。
絵莉はたまらず吹き出し、彼もろともベッドに倒れこんだ。
龍麻との顔の間にカップをかざし、軽くくちづけて頭上に置く。
まだ、夜は長い。
コーヒーはもっと後でも良いはずだった。
これからは、いつでも飲めるのだから。
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