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葵の頭を右腕で支える龍麻は、左腕で身体をまさぐる。
葵は高価そうなカシミヤか何かのセーターを着ていたが、
素肌はそれよりもずっと触りごこちがよかった。
腰から背中に、そしてまた腰を辿る手は、さらに下へとおりていく間、
何のひっかかりもなく滑っていく。
スカートは長く、たくしあげるには少し難しかったので、尻は繊維の上からしか撫でられなかったが、
それでもその曲線は龍麻を満足させずにはおかなかった。
「……ん、ん……」
葵は小さく尻を振るが、顔は離そうとしない。
それはつまり、もっと触って欲しいという意思表示に他ならず、
龍麻は手を広げ、大きめに尻たぶを掴み、揺すった。
「んふ……ん……」
媚びるような声色が、背筋を炙る。
急激に高まっていく体温を放出するように龍麻が口を開くと、
すぐに塞がれ、そこにより熱い舌が潜りこんできた。
「うッ、ん……う、はぁッ、あむっ……ん、む……」
穏やかな笑顔からは想像もつかない、攻撃的なキスに息を詰まらせ、
その息さえも吸われて、龍麻は夢中で葵にしがみつく。
けれども葵は解放するどころか、いっそう口を広げ、とろとろの舌で口の中を所構わず舐めまわした。
「ふぅっ……ん……んっ、ふ……あむっ……」
捏ねられた唾液が膜を作り、息苦しさを助長する。
息苦しさは思考を制限して、ただ一つの方向にのみ導いていった。
龍麻は葵のことを。
葵は龍麻のことを。
二人それぞれから始まった二本の道は、交わって一つになる。
そしてお互いがお互いのことを考えていると伝え、欲しているのだと知らしめるのだ。
「う……っ、ん……んっ……」
欲望が先行しすぎて、舌がもどかしくもつれあう。
犬のような呼気をぶつけあった二人は、言葉を交わすこともなく意思を通じあわせた。
龍麻は顎の力を抜き、口腔を葵に委ね、
葵は身体の力を抜き、力強い腕に口腔以外の全てを委ねた。
「っ……ふ……」
交わる――交わっていく。
密着した身体を、さらに織物のように絡ませ、広がっていく恍惚に抗わないでいると、
柔らかく、そして逞しい感覚に満たされていく。
それはどこまでも心地が良く、キスさえ止めてただそうしていたくなるほどだったが、
龍麻はあえてそれを拒み、葵も龍麻に同意した。
こたつの中でスカートと下着を脱がせ、龍麻は起きあがる。
葵もすぐに這いでてきて、龍麻の意図どおり上に跨った。
「はぁっ、はぁっ……ん、っ……!」
激しく息を吐きながら、なおキスを求める葵に龍麻は応える。
舌を絡めながら腰を浮かせる葵に合わせて龍麻も顔を上げ、
同時に、葵のヒップを両手でたぐりよせ、位置を合わせた。
むきだしの秘唇からは、まだなのかとけしかけるように愛蜜が滴ってくる。
「ん、ふぅ……ぁ、あぁ……ん……」
葵は少しずつ膝をずらしていきながら、一瞬たりともキスは途切れさせない。
手探りで、というよりもほとんど勘で、あるべきところに腰を落とし、
垂直に近い角度でそそり立つ肉茎に、秘裂をぴったりと一致させた。
「っ、あ……!」
葵の膣内に、龍麻の男根が吸いこまれるように挿っていく。
その快感は想像を絶するもので、龍麻と葵は期せずして揃った声を放った。
性器がぴったりと結合する。
動かす気すら失せてしまうような、葵は圧迫感を、龍麻は圧搾感をそれぞれ感じて、
しばらくの間は声も出せなかった。
下半身の一点が身体の中心になったような酩酊は、やがて薄れこそしても、消え去ることはない。
座位で繋がった二人は、導かれるように目を合わせ、はぐくまれた体熱を交換した。
大きさは、身体が覚えているはずだった。
形も、膣内のどこに当たるのかも。
けれども今体内に収まっているのは、まるで別物だった。
腹を突き破り、喉元までこみあげてくるような衝撃。
狭い肉路を押し拡げ、我がものとする暴力的な杭。
頭の中に熱湯を注がれたような感覚に、葵の端正な口許を、だらしなく涎が伝っていった。
「あぁ、ぁ……」
息を吐き、肉体が弛緩した分だけ男根が侵食する。
それは腹の中に龍麻が満ちていくという意味であり、それだけで絶頂してしまうような多幸感を葵にもたらした。
下半身だけが裸で、靴下は片方脱がされ、こたつに入ったまま繋がっているという、
とても友人達に説明できないような状態も、恥ずかしいとは思わない。
背中に、いつのまにか重なっていた手に、そして開いた足の間に感じる龍麻が、
ただひたすらに全てだった。
快感はもうコップ一杯で、表面張力でかろうじて理性の縁からこぼれていないにすぎない。
