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翌日。
電脳部で一人コンピュータに向かっていた御門は、気配を感じて顔を上げた。
傍らにいきなり立っていた芙蓉に、驚きを押し殺す。
彼女が命令も無くこんなに近くに踏み込んできたのは今までに覚えが無かった。
「御門様」
「どうしました? 今日は特に命を申し付けてはいないですが」
「……申し訳ございませぬ」
しばらくの沈黙の後、芙蓉は目を伏せて、ほとんど聞き取れないくらいの声でそう呟くと、
いきなり御門の身体を押し倒した。
「どうしたのです!」
芙蓉に只ならぬ事が起こっているのを瞬時に悟った御門は、芙蓉を一旦呪札に還そうとした。
「!! な……何故私の術が効かぬ!?」
全く式札に還る気配を見せない芙蓉に、
御門は目の前の女性が敵の偽者ではないかと思ったが、
彼女は確かに自分が使役している十二神将の一人、天后芙蓉に間違いなかった。
「御門様……」
逆に自分が術にかけられたかのように、身体が動かない。
芙蓉の手が己の陽を晒けだすのを、まやかしでも見ているかのような面持ちで眺めるだけだ。
芙蓉は主人の、昨日初めて知った一物を愛しげに撫で擦り、柔らかな手で握る。
それはすぐに本人の意思とは無関係に大きくなり、存在を誇示するように垂直にそそり立った。
「ふ、芙蓉……これは一体、どうしたと言うのです」
「以前から……以前から、御門様の事をお慕い申し上げておりました」
「それは……しかし、お前は」
もはや動転しているのを隠す事も出来ずうろたえる御門の口を、芙蓉の紅が塗られた唇が塞いだ。
今まで嗅いだ事の無かった香りが漂ってきて、御門の思考を中断させる。
人と寸分違わぬ温かさを持った舌が口の中に入り、自分の舌を絡め取ると、
御門は抗う事も忘れて、芙蓉にされるがままに口付けを交わしていた。
「……ぅ………」
口付けはそんなに長い間の事では無かった。
御門はそう思っていたが、視界の端に入った時計の進み具合を見て愕然とする。
快楽に流される人間など軽蔑の対象でしかなかったのだが、
それは知らぬ者だけが言える強がりでしかなかった事を思い知らされたのだ。
芙蓉はどちらの物かも判らない唾液で唇を妖しく光らせながら、太腿に御門の陽を押し当てる。
昨日のマンドレイクよりも熱く、心臓にあわせるように脈動を繰り返すそれが、たまらなく愛おしい。
「御門様……」
無意識に口からこぼれたその言葉は、今までの想いを凝縮した情感に溢れていた。
「……芙蓉……」
いつの間にはだけていたのか、芙蓉の制服のシャツの間から豊満な白い胸が覗いているのを、
御門はつい見てしまう。
その視線に気が付いた芙蓉は、口許を小さく微笑ませると、主の目から乳房を隠すべく動いた。
身体が、密着する。
夏服の薄い生地越しに芙蓉の胸の質感が伝わってきて、御門を誘う。
ほとんど本能的な欲求に、もはや逆らおうともせず御門は胸に触れた。
「あっ……んっ……」
御門の手はミサよりも更にぎこちない動きだったが、芙蓉は比べ物にならない快感を受けていた。
愛しい男に触られる事に無上の喜びを感じながら、はばかりもせず淫声をあげる。
制服を着て教室の片隅でこうして愛を交わしている様は、
いささか過激ながら、紛れも無く普通の高校生の男女の物だった。
散々に豊乳を弄んだ御門は、次にどうしたら良いか判らず動きを止める。
しかし芙蓉に、芙蓉だからこそ弱みを見せたくない御門はまさか尋ねる事も出来ず、
目だけで彼女の顔色を伺った。
芙蓉は心得たように頷くと、自分の足の間でいきり立っている御門の陽を、
既に熱く潤っている自らの陰に迎え入れる。
「くっ……ふ、芙蓉……」
御門は未だ女性を知らず、そもそもある一人以外、女性自体にさして興味も無かったが、
そんな彼にも、芙蓉の媚肉は尋常ならざる物である事は判った。
男根から精を搾り取りつつ、自らも悦びを得ようと締まり、うねる。
あまりに蟲惑的な芙蓉の女陰に御門は弾けた欲望を抑えられず、
彼女の腰を掴むと床に押し倒し、本能のままに腰を動かす。
