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雪乃が抵抗できなくなった後も、龍麻はしつこく舌を触れさせてきたが、突然それが戻っていく。
雪乃が硬く閉じていた目を開けると、身体を包んでいた熱気は消え去っていた。
下の方から小さな音がして、龍麻が座ったのだと判る。
はだけていた道着の衿を合わせ、雪乃も腰を下ろす。
すると、龍麻が大きく身体を震わせたのが伝わってきた。
「悪い……そんなに嫌だとは思わなかった」
暗がりの中で感じる龍麻の気配は、別人のように弱々しい。
声は言わずもがなであり、どこに向けて発せられたのか判らないくらい頼りないものだった。
自分を拒んだ龍麻が怒るものだとばかり思っていた雪乃は、とっさに彼を慰める。
思ってもいなかったことだったが、それだからこそ、紡いだ言葉は本心だったのかもしれない。
「ちっ、違うんだ、その、いきなりだったからびっくりしちまって……」
「ああ……でも」
龍麻は本能に駆られて自分を怖がらせたことを、どうしようもなく悔やんでいるようだった。
座ったまま微動だにせず俯いている。
その姿を見た雪乃は、ある決心を秘めて龍麻に近寄った。
「おい」
低い声で呼びかけると、龍麻が虚ろに顔を上げる。
その両頬を挟みこんだ雪乃は、勢い良く唇を押しあてた。
龍麻が息を呑み、目を一杯に見開くのが判る。
だから雪乃は目を閉じ、より強く唇を押し付けた。
「……」
顔を離しても呆然とした様子の龍麻に、
雪乃は今更自分がしてしまったことを思いだし、顔を赤らめる。
「もうちょっと自信持てよ、お前は……オレが惚れた男なんだからよ」
こうなったら、ついでだ──これまで決して口にしなかったことを、思いきって言ってみた。
それを聞いた龍麻は、二度ほどまばたきをしてから恐る恐る腕を伸ばしてくる。
また包まれた腕の中は、もう怖くはなかった。
ベッドに寝かされる。
道着も脱がされて掛布団を一緒に被ると、いよいよなのだと言う気分が、
雪乃の胸郭に潮のように満ちてきた。
龍麻の熱と、布団に染み付いたわずかな香りが、優しく包みこんでくる。
あまり大きくはないベッドの、真ん中に寝かされた雪乃は、覚悟を決めてそっと龍麻を見上げた。
「好きだ」
視線を感じた龍麻は、声に出さず、息を吐き出すことでそう囁き、万感の想いを込めて雪乃に口付けた。
柔らかな唇が、わずかに震えている。
欲望に任せてひどいことをしたにも関わらず、なお好きだと言ってくれる雪乃に、
どうしようもない思慕の情がこみ上げていた。
惚れている、と彼女らしい言い方で初めて応えてくれた雪乃に、もっと触れたいと思った。
「ん……」
恐れと興奮をないまぜにして、彼女の胸に触れようとした矢先、ひそやかな吐息が唇を撫でる。
思わず龍麻は動きを止め、背筋がぞくりとするほど快い響きをもたらした主を見た。
「どう……したんだよ」
雪乃は恥ずかしそうに目を伏せたが、自分が漏らした声のことは気付いていないようだ。
だから龍麻は教えずに、彼女自身に気付かせることにした。
頭の横に、小さくばんざいをするように置かれている手に触れる。
頼りなく握ってくる指先を、心ゆくまで搦めあいたい衝動を抑え、
手首から肘、そして二の腕へと辿らせていく。
そこまでは上手く出来たが、肩に張りついている下着の紐に触れた時、
雪乃が上げた声は、さっきのものとは全然違っていた。
「な、なんか……随分慣れてねぇか」
答えない龍麻に、雪乃はまた余計なことを言ってしまったと、何度目か判らない後悔をしていた。
龍麻が過去に他の女性と付き合っていたとしても、そんなことは関係無いはずなのに。
何秒か続いた沈黙の間に、鼓動がどんどん早まっていく。
低い龍麻の声を聞いた時は、もう飛び出してしまうかというほどに。
「ずっと……こうしようって想像してたからな」
「そ、想像?」
「ほら、イメージトレーニングってやつ」
龍麻が冗談を言っているのか、本気なのかは声だけでは解らなかった。
「お前……そんなことしてたのかよ。やっぱ男ってのは皆そうなのかよ」
「うるせぇな、悪いか。俺はずっとこうだよ。お前のこと好きになった時からずっと考えてたよ」
「ば……馬鹿じゃねぇのか。オレなんかで考えたってしょうがねぇだろ」
「他に誰で考えろってんだよ! お前以外でなんか考えたこともねぇし考えたくもねぇよ」
最後の方は何故か喧嘩腰で話していた二人は、
そんな時でも場合でもないことを思い出して、不自然に黙る。
先に口を開いたのは、龍麻の方だった。
