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「あの……お願いどす。シャワーを……」
「駄目。先に腕と足のマッサージをしてからよ」
ゆうに二人が並んで眠れる大きさのベッドに寝かされた葵は、
肌に貼り付く絹の感触に気が付くと、急に夢から覚めたように恥ずかしさが頭をもたげて来る。
「ほら、着物……脱ぎなさい」
服を脱がせるのも楽しみのひとつにしているベネッサは、
自分では脱がし方が解らない事が残念だったが、これはもう仕方の無い事と諦めるしかなかった。
さっさと自分もブーツを脱ぎはじめたベネッサに
それ以上の抵抗は無益だと悟った葵は身体を起こすと、
腰に手を回して袴の結び目を解く。
思ったよりも複雑に結わえられている紐を、当然の事とは言え巧みに解いていく葵の手つきを
ベネッサは感心したように見つめていた。
「何……どすか?」
早く脱げ、と催促されていると勘違いした葵は、少しでも注意を逸らせようと語りかける。
「こんなに……華奢なのにね」
まだ帯を解こうと動き続ける葵の手を無理やり掴むと、ベネッサはそっとさすりながら囁く。
白く、細長い指はおよそ闘いを生業としている自分の物とは程遠く、
その声にはいささかの嫉妬も混じっていた。
しかし、ベネッサの返事に武闘家としての顔を取り戻した葵は悔しそうに唇を噛み締める。
「でも、ベネッサはんには全く歯が立ちませんどした」
「私は……必要があれば殺す事も、殺される事も辞さない仕事をしているのよ。それに」
私の身体はJ6で作られた物だから。そう言いかけてベネッサは口を閉ざした。
何も関係の無い人間をわざわざ巻き込む事もない。
途中で言葉を切った自分を不審そうに眺める視線に気がつくと、
葵が口を開く前に指先に軽く口付けた。
「ひゃっ!」
舌先で爪を軽く舐めると、さっきまでの行為で昂ぶっていた葵の身体は容易に火が点ってしまったのか、
肩が軽く震える。
ぬらぬらとした感触に驚いた葵が指を引っ込めようとするが、
唇で挟みこんでそれを防ぎ、短い綱引きの末に葵が諦めると、
指腹に唾液をまぶして丹念にしゃぶりあげた。
闘う時は相手の機先を制して一気に倒すやり方が好みだったが、
ベッドでは逆に焦らすだけ焦らして弄ぶ方が好きだった。
指先から、ぞわぞわとした感覚が立ち上る。
その心地よさに吐息が漏れそうになるが、
いくらなんでも指先への愛撫で声をあげるのははしたない気がして、
葵はシーツを握り締めて懸命に我慢した。
(どこまで我慢できるかしらね)
葵の肩が強張っているのを見たベネッサは、心に加虐の炎がさざめくのを感じていた。
意思の強そうな瞳が快楽に染まり、気合を発する口から淫声が漏れる。
その光景を見る為には、どんな努力も惜しまないつもりだった。
五本の指を散々堪能したベネッサが軽く肩を押すと、
目を閉じて快感に耐えていた葵は不意をつかれてあっけなくベッドに倒れこんでしまった。
いつのまにか紐が完全に解けていた袴の腰の辺りを掴むと、ゆっくりと脱がせる。
今更のように両手で股間を隠す葵の行動を逆手にとって、
ベネッサは自分が痛めつけたのとは逆の足を持つと自分の肩に抱え上げた。
形の良いふくらはぎに舌を這わせると、そのまま踝の方へ妖しく光る糸筋をつけていき、
足袋の端に触れると、そのまま食んで脱がせにかかる。
「いやっ……あの、自分で……脱ぎます……」
ベネッサのやり方がひどくいやらしい物に感じられた葵は慌てて哀願するが、
ベネッサはそれを無視して踵を剥き出しにすると、一度足袋から口を離して直接唇を押し当てた。
「んっ……汚い……どす、から……」
舌先に少し蒸れて湿った汗が絡むと、悪戯っ気を出してみたくなり、
コーンにかぶりつくように軽く歯を立てる。
「あうっ……」
