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数拍の距離を置いて、二人の女性が対峙していた。
ネイビーブルーの特殊部隊服に身を包んだ女性は涼しげな顔で相手を見やっている。
一方、和服をその身体に纏っている女性は息も荒く、
相手を睨みつけながら慎重に間合いを測っている。
二人の実力差は歴然としていた。
それは当事者達が一番良く判っていた事だったが、だからといって闘いを止める訳にはいかなかった。
(もう、正攻法では隙を突く事は出来まへん……)
和服の女性……梅小路葵は胸にのしかかってくる敗北感を払いのけ、
必死で勝算を立て、相手の指先のわずかな動きまで凝視しながら、
技を繰り出すタイミングを待ち続けた。
ベネッサはそんな葵の計算を踏みにじるように無造作に間合いを詰めると、
しなやかな足を鞭のようにしならせて蹴りを繰り出した。
(今や!)
葵は素早く上体を沈めるとベネッサに背を向け、その顔面めがけて蹴り上げる。
しかし、充分な勝算の元に繰り出したその技も、
実戦を潜り抜けてきたベネッサにとっては児戯にも等しかった。
余裕をもって蹴りをかわすと、その足をホールドして葵をうつぶせに押し倒すと、
腕を狡猾な毒蛇のように絡みつかせ、足を逆方向にひねり上げる。
「うぁっ!」
苦悶の表情で必死に逃れようとする葵をあざ笑うかのように
ベネッサは全身の体重をかけ、身動きを封じてしまった。
「どうしようかしら? このままヘシ折ってもいいのよ?」
獲物を捕らえた女豹は、加虐心を存分に含ませた口調で嬲りはじめ、
つま先を掴むと新しいおもちゃを与えられた幼児のように右へ左へとねじり、足を壊していく。
自分の悲鳴がベネッサの糧になってしまう事を知った葵は、
その都度歯を食いしばって耐えねばならなかった。
額に汗を滲ませながら、四肢の隅々まで力を漲らせて力の均衡を保とうとしたが、
突然、足に加えられている力がわずかに緩んだ。
その機を逃さず全身の力を右足に込め、ベネッサを突き飛ばす。
それは故意に緩められたものだったが、葵はそこまで気付く事は出来なかったし、
もし気付けたとしても他に選択の余地はなかった。
ベネッサは大げさに飛びのきながら、葵が立ちあがるのを挑発する。
的確に人体の壊し方を心得ているベネッサの関節技に、
葵の左足は既に折れていないだけ、といった状態だったが、
格闘家としての無駄なプライドがその場に横たわっているままなのを許さず、
右足一本でむりやり立ちあがった。
そこに、獲物を仕留める最後の儀式、と言わんばかりにベネッサが襲いかかる。
葵は痛む足をかばいながらもまだ勝機を諦めていなかったが、
無原則なまでにあらゆる方向から繰り出される
ベネッサの猛攻をさばき切る事など出来はしなかった。
遂に防御の為に上げた右腕を取られ、地面に引き倒されてしまう。
「Take that!」
ベネッサの勝ち誇った掛け声と共に、悲痛な叫び声が演舞場に響きわたった。
戦闘力は確実に削ぎつつ、闘志までは奪ってしまわぬ様巧妙に計算された力加減で
闘うベネッサの思惑に、葵は完全に掌で踊らされる事になってしまった。
「なかなか良い声を聞かせてもらったわ。でも、そろそろ別の声も聞かせてもらおうかしら」
ベネッサは口の端を淫靡に歪めて笑うと、葵の背後に回りこみ、細い首筋に腕を廻した。
葵は残された左腕でベネッサの腕を掴んでもがくが、
鍛えられた腕は万力のように首を締めつける。
(だめ……落ちる……)
ほとんど何も出来ないまま気を失わされるという、
武闘家にとって、そして女性にとって目もくらむような恥辱に葵はほとんど泣き出さんばかりだった。
しかし、意識を失う寸前の、えもいわれぬ快楽が葵を包みはじめた時、突然腕の力が緩んだ。
口が反射的に酸素を求めて大きく開き、激しくせきこむ葵の耳元にベネッサの囁きが流れこむ。
「落ちてもらったら困るのよ。言ったでしょう? 別の声を聞かせてもらうって」
ベネッサはそう言うと、右腕は首にかけたまま、左足を葵の足に絡めて大きく股を開かせた。
「な……なにを……」
半瞬で葵は自分に何が行われようとしているか悟ったが、
理性がそれを受け付けずに愚鈍な問いをさせる。
その問いには直接答えることなく、ベネッサは身体を密着させると葵の耳筋を舐め上げた。
「いや……!」
葵は細い眉をしかめて嫌悪感を露にするが、
ほとんど自由を奪われた今の状態ではどうする事も出来ず、思うがままに耳を蹂躙されてしまう。
せめてもの意思表示とばかりに肩を強張らせて抵抗するが、
耳の裏側をねっとりとベネッサの舌が這い回ると、
何か背筋から立ち上って来るのを感じて、首筋が粟立った。
「こんな……こんな辱め、許しませんえ!」
罵る事しか出来ない武闘家などもはや嘲笑の的にすらなり得ないが、
その物言いを面白く思ったのか、ベネッサは一度舌を離すと、
葵の耳に口を押し付けるようにして囁いた。
「良い勝負だった、とでも言って欲しかった?」
痛烈な一言に葵の耳朶が一瞬で紅に染まる。
「そんな覚悟じゃこの世界では生き残れないわ……女は特にね」
「だからって……こないな……」
「されたく無かったら勝つしかない。それを教えてあげるわ」
葵は口を開いたが、ベネッサに反論出来る言葉を見出す事が出来ず、うなだれてしまう。
ベネッサの言った事は、内心自分が考えていた事でもあったから。
「そう嫌がるものでもないわ。すぐに気持ち良くしてあげるから」
唇を淫靡な形に歪めて笑うと、ベネッサは葵の首筋に吸いついた。
唾液を塗りたくるように蠢く舌の感触が不快感をそそり、
葵はわずかでも逃れようと首を振るが、ベネッサの口は蛭のように吸いついて離れない。
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