<<話選択へ
<<前のページへ

(3/3ページ)

「あぁ……」
 ついに、葵の顔に不満が浮かんだ。
といってもわずかに眉根が寄った程度で、おそらく当人は自覚していないだろう。
自覚したとしても、絶対に認めはしないのは確実だ。
だから龍麻は逆に、快感を与えることにした。
 抽送の速度をあげていく。
それもいきなりではなく、徐々に。
「あッ、うぅん……っ」
 再びもたらされた快感の波に、葵ははじめ戸惑う。
だがすぐに望む以上の気持ちよさが与えられるとわかったのか、鏡を握りなおした。
 尻たぶに腰をぶつけ、洞の奥まで抉る。
リズミカルな抽送に、葵の全身がわなないていた。
そのわななきを打ち消すように、龍麻は新たな快楽を送りこんだ。
「あっ、んっ、ん、あ、はぁっ、あぁ、あぁぁっ……!」
 幾重もの喘ぎが鏡を曇らせる。
間断ない吐息は、しかし葵の顔を隠してしまうには至らず、
下腹から響く快楽に蕩ける自分を、むしろ強調する形で見せつけられることとなった。
「あぁ、龍麻、ん、あ、あぁっ、んっ、あ……!」
 葵の身体が頼りなくなっていく。
鏡に頭をぶつけそうになるところを龍麻が支えると、そのまま床にへたりこんでしまった。
 大きく肩で息をする葵は、全身が弛緩している。
肉体だけでなく精神にもしまりがなくなっている姿は、醜く、そして美しかった。
「ほら……前に手をつけよ」
 咲き誇る肉の花に感化された龍麻は、葵をけしかける。
快楽を中断された葵はもはや羞恥もなく、扇情的な格好にもすぐさま従った。
 巨大な尻が誘っている。
肉の詰まった尻が、その谷間にたたずむ白く泡だった体液にまみれた秘裂が、
さらにはその上方で控えめに収縮する尻の孔が、全て牡を虜にしようと蠢いていた。
淫臭たちのぼる陰唇を、くつろげようと龍麻が触れると、
それだけでうっすらと開いている壺の口から愛蜜があふれだした。
「あ……」
 尻が揺れ、控えめな催促がされる。
白く濁った粘液を指に取った龍麻は、彼女の最も敏感な場所に薄く塗りつけた。
「ン、うっ……!」
 兎のように尻が跳ねる。
恥ずかしいのか、目も合わせようとしない葵に、龍麻は罰として猛った肉茎を与えた。
「あぅん……っ……」
 ほぐされた媚肉と、あふれかえる潤滑液が、最奥へとペニスを導く。
龍麻は逆らわず、わずかに勢いをつけて、腰を叩きつけた。
「あぅッ!」
 悲鳴じみた喘ぎがほとばしる。
けれども葵からの抗議はなく、巨大な臀部が逃げようとする気配もない。
それどころか彼女の内部はせがむように収縮し、
それに応えて龍麻は灼熱の杭を二度、三度と撃ちこんだ。
「あッ、あ、ふぅっ、ん、んぅっ、あッ……ん……!」
 嬌声から余裕が失われていく。
快楽に肉体が追いつかなくなってきているのだ。
鏡に映る葵の顔に赤みが増し、苦しげにも見える。
それでも龍麻は勢いを減じはせず、細い腰をしっかりと捕らえ、葵を責めたてた。
「はぁッ、ん、待ってっ、龍麻……激し……んぅっ……」
 葵の上体が崩れ、床に突っ伏す。
だがそれは、龍麻にますます抽送をやりやすくさせてしまうだけだった。
 葵に覆い被さった龍麻は、隧道を無尽に貫く。
体重を乗せ、葵の深奥を抉りぬかんと屹立を埋め、肉壁を削ぎとるように引き抜いた。
「あ……う、あ……ン……」
 息をする暇もなく与えられる快感に、葵の腰が卑猥に痙攣をはじめる。
その震えを押さえるように龍麻は身体をぶつけ、
葵の奥に隠された扉をこじ開けようと怒張を叩きつけた。
「あぅッ……あァッ、はァ……ア……!」
 嗚咽に緊張が含まれていく。
葵の絶頂が近いと見て取った龍麻は、しかしそのまま彼女を快楽の果てに追いやりはしなかった。
自分の屹立に溜まっている快楽を封じこめ、抽送の速度を落とすと、
ついには完全に動きを止めてしまう。
さらには快い肉の筒に包まれていた屹立を引き抜き、葵を引き起こした。
「あ……?」
 あぐらをかいた上に朦朧としている葵を抱え、下ろしていく。
「い、嫌っ、お願い、恥ずかしいわ、こんな……!」
 意図を察した葵が我に返り叫ぶが、鍛えあげた龍麻の膂力は
軽々と葵を持ちあげたままびくともしない。
「ほら、暴れると挿らないぞ」
「だ、だって……」
 葛藤する葵に、龍麻は性器を擦りあわせて刺激してやる。
効果は絶大で、たまらないと言いたげに息を吐いた葵は、おずおずと足を開いていった。
「挿れてくれよ」
「……こ、う……?」
 ついに観念したのか、鏡は見ないで手探りではあったものの、
