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「やっ、ぁ……!」
鍵が回る音がして、彼がドアノブを掴んだ拍子に私はイッてしまう。
仕方ないとは言え、一人で勝手にイッてしまったのが恥ずかしくて、
彼に顔を見られないように思いきりしがみついた。
私は全身の力が抜けてしまい、全体重を彼に預けてしまっていたけれど、
彼は頑張ってそのままの体勢で私をベッドまで連れていってくれた。
家の中に入ると、彼は乱暴に靴を脱ぎ捨て、ベッドに一直線に向かっていった。
力無くベッドに沈みこんだ私を、彼の大きな手が荒々しくまさぐる。
クールを保っていたように見えた彼も、私の身体に興奮していたのが判って、
なんだかちょっと微笑ましくなってしまう。
「……ね、今日は何回イった?」
「……3、……4回よ」
「嘘。待ち合わせ場所で1回、電車の中で1回、家の前で1回。これだけで3回だよ?
もっとイってるでしょう?」
そういう事を女性に言わせるのが好きなのか、彼は必ずこの手の中年男性じみた質問を忘れない。
さっきの体位と言い、彼のソースは何処なのか、いずれ確かめてみる必要があるだろうけど、
実は私もこういう言葉によるプレイは嫌いではなく、今もわざと嘘をついたのだ。
「……6回」
「本当かな? もっとイってるような気がするけど」
「本当よ。私そんなにいやらしくないわ」
「6回でも充分いやらしいけどね」
本当は小さいのも合わせると8回だったのだけれど、私は小さく嘘を重ねる。
「あんなもの入れられていたら……仕方ないわよ」
「でも、お尻触られてイッちゃったよね」
「あれは……」
そこを突かれると反論出来なくて、黙りこくってしまう。
彼は勝ち誇ったように小さく笑うと、首筋に吸いつきながら愛撫を始めようとしてきた。
「ね、お願い。シャワー……浴びさせて」
どんなにはしたない女と思われていても、最低限の身だしなみだけは整えたくて頼んでみる。
「そんなの後で浴びればいいよ。俺は絵莉のこの匂い……好きだから」
香水ではない、汗といやらしい蜜の匂いが好きと言われてもそんなに嬉しい訳ではないけれど、
それでも、一応は褒めて貰ったのだから、私は抵抗を諦めた。
上着のボタンとスカートのホックを外すと、あっという間に服を剥ぎ取られ、下着だけにされてしまう。
もうすっかり身体は汗ばんでしまい、気持ち悪いから早く下着も脱ぎたいのに、
彼は身体を離すと上からじっくりと視姦していく。
「絵莉ってさ、黒い下着似合うよね。やっぱり大人、って感じがする」
彼は褒め言葉のつもりで言ったのだろうけど、
私はどうしても年齢差を意識させられてしまい、わずかに眉を曇らせる。
それを見た彼はすまなさそうな表情を浮かべて、胸の谷間に顔を埋めながら小声で謝った。
「……ごめん、そんなつもりじゃ」
私は答える代わりに彼の顔を抱き寄せ、唇をねだる。
諒解した彼は目を閉じながら顔を近づけ、お詫びのつもりなのか、普段より優しく舌を絡めてきた。
散々強気で大胆な事を私にさせても、
ちょっとこっちが強く出るとすぐに折れてしまう辺りがまだ子供っぽくて愛おしい。
そんな気持ちを唇に込めてキスをしながら彼の野暮ったい学生服を脱がせると、
彼も私のブラを脱がせ、改めて抱き合う。
こうやって彼の身体の大きさを感じるのは、とても気持ちいい。
でも彼は恥ずかしいのか、いつも少ししか抱きあってくれず、私の小さな不満のひとつだった。

彼が剥き出しになった私の胸をまさぐる。
正直、私の胸は大きい方ではない。
そんな事に今更コンプレックスを抱く歳でも無いけれど、
どうした訳か彼の周りには胸が大きめの女性が多く──例えばマリアだ──
彼が彼女達と会う度に、どうしてもやきもきさせられてしまう。
全く、彼と出会ってから、私は自分でも呆れるほど弱い女性になってしまっていた。
でも今、彼の手は私の不安を振り払うように、執拗に胸の小さな頂きを弄び、
硬くなったそこを吸い立てる。
「ぁ……ぁ……ん……そ、こ……」
顔を少しだけ持ち上げると、私の乳房に吸い付いている彼と眼が合ってしまった。
その光景に私は愛おしさを感じるのだけれど、彼は恥ずかしかったらしく、急に愛撫を止めてしまい、
照れを隠すように身体を起こすと私に残った最後の下着を剥ぎ取った。
もう何度も見ているはずなのに、彼はまじまじとそこを見る。
何が楽しいのか全然判らないけれど、
私も彼のものならじっくりと見たいと思うから、そんなものなのだろう。

「絵莉……挿入るね」
もう散々に濡れているそこから下着へと引く糸を見て抑えが効かなくなったのか、
彼は形だけ愛撫をすると、すぐに私の中へと自分の屹立を入れてきた。
熱く猛々しい肉の棒が私を押し広げていく。
「んっ……龍麻、クン……」
どれだけ機械で感じてしまったとしても、やはり男性のそれ自身には到底叶わない。
まして彼のは今まで私が見たものの中では一番大きくて、
初めて見た時は自分の中に迎え入れるのをためらったほどだ。
だからいつも彼のが入ってくると、それだけで一度軽くイッてしまう。
それを言うと調子に乗りそうだから当分言うつもりはない、彼へのささやかな隠し事だ。

私はもう少し挿入の余韻に浸りたかったけれど、彼は軽く唇を合わせただけですぐに動きはじめた。
彼の動き方は若さに溢れているけれど、それだけに直線的で、少し物足りないと思う時があり、
そんな時はさりげなく私の方から腰を動かしてみたりもする。
前戯の時は余裕を見せる彼も、いざ挿入してしまうとまだ自分の動きに必死になってしまうから、
それに気付いてはいなかった。
大きなストロークで彼の物が入ってくる度、肌がぶつかる音と粘蜜が絡む音がいやらしく鼓膜に響く。
さっき一度挿入していたからか、彼の動きはいつもより短い時間で早く、
小刻みなものになり、そして突然弾けた。
「絵……莉……!」
切なげに呻くと同時に彼のものが大きく膨らみ、私の膣に欲望の証を刻みつけ、
それに少し遅れて、私もこの日何度目かの、そして最大の絶頂を迎える。
私は彼の精液を直接感じられない事に不満を覚えつつ、
私の中で力を失っていく彼をいつまでも感じていたくて、ずっと彼を抱き締めていた。

欲望を吐き出して満足した彼はさっさと眠りについてしまっていた。
でも、私はあるものを待ってもう少しだけ起きている。
それは規則正しく健康的な寝息の中に、川の中の砂金のように混じっていて、
その価値も私にとってはまさに黄金だった。
やがて彼の寝顔を間近で眺めて幸せに浸っていた私に、待っていたものが訪れる。
「絵……莉……」
それは、たった二語の寝言。
でもそれを聞いた瞬間、私の中に、例えようもない喜びが満ちていく。
自分でも単純だと思うけれど、これが聞けるから、私は彼のどんな要求でも受け入れる。
彼自身も知らない、私だけの、彼の秘密。
浮気防止の為にも、彼にはこのまま教えないでおくことにして、
私はシャワーを浴びる為にベッドを離れた。



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