伊達のからだはしんと冷えていた。酒精で上がった体温にそれが心地よいと思う。胸にすっぽり抱き込んでしまうと、彼は少し抵抗するように身じろぎした。酒くせえ……。そう低く呟いてくる。嫌でござろうか?腕の力を緩めると、背中に回った伊達の手が後ろ髪を引っ張った。
 そこは、寝所であるらしかった。真田の腕からするりと伊達は抜け出す。前室から届けられた灯りがぼうと伊達の白い着物を照らした。棒立ちになっている真田の腕が引かれる。脱げと一言、そのくちびるからこぼれ出た。
 かいまきの上に胡坐をかいて、真田の上から下まで、じろりと伊達の左目が舐めてゆく。真田は一つ息を飲んで、袴の帯に手を伸ばした。しかしどうにもうまく解けぬ。焦って結び目をなんどもとりこぼした。くくっと伊達が笑う声がした。脱がしてやろうか? そういうひそやかな声がした。歯がカチカチと鳴る。ようやく袴を蹴り脱いで、転ぶようにして寝畳の上に膝を突いた。
 ぐいと首の根元あたりに腕がかかる。伊達の冷たいてのひらが真田のからだをなぞってゆく。しばらく、伊達の好きにさせた。衿が開かれ、あらわになった真田の半身に生温かい伊達の息が吹きかかる。そうして、ひとしきり肌に触れて満足したのか、伊達のからだが不意に離れた。ろうそくの灯りに浮かび上がった白い着物がするすると落ちてゆく。その腕を引いて、胸に抱きこんだ。冷えていた。……あんたが、こんな夜中に叩き起こすからな。申し訳ございませぬ。体温を移すようにゆっくりと肌を撫でた。胡坐のうえに伊達をのせて、脇腹から背中まで熱心にさする。蛇のような伊達の腕が真田の頭を抱き込んで、その鼻先が髪をかき分けるようにした。ああ、とうっとりとこぼれでた声に驚くほど芯が熱くなる。
 てのひらを被せたそこから、じわじわと熱が移る。鍛えられた肉の、玉のような感触がてのひらに馴染む。ゆきむら、ゆきむら、もっと……。強い指が真田の後ろ髪をかきまわした。額にくちびるが落ちる。生え際からこめかみまで、柔らかな感触が吸いついてゆく。背中を撫でながら、その喉元に同じように吸いついた。出っ張った骨のあたり、顎の裏の滑らかな皮膚、顎先。開いたくちびるから舌が覗いて、思わずそれを吸った。濡れた音がする。
 呼吸が深くなってゆく。心の臓の音が緩やかに高まる。しかしひとの肌の感触の、心地よいことと言ったらなかった。こうして肌身を添わせているだけで、からだの奥底まで温みが伝わってゆく心地がする。触れていたくちびる同士を離して、真田はうっとりと目を閉じた。……もう、寒くはございませぬか。パサパサと伊達の髪が揺れる。もっとだ、ゆきむら、もっと。
 背中に回っていた伊達の手がするりと動いた。それが始まりだった。ゆっくりと腹の底でうごめいた蛇が、ずりずりとうろこを擦らせて鎌首をもたげる。緩やかに動いていた互いのてのひらは、急くようにからだを探り合った。上がってゆく呼吸をくちびるの中に閉じ込める。伊達の肌には吸い痕が、真田の肌には噛み痕が散ってゆく。
 何日もかけて解いた伊達のそこは、指の腹で押しただけでひくりと蠢いた。大きく伊達は息を吐き出して、からだを押しつけてくる。触れてすらいない伊達の股のものはすでに勃ち上がって震えた。ゆっくりと指の一本を飲み込ませる。ああ、という声が漏れる。……おかしく、なりそうだ。
 狭い道はぎゅうと真田の指を締め付けたかと思うと、ゆっくりと弛緩してゆく。頃合いを見計らって指を増やし、いいところに触れてやる。伊達はそれでも健気に声を殺しているが、時折喉を走る、ひ、という音は殺せずにいる。左手で着物をかきわけ前のものをあらわにしてやる。充実して震えるそれは、すでにぐっしょりと濡れて布を汚した。いやらしいと思う。忙しく息を継ぎながら伊達が笑う。誰が、こんなふうにしたと……。
 尻の中に含ませた三本を抜き出し、てのひらをさらにすぼませた。小指の先をゆっくりとめり込ませる。ううと伊達が呻く。あ、や、いやだ。無理だ、止めろと伊達は首を振るが、真田の肩を掴む手はそう言っていない。とうとう四本の指をおさめて、めいっぱいに広がっている様子を想像して真田は唾を飲み込んだ。
