「俺は主導権握られるのは嫌だな」
御幸の言葉に倉持はヒャハハ、と笑った。
「テメーはそう言うタイプだな。惚れても隠す系だろ?」
御幸と昼食を取りながら喋っていたら、何とはなしに話が恋愛観についての話題になった。
「惚れた方が負け、だからな。それは隠すのが定石だよな」
スプーンを回しながら、御幸もにやりと笑う。
倉持も御幸も、かなりプライドが高い方だ。そう言う方向からの話題なら、大抵は意見が合う。
「つーか、まず惚れすぎないように最初からコントロールするわな」
「まかり間違って惚れこんでも、相手にだけは絶対悟らせないくらいの余裕は必須だな。振り回されるのは性にあわねぇし」
「ま、結局は惚れたら負けだろ? ……っと、負け負けの奴が来たぜ?」
倉持と御幸の向かい側の空いている席に、沢村と春市が連れ立ってやってきた。
「ここ、空いてるッスか?」
「おー。お前ら丁度いいところに来たな」
御幸の言葉に春市が首を傾げる。
「はい?」
「今、恋愛の勝ち負けについて話してたんだよ。沢村なんか、あからさまだろ?」
ヒャハハと笑うと、春市が向かいの席に食事のトレイを下ろしながら、あー、と曖昧に頷いた。その隣で、沢村はきょとんとしている。
「何がっすか? 勝ち負けってーと、どんだけ惚れてるかとかッスか?」
「おっ、分かってんじゃん」
「部内公認だからな〜お前」
ククク、と倉持と御幸が笑うと、沢村は嬉しそうに箸を掲げて宣言した。
「ぜーったい俺の方が、クリス先輩のこと沢山好きっすからね!!」
あまりにも自慢げに、自信満々に宣言する沢村に、倉持と御幸は顔を見合わせる。
沢村の横で、春市が小さく苦笑した。
「栄純君は、より沢山好きなほうが勝ちなんだ?」
「何言ってんだよ、当たり前だろ」
「当たり前かぁ? 普通逆だろ?」
御幸の突っ込みに、沢村は首を傾げる。
「え、だって大きい方が勝ちだろ?」
沢村には、そもそも『惚れたら負け』という感覚がそもそも理解できないらしい。
「まあ、お前は振り回されるのが負けとか考えねーもんな。馬鹿だから」
肩を竦めた倉持に、春市がクスクス笑った。
「で、栄純君は気持ちで勝ってる、って思うんだね」
「おう! 俺絶対俺の気持ちの方がでかい自信あるもんね!!」
と、元気いっぱいに言い切った沢村の頭に、ぼす、と音をたてて掌が乗せられる。
「……そう自信満々に言い切られると反論したくなるな」
その手の主を振り仰ぎ、沢村が嬉しそうにぱっと顔を輝かせた。
「クリス先輩!」
クリスが春市とは反対側の沢村の隣の席に陣取る。
「お前、随分と自信があるみたいだな」
「ええ、だってそうですよ! 絶対絶対俺の方が沢山クリス先輩のこと好きですって」
「何を根拠に言ってるんだ」
苦笑気味のクリスに、沢村がむん!と腕を組んだ。
「だって、いっつも俺の方が沢山好きって言ってますもん!!」
「言葉に出すものが全てじゃないだろう?」
「でもくっつくのだって、いつも俺からじゃないですか!!」
「そんな分かりやすい言葉や態度が全てではないと、そろそろ学習したらどうだ?」
「で、でも〜!」
これは痴話喧嘩になるか?と取り残された3人は顔を見合わせる。
クリスが笑って頬杖をついた。
「口癖のレベルで繰り返される百万回の愛の言葉より、全身全霊を篭めたたった一度の愛の言葉の方が重い場合もあると思うぞ?」
「それは……う、その……、で、でも俺口癖で言ってるわけじゃないっすから!」
「当然それは分かっている。が、一方でお前は、俺の言葉がどのくらい重い意味を持っているのかが分からないと言うなら、俺の方が大きな気持ちを持っているかも知れないな?」
「う、うう〜……。ぜってー口じゃクリス先輩に敵わないし……、で、でも絶対絶対、俺は俺の気持ちの方が大きいって思います!!」
すると急にクリスが自分の食事からコロッケをとって、必死な沢村の口に放り込んだ。
「ふが!?」
「お前それ好きだろう?食え」
こくこく頷きながら、沢村がもぐもぐと口を動かす。
その様子を暫し微笑んで眺めていたクリスが口を開いた。
「そのコロッケにしろ、今の話題にしろ、俺はお前が喜ぶならそれでいい。お前の気持ちの方が大きいことにすることでお前が喜ぶなら、俺は負けておこう」
コロッケを飲み込んだ沢村が目を大きく見開く。
「……っっあ――――!! 何か負けた!! 今負けた気がする!!」
頭を抱えて吠えた沢村に、なんだか聞いてるのが馬鹿馬鹿しくなって倉持は席を立った。
同様に御幸も春市もがたがたと席を移動する。
「……っとにただのバカップルだよな」
ぼそりと呟くと、御幸が苦笑した。
「普通は惚れた方が負け、って言うのにな。逆方向に競ってるし。クリス先輩まで沢村のペースに巻き込まれてるし」
「振り回されるのが嫌だから、惚れたら負けって言うはずなのに、沢村はアレでクリス先輩振り回してるからな〜」
倉持と御幸は顔を見合わせる。すると春市が微笑んで二人を見上げた。
「でも、好きになったら負けだ、って思って好きじゃない振りをするよりも、どっちの方が相手のことより好きか、って競ってる方が、きっと沢山好きって聞けて幸せになれますよね」


 
勝っても負けても、とりあえず全力バカップル。

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2007/6/22 脱稿