「あぁ、御門様……っふ、っ、あ……」
御門の屹立はミサの時は比較にならない激しさで芙蓉の身体を貫いた。
引き抜かれ、新たに入ってくる度に違う角度で淫壷を抉り、男の証を焼きつけてくる。
腹の中を掻き回され、顎を仰け反らせて悶えながら、
わずかでも離したくなくて、足を御門の腰に絡めて動きを封じた。
足が狭まるのに合わせて、膣が締まる。
それは性交が初めての御門にとって、強すぎる刺激だった。
「うっ…………くっ!」
小さな呻き声と共に、芙蓉の体内に収まった御門の陽から熱い液体が放たれる。
その熱さはあの日与えられたどんな快感よりも心地良い、
ミサが決して与える事の出来なかった愉悦を芙蓉にもたらしていた。
身体が満たされるのを感じながら、彼女も絶頂を迎える。
「御門様……わた、くしも……ご、ご一緒に……っっ!!」
芙蓉は全身で御門にしがみつきながら、好いた男に抱かれる悦びを全身で感じて果てていった。
乱れた衣服を整えるまで、二人とも無言だった。
「裏密ミサに……彼女に、何かされたのですね?」
主の問いに、芙蓉はしばらく答えなかった。
御門の言っているのは事実なのだが、それを認めると、
ぼやけてしまう物があるような気がしたのだ。
「…………いいえ。わたくしの、自分の意思でございます」
結局、芙蓉は御門によって命を吹き込められてから初めての嘘をついた。
おそらくこれで御門との繋がりが断ち切られると思った時、芙蓉は想いを伝える方を選んだのだった。
「……そうですか」
御門は彼女が嘘をついているとは微塵も考えていなかったが、
何か事情があるにせよ、彼女が言わなければどうしようもなかった。
それでも、式神である彼女を物ではなく、女性として扱おうとする辺り、
この、男女の機微など何も知らない陰陽師は全く救いが無い訳ではなかった。
「申し訳ありませぬ。わたくしは…もはや式神としてはお役に立てませぬ。
「……確かに、術者の言う事を聞けず、
あまつさえ恋に惑うた式神など、その意味は有りませんね。
判りました。あなたの式神としての役目は今日で終えてもらいましょう」
芙蓉の言葉に御門は軽く目を細めつつ頷いた。
それは充分予想していた答えであったが、実際に耳にした時芙蓉の胸の中を寂寥が駆け抜けた。
それでも。
一時だけでも、想いが叶えられたのなら。
芙蓉はむしろ晴々とした気分で、式札に還されるその瞬間を待ちうけた。
しかし、いつまで待っても戻らない自分の身体に、芙蓉は恐る恐る顔を上げる。
そこには手にした扇子を広げ、顔を覆い隠した御門の顔があった。
「代わって貴女に命じます。今この時より、御門晴明個人に仕え、世話を執り行いなさい」
「……御門……様」
芙蓉はある種の衝動に必死で耐えながら、深々と一礼する。
「……ただし」
頭を垂れたままの芙蓉に、御門はまだ扇子で顔を覆ったまま続けた。
「村雨には絶対に気取られてはなりませんよ。いいですね」
「……承知致しました」
芙蓉は再び一礼したが、その口の端は抑えきれない喜びの為にほころんでいた。
「……うふふふふ〜。上手くいったわ〜」
オカルト研究会の部室で、ミサは水晶玉に映し出された光景を見てほくそ笑んでいた。
御門晴明。
いずれ必ず自分の敵対勢力になるであろうこの男を排除するにはどうすれば良いか。
龍麻を通じて彼の存在を知ってから、ミサはその事だけを考えていた。
そして導いた結論が、この、最も簡単で、かつ確実な方法だった。
彼を色欲に溺れさせてしまえば、自ずと滅びの道を歩み、
少なくとも自分の道に立ちはだかる事はないだろう。
芙蓉は思惑通りに動き、声こそ聞こえなかったが、御門を手篭めにしてくれた。
計画が完璧に運んだ事に自画自賛の頷きを三度すると、
ミサは新しく手に入れた『無名祭祀書』の幻の初版を解読するべく机に向かった。
ちなみに数年後、ミサは知る事になる。
御門晴明が、陰陽師の歴史の中でも最強を誇る術師となり、
常にその影に寄りそう女性、天后芙蓉もまた強大な力を持った式神となった事を。
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