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「緋勇くんっ!」
わずかに目をそむけ、闘いを注視しないようにしていた葵が真っ先に立ちあがる。
今度は醍醐も止めず、龍麻の許に駆け寄る葵をみずからも追いかけた。
走ってくる仲間達を見て、龍麻は無理やりに立ちあがろうとしたが、片膝を立てるのが精一杯だった。
そして、龍麻を倒した紫暮もまた、片膝を地に着いている。
「主将ッ!! しっかりしてくださいッ!」
「うッ……うゥむ……俺は大丈夫だ……心配するな、お前ら」
紫暮は駆け寄る部員達を手で制して立ちあがる。
どうにかそこまでは出来たが、膝が笑ってしまっていた。
相手もこれ以上は闘えないようだが、自分もさほど状態は変わらない。
龍麻の実力は認めるとしても、それは内心でのことで、
武道家の意地として肉体の弱みは見せる訳にはいかなかった。
「やれやれ……俺もまだまだ修行が足らんな」
久方ぶりの心地よい痛みに全身を委ねながら、
紫暮は自分と引き分けた男が長い髪の少女に助け起こされるのを横目で見やった。
「緋勇くん……大丈夫?」
「なんとか……痛てて」
言葉ほどに平気そうではない龍麻に、葵は目を閉じた。
心を満たす彼への想いに、『力』が応える。
かざした掌が輝きに満たされ、その一部が龍麻の許へと向かう。
程なく龍麻の口から、満足の吐息が聞こえてきた。
「楽になった……ありがとう」
「良かった……あんまり無茶はしないでね」
まだ少し腫れている頬に、葵はもう一度意識を集中させる。
再び青みを帯びる身体を、龍麻は慌てて制した。
「もういいよ、平気だから」
「動かないで」
声と、頬に触れる手と、両方に命じられて、龍麻は動くのを止める。
腫れて熱くなっている皮膚を押さえる冷たい指先と、
そこから伝わる暖かな氣は、この上なく心地よいものだった。
出来ればもう少し──先ほどとは正反対の龍麻の期待は儚くも潰え、
腫れが完全に引いたのを確かめた葵の手は、あっさりと離れてしまった。
「他に痛むところはある?」
残念ながらもう治療を受けられそうな部分はなかった。
頬がまだ熱いのは、怪我のせいではない。
「うん──今度は本当に平気。ありがとう」
改めて礼を言った龍麻は、息がかかるほどの距離に葵の顔があることに不意に気付き、
顔をうつむかせる。
少し遅れて、その理由に気付いた葵も同じように下を向いてしまった。
そんな二人を微笑ましく見守っていた京一は、
そろそろ頃合だと見て龍麻の手を引っ張って立ちあがらせた。
「ったく、ハラハラさせやがって」
苦笑で応えるしかない龍麻に、今度はその巨体でさりげなく彼らから葵を隠していた醍醐が向き直る。
「しかし──本当に強いな、緋勇は」
「なんだよ、勝てると思ってなかったのかよ」
ようやく軽口を叩けるまでになった龍麻がそう言うと、醍醐は困ったように頭を掻いた。
「いや、そうじゃないが……まぁ、とにかく良かった」
「それにしても、総番が交代したというのは、どうやら本当らしいな」
なお醍醐を追及しようとする龍麻に、紫暮が歩み寄ってきた。
今死闘を演じたばかりの相手を見る眼は、まるで長年来の友人を迎えるような陽性のものだ。
「緋勇……今のは、勁か?」
「あぁ」
「そうか……あれが勁か。受けるのは初めてだったが、大したものだな」
それを二発──二発目は最後、吹っ飛ばされる寸前に放った──受けてまだ立っている紫暮も、
相当に大したものだった。
「空手とはまた違った、面白い闘いをさせてもらったよ。いい技だった」
