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並んで横たわった二人は、お互いの大切な部分に触れ合う。
他人から見れば奇妙な愛しあい方でも、二人はこのやり方が好きだった。
「ねぇ」
「ん」
「気持ちいい?」
言わずもがなのことを小蒔は訊ねる。
返事が返ってきたことは一度もなかったが、龍麻の反応を見るだけでも愉しかった。
同じ龍麻とは思えないほど、熱く、猛々しく張った部分。
指先をくまなく動かし、龍麻が気持ち良くなるところを全て触れる。
熱を増し、時折手の中でひくりと跳ねるそれを、小蒔は丁寧に擦った。
すると、反撃するように龍麻の指が足の間に入りこんでくる。
そこはもう、いつでも龍麻が入ってきてもいいようになっていると、小蒔は知っていた。
小蒔はされるよりもする方が好きだったが、遠慮がちに裂け目をなぞる龍麻の指が、
先端にある気持ち良くなる場所を触るのはとても好きだった。
「あ……」
掠れた声。
自分のものとも思えない、いやらしい声。
それがひとつこぼれる度、二人の間に熱気が満ちていく。
肌を撫でる熱に浮かされ、小蒔が顔を上げると、
龍麻はずっと待っていたのだろう、すぐに覆い被さってきた。
「ん……っ」
熱塊が、潜りこんでくる。
背筋がぞくぞくする気持ち良さに、小蒔は身体を仰け反らせた。
一旦奥まで収まった屹立は、しかしすぐに戻っていってしまう。
挿入された時よりも強い快感に貫かれ、小蒔は息を詰まらせた。
息が限界まで詰まったところで、また入ってくる感覚。
感覚はそこで途切れ、小蒔がいつのまにか閉じてしまっていた瞼を開けると、
龍麻がいやらしい目でじっと見ていた。
「お前ほんっと最初が好きなのな」
「うるさいな」
ようやく主導権を握ったと思っているらしい龍麻は、
小蒔があんまり好きではない笑みを浮かべている。
けれど確かに小蒔は、挿れられた瞬間の、ひとつになったような感じが大好きだった。
龍麻もそれ以上は言わず、また動き始める。
お腹の中が一杯になる、ヘンだけど気持ちいい感じ。
さっき触っていたものが、自分の体内に入っているかと思うと、身体が凄く熱くなってしまう。
それは何度経験しても新鮮で、心地良い感覚だった。
また、目を閉じていた。
龍麻の顔を見ていたいと思っても、気持ち良くなるとどうしても閉じてしまう。
気恥ずかしさを表には出さず目を開けた小蒔は、龍麻の顔が随分と遠くに感じられた。
近くで見たくなって、龍麻を呼ぶ。
「起こして」
龍麻の肩を掴むと、腰に手が添えられ、身体が持ち上がる。
向き合って座る格好が、小蒔は特に好きだった。
この姿勢だと龍麻にしがみつけるし、気持ち良さがじわじわと満ちてきて、深く昇り詰められるからだ。
「ん……」
近くに来た顔を、さらに近くに寄せた小蒔は、そっと唇を合わせる。
荒い呼気が唇をこじ開け、熱気が口の中に流れこんできた。
「っふ……」
激しい舌の動きに、いつしか小蒔もリズムを合わせ、ねっとりと絡ませる。
夢中でお互いを求める、犬のような喘ぎが響き渡った。
快感に、しばし小蒔は没頭する。
口から流れこむ快感に、耳から漂ってくる快感に、そして下腹に入っている快感に。
そうしていると、ひーちゃんだけを感じられる──
小蒔は身体の全てで龍麻を感じようと、そっと目を閉じた。

