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「やっ……」
雪乃が手を掴んできたが、その力は弱かったので、そのまま続けることにする。
女性が気持ち良くなると本当にそこが濡れるのを知った龍麻は、
次は当然の欲求としてそこを見たく思ったが、狭いベッドの上で向きを変えるのは不可能だった。
仕方なく指先に神経をかき集めて、そこがどうなっているのかを覚えこませることにする。
ほとんど一直線に走っている筋を辿ると、触感が変わる。
そこに女性が最も気持ち良くなる部分があると知識だけは得ていた龍麻は、
指の動きを遅くし、丁寧に探った。
小さなしこりのようなものを感じとり、その周りをなぞる。
「っ……うぅ……」
雪乃のどこか苦しそうな声は、そこが探した場所だと教えていた。
緊張を押し殺し、そこだけでなく、秘唇全体を撫でまわす。
すると閉じられていた溝が少しずつ開き始め、指を濡らす滴の量が増えた。
もっとした方が良いのかどうか龍麻は迷ったが、自分の方がもう限界だった。
片手で下着を脱ぎ、痛いほどに張り詰めている屹立を解き放つ。
いつかこんな日が来る……来れば良いと何ヶ月か前から用意していた避妊具を着け、
再び雪乃に寄り添った。
「雪乃……いいか」
熱っぽい龍麻の声が、すぐ近くから聞こえる。
最も恥ずかしい場所に触れられた羞恥と、そこがもたらす快感に、
意識の半ばを委ねていた雪乃は、問いかけにぼんやりと頷いた。
頷いてから伝わったかどうか不安になったが、龍麻は身体を起こし、足の間に割り入ってくる。
遂に、するんだ──
足の間に触れた熱いものに、雪乃はそんなことを考えていた。
何ヶ月か前までは、一生しない、とは言わないまでも、する気は全くなかったこと。
学校で友人が楽しそうに話しているのを聞いても、全く興味の湧かなかったこと。
双子の妹である雛乃共々、少なくとも高校を卒業するまでは縁が無い、
関わろうとも思わなかったことを、今からするんだ。
雪乃は自分がその辺の、男のことしか考えていない女達と結局は変わらないことを自嘲したが、
同時に、彼女達があれほど真剣に語っている理由を、ようやく理解していた。
熱い塊が、ゆっくりと肉を掻き分けて入ってくる。
ひどく恥ずかしく、そして幸福な感覚。
しかし、その感覚に長い間浸ることは出来なかった。
「うっ、あ……ひっ……!!]
身体を引き裂かれたような痛みが下腹から奔流となって昇ってくる。
それは雪乃の漂っていた意識を一気に地に引きずりおろし、叩きつけた。
しかもそれだけでは飽き足らず、やみくもに殴り、蹴飛ばし、投げ飛ばす。
初めては痛い、とその手のことに疎い雪乃でもそれくらいは知っていたが、
今受けているこれは痛いなどというものではなかった。
入ってきたものに、腹どころか肺まで圧迫されたように声が出せない。
涙が次々とこぼれ、これまでの人生で流した量に匹敵するくらい流しても、まるで止む気配がなかった。
それでも、これが破瓜の痛みだ、と雪乃は必死に堪えていたが、
まだ龍麻が最後まで埋めていないと知ったら、絶対に止めさせていただろう。
最初の痛みがどうにか和らいできた頃、遠くから龍麻の声が聞こえる。
「痛く……ないか」
雪乃の身体からあらゆる音が止み、龍麻は恐る恐る尋ねた。
雪乃から返事はなく、ただ苦しそうな息遣いが聞こえてくるだけだ。
哀しげな呻きを漏らす雪乃に、龍麻はここで中断すべきだろうか、とさえ思ったが、
ここで止めたら余計辛い、とある意味正しく、ある意味は身勝手な結論を出した。
これから更に与えるであろう痛みに、先に謝るつもりで頬に触れる。
「う……っあ……」
既に快感と罪悪感を両の重りにして危うい均衡を保っている状態だった龍麻の理性は、
雪乃のかつてない弱々しい吐息に、その天秤が一気に傾いてしまった。
「あッ、うぁッッ」
初めて異物を迎え入れ、ただ戸惑い、路を閉ざす雪乃のなかに抗って、一度屹立を引き抜く。
腹を貫いていた異物が去って雪乃が息を吐いたのも束の間、
龍麻は再び腰を、今度は欲望に任せて深く沈めた。
「ひっ! ……っ……はっ……」
より深くに入ってきた異物から逃れようと、雪乃が身をよじる。
その腰を抑えつけ、狭い径を抉って龍麻は己を撃ちこんだ。
貫いた肉路は、身動きもままならないほど締めつけてくる。
腰が砕けるような快美感を堪えつつ、龍麻は苦しげに顔を歪ませる雪乃の頬にそっと触れた。
「た……つま……くん……」
涙に滲んだ声で呼ばれた名前は、これまでと違う呼び方だった。
不意に胸が熱くなり、繋がったままキスをする。
「っ……ん……」
しがみつき、激痛に耐えながら応えてくれる腕の中の少女が、瞬間、最も貴重なものになった。
「雪乃……雪乃……っ」
昂ぶる想いを闇雲に口にすると、雪乃が髪を撫でてくれる。
気遣っているはずが気遣われ、龍麻はもうどうしようもなく雪乃をかき抱いた。
しかし、その想いは同時に、彼女を征服したいという欲望をも焚きつける。
