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それをベネッサは自覚したが、かといってそんな想いを口に出来る訳も無く、
大体、葵は今こそ闘いに負けて一時的に精神的に脆くなっているだけで、
明日になれば再び憎しみに燃えた目をこちらに向けてくるかもしれないのだ。
痛みに耐えかねて自分の提案を受け入れはしたが、
闘いに勝った者が肉体を支配するなどという前近代的な考え方は、
普通の人間には鼻で笑われる類の物だろう。
そんな仕打ちをしておいて今更精神的な結びつきなど求めるべくもない。
ベネッサは自嘲めいた思いを抱きつつキスを終えると、
唇の周りを唾液できらめかせながら葵の身体を見下ろす。
上半身は振袖で下半身は裸、という光景はベネッサをひどく興奮させたが、
腕のマッサージをする為には脱がさなければならなかった。
着物をはだけさせていくと、胸を包む包帯にも似た物が現れる。
(これが……さらし、とか言ってたやつね)
確かに葵が言った通り、目の前のそれはうんざりするほどきつく巻いてあり、
胸の大きさを判らなくさせていた。
そんな邪魔なものはすぐにでも脱がせてしまいたかったが、
着物と同様、脱がせ方が判らないベネッサにはどうする事も出来なかった。
仕方なく、とりあえず振袖だけでも脱がせようと、
葵の頭の側に回り込んで抱きかかえるように上体を起こしてやる。
ほんの少し襟に手をかけてやっただけで、
振袖は重みに耐えかねたように葵のなだらかな肩を滑り落ち、
淡雪のように白く、きめの細かい肌が露になると、ベネッサは思わず感歎のため息をこぼした。
漆黒の髪と対になるように見る者全てを魅了してやまないであろう葵の身体に
赤い烙印を刻んでしまった事を、ベネッサはわずかながら後悔する。
それほどまでに葵の肌は非のうちどころがなかったのだ。
「葵……」
ほとんど無意識に名を呼ぶと、葵は微かに顔を背後のベネッサの方に傾けた。
「何……どすか……?」
柔らかさに甘い物が混じった気だるい物言いは、ベネッサの心に直接響いてくる。
「え……ええ。さらし……って言ったかしら? これ」
らしくもなく言葉を詰まらせたベネッサは、背中のさらしを指先に辿らせながら、
何故か気恥ずかしくなって途中で言葉を切ってしまったが、
葵は意図を正確に理解すると腋の辺りにあるピンを外し、自分から脱ぎはじめた。
幾重にも巻かれたさらしが解かれていくのをベネッサは黙って見つめる。
葵が自分から脱ぎはじめた事に驚いていたのもあったが、
少しずつ姿を現していく乳房に目を奪われていたから、
というのがベネッサが手を出さない理由だった。
最後の布地が音を立てずに葵の身体から離れると、
締めつけられていた乳房がわずかに震えながらベネッサの前にその姿を晒す。
それは大きさこそ突筆すべきものではなかったが、
形と色においてその美しさは比類ないものだった。
下着など着けなくてもいささかも型崩れをみせていない双丘に、
ベネッサは視界の全てを奪われたま無意識に手をあてがう。
「んっ……」
葵はベネッサの手の上から自分の手を重ねたが、それ以上何もしてこず、
愛撫を求めているのは明らかだった。
ベネッサは今すぐにでも揉みしだいてめちゃくちゃに形を変えたかったが、
葵の手が片方しか添えられていないのに気が付いて、慌てて手を離す。
「ごめんなさい…貴女の手と足の事、忘れていたわ」
「自分の物になれ」と言い放ったベネッサが謝罪の言葉を口にした事に葵は驚いたが、
その真意を確かめて良いかどうか迷う内にベネッサにうつぶせにされてしまう。
「少し痛いかも知れないけど……我慢してね」
(ベネッサはん……なんだか急に優しくなりはった……)
頭を突っ伏した格好でベネッサに腕を揉ませながら、葵はぼんやりと考える。
(わかりまへん……うち、なんでベネッサはんの事嫌いにならんのやろか)
(滅茶苦茶しはったし、女同士なんて、不潔やと……)
(でも……こないに気持ちええ事、初めてやし……騙されてるんやろか)
(どっちにしても、四日は……ベネッサはん、傍にいてはるんや、考えるのは、それからでも……)
何を考えるのかあやふやなまま、葵が自分の気持ちにとまどっている間にも、
ベネッサは黙々と葵の腕を揉む。
ベネッサが自分で言った通り彼女の力加減は決して優しい物ではなく、
時々痛みに声をあげてしまう事もあったが、その都度必ず少し力を弱めてくれたので、
痛みが後を引く事は無かった。
「足も……するわね」
腕のマッサージを終えたベネッサは、うつぶせたままの葵に声をかけると足元に移動すると、
腕の時と同じように丹精を込めたマッサージが始まる。
ほぼ作業を終えたベネッサがふと目線をずらすと、未だ赤く腫れている臀部が目に入った。
再びさっきの後悔の念が生じてくるのを感じながら、ベネッサはそっと手を触れる。
「ん……」
葵は反射的に声をあげたが、特に嫌がる様子もみせない。
「ね、葵……まだ……痛むかしら?」
「え……あ、もうそんなでもありまへん」
ベネッサの声に気遣う様子が含まれている事を感じ取った葵は
更に膨れ上がる驚きを押し殺しつつ答える。
「……そう………良かった」
尻に唇を近づけながら言ったので、言葉の最後はほとんど声になっていなかった。
全体にまんべんなくキスを浴びせると、葵はくすぐったそうに身をよじる。
ベネッサは葵が伸ばしてきた手を掴むと、しっかりと指先を絡める。
お互いの掌の温もりが、二人の視線をも絡めさせる。
無言のままベネッサが葵の瞳に自分のそれを重ねると、
葵は予定調和のように目を閉じてベネッサを受け入れる。
これからの事はともかく、今はそうするのがごく自然に葵には思われたのだ。
慎重に入ってくるベネッサの舌に、今度は自分からも舌を伸ばして応える。
すぐにキスは激しさを増し、どちらの物かも判らない唾液が喉に流れ込み、お互いの口腔を犯す。
次第に白く染まっていく意識の中、二人はひたすらにキスを続けていた。
どれほどの間キスを続けていたのか、ベネッサにも判らないくらいだった濃密な時間が終わる。
ベネッサが口を離してもなお名残惜しそうに葵の舌は追いかけてきたが、
とうとう力尽きたのか、唾液を糸引かせながら離れていった。
「あ……ふ……」
喘ぎ声未満の吐息を漏らしながら、葵は弛緩してベッドに崩れ落ちる。
ベネッサもこのまま葵を抱き締めて眠ってしまいたいくらいだったが、
葵の肩が軽く震えたのに気が付いて、慌てて呼びかけた。
「葵……寒いでしょ? シャワー浴びましょう」
この部屋に入ってきてからほとんどずっと裸のままでいた葵が、寒くない訳はなかった。
自分のうかつさを悔やみながら、ベネッサはすぐにシャワーを浴びる用意を整えて呼びかけると、
葵はまだ焦点の合っていない瞳で頷いた。
葵が立てないであろう事は予測がついたので、
ベネッサが演舞場から来た時のように葵を抱きかかえると、
葵は頼りない手つきでベネッサの首に手を回し、胸に顔を寄せる。
その手を快い物に感じながら、ベネッサはシャワールームへと向かっていった。
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