「あぁ……俺もだ」
謙遜と誇りを同時に含ませた控えめな龍麻の笑顔に、
相通じるものを感じた紫暮は、こちらは豪快に笑う。
当事者にしか解らない交流を行う彼らに、部員達が恐る恐る口を挟んできた。
「主将、医務室へ行かれた方が」
「フン、これくらいの傷、三日もすれば痕も残らんわ。
それよりお前らこそもう本当に帰れ。俺はまだこいつらと話がある」
「しかし」
「大丈夫だ。もう闘(りあうことは無い」
「押忍ッ! それでは失礼しますッ!」
一斉に頭を下げた紫暮の後輩達は、駆け足で出口へ行き、
そこで主将に向かって一礼をして去っていく。
規律のとれた彼らの振舞いは、悪い印象を抱きようもないものだった。
「いい部員だな。空手と部を愛してる」
「誉めても何もでんぞ」
紫暮は再び笑う。
その笑いは、闘う前に醍醐が抱いていた確信を一層深めさせるものだった。
最後にもう一度だけ、他の仲間を納得させる為に訊ねる。
「紫暮……もう一度聞きたい。真神(の人間を襲った奴に心当たりは?」
「少なくとも、俺の知っている限りでは、無い」
「そうか。──紫暮、あんたは立派な武道家だな。
今更だが、礼を欠いたことを謝らせてもらうよ。すまなかった」
「そんなでかい図体で情けない顔をするな。実を言うとな、醍醐って奴と一度手合わせしてみたかったのさ」
「……物好きな野郎だな」
京一が呟くと、紫暮は豪快に笑う。
こちらが本来のこの男の表情なのだろう、いかにも武道家らしい、全てを許す笑い方だった。
誤解を解いた龍麻達は、紫暮を含んだ車座で改めて道場の真ん中に座った。
まだいくつか訊ねなければならないことが、お互いにあったのだ。
今度は胡座(を掻いている紫暮は、いかにも感心したように龍麻を眺めている。
「しかしお前ほどの男を、今まで噂にも聞いたことが無いのは不思議だな」
「あァ……緋勇(は転校生なんだ」
軽く答えた京一に、紫暮は思いのほか真剣な表情で尋ねた。
「転校生? 真神にもか?」
「にも? 他にもいるのか?」
「鎧扇寺(ではないが、転校生の噂は良く耳にする」
「まぁ、東京にだって腐る程高校はあるんだ。転校生の二人や三人珍しくもねェだろ」
「ふむ……確かにそうだが、今年に限って多いというのもおかしな話だと思わんか」
「……」
膝についた手に顎を乗せた京一は、眉をしかめて考え込んだが、やがて両手を上げて降参した。
紫暮も話したこと以上の情報を持っている訳ではなく、この時はこれで話が終わってしまった。
確かにたまたま、という可能性もあるし、もっと大事なことを訊ねなければならなかったからだ。
「さて……俺の方からも聞きたい事があるんだがな」
そう切り出した紫暮の左手がさりげなく腹を押さえているのに気付き、葵が一歩進み出た。
「紫暮さん」
「なんだ」
「少し、じっとしていてください」
「うむ?」
三度、葵の身体を淡い輝きが包む。
葵が掌をかざすと、紫暮の身体から、打撃で受けた痛みがたちまち引いていった。
「それは……一体……」
「おまじないみたいなもんだよ」
とっさに葵に代わって龍麻が出来の悪い嘘を吐く。
しかし紫暮は、考え込む表情の後、一語一語言葉を選ぶように口を開いた。
「緋勇(の技を食らって思ったんだが……あれは、一体何だ」
「何……って」
「上手くは言えんが、今のその人のやお前の『力』……
そういう常人離れした『力』を使える人間は、多いものなのか?」
龍麻達は揃って顔を見合わせた。
紫暮の台詞はこれまでとはうってかわって歯切れが悪かった。