屹立の中程を握った葵は、自らの身体の中心に先端を導き、押し当てた。
「ちゃんと挿るまで支えてろよ……!」
 汗ばむ手が滑ってしまわないようしっかりと柔肌を握り、葵を下ろしていく。
「あ、あ……!」
 縦に刺し貫く肉茎から逃れるように、葵の背が反った。
半ば体当たりされた龍麻だが、葵の身体は離さない。
抱きかかえ、痴態をまざまざと彼女自身に見せつけた。
「嫌……! 嫌、嫌ぁっ」
 葵が激しく頭を振り、体熱が蒸散する。
それも無理はなく、一メートルと離れていない場所には、
発情した牝の肉体と、淫口を開き、根元まで牡を呑みこんだ女の部分が
隠しようもなく浮かんでいるのだ。
 足を大きく開かせ、龍麻は抱えた葵を上下に揺する。
否応なしの快感に、葵は瞬間的に鏡から顔をそむけるのを忘れた。
鏡の向こうから四つの目が、真っ向から向き合う。
「……! あ、ぁ……」
「いやらしいな……初めてだよな、見るのは。凄いだろ? しっかり咥えこんで」
「見ない、で……恥ずか、しい……わ……」
「駄目だ……葵も見るんだ」
「ああ……ああ……!」
 龍麻が眼光に意志をこめると、葵は催眠術にかかったように薄く口を開き、
肉欲に溺れる自分自身を凝視した。
「見えるだろ? しっかり挿さってるのが」
「龍麻と……ひとつに……」
 あくまでもこれは愛が帰結するところの崇高な行為なのだと言い聞かせようとする葵に、
業を煮やした龍麻は残酷な現実を突きつけた。
二人の結合部に手を伸ばし、淫珠を剥きあげると磨くように刺激する。
 強烈な快感に加えて龍麻の支えを失ったことで自重を支えられなくなり、
これまで知らなかった腹の奥にまで肉茎が到達した葵を、白目を剥くほどの快楽が襲った。
「かッ、は……!」
 亀頭の先端が葵の最奥を捉えたのを確かめた龍麻は、極小の動きで葵を嬲る。
「ひぅッ、や、やめ、て……そこ、だめ……ッ、だめ……!」
 全く彼女らしくない、ぶつ切りの単語の羅列は、葵が切羽詰まっているからに他ならない。
顔を上向け、気道を一直線にして呼気を吐きだすのがやっとの葵に、
龍麻は腰をしっかりと抱いて最奥部を攪拌した。
「ひ、ン……ッ、ひあッ、あぅゥッ――」
 朱からまだらな紅へ、めまぐるしく肌の色が変わっていく。
強烈な快楽から逃れようと、葵は鰻のように身をよじるが、
それはただ快楽を増幅させるだけで、もはや恥部を隠すことも忘れた清楚な聖女は、
あられもない姿で男にしがみつくばかりだった。
「はッ、あッ、はァッ、あぁ、あゥ、はァッ」
 葵の全体重を受けとめながら、龍麻はなお官能に染まった女体を揺らす。
根元まで挿さった男根はそれだけで充分な役割を果たし、
葵はいよいよ絶頂が近いと思わせる、金属的な響きで喘いだ。
「あ、ァ……んゥッ、だめッ……わた、し、もう……あッ、あァッ……!」
 蟹のように開かれた両足の付け根を下から持ちあげ、落とす。
それがとどめとなり、葵は背中を限界まで反らせたかと思うと、狂ったように痙攣をはじめた。
「あぁっ……! ん、ァ――!!」
 間を置かず、龍麻も精を放った。
収縮を続ける隘路が粘液で満たされ、葵は最後の痙攣をする。
そして糸が切れたようにずるずると、龍麻の腕から離れていった。
 伏している葵を、龍麻は見渡す。
弛緩し、最低限の緊張さえ失われた身体は、いくらかたるんで見えた。
あらゆる体液にまみれて汚れた、気をやり続けた末の抜け殻。
それは醜くて美しく、龍麻の理想に近いものだった。
 けれども、これは表面に過ぎない。
時間を置けば葵は元の慎ましい女性に戻り、汚れも洗い流されてしまう。
 もっと。
 もっと心の内側から、魂から汚してしまわないと。
 それが東京を護った報償だとしても、天秤にかけてもまったく釣り合わない
罪深い行為だと知っていても。
宿命などというものがなければ、葵はその輝きにふさわしい、
あらゆる可能性を選び取れたものを。
 その中でも最も昏い可能性を、龍麻はこれから与える。
出口すら見えなくなるような闇の中へ、葵を引きずりこむのだ。
 葵の肌に貼りついた髪を、龍麻は払う。
その仕種で意識を取り戻したのか、葵が顔を上げ、わずかに微笑んだ。
さっきまでの一方的なセックスなど気にも留めていないような、親愛に満ちた瞳。
黒くても中に輝きのあるそれを受けとめることなく、ただ透過させた龍麻は、
それを気取られないように、静かに葵に覆い被さった。



<<話選択へ
<<前のページへ