 しばらくそうして馴染ませて、ずるりと指を抜き出す。びくびくと伊達の内股が震える。下帯を緩め中から勃ち上がった己のものに手をかけた。ふとんに伊達のからだを横たわらせ、片足を抱えあげる。見上げてくる伊達の目が欲に濡れた。早く寄越せと言っている。真田はくちびるを舌で湿らせて、ゆっくりとそこに陰茎を押し込んだ。あ、あ、あう。狭い道が真田のそこをきつく食い締めてくる。突き上げるようにして、抜き身のそれをすべておさめてしまう。じっとりと濡れた襞に包まれて、真田は一つ息を吐いた。抱えた足がびくびくと震えている。ピンと張った筋にくちづけた。……すべて、入りましたぞ。
 伊達はつらそうに眉をしかめていたが、真田が極まったようにそう呟くのがおかしかったらしい。くくっと肩を揺らせて、大きく息を吐いた。いるなあ、お前。言って、腹を撫ぜる。まだ、動くなよ。承知。
 しばらくそのまま、届く範囲の伊達の肌にてのひらを被せていた。今では、すっかり発熱して熱い。忙しかった伊達の息がおさまるのを待って、ゆっくりと腰を動かした。小刻みに、やがて大きくそこを揺すりあげる。繋がったそこからいやらしい音がして、感覚器のなにもかもが伊達に向かって開いてゆく。伊達の内側を犯している。そう思うと、下腹のものがずくりと膨れ上がって伊達を鳴かせた。も、そんなでかくすんじゃねえ……! 切れ切れに、そう吐いて寄越す。彼の呼吸に合わせて奥を突いた。いやらしい音がする。交差するように組み合わせた下肢を一度解いて、両足を抱え上げた。伊達の腕が伸びてくる。己で膝の裏に手をやって、足を広げてくる様子に唾を飲んだ。ぬめる陰茎をほころんだそこに押し付ける。少しだけ口を開いたそこが、先に吸いついてくるのが堪らない。息を荒らしながらその様子を見つめていると、早くしろと言う声がする。顔を上げると、口元から唾液を溢れさせて、目をとろけさせた伊達の様子が飛び込んでくる。ぞくぞくと蛇が背筋を上がってくる。ひくひくと蠢いているそこに、一息に突き入れた。悲鳴が上がる。ぎゅうと食い締めてくるのに耐えていると、今度は伊達のほうがじれて腰を揺すってきた。下肢を少し浮かせるようにして、上向いた真田の兜に中を擦りつけてくる。あ、あ、はぁ、あ。切なそうに寄せられた眉の間に汗が浮いている。ぐっとからだを前に倒して、そこにくちづけた。そうすると、具合が変わるのだろう。伊達は、んん、と背を仰け反らせて、中をひくつかせた。
 おい、いい加減……。背を膝で蹴りつけられた。胸をぴったり合わせたまま、その顎先からくちびるまで舌を這わせる。そうしてようやく辿り着いたくちびるを舐めながらゴリゴリと腰を押し付けた。たまらない。くちびるを解く。濡れたそこを舌で舐めて、からだを起こした。痕の残るほどに腰を掴んで、彼の中を突き上げる。満足したようにふふっと笑って、伊達は真田の動きに合わせて腰を揺らめかせた。
 じきに、ちかちかと眼球の後ろでなにかが閃いてくる。荒く息を継ぎながら伊達の名前を呼ぶと、肩に彼の腕が伸びた。ぐっとからだを寄せる。額を突き合わせながら互いの呼気で肌を濡らせた。間断なく腰を動かしながら、喉で呻く。真田の陰茎を包んでいる彼の内臓が、追い立てるようにして蠢いている。ほら、いけ、早くいけ。な、中に出しても……。いいから、出せ、全部、出せ、俺の、奥に、お前の。切れ切れに呟かれるその言葉に、いよいよ危ないと思う。忙しく腰を送っては、彼のいいあたりを突いてやる。その一方で、腹の間で首を揺すっている彼の陰茎を絞った。くう、と仰け反らされた喉に吸いつく。途端にぎゅうとそこが締まる。慌てて奥に押し込んだ。その拍子にいいところをぐりとえぐってしまったのだろう、伊達はあられもない声を上げて精を溢れさせた。連なるようにして、真田も伊達の中で果ててしまう。絞るようにして腰を揺らめかせていると、伊達のてのひらがくしゃくしゃと真田の頭を撫でていった。その頬にくちびるに、額にくちびるを落としてゆく。まざむねどの、まさむねどの。うわごとのようにそう繰り返していると、はは、と伊達は笑った。

 そうして何度か伊達の中に吐精した。それでも萎えない己に笑ってしまう。ぬかるんだそこで繋がったまま、一息ついてふとんに転がった。後ろから彼のからだを抱き込んで、そのうなじに顔を埋めた。後ろ手に、頭を撫でられる。こどもをあやすようなやり口である。