まだ雪乃の呼気は荒く、動けば痛みがいや増すだけだと判っていたが、龍麻は抽送を始めた。
ゆっくりと屹立を引き抜き、同じくらいゆっくりと挿入する。
「はっっ……ふっ……」
口を一杯に開いて苦悶する雪乃に申し訳無いと思いながらも、
少しずつ馴染み、潤んでくる秘洞の気持ち良さに、腰を止めることが出来ない。
下から聞こえてくる煩悶の喘ぎにさえ興奮を覚えつつ、龍麻は雪乃の身体を突き上げた。
「ん……ッ、うぁ……っ」
雪乃の声質が変わる。
声にもなっていない呻きはそのままだったが、そこに少しだけ、
本当に少しだけ艶が混じり始めていた。
あるいはもう少し続けていれば、
もしかしたら雪乃は苦痛以外のものも感じることができたかも知れない。
しかしその前に、龍麻が限界を迎えてしまった。
屹立を苛む愉悦に雪乃を気遣う気持ちも忘れつつあった龍麻に、
それは罰を与えるがごとく突然訪れた。
今までの感覚とはまるで異なる、どうにも抑えの利かない快感。
堪える、という意識もないまま、欲望が爆ぜる。
「……っ」
あまりにあっけなくやってきた終わりに、龍麻は呆然として屹立を抜き、
雪乃の傍らに横たわるしかなかった。
「終わった……の……?」
雪乃からすれば、それは当然の問いだった。
下腹に響く苦痛から解放されるかどうかは、死活問題にも等しかったからだ。
だからそこに悪気などあるはずもなく、
むしろ雪乃の尋ね方はこれまで隠されていた彼女の少女らしさが花開いたもので、
男なら誰でも同じような気持ちを抱くものだった。
しかし、上手くいかなかった──と思いこんでいる龍麻は、
つまらない男の沽券などに拘って、雪乃の顔さえ見られないでいた。
「龍麻……くん……?」
雪乃が怯える。
何の罪もない彼女が、ただ自分を安心させる為に自らを責めてしまったなら、
龍麻は自分を赦せなくなるところだった。
急いで向き直り、頬にかかる髪をかきあげてやる。
「雪乃……」
好きだ、と言うつもりだった。
それが言えなくなったのは、彼女の笑顔を見てしまったからだ。
いくつもの情を織りこみ、溶かしこんだような表情。
薄暗がりであってもそれがはっきりと見えた龍麻は、言えなくなった言葉の代わりに、
雪乃の頬を伝う宝石を掬いとって言った。
「愛してる」
涙は、いつまでも止まらなかった。

身体を離す。
このままずっとこうしていたかったが、そうもいかなかった。
最後にもう一度だけ口付けを交わし、ぎこちなく服を着る。
今頃になって訪れた余韻に龍麻が首まで浸かっていると、雪乃が短く叫んだ。
「どうした?」
振り向くと、まだ下着を着けただけの雪乃が顔をしかめていた。
「痛くって……って、見、見んなッ」
慌てふためく雪乃に、龍麻は後ろを向いて笑う。
どうやら言葉遣いは元に戻ってしまったようで、残念とも言えたが、これでいいという気もしていた。
素面の時に「龍麻くん」などと呼ばれたら、どう返事して良いか判らなくなりそうだからだ。
「……んじゃ、帰るわ」
どうにか雪乃は道着を着終えたらしい。
なんとなく立ちあがろうとした龍麻は、肩を上から抑えつけられてしまった。
「あいてて……」
頼りない足取りの雪乃に不安を抱いた龍麻は、外まで雪乃を見送ることにする。
案の定、一歩歩いては立ち止まり、二歩歩いては休憩するといった有様で、
これでは夜が明けても家に帰るのは無理そうだった。
「どうすんだよ、帰れんのか」
「帰れんのかって、帰るしかねぇだろ」
雪乃は気丈にそう言いながらも相当辛そうだ。
そうなった責任の大部分は自分にあるのだから、龍麻は自転車を取り出し、荷台をぽんと叩いた。
「送ってってやるよ」
「い、いいよ」
「まぁ乗ってけ」
渋る雪乃を強引に乗せ、ペダルを漕ぎ出す。
顔に当たる冷たい風と、背中に当たる雪乃の温かさが気持ち良かった。
少しスピードを上げると、腹に回された腕がきゅっと締まる。
「なあ」
「ん?」
「なんでもない」
「なんだそりゃ」
そんな意味のないやり取りも、嬉しくて仕方がない。
頬が紅潮していくのが、過ぎていく風によって判った。
「なあ」
「ん?」
今度はおかえしとばかりに雪乃から話しかけてくる。
なんでもいいから声が聞きたくて龍麻が耳を澄ませていると、背中に震えが伝わってきた。
いくらなんでもそれでは雪乃が何かを言った、ということまでしか判らない。
「今何て言ったんだよ」
少し声を大きくして尋ねると、もう一度震えが伝わってくる。
しかし、どれほど背中に集中しても、五つに区切られた言葉ということしか判らなかった。
降参、と龍麻が言おうとすると、今度ははっきりと声が聞こえてきた。
「さっきお前が言ったこと」
「え?」
「さっきお前が言ってくれたことを、オレも言ったの」
「……」
沈黙の後、龍麻は猛烈にペダルを漕ぎ出す。
背中の雪乃が、驚いてしがみついてきた。



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