バコーン!!と物凄い打撃音が、室内練習場に響き渡った。
「え?」
「あ!!」
「ゾノっ!!」
前園が、沢村が投げた牽制球を顔面に食らってしまったのだ。そのまま、前園がゆっくり後ろに倒れこむ。
一緒にセットプレーの練習をしていた面々が、慌てて前園に駆け寄った。
輪から離れたところで、クイックモーションの練習をしていた降谷と、それを見ていたクリスも、何事かと様子を窺っている。
「すすすすみませんゾノ先輩!! 大丈夫っすか!?」
「おい! 濡らしたタオルもってこい!!」
「は、はいっ!!」
倉持の指示で慌てて春市が練習場を駆け出していく。
「沢村、お前なぁ・・・・・お前の球は意識しないでも曲がるんだから、牽制球は丁寧に投げろって、さっきも言わなかったか?」
御幸は呆れ顔だ。
「す、すんません・・・・・・」
沢村が俯くと、クリスと降谷もやってきた。
「どうした?」
「沢村ちゃんの牽制球が、前園のグラブ直前でホップしちまったんだ」
増子の簡単な状況説明に、何がどうなったのかを的確に掴んだクリスが大きく溜息をついた。
「沢村!!」
「す、スンマセン!!」
「さっきクイックモーションは教えただろう! ちゃんと教えた通りにやっていれば、そんなに曲がるはずは無いぞ!」
「モーションは変なところ無かったですよ〜 あ、濡れタオルです、ゾノ先輩」
濡れタオルを持って戻ってきた春市が口を挟む。
「力んじゃったみたいに見えましたけど。ね、栄純君」
「・・・・・・うん」
クリスに叱られた沢村は、飼い主に叱られた子犬よろしく、しょぼんと俯いている。
「練習で力んでどうする。実際の試合でこんなことが起きたら、ピンチを広げることになるぞ」
「はい・・・・・・」
「クリス先輩、ゾノ駄目っすわ。とんでもなく曲がったから、顎直撃したんスよ。ちょっと休憩入れましょう」
前園の様子を見ていた倉持の進言にクリスが頷いた。
「もう、栄純君駄目だよ〜余所見しちゃ」
「余所見?」
春市の言葉にクリスが眉を上げると、沢村が慌てて春市に飛びつく。
「あ、あわわ!! 春っち!!」
「俺、見てたよ、さっき。駄目だよ、ああいう時にいちいち気にしてたら。栄純君、リリースの瞬間に力が入ったから、手首だけで物凄くしなってすごいスピンかかってたし」
「だ、だって気になるじゃん!!」
ころころとじゃれ合っているかのような1年二人の会話の意味が分からず、上学年のメンバーが顔を見合わせる。
そこにしれっと降谷が口を挟んだ。
「あんなに睨まなくても、取らないよ・・・・・・?」
「あっ、てめ・・・気づいてたのかよ!!」
「だって、めちゃくちゃ視線感じたし」
会話の内容に当たりをつけた御幸が首をかしげる。
「つまり、アレか。沢村は投げるときに降谷の方を見てたってことか」
「違いますよ〜。栄純君が見てたのはクリス先輩ですよ」
にこっと明るく春市が訂正する。
「だって降谷がクリス先輩に教わってるから!!」
憤慨しているかのような沢村に、降谷が溜息をついた。
「だから、モーション教わってたんだから仕方ないじゃない」
「クリス先輩に色々教わるのは俺の特権なんだーーー!」
「独占欲強すぎ」
「むっ、無理に独占しようなんて思ってない! ただ、つい気になっただけだっ!」
「そもそも、クリス先輩は君のことが一番なのは分かりきってるし、そんなに騒ぐこと無いと思うんだけど」
「け、けど!!お前は御幸センパイに教わればいいじゃん!」
「御幸先輩そっちで練習参加してたし。無理」
「栄純君、それに試合だったらどうするの。試合であんな球投げたら、暴投になりかねないよ?試合中に、クリス先輩がブルペンで降谷君の球を受けてるだけで暴投してたら、試合にならないよ?」
「暴投・・・・・・しそうだね、それ」
「うううううう」
無邪気に繰り広げられる1年生たちの会話を、上級生たちは半分呆然半分苦笑で聞いていた。
沢村がクリスを慕っているのは周知の事実・・・・・・だが、ここまで行くと限度を超えている。
それに、その会話の内容はクリス本人や他の人間のいる場所で堂々と話す内容ではない。公衆の面前で熱烈な愛の告白でもやらかしているのと大差は無い。
「ってアレ?クリス先輩は?」
いつの間にか姿を消しているクリスに気がついた御幸が、周囲を見回す。増子が気の毒に……と言った口調で答えた。
「・・・・・・さっき顔を押さえて出て行った」
「クリス先輩も大変だな・・・・・・」
苦笑いの御幸に、倉持が肩を竦める。
「沢村だけでも手がかかんのによ。ガキ3人集まると破壊力10倍だな」
1年3人が集まってるのがなんか好きです。
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