 ……あんたはどうだったか知らないが、俺はずっと、あんたとこういうことがしたかった、そういうふうにあんたのことを思ってた。掠れ声で、そう伊達が呟いた。こわい指は真田の髪を撫で、そうして、首に回された真田の腕に触れる。だけどあんたは……こういうことには興味のないふうだったから、俺ばっかりと思ってつらかった、それでも一騎打ちのやれるうちはあんたと繋がっていられると思って、それで……。
 ああと伊達が唸る。女々しいなと言って笑う。京に来て、あんたがすっかりおとなしくなったと聞いて……それは少し寂しかったが、どんな形であれあんたに会えると思うと嬉しかった。腕の中で伊達が少し身動きする。いや、違うな……、逆だ、もう俺も随分長いこと刀を握ってねえ、そんな俺をあんたはどう思うだろうかと、それが恐ろしかった、その矢先に「伊達殿」ときたもんだから、すっかり……。
 からだを起こした拍子に、中で静かに息づいていたものが擦れた。ううと伊達が呻く。半ばまで抜き出されたそれをもう一度押しこみながら、体勢を変えた。正面から伊達の顔を捉えてその額にくちびるを押し付ける。伊達の足が真田の腰に絡みついて、中をぎゅうと締めた。
 ……前田殿に、言われ申した、我らはもっと言葉で伝えあう努力をすべきだと。伊達はいっときまぶたを伏せて、ふっと笑った。そうだな、昔はそんなもん必要ねえと思っていたが。伊達の指が、後ろ髪に緩やかに絡む。でも、もっとあんたのことを知りたいと思っちまったからなあ。
 ちゅ、と音をたててくちびるに触れた。差し出された舌を吸い、その中を犯し、体液を流し込む。押し込んだ陰茎でぐずぐずになったそこを突きあげる。はあ、あん、あ、あ。濡れ始めた彼の声を、耳に閉じ込め目をつぶる。
 なあ、幸村、あんたはまだ生きている心地がしないか? いくさばにしか生きる道がないと思っているか?
 はっとして目を開いた。ろうそくの灯りにぼうっと浮かび上がった伊達の顔は、凛として美しい。先程までのとろけた顔とはまるで違う。なにも言えず、真田はまばたきを繰り返した。その額を、伊達のてのひらが撫でてゆく。前髪をかき上げその生え際をくすぐった。……それでもお前はここで生きていかねばならん、召し抱えた家臣を、家族を食わせていかねばならん。
 伊達が身動きした。ずるりと真田のものが抜けてゆく。肩を押されて、ふとんの上に転がされた。腰の上にまたがった伊達は後ろ手に真田の陰茎をつかまえて、声を上げる間もなくそれを飲みこんでゆく。尻たぶが、真田の根元にあたった。これ以上ないぐらいに深く繋がって、伊達がぶるりと体を震わせる。生き過ぎたりやなんて言ってる暇なんてねえぞ。ズッと音をたてて腰が上下する。受け身の態勢で快感を享受しながら、真田はぎゅっと眉をひそめた。腹の底をぐりぐりとえぐられる。繋がったそこからなにもかもが暴かれる。
 だが、あんたに惚れちまった弱みだ。
 激しく動いていた腰がぴたりと止まった。はあと息をついて、見上げたそこに伊達の汗が光る。一緒に探してやるとまでは言わねえが……、あんたがそれを見つけだせるまでは隣にいてやりたいと思う、それでちゃらにしようぜ。
 ふっと伊達は笑った。その様子を美しいと、いとしいと思った。……恐悦、至極にございまする。声は少し震えていたかもしれない。伊達の熱いてのひらが顔にかぶさってきて、泣くなよ幸村と言った。

 伊達が奥州に帰る日は、桜の若葉眩しい晩春の好い日であった。豪勢な行軍が草原を突っ切ってゆくのを、峠、馬上から見送った。仙台に着いたらすぐに文を送ろう、あんたもすぐに返事を寄越せよ。昨晩、帰奥で慌ただしい伊達屋敷を訪れた真田に、縁からそう言葉をくれた。そうして、伊達のそのてのひらにくちびるを押し当てて帰ってきた。
 白い光があたりに溢れて眩しい。青く染め抜かれた行軍の中央あたり、彼の弦月の前立てにそれがちかちかと反射したような気がする。真田はそれにいっとき目をつぶって、そうして、手綱を引いて馬首を巡らせた。


その声ひとひら 十葉(121111)  <<九葉