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バスルームに入ったベネッサは、抱きかかえていた葵をおろしてやると、
先に浴室に行っているよう促した。
その言葉に素直に従いながら、葵は服を脱ぎはじめたベネッサの身体を素早く覗き見る。
「ん?」
視線に気が付いたベネッサが顔を向けると、慌てて浴室に入った。
ベネッサのマッサージが効いたのか、足はもうほぼ普通に歩ける程度には回復していた。
中に入った葵は、目の前の光景に思わずその場に立ち尽くしてしまう。
目の前にあるのは実家の物と較べてもさほど見劣りしない大きさと風格を備えた、
純和風の風呂だったからだ。
後から入ってきたベネッサが笑いながら事情を説明する。
「珍しいでしょ? 今の私の雇い主の趣味なんだけど、
なんでも前に日本に来た時に凄い気に入ったみたいでね、
絶対人気が出るからって系列のホテルの何部屋かを無理やり改造しちゃったらしいのよ。
結果的に当たったからよかったみたいだけど」
「雇い主って……」
「サラよ。サラ・ブライアント。知ってるでしょう?
ああ見えて彼女、結構我侭でね。ここもその一つって事」
説明しながらベネッサは湯船につかると、前方に大きく脚を投げ出して座った。
半分以上を占領してしまったベネッサは、
残されたスペースにどうやって座るのか意地の悪い興味を込めて見守る事にしたが、
葵は背筋を伸ばしてベネッサとは反対側の壁に張りつけると、
向き合うように遠慮がちに腰をおろす。
葵の困る顔が見たかったのに当てが外れてしまったベネッサだったが、
すぐに気を取り直すと、足の先で葵の膝をつついてこちらに招いた。
「ほら、こっちに来なさい」
「あの……はい」
何か言おうとしたが、口を閉ざすとベネッサに従う事に
嬉しそうな表情を一瞬だけほのめかせて近寄ってくる。
湯気の為にその表情をベネッサが知る事は無かったが、
近付いてきた葵の腕を待ちきれないように掴むと、自分の胸元に引き寄せた。
「マッサージの続き、してあげるわ」
逆らわずベネッサにもたれかかりながら、
葵は褐色の腕が自分の右腕に触れるのを陶然と眺める。
「ね、葵。貴女、今恋人はいるの?」
ベネッサの口調は何気なさを装っていたが、葵の背中越しに見つめる瞳には真剣な光が宿っていた。
「え? ……おりまへんよ、そんな人は」
腕を揉まれて気持ち良いのか、葵は目を閉じて歌うように答える。
「じゃあ、好きな人は?」
今度は葵は直接答えず、軽く首を左右に振る。
幼い頃から合気だけではなく、
踊りや謡などの稽古に明け暮れてきた葵は異性の事など考える暇が無かった。
それを辛いと感じた事は無かったが、こうやって面と聞かれるとやはり少し恥ずかしいらしく、
軽く俯いた耳が赤く染まっている。
「そう……」
短く答えながら、ベネッサはマッサージの終わった手をさりげなく葵の腹に当てた。
呼吸に合わせてゆっくりと上下するのが伝わってきて、
ベネッサは久しく感じた事のない安らぎを覚える。
「ベネッサはんは? ベネッサはんには、いい人おりはるんどすか?」
「私は……仕事が仕事だから、いつ死ぬかも判らないでしょう?
あまり悲しむ人を作りたくないのよ」
それは必ずしも本心の全てでは無かったが、
ベネッサはもう何度となく聞かれているこの手の質問には条件反射のようにこう答える事にしていた。
「そう……どすか……」
ベネッサの口調は決して厳しい物ではなかったが、葵は寂しそうにそう答えたきり口を閉ざす。
今までの自分の人生には出てくる事の無かった死ぬ、
という言葉が簡単に出てきた事にショックを受けているようにも見えた。
「ほら、足がまだ残ってるわよ。少し開いて」
やや重くなってしまった空気を打ち払うようにベネッサは
明るい口調を作って葵の太腿を両手で挟みこむと、柔らかく揉みほぐす。
葵を抱え込むように座るベネッサは前方に大きく足を投げ出して開いていたが、
葵はさすがにその座り方は恥ずかしいらしく、揃えて軽く曲げた格好で座っていた。
それをベネッサに命令されて、同じように足を開くと、
はしたない格好をしているという羞恥心と、
ベネッサに背中を預けているという安心感が葵の心を上気させる。
「ん……」
「ね……どう?」
「気持ち……ええどすよ……」
ベネッサの腕が膝の上から徐々に太腿の付け根へ移動していくのをうっとりと眺めながら、
葵は何かをねだるように腰を軽く前に出した。
それはもちろんベネッサの知る所となったが、
あえて何も言わずに黒い繊毛に指を絡めると、見せつけるように軽く引っ張る。
少し濃い目の柔らかな毛は控えめに彼女を覆い、
それは生殖器を隠すというよりも、
雄を誘う為に生えているかのような卑猥な印象を見る者に与えている。
「いや……どすえ……」
言葉とは裏腹に、葵が嫌がっていないのは明らかだった。
その証拠に、甘えるようにベネッサに頬ずりすると、自分からキスを求めてくる。
ベネッサは舌を伸ばして葵を迎えながら、指を更に下に動かして膣口を探り、
入り口を軽くかき回すように愛撫した。
「ん……」
絡めた舌からくぐもった声が漏れて、ベネッサの口腔に直接彼女が感じている事を伝える。
葵の舌はゆっくりと、キス自体を楽しむように動こうとするが、
ベネッサはわざと荒々しく、技巧を凝らした舌技で翻弄する。
舌の横側をなぞりあげ、引っ張るように吸い上げる。
ねじりこむように舌を回して、根元まで葵の舌をねぶる。
必死で肩にしがみついて自分を受け入れる葵に、
少し意地悪をしたくなったベネッサは口の中に唾液を溜めると、葵の舌に擦りつけた。
何をされたか知った葵は顔中を羞恥に染めたが、嫌悪の表情は出さなかった。
それどころか軽く喉を鳴らすと、服従を誓うかのようにベネッサの唾液を飲み下す。
「ふふっ……ベネッサはんの……飲んでしもうた……」
口を離したベネッサに、葵はどこか酔ったような口調で告げる。
どちらの物かも判らない唾液でぬめった唇を軽く開いたその姿は、
ベネッサの理性のたがをたやすく弾き飛ばす。
葵の身体を背骨が折れそうなほど抱き締めると、
ベネッサは彼女の口腔を支配する為にありとあらゆる技を駆使しはじめた。
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