踵に加えられた衝撃に痛い、というよりも驚いた葵は思わず声を上げてしまうと、
その拍子に自分の足にぶらさがる半脱ぎになった足袋と、踵を咥えるベネッサが目に入った。
「ベ、ベネッサはん……お願いどす、堪忍しておくれやす……」
今まで想像した事もない格好をとらされ、考えた事もない愛撫を行われている事に、
葵の顔が朱に染まる。
しかし、その羞恥に悶える声こそが聞きたかったベネッサは、
葵の顔に目だけ向けると、見せつけるように足指を咥えた。
「っ! ……」
嫌悪感から思わず葵は顔をそむけるが、ベネッサは構わず足袋を引っ張り、
こうなったらせめて早く脱がせて欲しい。そう願う葵の期待を見透かしたように、
わざと何度か咥えなおしながら、少しずつずらしていく。
葵がその光景から逃げようと目を閉じると、かえって指先に神経が集中して、
ベネッサの口の動きが実像のようにくっきりとまぶたに浮かんでしまった。
足袋の上から足指の形を確認するように舌が蠢いていく。
(こんな……の……)
ベネッサは足袋が指先だけで引っかかっている所まで脱がせると、
それまでの愛撫を止めて甲にキスの雨を降らせ、
その中に時折ほんの少しだけ舌を伸ばして舐めた。
(っ……ぁ……)
背筋をたゆたう甘い痺れをシーツを握り締めるだけでは堪えきれなくなった葵は、
口を薄く開いて、浅く、静かに呼気を吐き出す事でなんとか和らげようとする。
と、不意につま先に開放感を感じた。
遂に足袋が足から外れ、柔らかな音を立ててベッドの上に落ちたのだ。
もちろんベネッサはそれで葵の足を解放してやるような事はせず、
そのまま手と同じように足の指もしゃぶり始めた。
流れから言ってそうなる事は充分予測出来ていたが、それでも、
実際にそうされると葵の羞恥心は一層煽られてしまう。
(こないな……へ、変態……みたいな……事……)
生まれて初めて口にする変態、と言う言葉。
一生縁の無い言葉だと思っていたが、しかしそれを口にしてしまった事も、
その行為で感じてしまっている自分を省みれば、もう大した事ではなかった。
(気持ち……ええ……どす……)
そう思う事で、更に浮揚感にも似た感じの快感が葵を包み、
下腹が熱を帯びて、蜜が溢れだすのが解る。
それを恥ずかしい、とは思ったが、嫌だ、とはいつのまにか思わなくなっていた。

ベネッサが、料理を食べるような丁寧さで愛撫した足をようやく解放してやると、
そのまま葵はぐったりとして動かない。
「葵……?」
ベネッサが呼びかけると、薄目を開いてけだるそうな視線を向ける。
(感じすぎちゃってるのね……可愛い)
ベネッサにとってはまだ前戯にもなっていない段階だったが、
悦楽に慣れていない葵はもう充分に感じさせられてしまっていた。
ベネッサが顔を近づけて唇を吸い上げても、抵抗する事無く身を委ねてくる。
(もう少し抵抗してもらっても面白かったんだけど)
そんな事を考えながら、ベネッサはゆっくりと葵の口内で舌をかきまわしていたが、
温かい葵の舌に思う存分自分の舌を絡めていると、次第にベネッサの理性までもが蕩けはじめる。
ベネッサは今まで何人もの女性とこういう事はしてきたが、
こんなにも欲情したのは初めてだった。
もちろん、愛撫を加え、あるいは逆に行われる内に濡らす事はいくらでもあったが、
それはあくまでも通常の肉体の反応の範囲内だった。
手に入れた女性達の中にはベネッサよりも性の技に長けた者もいたし、
ベネッサの加虐心を受け入れて半ば奴隷のような扱いを自分から求めて来た者もいたが、
ベネッサはそれに応えてやりつつも、心の奥底は常にどこか醒めていた。
それが今は、たった数十分前に出会ったばかりの少女に夢中になりつつある。
否、既に夢中だった。



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