ほんの少しでも腰を振ったら、龍麻を感じたら、たちまちさかってしまうだろう。
それは葵にとって恐怖だったが、灼熱する思考は同時に望んでもいた。
相反する激情を満足させるため、葵は心もち上体を前に倒して、唯一の答えを選んだ。
どろどろの愛液と火照った肉が、敏感な屹立を根元まで苛む。
充分すぎるくらいに刺激された性器は、葵を支えるふりをして抱きつかなければ我慢できないほどの
快感を受け取っていた。
もう耐えられないと悲鳴をあげている勃起を、龍麻は持ち主として必死に叱咤する。
せっかくここまで我慢したんだから、もう少しだけ保ってみせろ、お前だって黄龍だろうが――
それが効を奏したかどうかはわからないが、束の間こみあげる絶頂感が引き、
龍麻は文字通りに一息つこうと埋めている葵の胸から顔を離した。
「――っ!」
防御の間に合わない至近距離で、葵の瞳を見てしまう。
艶やかに濡れた、欲情する瞳。
ずっと見ていたのにようやく気づいたのか、と言わんばかりの揺らめきは龍麻を捉え、引き寄せた。
「あ……ん……」
深く口が合わさり、その中で舌がべったりと絡みあう。
去りかけた絶頂感が急速に戻ってきて、頭の中でめちゃくちゃに暴れだした。
氣を解放するときでさえ及ばない快楽の奔流をもう龍麻は我慢するのをあきらめ、
代わりに葵の身体を強く抱き、深く挿っている屹立を、さらに奥まで挿れた。
「んっ……あふ……!」
キスをしたまま、葵が喘ぐ。
口を離さないので鼻息は荒く、腕が回された背中には爪が立てられるのを感じたが、
龍麻はなおも下から、無理やり葵ごと持ちあげるように腰を浮かせた。
「んううっ、んふぅぅっ!」
葵もいつになく興奮しているようで、悶え方に見境がなくなっている。
このままだと座位で終わってしまいそうで、それも悪くはないが、
龍麻は最後の力を振りしぼって葵をこたつから出し、上半身を天板に乗せさせた。
卑猥に過ぎる露出した下半身は、まだ挿入の名残も生々しい。
肉のみっちりついた、大きな――と言うと大変怒られるので決して言わない――ヒップから伸びる
白い、こちらもたまらない肉づきの足は、内側がてらてらと光っていた。
その源をたどっていくと、濡れて貼りつく、黒くおいしげった恥毛と、
卑猥な紅に塗りたくられた秘裂が目を引き、さらにはその入り口を飾るような肉唇が色を誘っている。
その淫らさに血流が荒れ狂い、呼吸困難になりつつも、龍麻は葵の背後にとりついた。
葵が尻を振って挿入をせがむせいで狙いが定まらなかったが、どうにか切っ先が入り口を探りあて、
そこからはひといきに奥まで挿入した。
「あっ、あぁぁっ……!!」
かなり強引な挿入だったが、愛蜜を充分すぎるくらいにたくわえていた肉壺は、苦もなく剛直を受けいれていく。
葵が痛がったりしていないのを確かめた龍麻は、すぐさまそれまでの忍耐を解き放つかのように抽送をはじめた。
「あぅっ、んっ……は、ひっ……!」
抑揚の定まらない喘ぎに、卑猥な水音がかぶさる。
ぬかるみ、と形容して良いくらいに柔らかくほぐれた葵の膣内は、一突きごとにねっとりとまとわりついてきて、
龍麻の劣情をどこまでも高めていった。
こたつにしがみつき、必死に身体を支える葵を、壊れよとばかりに貫く。
「あっ、はっ、あぅ……あはぁっ……」
これまで男がいなかったのが奇跡としか思えない、聖女というより女神そのものな美貌が、
ぐちゃぐちゃに歪んでいることに、牡の支配感が噴きこぼれそうなほどにこみあげてきた。
これほどの好い女を恋人とし、我を失うほど喘がせているという、本能に直結する誇らしさ。
もう葵が何と言おうとこの女を離さず、そしてこの女にふさわしい男になってみせるという決意を、
龍麻は何度も葵の膣内に撃ちこんだ。
「う、ぁ……っはぁ……!」
腹の中で龍麻が荒れ狂う。
犯されている、という実感は、葵に際限のない悦びをもたらしていた。
男からはおもしろく、女からは優しいという評判の龍麻。
転校の挨拶をした時から気になり、その日のうちには忘れることができなくなり、
三日後には恋に落ちていた。
黄龍の器だの菩薩眼だの後付の理由などはどうでも良く、生涯でたった一人、選ぶべき男。
勉強も、運動も、顔立ちも、優っている男なら他にもいたかもしれない。
けれども葵には、龍麻以外の男性は考えられなかった――
旧校舎で気を失い、彼の腕の中で目覚めた時に、心配そうに見つめる彼を見た瞬間から。
やみくもに突かれ、呼吸もままならない状態で、葵は龍麻の牡に蕩ける。
少し下から斜め上に、一気に突きあげられる。
挿れられる時の痛みが混ざった快感に意識が白み、引き抜かれる時の強烈な快感に白んだ意識まで犯された。
