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ベネッサの頬を、一陣の風が通り抜けていく。
おそらくこの先で行われている死闘に決着がついたのだろう。
ベネッサは改めて直立不動の姿勢を取ると、
現在の仕事上の忠誠の対象が戻ってくるのを迎える。
試合の趨勢にはほとんど興味が無かった。
彼女の護衛対象──サラ・ブライアントが勝つに決まっていたのだから。
その確信を裏付けるように、疲れた様子も伺えない規則正しい足音が聞こえてきた。
「お疲れ様でした」
姿を現したサラに型どおりの言葉をかけると、
後に付き従いつつマネージャーのようにタオルを渡す。
「もうちょっと歯ごたえがあると思ってたんだけれど」
サラは差し出されたタオルで額の汗を拭きながら髪を束ねているバンドを解くと、
水分を吸って重くなった長髪をわずらわしげにひと振りした。
「お風呂は沸かしてある?」
大の風呂好き……それも、以前の格闘トーナメントで訪れた
日本風の風呂にすっかり魅了されたサラは、
汗をかいた後は可能な限りシャワーではなく風呂に入るようにしていた。
ベネッサがサラの許で働くようになったのは
サラが何者かに狙われているという情報が入ってからだったが、
女性と言うことですぐにサラのプライベートな部分の警備も担当するようになり、
今ではベネッサとはほとんど付き人兼友人のような関係だった。
「もちろんです。今ごろ丁度いい湯加減かと」
「もう……貴女も一緒に入ればいいのに」
与えられた部屋に戻ってきたサラはボディースーツを脱ぎながら不満を口にする。
もう何度となく繰り返されている会話なのだろう、
言う方も効果があるのを期待してはいない、投げやりな言い方だったが、
いつもと違う反応を示したのは、言われた方だった。
「任務ですから……それに、ひと息ついた瞬間が一番危険なのです……今みたいに」
ベネッサは注意する気配もみせていないサラの背後に音を立てずに忍び寄ると、いきなり突き飛ばす。
完全に虚を突かれたサラは、それでも体勢を立てなおそうとするが、
脱ぎきっていないボディースーツが足首に絡まってベッドに倒れこんでしまった。
訓練を受けた者の素早さで、
ベネッサはあっというまにサラの両手首をベッドの端に結び付けてしまう。
「何の冗談? マッサージは任務に入っていないはずだけど」
いきなり、護る者と護られる者という関係とはいえ、
友人だと思っていたベネッサに無礼な振る舞いをされてサラは本気で怒っていた。
「マッサージよりも気持ちの良いことをさせて頂きますよ」
言いながら、背中の中心を上から下に指で掃く。
「きゃっ……!」
予想もしなかったベネッサの行動にサラは思わず声をあげてしまい、
声をあげてしまった事を悔しそうに表情に出す。
「あなたレズビアンだったの? 別に私はホモだろうとレズだろうと偏見は持っていないけど、
レイプは人間の屑のする物だとは思っているわよ」
「これはゲームですよ。最後まで終わっても貴女が私の事を憎みきれたら貴女の勝ち。
そうでなかったら私の勝ち」
「賞品は出るんでしょうね」
両手を縛られ、裸身を隠す事も出来ない状態でなお強がるサラにベネッサは素直に感心していた。
(これは堕としがいがありそうね)
警備の任務でブライアント家に来た時から、
ベネッサは密かにサラの身体を味わう機会を伺っていた。
しかしもちろん自分以外にも警備の人間はいたし、
サラ自身、生半可な隙で襲いかかっても大概の人間は返り討ちにしてしまう実力は有していたので、
実行するなら格闘トーナメント終了後の控え室しかなかった。
ここなら怪しまれる事無く二人だけになる事ができる。
そして今日、ようやくその機会を得る事が出来たベネッサは
計画を行動に移したのだった。
ここまでスムーズに事を運べたのに満足を覚えつつ、
改めてサラの身体を眺める。
染みひとつない白い肌は、まだ穢れを知らない幼子かと一瞬錯覚させるが、
美しくくびれた腰のラインと、ほどよく丸みを帯びながら引き締まっているヒップが
彼女が熟れる寸前の果実である事を示していた。
すぐにもその肌の手触りを確かめたい衝動に駆られながら、
ベネッサは待たせてあった葵を呼ぶ。
「葵、もういいわよ」
ベネッサに呼ばれて部屋の陰から出てきた少女は、サラにも見覚えのある顔だった。
「葵……あなた、どうしてここに?」
葵はサラの質問には答えず、ベネッサのわずかに斜め後方に立つと、
何かを期待するように身体の向きをベネッサの方に変える。
その腰を抱き寄せる事で葵の期待に応えてやりながら、ベネッサはサラに事情を説明する。
「……つまり、その娘もあなたがレイプしたって訳ね」
理解したサラは侮蔑するように要約して吐き捨てる。
「そうかもしれません。でも今は、私は葵の事を大切に思っているし、葵も同様です」
「葵、何を騙されているのか知らないけど、
ベネッサを手伝ったら私は決して貴女を赦さないわよ。
必ず私が…私がされた以上の辱めを受けさせるから」
そう脅されて葵は身を固くするが、
ベネッサは安心させるように葵の顎に手を添えると軽く唇を触れさせた。
ごく簡単だが、情愛のこもったキスに、葵は落ちつきを取り戻す。
サラの位置からは二人が見えなかったが、
自分が置かれている状況、使用人のくせに歯向かったベネッサ、
それに従う事に悦びを見出しているらしい葵、何もかもが不快だった。
(……絶対。絶対に、許さないわ。二人とも、私に手を上げたことを後悔させてやる)
しかしそれは、
自分がこれから陵辱されるであろう事実を受け入れなければいけない、ということでもあった。
(感じたりなんてするもんですか。二人がかりだろうとなんだろうと)
サラは心に固く誓い、歯を思いきり噛み締めて屈辱の時を待ちうける。
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