薄く浮き上がった背骨をなぞる。
「……んっ」
飽きることなく重なり、睦みあっている舌先が、繊細に震える。
目を閉じて快楽に耽っている小蒔を、薄目を開けて見た龍麻は、
それだけで温かな媚肉に包まれている己が膨らむのを感じた。
普段の強引なまでの性格も、例えるなら夏としか言いようのない笑顔も、
ふと見せる愁いを帯びた横顔も──全てがこの、
今の表情のためにあるのではないかとすら思えるほど、愛しい顔だった。
委ね、あまりにも無防備に委ねきっている顔。
こうしている時でも、ほんのわずかな時間しか見ることのできない小蒔は、
いみじくも彼女自身が言ったとおり、小蒔そのものだった。
呼吸を整えようと顔を離すと、そのわずかな間でも嫌なのか、小蒔はキスをねだってくる。
ほとんど甘えていると言ってもよい仕種に、龍麻が興奮しないわけがなかった。
少しでも多く小蒔を感じたくなって、左手を乳房に這わす。
小さな膨らみは揉む、のは難しかったので、
先端の硬くなっているところに狙いを絞って、小蒔が好きなやり方で刺激してやった。
「ふっ、んぅ……」
そうされるのが好きだ、と小蒔がはっきり言ったわけではないが、
声の調子がはっきりと変わるのできっと間違いないだろう。
ふちをなぞり、下を人差し指で支えて親指で引っ掻く。
その時ほんの少しだけ潰すような感じで力を加えてやると、
いかにも嬉しそうに身体がひくつくのだった。
「んっ……っ」
背骨を下に辿った右手がお尻に着いたところで、左手も同じ場所に合流させる。
両手で身体を軽く持ち上げると、甘い熱気を漂わせてしがみついてきた。
「ひー……ちゃ……んぁっ」
身体ごと、小さく揺する。
奥深くまで入っているからか、それだけでも小蒔は感極まったように悶えた。
膝がきゅっと閉じ、屹立が甘美に締め上げられる。
舌は小蒔に委ね、龍麻は彼女のなかにある自分を感じることに集中した。
収縮する柔肉が、屹立を奥へと導こうとする。
もう根元まで埋まっているというのに、お構いなしに蠢き、まとわりついてくる様は、
脳髄が弾けそうな快感を龍麻にもたらした。
屹立が通る狭い通路は、入るごとに新たな姿を示し、
敏感な部分を擦られて龍麻の手に自然と力が篭る。
小さな、そして愛おしくてたまらない身体を欲望のままに持ち上げ、落とした。
「あっ、んっ、ひー……」
名前を呼ぼうとする小蒔を邪魔するように再度。
彼女の全てが快感へと繋がり、昂ぶりへと変わる今、名を呼ばれてしまったら保たない。
そう思ったからだが、小蒔は意地悪をされたと感じたのか、両腕で一杯に頭を抱き締めてきた。
「んうぅ……や、だ……」
不意に爆ぜそうになる。
かろうじてこらえた龍麻は、動きを止め、きっと無意識にそう言った小蒔を見た。
紅潮した頬に色鮮やかな羞恥を浮かべ、小蒔は目を伏せる。
「ね……ボク、もう」
「イキそうか?」
「……うん」
照れながら頷く仕種がたまらなく可愛くて、龍麻は繋がったまま小蒔を寝かせた。
荒く息づく肢体をなだめるように撫で、一方ではより乱れさせようと腰を振る。
相反する動きも、小蒔を想うという一点で矛盾はしていない。
「や……あっ、んうう……あ……っ」
これまで抑えていた分を解き放つように、激しく抽送を行う。
短い髪が揺れ、短い喘ぎが絶え間なくこぼれるようになり、小蒔はもう程なく達しそうだ。
龍麻は腰に溜まる射精感を懸命にこらえ、
細やかな痙攣が始まって一層快感をもたらす媚壁を何度も貫いた。
「あ、ん……っ、あっ……!」
ひときわ高くなった小蒔の声が、絶頂を告げる。
それと同時に屹立が食い絞められ、龍麻の快感は爆発した。
「あ……はっ……」
脈打ち、精液を吐き出す屹立に合わせるように、小蒔が息を吐く。
それが小さくなるまで聞き届け、龍麻は、屹立を引き抜いて傍らに横たわった。
まさぐるように動いた小蒔の手が、探していたものを見つけ、力なく重なる。
それをを優しく握り返して、龍麻は幸福なまどろみに落ちていった。

服を着ようとした小蒔は、足りないものがあるのに気がついた。
「あれ?」
「どうした」
「パンツがない」
「どっか変なとこ入っちゃったんだろ。次来る時までには見つけといてやるよ」
ひどく適当な返事に、微動だにしない龍麻。
二つが結びついた時、小蒔の脳裏に答えは出ていた。
「えー、だって……丈短いから見えちゃうよ」
聞きいれるふりをしつつ、小蒔は先に履いたスカートの、ちらりと裾をめくる。
際どいところまでみせると、すぐに獲物はかかった。
何気なさを装いながら、凝視しようとする龍麻の腰が浮き上がる。
その下にある黄色い布地を、小蒔は見逃さなかった。
「やっぱりッ!!」
自供を引き出すべく、小蒔は最後の証拠固めとして下着を指差す。
浮かんだ龍麻の表情が、全てを物語っていた。
右、左。
何をしようとしたのか、忙しく眼球を動かした龍麻は、
いきなり両手を合わせ、どこかの神様に拝むように頭を床にこすりつけようとした。
しかし、それを小蒔は見ていない。
「何考えてんだこのバカッ!!」
龍麻が頭を下げるまえに拳で殴り飛ばした小蒔は、
頬を抑えながら蛇に睨まれた蛙の目をしている龍麻の胸倉を掴んだ。
「ご、ごめん」
「一生」
「え?」
「一生、ボクのラーメン代はひーちゃんが払うこと。いい?」
「それは……」
ほんの軽い出来心が、恐ろしい代償を支払わされることになって、龍麻の顔が泣きそうに歪む。
しかしそれは自業自得もいいところなので、小蒔は全く同情しなかった。
「いい?」
「はい」
龍麻が発したのは、絞め殺されるウサギの断末魔のような声だった。
一方仁王のような形相から一転、恵比寿のような笑顔になった小蒔は、
わかればいい、と親しげに龍麻の肩を叩いた。
「よし、それじゃ早速食べに行こうか」
「今月金が……」
「何か言った?」
「言ってないです」
小蒔が龍麻の首根っこを掴んで外に連れだすと、部屋に静寂が訪れる。
後には、持ち主にすっかり忘れ去られた、黄色いパンツが物悲しげに落ちていた。



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