ぐちゅ、ぐちゅという愛液が混ざる音も遠くに聞こえ、ただただ身体の内側の、粘膜が擦れあう刺激だけに溺れた。
間髪おかず、今度は水平に、より深くを目指して侵入してくる。
胎の入り口を直接探られるほど奥を抉られて、葵は突っ伏して呼気と涎とを吐きだした。
呼吸もままならず、苦しさに叫びそうになるが、その苦しさこそが快楽となることを、もう身体は覚えている。
だから葵は少しだけ我慢した。
長い間のことではなく、ほんの一呼吸耐えるだけで、再び膣内は掻きまわされ、
身体中を駆け巡った絶望的な気持ちよさが最後に脳を侵食し、美里葵という女は悦びに包まれた。
「あ……んあぁっ、あぁぁ……っっ!」
熱い快楽が全てを押し流す。
痺れるような愉悦に、尻を突きだし、されるがままに悶え、喘いだ。
龍麻のことさえ一瞬忘れる快さだが、それは正しく一瞬のことで、
すぐに今どき少し野暮ったい長めの前髪に半ば隠された、深い黒の瞳を思いだす。
見られているだけで、彼を迎えいれる準備ができてしまうような瞳。
今の体勢ではそれを見られないのは残念だったけれど、
重ねられ、しっかりと上から握る大きな手を、葵は至福の表情で眺めた。
汗ばんだ掌の力は強く、もうじき射精に達するのだろう。
自らの絶頂も近い葵は、やや眼を細め、その瞬間を待ち受ける。
それはほどなくして、何もかもを浚う巨きな波として訪れた。
「あぁ、あ、あ、あっ……! あっ、あぁぁ――っ!!」
奥まで入ってきた龍麻が、大きく爆ぜる。
腹の中心に熱い脈動を感じるのと、自身から訪れた大きなうねりとがひとつになり、
葵を絶頂へと押しあげていった。
「……っ、あ――!!」
身体の内側で龍麻を感じる、その悦びに、葵は頭の先まで浸り、沈んでいったのだった。
「はぁっ、はぁっ……」
乱れ、整うことのない二つの呼吸がこたつの上で繰りかえされる。
二人は呼気を吐く以外の行為もできないまま、
葵はこたつに突っ伏し、龍麻は葵にしがみついていた。
刹那的な快感は去っていたが、世界すらどうでも良くなるような、深い、
腹に残る相手の感覚のみが全てになる幸福は、抜けきるにはまだ相当の時間がかかりそうだった。
気だるさの中で、葵は下半身に寒さを感じる。
何も着ていないのだから当然だったが、スカートを履こうという気力さえ今はなかった。
ついにはこたつに掴まる力もなくし、尻が床に触れる。
すると龍麻がやはり力尽きた風に、大きく息を吐いた。
それに含まれている熱に心地よさを感じて、葵は少しまどろみかけた。
そこに腹部から、いきなり音がする。
それは普段でもあまり他人には聞かせたくない音で、
こんな事の直後となればなおさらだ。
葵は余韻も醒めやらぬ頬が、別種の羞恥に熱くなるのを止められなかった。
龍麻に聞こえていなければいい――叶わぬと知りながら、葵はそう願った。
「腹、減ったな」
龍麻は小声で囁く。
やはり願いは聞き届けられず、恋人の聴覚をしっかりと騒がせてしまっていた。
そして無情にも乙女の切なる願いを無視した誰かに代わって、
優しい配慮をしてくれたのは他でもない龍麻だった。
彼の配慮に感謝しつつも、気を遣われること自体が恥ずかしく、葵は返事もできない。
すると龍麻が、さらに耳元に口を寄せて、ほとんど吐息だけで告げた。
「あんまん、だったよな」
突然の台詞を、葵は少しの間理解できなかった。
理解してからも、根に持っているのか、と思ってしまったのは、
恥ずかしさからくる怒りのせい、ということにしたかった。
しかし、名残を惜しむように軽く抱擁した龍麻は、立ちあがり、着替えはじめた。
これで当初の目的は果たしたことになる。
すっかり忘れていたことを思いだし、葵はぼんやりとそう考えたが、勝ったという気分にはならなかった。
――このまま温かい部屋で待っていれば、温かい食べ物が手に入る。
――外は寒いから、厚着して行った方がいいわ。
賢しげに考え、狡猾な忠告をしようとした葵の理性を、膨大な想いが押しのけた。
「待って……私も行くわ」
急いで服装を整え、立ちあがる。
親切を断られたからか、龍麻は少し不機嫌な顔をしていたが、
葵が腕を取ると、思い直したように頭を振った。
「そうだな、一緒に行こう」
「ええ」
寒さなどまるで気にせず、二人は外に出る。
固く握りあった手を龍麻のコートのポケットに入れた二人が同時に思ったのは、
一番近くではなく、少し離れたコンビニに、回り道をして行こうということだった。
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