それは彼が何かを知っている、と言うことに他ならないのだ。
素早く視線を交わした龍麻達は、思いきって自分達の『力』について話すことにした。
「多いかどうかはわからない……けど、ここにいる俺達は全員、
そして──その他にも何人かは知っている」
「そうか……」
「もちろん俺達だって最初から使えた訳じゃない。ある日を境に、急に使えるようになったんだ」
「なるほど……な」
正確には龍麻だけは、京一達が『力』に目醒めた日よりも前に氣については会得していたのだが、
今は詳しく話す必要も無い、と思い、端折って説明した。
説明し終えた龍麻に代わって、今度は醍醐が口を開く。
「紫暮、今回の事件についてはどの位知っている?」
「……真神の空手部員が、襲われて重傷──その位だ」
「そうか。その襲われた部員は──身体を石にされるという症状が出ている」
「石に……」
「信じられんのも無理は無いが、事実だ」
しかし、紫暮の顔に疑念や嘲笑は浮かんでいなかった。
眉間に深い皺(を刻んで何事か考え込んでいる。
「犠牲者をこれ以上増やさない為にも、早く犯人を見つけないといかん。
そして犯人を止められるのは、多分同じ『力』を持つ俺達だけだろう。俺達には時間が無いんだ」
話し終えた醍醐に、紫暮は重々しく応じた。
「大会前の部員が襲われれば、当然関係者が疑われる。
もし鎧扇寺(の部員が襲われていれば、俺も真神を疑ったろうな」
紫暮の言葉に、龍麻はひとつの可能性に思い至った。
「もしかしたら、犯人はそれを狙って……?」
「その可能性はある……というより恐らくそうだろうな。
俺とあんた達を闘わせ、潰しあうのを狙って一件を仕組んだ」
「ちょっと待てよ。そいつは話が飛躍しすぎじゃねぇか?」
「そうだよね。ボク達は初対面だし、それに、
空手部同士のことにボク達が首を突っ込むことまで計算してたってコト?
ちょっと無理があるんじゃないかなぁ。ね、緋勇クン」
口々に反論する京一と小蒔に、龍麻自身もそう思わないでもない。
しかし、自分達の『力』と石化の『力』、無関係と決めつけるのもどこかためらわれた。
「でも、俺達はこうしてここにいる。紫暮の言う事も可能性が無い訳じゃない」
「紫暮か俺達を知っているヤツの仕業ってことも考えられるって訳か」
「そうなると……あの夜、敵は、俺達に発見させようとしたのかも知れないな」
龍麻達は口早に語り合ったが、どれも推測を出ない。
情報が不足しているのだ。
それぞれの表情で腕を組んだ龍麻達に、紫暮からごくさりげなく爆弾が投げこまれた。
「……もう一つ、お前らの知らない事がある」
「なんだ」
答えない紫暮に、短気な京一が声を荒げようとすると、紫暮の身体が薄青く光りはじめた。
それは、どこかで見たことのある光だった。
「おい、こりゃ……」
「──!!」
淡い輝きは強さを増し、紫暮の身体を包み込む。
その光が完全に紫暮を隠し、やがて消えた時──もう一人の紫暮がそこにいた。
「なっ……」
十八歳にしては肝の座っている龍麻も、これには声が出ない。
自分の眼がおかしくなったのかと思い、何度も擦った。
しかし涙が滲むほど擦っても、紫暮は二人のままだ。
ただし良く見れば、左側の紫暮の方がやや輪郭がぼやけているようだった。
一様に驚いている龍麻達に、紫暮は自らの起こした現象について説明する。
「二重存在(……と言うそうだ。正確には違うらしいが、
なにしろこんな事が他の誰かに起こっているとも思えん」
「しかし……凄いな。これ全部『氣』なのか?」
「さぁ……な。俺にも良く解らん。
