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■ silbern Rhapsodie |
Fate/stay night |
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作者/バリゾウ:掲載/2006/06/20 |
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プロローグ
懐かしい魔力の流れに、思いもよらぬ機会が訪れたのを悟った。
ふと、ある守護者を、□□□にとって無二ともいえる存在を思い出した。彼女の大切なものをまた一つ奪ってしまう矛盾に気づく。
それでも、この決意が変わることはない。
磨耗した記憶の中で、常に思い出すのは一つの誓い。それは、誰もが望む当たり前の理想。その為だけに、自分にある全てを賭して、世界さえも利用した。
それが自己欺瞞だと知りつつも、叶えねばならぬ誓いであったから。
ゆえに此処まで到ったのだ。
完全に呼ばれるまでの僅かな時間、今も消えず甦るのは
――ある少女との記憶の欠片。
初めての出会いは意味の分からないものだった。坂の途中で出会った銀の髪の少女。
「早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」
すれ違いさま言われた言葉は、真実忠告だったのだろう。
運命の夜。その再会の形は、俺と□□□の関係からすれば必然だった。
「それじゃあバイバイ。また遊ぼうね、お兄ちゃん」
ただ、帰り際に残していった言葉はすぐに現実となった。
その後、切嗣との因縁を知った。だから、その日の出会いは少しだけ特別なものだったのかもしれない。
「……そう、わたしが生まれた理由は聖杯戦争に勝つことだけど。□□□の目的は、キリツグとシロウを殺す事なんだから」
この日、初めて名前を呼び、初めて名前を呼ばれた。
期待はあった。今日もいるのではないかと。だから、公園で佇む□□□を見つけた時、嬉しかったのは嘘じゃない。
「うん! それじゃあ約束、明日はぜったいわたしから話しかけるからね!」
そして公園は、二人にとって待ち合わせの場所となった。
約束通り家に招待し、その後町を見て回った。最後はいつもの場所で別れた。
「じゃあねシロウ。また一人で出歩いてるのを見つけたら、その時も遊んであげる!」
償う方法も、引き留める言葉も思いつかず、立ち尽くすしかなかった。
どうにかして□□□に戦いを止めさせたかった。出された条件はサーヴァントになることだった。
「シロウのばかー! 女の子に恥をかかせるなんてひどいんだからー!」
まだ、話し合いで説得できるかもしれないと、本気で思っていたのだ。
セイバーを失った俺には、戦う手段がなかった。己の理想を貫くために、□□□に協力を求めた。
「シロウ――わたしの物になりなさい」
「分かった。――ただし条件がある」
衛宮士郎に賭けられるものなど、この身一つしかなかったのだから。
突如襲ってきた黒い影から、バーサーカーは俺たちを逃がすための盾となった。
「やだ――やだよぅ、バーサーカー……!」
森を逃げる途中、遠坂たち合流できたのは僥倖だった。
この日から、記憶はより曖昧となる。移植されたアーチャーの腕のせいだ。
「……シロウとアーチャーは特別よ。わたしもさっき判った。この二人なら、繋がりさえすれば持ち直すって」
今なら特別の理由を嫌というくらい知っている。
どうしても伝えずにはいられなかった。
「この戦いが終わった後、もし帰るところがないんなら――□□□。このまま、家で暮らさないか」
「それはキリツグの息子として?」
ただ、悲しいのは彼女の答えが思い出せないこと。
影の正体が桜だと知った。家族を見捨てられなかった俺に□□□は味方をしてくれた。
「そうよ。好きな子のことを守るのは当たり前でしょ。そんなの、わたしだって知ってるんだから」
その言葉が迷いを断ち切り、どれほど救いになったことか。
□□□を連れ戻すため、言峰に協力を求めた。
「ほんとに。こんなの、上手くいくはずないのに」
本当に上手くいくはずがなかったと何度後悔したかわからない。
聖杯戦争最後の日。それは、摩り切れるまで繰り返しても、色あせない記憶。
――ううん、シロウは死なないよ。だって、この門を閉じるのはわたしだから。
それは。もう名前も思い出せない、誰かの声。
――ね。シロウは、生きたい? どんな命になっても、どんなカタチになっても、シロウはまだ生きていたい?
頷けば、□□□が消えてしまうとわかっていたのに。生きたいとそう願うのを止められなかった。
――じゃあね。わたしとシロウは血が繋がっていないけど。シロウと兄弟で、本当に良かった。
ああ、□□□が消えてしまう。名前を、名前を呼ばなければならないのに。磨耗した記憶は大切だった記号さえ、思い出せない。行くなと言うことも、名前を呼んで引き留めることさえできない。一緒に暮らすと約束したのに。
――ううん。言ったよね、兄貴は妹を守るもんなんだって。……ええ。わたしはお姉ちゃんだもん。なら、弟を守らなくっちゃ。
久しく使われていなかったラインが繋がるのを感じた。此処に到っても、思い出せない□□□の名前。届かなかった思いだけが、ほとばしる。
「□□□――□□□、□□□、□□□、□□□、□□□、□□□、□□□、□□□――――――!!!」
そして、――――彼女は、最後に。
――――目の前には銀の髪の白い少女。
「□□ヤ、イ――――リヤ」
思い出した。彼女の名前。切嗣の本当の血縁。俺が横取りして、ずっと一人にさせてしまった幼い少女。
俺より少しだけ年上の、銀の紙と赤い目をした――
「――うそ。だれよ貴方――!?」
呆然と見上げる見知った少女。その瞳に映るのは見知らぬ他人。その顔は微笑みなどではなかった。
「どうして、どうしてヘラクレスじゃないの――!?」
何より響く声で絶望を叫ぶ彼女。原因は問うまでもなく、この身そのもの。
――判っていた。たとえ君に会えても、それは俺を知っている君ではないと。
この行為は君を悲しませるだけだと。それでも、ここに到ったのは――
「開口一番それか。望んだものと違ったようだが、それは私の責任かね?」
皮肉を込めた言葉にイリヤはうなだれて黙る。
「……でも、この触媒で呼べるのはヘラクレスだけのはずだもん」
望んだ召喚に失敗したという現実に打ちひしがれている。
「ほう、かの大英雄を召喚しようとしたのか。それが、失敗したとなると、その触媒が偽物だったのか――」
その言葉に、イリヤは顔を真っ赤にして反論した。
「そんなことない! これはお爺さまが用意してくれたものなんだから!」
「なら、君に呼び出す力量がなかったのか――」
瞳を濡らす滴は、彼女が耐えていることを示していた。
その姿に罪悪感を覚えながらも最後の答えを告げた。
「――もしくは、君と私の間にそれ以上の縁があったのかもしれないな――イリヤ」
「――――!?」
名前を呼ばれ驚愕した表情で私を見つめるイリヤ。
――ああ、イリヤ。今こそ守れなかった誓いを果そう。その為ならば、君自身さえ欺こう。
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