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返事は直接には返ってこなかった。
「ん……」
肩の辺りの髪に触れる、柔らかな気配。
微かな吐息が背中に当たり、くすぐったさを懸命にこらえていると、さやかが何かを言った。
「紗夜ちゃん」
「なに?」
「……すき」
それが髪が、なのかわたしが、なのか。
紗夜にとっては大きな違い。
そして、さやかはそれを知っていてわざとあいまいに言う。
だから。
「わたしも」
けれど、わがままな姫は、自分のことは棚に上げてお付きの侍女をなじった。
「わたしも、なに?」
唇が押し当てられたままの髪に、震えが伝わる。
それを感じ取った紗夜は、穏やかに降伏した。
「わたしも、さやかちゃんが好き」
答えを褒めるように、後ろからさやかが身体を押し付けてくる。
綺麗なお椀の形をした膨らみと、その中心にある小さな突起。
のけぞってしまいそうに気持ちいいさやかの胸を背中で受け止めていると、
腋の下から伸びてきた腕が胸を掴んだ。
背中に当たっているものとは違い、手の中にほとんど入ってしまう膨らみ。
その両方を収めたさやかが、ゆっくりと掌を密着させた。
お菓子の下地をこねる時のように、円を描く手。
とても見ていられなくて、紗夜は目を閉じて顔をそむけた。
拗ねたようにも、身を任せたようにも見える横顔に軽くキスをしたさやかは、
すっかり硬くなっている尖りを集中的に責める。
「や……ん……」
自分一人の時は決してしない、いやらしさに満ちた動きに、
紗夜の軽く食いしばっていた口から、諦めたように媚声が漏れた。
「んっ……」
ひとたび溢れ出してしまえば、もう止めることは出来ない。
そこだけを集中的に責められて、頭の中がさやかで染まっていく。
彼女の腕の中にいることが当たり前になってから知ったこと。
彼女の指先が触れるようになってから覚えたこと。
さやかの肩に頭を預けた紗夜は、心地良い温もりの中に溺れていった。
さやかの左手が、丘を滑り降りていく。
ゆるやかに起伏するお腹を通って、縦にひっそりと息づく蔭へ。
本当に最小限に覆っているだけのそこは、手入れをしてあるさやかのものよりも扇情的でさえあった。
白い肌を飾り立てる繊毛を一度だけ往復した指は、触れられる時を待っていた芯を探りあてる。
「ぁ……っ!」
どれだけ丁寧に触られても、剥き出しの快感に逆らうことは出来なかった。
周縁をなぞられるだけで鋭い痺れが全身を疾り、一瞬さやかのことさえも忘れてしまう。
さやかの求めに応じて露になった陰核は、紗夜そのものを象徴するかのように慎ましかった。
しかしそれは見た目だけのことで、ひとたび触れられてしまえば、紗夜の肢体を鞭のようにしならせ、
その下に眠る淫靡な湖から滔滔(と蜜をあふれさせる淫らな引き金に過ぎない。
ましてや今日は、散々に昂ぶらされた挙句、まだ触られていなかったのだから、
さやかの愛撫が与えた効果はいつもの比では無かった。
「く、んっ……ぁ、ぁ、さや……か……ちゃ……」
少しずつ腰が前に出てしまっていることに気付きもせず、紗夜はさやかの名を呼ぶ。
さやかはそれに、周縁ではなく、直接淫らな芽の頂きに触れることで応えた。
「んっっ!! ぁ……」
紗夜の快楽が、文字通り手に取るように伝わってくる。
離れてしまっている身体を再び密着させたさやかは、女芯を人差し指に任せ、中指を秘裂に合わせた。
「は……ぁっ……」
紗夜の肩が小さく揺れ、シーツに置いていた手が宙に浮く。
その呼吸に合わせて、繊指がゆっくりと扉を押し開いた。
「……っ」
そこはエレベーターの中での残滓が色濃く残っていた。
たちまちに指を浸した透明な滴を、内壁に塗りこめていく。
戯れかかってくる温かな肉をよけるようにして体内に埋めていくのに、さやかは深い悦びを覚えていた。
身体を強張らせて受けている愉悦を殺そうとする紗夜に、
細い路の中で指を左右に振りたてて邪魔をする。
「っ……く、や、だ……」