初めは寝ている時しか現れなかったんだが、今では好きな時に出せるようになりつつある。
そしてこれが出来るようになったのは……ほぼお前らと同じ頃だ」
唐栖に嵯峨野、そして紫暮……この東京の街に、何かが起ころうとしている。
それは、あの旧校舎で聞いた声と関係があるのだろうか。
大きな、力──師から古武術を習う時に口を極めて言われた、
地球そのものの力の流れを意識しろという台詞を、龍麻はなんとなく思い起こしていた。
その時は大げさな修辞(だと聞き流していたのだが、
真神に行けば全てが解る、と言った台詞も、
これらの出来事に自分が関わることを知ってのものだったのだろうか。
やっぱりあの親父、食えない奴だ──
何を聞いても柳に風、とはぐらかし続けた師の髭面を空想で殴り飛ばす。
しかし実際には彼を跪(かせたことは半年間一度も無く、
跪かされたことは両手足の指でも足らないくらいの龍麻は、
今度はどうしたら彼を倒せるかをシミュレートし始めていた。
龍麻が思考を発展、というよりも暴走させている間にも、
京一達はもう一人の紫暮を興味津々の態で眺めている。
特に最も興味を持ったのは小蒔で、身を乗り出して指でつついたりしていた。
「……これ、別々に動かせるの?」
「例えば闘っていて蹴りと突きを別々に出したり、挟み撃ちにしようとかは出来るが、
飯と空手を別々にやったり、全く違う所に行ったりは出来ん」
「でもさ、ラーメンとケーキを一緒に食べられるんでしょ。
そしたらすっごいたくさんのものが食べられるよね、いいなぁ」
一同の中で最も食欲の魔人に支配されている小蒔が、心底うらやましそうに言った。
それを聞いた京一は、こんなうるさいのが二人もいたらたまらねぇ──とは言わず、
より効果的な文句を投げつけた。
「アホかお前は。だったら二倍早く腹が減るだろうが」
「あ、そっか」
「ははは、それは考えたことが無かったが──多分、片方は氣だから駄目だろうな。
それに、これも氣だからな、出していればそれだけ早く疲れる。
そんなに便利なものでも無いってことだ」
紫暮は笑い、もう一人の紫暮(を消した。
現れた時と同様、瞬時に居なくなった紫暮に、改めて一同は驚く。
まるで一流の手品師のショーを見ているようだった。
「なるほど……これで俺達と鎧扇寺……いや、紫暮(を結ぶ線が出来たって訳か」
『力』持つ者同士を噛み合わせる──そこにどんな意味があるのかはまだ解らないが、
今回の件に関してはこれで説明がつきそうだった。
太い腕を組んだ紫暮は、ふと心づいて尋ねた。
「それよりも、さっき言っていた時間が無い、というのはどういう意味だ?」
「石にされた人間は、徐々に石化が進行していく。
心臓まで石になってしまえば、もう元には戻らない」
「そういうことか。……事実を知ってしまった以上、俺も無関係ではない。
犯人探しを手伝わせてもらおう」
「助かる……けど、大会はいいのか?」
龍麻が慮(ったのは、
紫暮が全国大会出場の懸かった地区大会を控えた身だということだった。
ところが凄腕の空手家は、そんな龍麻の心配をまたしても豪快に笑い飛ばす。
「強敵(のいない大会など、出ても張り合いがないからな」
「言ってくれるな。そういうことなら、よろしく頼む」
心強い仲間を得た龍麻達は、ひとまず帰る為に立ちあがる。
制服を着込む龍麻をちらりと眺めた醍醐は、最後の疑問を口にした。
「紫暮、ひとつ聞かせてくれ。どうして緋勇との闘いで二重存在(を使わなかった?」
「おいおい、部員の前であんなのを使えというのか?
