Never End 2章/wander 〜〜
次の日の朝・・・既に日も高くどちらかというと昼のほうが近いかという時間に、惰眠を貪っていたエルリック兄弟を叩き起こしたのは幼馴染からの電話だった。
『あ、エド?!』
「ウィンリィ?どうしたよ?」
『あのね、さっきウチに軍人の人が来たのよ』
「え?!大丈夫か?!」
『うん、適当に誤魔化して帰ってもら・・・きゃぁ!?』
「ウィンリィ?!おい、どうした!?」
エドワードの只ならぬ様子にアルフォンスがエドワードの持つ受話器に耳をつける。
『・・・よう、鋼の大将』
「・・・ブレダ少尉か」
『そう殺気立った声を出しなさんな。ちょっと電話代わってもらっただけだからよ。たぶんお前さんの居所知ってるってあたりをつけて張ってたんだよ』
「そいつに手を出すな!!!」
『・・・それはお前さん次第だな』
ひとつの受話器に二人で耳をつけるという距離は、エドワードの歯軋りの音をアルフォンスの耳に届けた。
「軍人が民間人の女人質に取るような真似して恥ずかしくねぇのか!?」
エドワードの批難にはブレダは反応しない。
『人質だってことは理解してもらえてるみてーだなぁ』
「・・・っ!!」
詰るために発した台詞の言葉尻を捕らえられて、エドワードが息を呑む。
『・・・ってのは半分冗談で、傷つけようなんて気はさらさら無いがな。お前さん達に本気で暴れられたら手がつけられないから、まぁ保険ってこった。ついでにお前さんが出向いてくれりゃ、助かるけどな』
ころっと態度を変えたブレダに、エドワードとアルフォンスは視線を交わす。
「・・・随分簡単に手の内を明かすんだな?」
どうもウィンリィをだしにエドワードと交渉するという気は無いらしいブレダに、エドワードが不審を募らせた。
『お前を連れて来いとは言われているが、どんな手を使うのかは指定されてないんでね。大佐がアルフォンスを人質にしたのと同じようにやれとか言われたわけじゃねぇからよ』
「ぬけぬけと言ってくれるけどな、アンタがそこにいて、ウィンリィがそこにいて、オレに来いって言ってる状況は何も変わっちゃいねぇんだけど?」
『・・・そりゃそうだな。じゃあお姫様を攫った悪役らしく、「姫を取り戻したければ一人で来い」とか言ってみるか?』
おどけたようなブレダの言葉に、エドワードは溜息を吐いた。
「悪役になれとは言ってねぇけど。アンタ一体何がやりたいんだよ」
エドワードの言葉に対し、僅かに間があく。そして感情を押し殺したようなブレダの声が聞こえた。
『・・・俺は自分に与えられた仕事を、確実にこなしたいだけだ』
「で、オレを大佐の所に連れて行きたい、ってわけだ」
『ああ』
ブレダの声はどこか苦々しい。
アルフォンスがエドワードの手をつつき、受話器を受け取った。
「なんだかまるで、本当はそんなことしたくないみたいな口ぶりですね?」
『・・・アルフォンスか。やっぱり合流してたんだな』
「はい。当たり前でしょう?」
『そうだな・・・』
ブレダの声は静かだ。
『まあ、そいつはどうでもいい。俺は兎にも角にもエドに一緒に来てもらわにゃならん』
「それは出来ません」
『そうは言っても、俺も仕事なんでな。別にお前も一緒で構わねぇぞ?』
「そう言う問題じゃないって、分かってて言ってますよね?」
『そうかもしれねぇなぁ』
ロイが相手ならばエドワードがアキレス腱だとはっきり分かっているだけどうにかなるが、ブレダではそうも行かず、なかなか扱いにくい。むしろだからこそ、ロイは目的のみをブレダに命じ、手段は任せるという手を打ったのかも知れないとアルフォンスは感じた。
「・・・ブレダ少尉はボクたちに敵対する、そういうことですね?」
『敵対ってわけじゃねぇよ。何も言わずに一緒に来てくれりゃすむ話だ。嫌だって言うなら、こっちも仕事だからどうにかしなきゃなくなるわけだが』
このままでは押し問答が続くだけで、らちがあかなそうだ。
「どうにか、って何をする気なんですか?」