「と、とにかく、俺だって緊張してんだ、あんまり変なこと言うな」
「う、うん」
おとなしく頷いた雪乃は、しかしそんな約束はすぐに忘れ、また口を開く。
「あれ、お前なんで下着履いてんだよ」
「え……っと……恥ずかしいから」
「汚ねぇな、なんだよそれ」
とにかく何か喋っていないと沈黙にはとても耐えきれないと思い、
雪乃はほとんどあら探しのように気になった所を指摘する。
普段ならともかく、今はそんな話をする気になれない龍麻は、
口を尖らせる雪乃に対して強行手段に出た。
「……ああもう」
歯切れの良い悪口を次々と生み出す唇を、塞いで黙らせる。
何か言いかけている最中だった雪乃は瞳を寄せて驚き、龍麻の後ろ髪を掴んで抗議したが、
龍麻は強引に体重をかけ、動こうとしなかった。
「……」
体重差では敵う訳もなく、雪乃は暴れるのを止める。
さっきは嫌というほど感じた強引さは、今は感じなかった。
無理やり黙らされた雪乃はおとなしくしていたが、龍麻の手が胸に伸びるに至ってその手首を掴んだ。
「さ、さっ、触んのかよ」
驚いてはいても、嫌がってはいない──結構勝手にそう決め付けた龍麻は、
もういちいち答えず、ずっと触れたいと願っていた部分をそっと包み込んだ。
何故だか一枚だけ──つまり、ブラだけ着ている上から、掌を圧着させるように。
「つッ、つまんねぇだろ、そんなとこ触ったって」
雪乃はなんとか龍麻の気を逸らそうとするが、
龍麻は止めるどころか下着をたくし上げ、直に触れる。
「ま、待ッ……!」
左の胸が、熱に浸された。
初めて素肌に──手足や顔以外の素肌に触られた雪乃は、自ら悲鳴を呑みこんでしまっていた。
そこは以前、もう少し大きくならないものかと数回だけ触ってみたことはあるが、
その時は全く気持ちなど良くならず、悲しさだけが残った場所だった。
それが今、龍麻が軽く手を添えているだけで、声は上擦り、
言い表せない気持ち良さは痺れんばかりだ。
それは龍麻の指が、意識もほとんどしない胸の先端に触れた時により強まり、
じわじわと身体全体に広がっていく。
そして、円を描くような動きをしていた指に硬くなった先端を軽く摘まれた瞬間、一気に弾けた。
「あっ……」
意思とは無関係に出てしまった自分の声を、雪乃は信じられない思いで聞いていた。
「や……だ……ん……っ」
しかし、どんどん鋭敏さを増しているその部分を転がされると、
どうしても喘ぎを抑えることが出来ない。
掠れ、少しうわずった自分の声が恥ずかしくてたまらず、
口許に手の甲を押し当てて少しでも龍麻に聞こえないようにした。
しかし、その仕種は全て龍麻を興奮させるだけだ。
もちろん雪乃がおおざっぱだろうがガサツだろうが男っぽかろうが、
むしろその点をこそ好きになったのだから気にしない。
しかし女の子っぽい振るまいをしてくれれば、それはそれで一向に構わず、
普段との落差にまた新しいときめきを見出せるともいうものだ。
雪乃がいかにも恥ずかしそうにしているのをちらりと見た龍麻は、
身体をずらし、もう片方の胸に顔を近づけると、その控えめな隆起の中央にある小さな乳暈を含んだ。
「ふっ! な、な……に……」
鼻に抜けた声が、とても愛らしくて、含んだ部分をゆっくりと吸引する。
「……っぁ、や……」
声に、微量の変化が訪れた。
甘い、と言うのだろうか、鼓膜にまとわりつくような音色。
情欲をかき立てられて、龍麻は滑らかな肌の部分と、
少しざらざらしている部分とを味わうように舌を這わせた。
「……ぅ……」
すっかり硬くなった乳首を舌でなぞり、軽く歯を当てて刺激する。
快感に戸惑っているのか、雪乃の胸がせわしなく上下したが、
龍麻は初めて味わう女性の乳房を中々離そうとはしなかった。
「っん……」
右の胸が痺れる。
生温かく柔らかい舌と、硬い歯に交互に愛撫されて、
雪乃は気持ち良さに何がなんだか解らなくなっていた。
これまでのどんな気持ち良さとも違う、身体の内側から湧いてくる快感を、
戸惑いながらも受け入れる。
するとそれはますます大きくなって、外へと飛び出そうとするのだ。
「あ……んぁ……ぁっ」
いくらかでも逃がそうと口を開くと、熱い息が手の甲を焼く。
それでも身体の火照りは一向に収まらず、頭の中をも熱していくのだった。
「あっ……っん……ふっ」
間隔の短くなってきた喘ぎに誘われ、龍麻は右手を雪乃の下方へと伸ばす。
他の場所に触れず、いきなり触った彼女の足の間は、うっすらと湿り気を帯びていた。
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