──それに、空手家が身の潔白を証明するのに空手以外のものを使ってどうする」
そう告げた紫暮の顔には、武道家としての誇りがはっきりと浮かんでいた。
深い感銘を受けて頷く醍醐に、紫暮は今度は破顔一笑して言った。
「まあ正直なところ、まだ実戦で使えるレベルではないしな。
特にお前らのような奴と闘う時にはかえって逆効果だろう」
「そういうことか」
「何か判ったらすぐに知らせる。そちらでも何かあったらいつでも連絡してくれ」
道場の入り口まで新しい友人達を見送った紫暮は、急に何かを思い出したように付け加えた。
「そうだ──参考になるかは判らんが、数日前にうちの部員がこの辺りで不審な男を見たと言っていたな」
「不審?」
「うむ。やけに派手な装飾を付けたスキンヘッドの男だそうだ。見た所俺達と歳は違わないらしいが、
この辺りでは見ない顔だったと」
龍麻達は顔を見合わせるが、もちろん心当たりなどない。
木刀で軽く自分の肩を叩いた京一が、興味はほとんどない、とばかりに首を振った。
「スキンヘッドか……ま、今日びその位珍しくはねぇけどよ。他に何か特徴とかねぇのか?」
「あぁ、あと──左腕に大きな刺青があったとか」
それも今時の東京では、さして珍しいとはいえないだろう。
そう思った龍麻達だったが、一人、反応を示した男がいた。
「左腕に……刺青? まさか……いや、そんな……」
「おい醍醐、なんか思い当たる事でもあんのかよ」
「いや……昔の知り合いにそんな奴がいたが……」
醍醐の顔は夕陽の中にあって青ざめている。
京一だけでなく、この場にいる全員が続きを待ったが、
醍醐はついにそれ以上口にしなかったので、 一行はやや白けてしまい、
その雰囲気に抗えないまま帰ることにした。
「一応、そいつも少し調べてみた方が良さそうだな」
「頼む。それじゃ、俺達は行くよ」
「うむ。この件が片付いたら、また遊びに来い。
特に緋勇、お前とは是非もう一度手合わせしてみたい」
「ヘッ、えらく気にいられちまったな、緋勇。あんなムサ苦しい野郎に、気の毒なこった」
鎧扇寺が男子校なものだから、遊びに来る気など全くない京一が
とことん他人事の口調でそう言ったのは、鎧扇寺の門を出てからだった。
「でも凄かったよね、緋勇クン。紫暮クンにも一歩も引けを取らなかったんだもん」
龍麻は京一の方は丁重に無視して、誉めてくれた小蒔に笑ってみせる。
その笑いが急速にしぼんだのは、葵の表情を見てからだった。
「でも……あんまり無茶はしないでね」
「う、うん……ごめん」
しょげかえった犬のように縮こまる龍麻の左右で、京一と小蒔が笑いを堪えている。
照れも手伝って、龍麻は二人に勢い良く口を尖らせた。
「なんだよ」
「いや、お前らさ」
「なんか……夫婦みたいだよね」
そこまで言った二人は、もう限界とばかりに笑い出した。
「な、何言ってんだお前ら」
「もう、小蒔ったら」
龍麻と葵はたちまち夕陽よりも顔を赤くする。
その辺りの初々しさが、京一達の格好の遊び道具になっているとは気付くはずもなく。
自分よりも葵の名誉の為に二人を追い掛け回していた龍麻が、逃げ足の速さに諦めて戻ってくる。
「ッたく……ん、醍醐、どうした?」
元より醍醐はこの手のじゃれ合いに付き合うタイプではない。
しかし今、目の前の男は傍目にそれと解るほど深刻に考え込んでいた。
「ああ、ちょっと考え事をしていてな」
「ったく、お前はすぐに考えすぎる悪い癖があるからな」
いつのまにか戻ってきた京一が、そ知らぬ顔して龍麻の横に立つ。
何か言ってやろうと思った龍麻より先に、醍醐が話題を変えた。
「解っているさ。……それより緋勇、病院へ寄っていかないか?」
「そうだ……な」
露骨に逃げられたように感じ、龍麻は歯切れが悪くならざるを得なかった。
それでも、この時はまだ、醍醐が抱えている不安についてそれで済ませてしまえたのだった。
それはすぐに、より大きな歯切れの悪さを強いるものとなって龍麻の前に立ちはだかるのだったが。
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