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「ぁ……ふ………」
激しいキスを終えてベネッサが唇を離すと、
葵はうつろな瞳でこちらを見たまま肩で息をしている。
「こんなに……顔、汚しちゃって」
それでも、ベネッサがべとべとになってしまった唇の周りを、
舌でやわやわとくすぐるように舐めとってやると、なお舌がキスを求めてきた。
「……そんなにキスが好きなの?」
「あの……はい……うち、こない……気持ちええ事があるなんて、知りませんどした……」
からかうように一度顔を離したベネッサに、葵はすねるように軽く拳を握って肩を叩く。
これが数時間前まで毅然と自分に立ち向かってきた格闘家とは、誰も信じないだろう。
ベネッサは喉まで出かかったそんな感想を寸前でせきとめると、
焦らすように葵の顔中にキスを浴びせた。
「んっ……」
葵はくすぐったそうに身じろぎするが、
ベネッサの腕の中では大して身体を動かす事など出来ず、いいようにされてしまう。
自分の手の中にある葵がとても愛しく思えて、
後ろから頭を抱き締めると、柔らかな黒髪に手櫛を入れてやり、
形の良い耳を露出させると、耳たぶからゆっくりと上に舌で愛撫してやった。
「やっ……そ、こ……」
「気持ちいいの?」
ベネッサの言葉に小さく頷いた葵の耳の中まで舌を入れて、狭い耳孔の中を隅々までかき回す。
身体の内側から愛撫されるような感覚に支配された葵は熱い息を吐き出すと、
ベネッサの両の太腿を掴んで襲ってくる快感の波に耐えた。
散々舐めまわした後、ようやくベネッサが耳を解放してやると、
葵は完全に力が抜けてしまったのか、ベネッサの肩に頭をもたれかからせる。
「ベネッサ……はん……」
「可愛い……好きよ、葵……」
あまりに無防備に甘えてくる葵に、つい思っている事を口にしてしまっていたベネッサは、
驚いて振り向いた葵の表情で自分が口を滑らせてしまった事に気付き、
頭に血が上るのを感じて慌ててそっぽを向いたが、もう手遅れだった。
「ベネッサはん……今……」
「な、何よ」
とてつもなく恥ずかしい事を言ってしまった気がして、ベネッサはすっかりうろたえてしまう。
「ふふっ、なんでもおまへんよ」
すまして笑う葵にベネッサは憮然とした顔をするが、
何を言ってもますます深みにはまってしまう気がして口は閉じたままだった。
「あの……怒ってしまはりました?」
黙ってしまったベネッサに心配そうに葵が尋ねる。
「……怒ってないわよ」
「ほんまどすか?」
「本当よ」
少しむきになって答えながら、ベネッサは葵のペースに乗せかけられている事を悟って
なんとか主導権を取り戻そうと考えを巡らせるが、
その前に葵は身体ごと振り向くと、ベネッサの鎖骨に指を滑らせながら小さな声で言った。
「触っても……ええどすか?」
「私に? 別にいいわよ。あんまり面白くないと思うけど」
女である事を捨てた、と格好をつけるつもりもないが、
ベネッサの身体は確かに女性離れしていた。
といっても男性のように無骨さを具現化した物ではなく、
しなやかさと瞬発力を兼ね備えた、肉食獣の美しさを放つ物だったが、
今までベネッサが触れていた葵の肌とは本質的に異なっていた。
何故かベネッサは気恥ずかしさを覚えながら、
それを顔に出せずに葵の手を見るともなしに目で追う。
葵の白く、細い指がそっと腹筋に触れる。
うっすらと割れているそれは硬く、屈強な戦士の物だった。
掌を押し当てて、軽く押してみても微動だにしない。
そのまま手を上に滑らせて、胸をまさぐる。
身体の他の部位と違い、そこだけは間違いなく女性だった。
それも極上の。
葵はコンプレックスを感じながら、巨大な乳房の表面をなぞる。
「大きい……どすね」
「こういう仕事してると邪魔に感じる事の方が多いのだけれどね」
「でも……素敵どす」
「ありがとう」
素直に礼を言うベネッサに微笑むと、
葵は笑顔を急に悪戯っぽいものに変えて、巨大な球面に唇を這わせた。
「ちょ……ちょっと、葵」
愛撫というよりは赤子が母親の乳を求めるように吸いつく葵に、
ベネッサはかえって羞恥を感じてしまう。
それは母という、今まで意識した事のない思いと、他の誰でもない、
葵が自分の胸を吸っているという目の前の光景が産み出したものだった。
「んっ………」
夢中になって吸いつづける葵にベネッサはとうとう声を漏らしてしまい、
慌てて人差し指を咥えてそれ以上声が出ないようにする。
「ベネッサはんも……気持ちええんどすか?」
「そんな事……ないわよ」
耳ざとく喘ぎ声を聞きつけた葵が嬉しそうに尋ねてくると、
それがまたベネッサを煽り、甘い痺れが胸の先端から全身へ広がっていき、
強がってみせても、再び葵に胸を吸われて、
更に反対側の乳首も指で刺激されるとどうしようもなく濡れてしまうのを止める事が出来ない。
防戦一方になってしまったベネッサを葵は容赦なく責め立てた。
ほとんど歯を立てるようにしながら口の奥まで乳房を吸い込み、
舌の腹でねっとりと舐め上げる。
「あ、葵……お願い……もう、止めて……」
ベネッサは葵の髪を掴んで止めさせようとするが、
掴んだ所で葵に一際強く乳首を吸い上げられてしまった。
「そ、れ………」
快感に弛緩して少し湯船に沈んでしまったベネッサの胸を下から持ち上げると、
葵は忠実に一連の動作を繰り返す。
「あおい……!」
執拗な責めに、ついにベネッサは軽く身体を反らせると葵の名前を呼びながら絶頂を迎えてしまった。
自分の肩に置かれた手が食いこむのを感じながら、
葵は初めて自分の手で絶頂を迎えさせた事に満足そうに微笑んだ。

その後なんとなく無言のまま身体を洗った二人は再び浴槽に浸かる。
今度は葵は自分からベネッサの腕の中に収まっていった。
「もう……貴女、自分の立場が解っているの?」
悔し紛れにベネッサは言うが、葵は喉の奥で小さく笑って肩を揺らす。
「うちはベネッサはんの物どすえ。違いますのん?」
「…………」
「まだまだ、もっと気持ちようしてくれはるんどすよね」
葵は甘えるように身体を擦りつけると、期待に満ちた目でベネッサを見る。
ベネッサはすっかり計算が違ってしまった事に頭を振るが、
すぐに口の端だけで笑うと葵の肩を抱き寄せた。
「解ったわよ。もう今日はベッドから出さないから覚悟しなさい」
葵は直接答えず、浴槽から出るとベネッサの腕を取って立ちあがらせる。
「あの……」
「何?」
「入ってきた時みたいに……してくれまへんか?」
一瞬、ベネッサには何の事だか解らなかったが、
記憶をたぐりよせると笑って頷くと葵の身体を抱き上げる。
入って来た時と違い、今度はしっかりとベネッサの首に腕を回した葵は、
積極的に唇を求めてきた。
首を傾けてそれに応えながら、ベネッサはベッドに急ぐべきか
ゆっくりと歩いてキスを味わうべきか迷いながらバスルームを後にした。



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