絶え間無く、そして的確に弱い所を突いてくるさやかに、紗夜の声はますます蟲惑(的なものとなっていった。
甘い嬌声と、その為に吸う息のどちらもがさやかの鼓膜を狂おしく震わせ、劣情の歯止めを外してしまう。
彼女の背中で潰れている自分の乳房をさらに押し付け、更に彼女の乳房をも握り締める。
裡にある指は知り尽くした紗夜の最も弱い一点を捉え、逃れようの無い高みへ誘(おうと抉った。
「お願……い……待って、やっ……!」
抵抗もあえなく潰え、下から立ち上って来る激しい奔流にかき乱されてしまう。
小刻みに訪れる快楽の塊に力を奪われ、背中に触れる柔らかな肉体にもたれかかった。
しかし、支えてくれると思っていた背もたれは、身体をずらし、そのままベッドへと押し倒す。
波を迎えたばかりで呼吸も荒い紗夜の口を、鮮やかな紅色に染まった唇が塞いだ。
息苦しくて押し退けようとするが、強引に舌が入ってくる。
「んっ、ぅ……ぁ……ふぅ……っ」
さすがに積極的に応じる気にはなれない紗夜だったが、
さやかが自分を更に感じさせようとしているのではなく、
さやか自身がそうしたがっていると気付き抵抗を止める。
紗夜にとって、さやかは自分よりも優先すべき人だった。
唇がめくれてしまうことも厭わない、だらしないキス。
淡い桃色の舌は白く濁り、癒しの奇蹟を与える声は卑猥な濁音を立てる。
相手の舌の奥に触れる度にぞくぞくする喜悦がもたらされ、
うねった舌が相手に弄ばれる度に足の間から歓喜の涙が流れる。
口を押し付け、胸を押し付け、腰を、秘部を押し付ける。
ふたりは身体の全てを触れ合わせながら、ひとつになることを拒んでキスを重ねていた。
貪り続けたさやかが、ようやく満足して顔を離す。
それきり精も根も尽き果ててしまったように紗夜の上で突っ伏した。
乱暴にされたはずの紗夜は、忙しく上下するさやかの背中を優しく擦ってやった。
「さやかちゃん……何か、あったの?」
機嫌を損ねないように、小声で尋ねる。
しかし、さやかは激情をもてあますように身体を起こした。
むこうを向いたまま、彼女らしくない重い声で呟く。
「キスシーンが、あるの」
「……え?」
「キスシーンが、あるの」
二度繰り返したのが、さやかの怒りの量を表わしていた。
きっと、今度出るドラマか映画でそういう場面があるのだろう。
詳しいことは後で聞くにしても、それだけの理由で今日一日、
ずいぶんと振りまわされた紗夜は、一気に拍子抜けしてしまった。
さやかはまだむこうを向いたままだったけれど、紗夜は両手で顔を覆って表情を隠す。
泣いた顔と、笑った顔。
今自分がどちらの顔をしているか、もしかしたら両方いっぺんにかも知れない。
どちらにしても、見られたら良くないのは同じだったから、そのままで告げた。
「……ね、さやかちゃん。今日泊まっていってもいい?」
「うん。いいよ」
短く答えたさやかの笑顔は、少しはにかんでいた。
そして、今度ははっきりと恥ずかしそうにして、起こした身体を紗夜の傍らへと横たえる。
「……ごめんね」
「ううん、いいの」
笑ってみせた紗夜は、さやかがして欲しがっていることをしてやった。
何度も、何度でも。
幾度か迎えた波も引き、紗夜は満ち足りたまどろみの中に足首まで浸かっていた。
産まれたばかりの赤ん坊のように、最も自然に曲げられた指に、何かが触れる。
絡めもせず、握りもせず、指の先のほんの少しを軽く触れさせるだけ。
それでも、その小さな接点からは、たくさんのものが伝わってきた。
「さやかちゃん」
「なに?」
「……ううん、なんでもない」
さやかはいつもなら、言いかけて止めるとすぐに拗ねるか怒るかしてしまうのに、
今は小さく横目で紗夜を見ただけで何も言わなかった。
代わりに合わせていた指を離して、小指だけを紗夜の手に残す。
理解した紗夜は、彼女と同じ指を動かしてそっと絡めた。
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